鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る   作:章介

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第十八話 連戦と逆転

 

 

 

 

 

 

 

 Side 地下

 

 

 

 

 エンヴィーを下したマスタング隊とエドワードは、迷路のような通路を進んでいると、得体のしれない金歯の老人と遭遇した。男は自身を『キング・ブラッドレイを作った男』と名乗った。その言葉に即座に戦闘態勢を取るが、頭上から現れた『ブラッドレイの成り損ない』の奇襲を受ける。

 

 

 その後、金歯の男が発動した謎の錬成陣が原因でエドワードが姿を消し、戦力を減らされたマスタング隊は追い詰められ――――ることなく、一人ひとり確実に撃破していった。その大きな要因はハボック少尉、厳密に言えば彼に取り付けられたパワードスーツの性能だ。

 

 

 

 これは嘗てウィリアムが対峙したキング・ブラッドレイから得たデータを元に設計されており、不測の事態があればリミッターが外れ驚異的なスペックを発揮する。使用者に多大な負荷を強いるが首を刎ね飛ばされるよりはマシであり、何より重要なのは使用者の実力に依存しないという事だ。

 

 

 

 これにより、ハボック自身に優れた白兵戦の実力が無くとも、彼の視覚や聴覚から得た情報をもとに、機械が勝手に対ブラッドレイ用プログラムで体を動かし迎撃する。それが所詮一回り以上スペックの劣る成り損ないを迎え撃てないはずが無かった。

 

 

 

 

 ハボックと“傷の男”が討ち漏らさない以上、後衛は万全に機能する。何の障害もない以上、『鷹の目』が的を外すはずが無い。確かに成り損ない達は人の臨界に迫る実力かもしれない。しかし人の域を出ない以上、銃口から軌道を読み先んじて的を外させることは出来ても、放たれた弾丸を見てから回避することなどできない。成り損ないたちは次々と数を減らしていく。

 

 

 

 それでも、数で圧倒的に勝る成り損ない達は初撃こそ食い止められるが、直に脇をすり抜け接近してくる。そのまま一気にホークアイ中尉を無力化しようとするが、並び立つ男が其れを許すはずもない。僅かなタイムラグが大佐の錬金術の発動を許してしまう。

 

 

 

 大佐が指を鳴らすと、凄まじい閃光と炸裂音が成り損ない達に降りかかる。『焔の錬金術』は可燃物を錬成し、発火布に導火線の様に着火して成立するものであるが、これを非常に細かい粒子上に形成することで後の世で「スタン・グレネード」と呼ばれるものと同じことをやって見せたのだ。幸い、精密技術用の構築式は何処かの機関が公布しているので容易に組み込むことが出来た。伊達に英雄などと呼ばれてはいないのだ。

 

 

 

 前衛に支障が無いよう威力は控えめにされ(念のため他の面子には耳栓をさせておき、前衛の背後で爆発させた)たが直傍にいた成り損ない達は甚大な被害を被り、平衡感覚と視力を奪われた彼らはたやすく殲滅された。

 

 

 

 自らが傑作と豪語した連中が無様にやられる姿に激怒した金歯の男が予備の成り損ないも全て投入するが、救援に駆け付けたメイ・チャンと合成獣の仲間たちによって殲滅されることとなった。

 

 

 

 

 

「皆さン、御怪我は有りませんカ!?」

 

 

「ああ、全員かすり傷程度だ。ありがとう、助かった」

 

 

 

 敵が完全に沈黙したことを確認すると、ハボックが突然膝から崩れ落ちた。もしやどこか負傷したかと、マスタングが血相を変えて近寄るが―――。

 

 

 

「―――も、もう無理っす。体中ガタガタで動けませんて。あと十秒あんたらが遅かったら膾切りにされてたっすわ」

 

 

「・・・まったく、驚かせるなッ!とはいえ良く持ち応えてくれた。しばらく休んでいろ。ところで、君らもこんな複雑な迷路の中を良く駆けつけられたな」

 

 

 

「俺達もエドと“傷の男”が居ないのに気が付いて引き返してきたんだが、嬢ちゃんがエンヴィーの気配が消えて追えなくなって立ち往生してたんだ」

 

 

「どうしたものかと焦っていたんですガ、途中で会った方にここまで案内してもらったんでス!ほら、ちょうどあそこに・・・ってあれッ!?居なくなってまス!!」

 

 

 

 メイが指差した方にはもう誰もおらず、マスタングは敵の罠を疑わなかったのかと尋ねたが、その時はまとめてぶっ飛ばすつもりだったと返ってきたので頭を抱える。おかげで助かったので何も言えないが。

 

 

 

「もう探さなくて良いぞ、御嬢さん。それよりそいつはどんな奴だったんだ?」

 

 

「えっと、骸骨みたいなお面をした人でしタ。声からして中年の男性みたいでしたガ」

 

 

 

 それを聞いたマスタングはホークアイに目線を向け、彼女も首肯する。恐らくラストという女との戦いでこちらに加勢したあの人物だ。

 

 

 

「こんな敵陣の中枢にいて君たちに危害を加えなかったところを見るに、その男も恐らくエンフィールドの手先か。あのナイフ捌きに中年声・・・・いや、まさかな。それより、思わぬ足止めを食った。鋼のをどこへ連れていったのかその男に吐かせねばな。まああれは簡単に殺されるタマでは――――」

 

 

 

 金歯の男を宙吊りにして捕えているカエルのような合成獣・ジェルソの下へ向かおうとしたマスタングであったが、此処に居るはずが無い満身創痍の男が、暗闇の向こうから姿を現した為に動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 ・・・まさしくこの世の終わり、といった風情ですね。地球の『扉』を開き、さらに向こうに引きずり込まれるのではなく、此方に引きずり出す術式ですか。しかしこんな方法何処から得たんでしょうかね?ホムンクルスの皆さんに警戒されて中々会えませんでしたから経歴とか全く知らないですし。

 

 

 

 まあ、そんなことは置いておいて。国土錬成陣が発動した以上、契約は完了です。後は実験の成果をこの目で確かめる、それから、色んな約束やツケを払いにいかないと、ですね。

 

 

 

「・・・できれば全部終わってから出ていきたいところですが、ちょっと旗色が悪いですね。正直どの面下げて出てきたって話ですが、遅ればせながらの加勢に向かいますか」

 

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――アメストリスから音が消えた。約5000万人ほぼ全てが賢者の石へと錬成され、恐らくこの地で動いていられる人間は10人にも満たないだろう。そんな終焉の地と化した場所の中心で、エドワード達は『お父様』と対峙していた。

 

 

 

 ・・・とはいっても、錬金術封じが施され、実質戦力として数えられるのは2人だけなのだが。

 

 

 

 

「―――ご苦労だった、人柱諸君。ここで君らを消してしまうのは容易いが、どうせ片付けるならまとめてやったほうが効率的だろう?そら、もう来ているのだろうウィリアム・エンフィールド。君が求めたものが此処にあるのだぞ?」

 

 

「・・・おやおや、あわよくば漁夫の利を得ようと考えていたのですが」

 

 

「戯言をほざくな。子供達から君の功績は良く聞いている。恐らくホーエンハイムの次に危険人物である男を放置などしておかんよ」

 

 

 

 何時の間に侵入していたのか、ウィリアムが仮面の男と共に影から姿を現した。エドワードとアルはこれまでの所業に関して、イズミはレーヴ中尉のことで声を荒げかけたが、左腕が失逸していること、何より今まで見たこともない鬼気迫る表情に何も言い出せなかった。

 

 

 

「ウィル・・・・・」

 

 

「お久しぶりです、先生。状況が状況なので礼を失した挨拶で申し訳ありません。それよりも・・それが神の力とやら、ですか」

 

 

「そうだ。真理を、全を、神をこの地に引きずりおろした。最早私は何者にも縛られはせんッ!!」

 

 

「それはそれは。ご機嫌なのは結構ですが、唯あなたを見ているだけではどれだけすごいのかがいまいち分からないのですよ。今までと何がどう違うのですか?」

 

 

「何もかもが違う。まさしく全能と呼ぶにふさわしい、今までどれだけ知っていても、この忌まわしい限界が其れを縛り付けていた。だが、今の私には寧ろできないことの方が限りなく少ない。たとえば、こんな風にな」

 

 

 

 『フラスコの中の小人』が肘置きを指で叩くと空から凄まじい落雷が束の如く、そして正確にエドワード達の頭上へと落ちてきた。ホーエンハイムは自らを盾に受け止めようと身構えるが、接触する直前に収束していた雷が突然四散し、その結果想定よりはるかに少ない負担で受け止めることが出来た。

 

 

 

 

「・・・ほう?土壇場まで姿を見せなんだが、賢者の石を掻き集めていたか。その『最巧の錬金術』とやらは良く出来ているが、随分と冷や汗をかいているじゃないか?石のバックアップがあろうが、君の方はあと何回受け止められるかな」

 

 

 

 ―――言葉の通り、ウィリアムは表情に色濃く疲労を刻んでいた。自身の部下に人形兵を狩り尽させ、パイプの中からも可能な限り石を収集させてきた。しかし、無から有を作り、雷という最速を雨の如く降らせる一撃を人間如きが介入し改竄する等、限界を幾つ超えても足りはしない。その無理が着実にウィリアムの肉体を蝕んでいた。

 

 

 

 

「・・・・さて、厚顔無恥にも加勢させていただきますよ。これまでの経緯を水に流せとは言いませんが、とりあえずこの場は乗り切ってからにしませんか?」

 

 

 

「・・・今の俺らに拒否権なんてねえよ。その代わり、ウィンリィを石の錬成に巻き込むのを容認したことに関しては、最低100発殴られるのは覚悟しとけよ?」

 

 

「・・・てことは、アルと本人を含めて300発は覚悟しとかないとですね。受け入れますとも。―――先生、逆転の一手はあとどれくらいですか?」

 

 

「わからん、が直ぐの筈だ。それまで奴の攻撃は俺が極力受け持つ。無理はするなよ」

 

 

「ここで無理せずに何時するんですか。後ろに大切な御子息を抱えてるんですから、今までのツケも含めて精々格好つけましょう」

 

 

「はは、お前とも後でじっくり話さなきゃならないしな。・・・来るぞッ!!」

 

 

 

 ―――再び雷が、マグマが彼らを襲う。ウィリアムが散らし、ホーエンハイムが受け止める。さらに戦線に復帰したメイ・チャンの錬丹術も加わり、ギリギリのところで踏ん張り通している。

 

 

 

 想定以上の抵抗に業を煮やした『フラスコの中の小人』は、早々にケリをつけるべく疑似太陽を創り出し、確実にウィリアムたちを葬ろうとする。

 

 

 

 ・・・もしもっと早くに決断していれば、若しくは彼らに最後の慈悲と高を括り会話を嘲笑っていなければ引導を渡すことが出来ただろう。長年の悲願を達成し、言い訳の仕様がないほど慢心していた。故に―――足元をすくわれる時が訪れたのも必然と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――好き放題やってくれやがったなこの野郎ッ!クソ真理と一緒にぶっとばす!!」

 

 

「・・・カッコつけてるとこ悪いんですが、さっきまで先生の後ろで背中押してただけですよね、君達?」

 

 

「こんっな時に茶々入れてくんじゃねえッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・ッ!!」

 

 

 

 ――――ロイ・マスタングは自らの無力さに憤っていた。エドワードの父親が打っていた大逆転の秘策が功を奏し、さらに“傷の男”が逆転の錬成陣を起動させた。今こそこの中でウィリアム以外で唯一軍人である自分が先頭に立たねばならないというのに、子供を矢面に立たせ、その命綱を民間人に任せることしかできないで何が『国の先を見据えたもの』だッ!?

 

 

 

 

 ――――おいおい、下向くにはまだ早いぜ、ロイ。見下ろすのはトップになってから、だろ?

 

 

 

 

 

 周囲から爆音が鳴り響く中、聞こえるはずのない声を聴いた。そんなはずはない、この声の主は今も冷たい土の中にいるはずで、エンヴィーもこの世にいない。じゃあいったいこの声は・・・?混乱する自身を無視して無理やり立たされ、どこかの方角へ向きを変えさせられる。

 

 

 

 

 

 ――――方位64ってとこか。奴さん、動く余裕もないのか、それともこの期に及んで慢心してやがるのか・・。この国の黒幕気取って踏ん反り返ってたやつを引きずり下ろすチャンスだ。未来の大総統様の実力、文字通り目に焼き付けてやれッ!

 

 

 

 

 この声が幻聴なのかはたまた罠か、盲目となった自分にはわからない。だが、切って捨てたはずの夢のような予測を信じて、マスタングは渾身の一撃を叩き込んだ・・・。

 

 

 

 

 

 

 




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