鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る   作:章介

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 というわけで後日談その一です。あ、あと最終話にキンブリーとの下りを加筆しておりますので、まだご覧になっていない方はよろしければ見てみてください


後日談① 弟と准将編

 

 

 

 

 

 

 

 某日某所

 

 

 

 

「―――へえ、そんじゃあエドの足は機械鎧のまんまか」

 

 

「ええ、恐らく腕と違って機械鎧がちゃんと付いてたからなのと、兄さんが取り戻すのを求めてなかったからだと思います。推測ですけど、兄さんは戒めとして丁度良いと言ってますしそれに、『こ、これがないとウィンリィが困るだろ・・・?』とかアホなことほざいてますし」

 

 

「あら、何そののろけ。・・・それにしても、元に戻れて本当に良かった。この人も私達の所へ戻ってきてくれて、今でも夢みたい・・」

 

 

「のろけッ!」

 

 

 

 ―――あの戦いからしばらく後、すっかり健康体となったアルフォンスはヒューズ邸を訪れていた。そこでは同じく快癒し最愛の家族と過ごすマース達一家が歓迎してくれた。同行していたザンパノとジェルソは席をはずそうとしたが、来客は多い方が楽しいという一家に流され紅茶を頂いていた。ちなみに、厳つい人相の中年に会っても笑顔で挨拶してきたエリシアに頬を緩めたら真横に投げナイフが突き刺さったので終始顔を引き締めている。

 

 

 

「――今回の旅で、僕たちが如何に周りの人達に支えられているか改めて実感しました。だからお世話になった人たちにお返ししていきたいんです」

 

 

「・・・錬金術師で言うところの等価交換?」

 

 

「いえ、一貰って一返してではいつまでも何も生まれません。かといって自分の出来ることを過信して大量に返せばそれも歪になります。だから十を貰ったらそれに一加えて返す、微力ですが僕たちが辿り着いた、等価交換を否定する新たな法則です。これから実践していかないといけないんですけど」

 

 

「・・・何かやりたいことがあるんだな」

 

 

「・・・・・僕たちが助けられなかった女の子が居ます。その子のことが何時までも頭を離れないんです。それで―――」

 

 

 

 アルフォンスは兄弟二人で考えたある計画を話す。それぞれ国内外を問わず渡り歩き、行く先々で多くの物を得て帰る。そして最後にそれらを二人で統合した成果で今度こそ誰かを救いたい、と。

 

 

 

「―――そんなわけで、これから僕たちはシン国へ向かいます。錬丹術を学ぶのと、此方の二人が元の体に戻れる術を探すために」

 

 

 

 それを聞いたヒューズ夫婦は顔を向き合わせ少し呆れたように微笑むと、アルフォンスにデコピンをかました。

 

 

 

「い~~~ッ!?きゅ、急に何するんですか!!?」

 

 

「はぁ、お前さんたちが錬金術馬鹿なのは重々承知だが、これから海外に出ようってんならちっとは世界情勢に目を向けとけ。今シン国は国境を封鎖してるぞ、原因は内政不安だ」

 

 

「えぇッ!!?な、なんでまたそんなことに・・・」

 

 

「主な火種は賢者の石を持ち帰ったヤオ家とチャン家だ。不老不死の手掛かりを持ち帰った功績でリン・ヤオの席次は跳ね上がった。幾ら皇位継承権が狙える位置とはいえ本命どもから見れば遠い場所にいたのが一気にまくられた訳だ、見下してた連中が慌てふためくには十分すぎる理由だな。チャン家はヤオ家の庇護下に入った。あそこも不老不死の手がかりを見つけてきたが、他家に権力で持っていかれる前に勢いづいているヤオ家に取り入った。ヤオ家もせっかくのリードを他家に齎す訳にいかないから高待遇で受け入れる。お互いの面子が立つが、話が上手く行きすぎてるところ見ると、帰国する前から打合せしてたみたいだな」

 

 

 

「それで焦った人たちが無茶なことを始めたり、皇位により近い人達が其れを利用して潰し合せようとしてかなり治安が悪化してるみたい。シン国は昔から来訪者や賓客に対して最上の敬意をもって接することを誇りとしているから、こんな有様じゃ余所の人を入れられないのよ」

 

 

「そんな・・・・ッ!メイやリン達が危険な目に遭ってるのに、外で指をくわえて終わるのを待ってなきゃいけないなんてッ!!」

 

 

 

 愕然として俯くアルフォンスにザンパノたちが声を掛けようとするが、それより前にマースが肩を叩いて顔を上げさせる。向き直った先には、先程までの穏やかな表情ではなく、歴戦の兵を思わせる威圧感があった。

 

 

 

「・・・連れてってやろうか、シンに?」

 

 

「え、でもいったいどうやって・・・?ヒューズさんもう軍辞めちゃったんでしょう」

 

 

「ああ、あの騒動で家族を大分苦しめちまったからな。行かないでって泣く娘に背を向けるわけにはいかないからな。なによりロイの奴に蹴り出されちまったからな。『私が行く茨の道に、今のお前のような腑抜け顔を歩かせる余裕は無い』ってな。しかし長年一緒に見た夢をあっさり捨てるのも後ろ髪引かれてな。ウダウダ悩んでるところにグラマンじいさんから頼みごとをされてな」

 

 

 

 ちなみに、ヒューズは生存が確認されても二階級特進は取り消されず、それどころか退役時にもう一階級昇格し少将待遇での年金と退職金を得ることとなった。まあ早い話が、決して表沙汰に出来ない事情に対する口止め料の様なものである。

 

 

 

「俺にシン国との国交樹立のための親善大使を任せたいってよ。上手いところついてくるよあの爺さんは。こいつはオフレコだが、今ロイが携わってるイシュヴァール政策は、次代の大総統に足るかの試金石だと言われてる。今一番国内でデリケートな問題を円満解決させりゃあ誰にもアイツの手腕に文句はつけられない。そしてイシュヴァールはシン国との間にある。もし交易が成れば間違いなく追い風を吹かせてやれる。愛しのマイハニー達の前で自堕落な生活するわけにもいかんし、ちょっくら一念発起してみようと思ったわけよ」

 

 

「・・じゃあその交渉に僕たちも連れて行ってくれるんですか?」

 

 

「さっき国境は閉じてるといったが、あくまでそれは一般人の話だ。俺達には関係ない、向こうから便宜を図ってくれるさ。何せ不老不死の手掛かりはここアメストリスから齎されたんだからな。交渉はすぐに終わるだろうが、バカの頭が湧いてる時期だからな、優秀で気心の知れたボディガードが欲しかったところなんだ」

 

 

「・・・はいッ!任せてください。ヒューズさん達には指一本触れさせません!」

 

 

「よし、決まりだな。まああんまり気張らなくて良いぞ。さっきも言ったが来賓に粗相をしないのがシンの信念だからな。俺達に下手を打てば皇位どころか国の面子に泥を塗ったとして粛清されかねん。旅行よりは気を付けるくらいでいとけ、俺達が無事帰れる段取りが付けばそこからは好きにして良い。仲間を助けに行くのも、研究に熱入れるのもな」

 

 

「わかりました。あ、二人ともごめん!勝手に話進めちゃって・・・」

 

 

 

 慌ててザンパノたちに謝罪するが、二人は気にした風でもなくむしろ表情にからかいを多分に含んで笑っていた。

 

 

 

「水臭いこと言うなって!愛しのガールフレンドのピンチなんだから俺らの事なんか気にすんなよ」

 

 

「そうそう、多少寄り道しようが構わねえよ。俺達自身の力で元に戻ろうって決めた時点でこんなの想定内だろ」

 

 

 

 当初、アルフォンスは二人の事をウィリアムに頼もうと考えていたが、当の二人が其れを断った。決してウィリアムに悪感情があるわけではなく、彼の力に頼り切るのはホムンクルスに縋るのとあまり変わらないのではないか、と。足掻き通してそれでもダメな時はともかく、それ以外で彼を頼みとするのは自律した人間としてどうだろうか、という結論になったのだ。

 

 

 

「もう、メイの事でからかうのは止めてって言ってるでしょ!まったく・・・、それじゃあホテルに戻って準備を―――『駄目だッ!』――えッ!?」

 

 

「まったくお前たち兄弟は分かってないなあ。俺達は来賓で、シンにはそれをもてなす文化があるんだぞ?つまり、何らかのパーティが開かれても不思議じゃない。礼服とかちゃんと持ってるのか?丁度良い、今日グレイシアの新調したドレスを受け取りに行くんだ、お前のも見繕ってやる。さあ時間は有限だ!今から行くぞッ!!」

 

 

「え?え、ちょっ・・と。へッ!?まってまってわーーッ!ひとさらいーーーーーッ!!?」

 

 

 

 最早恒例となりつつある、そして非常に懐かしいやり取りをしながらアルフォンスは引き摺られて行くのであった・・・・。

 

 

 

 




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