鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る   作:章介

5 / 26
第四話 終点と始まり

 

 

 

 

 

 

 

『ふーん、ひぃ、ふぅ、みぃ・・・・・君を含めて23人か。これだけ用意してきたのは久しぶりだな』

 

 

 

 

 ―――気が付けば一面真っ白な空間にいた。目の前には全身白タイツの妙なのが一体。正直そいつの後ろの扉のような何かが無ければ背景と見分けられる自信がありません。

 

 

 

『おいおい、白タイツは無いだろう。それじゃお前も全身白タイツの変態ってことになるぞ?』

 

 

 

 ・・・何で僕が?至って普通の恰好じゃないですか。後しれっと変態を追加して投げ返さないでください。

 

 

 

『・・・・つい先刻まで死んでいたとは思えないほど元気だな。まあ良い、オレは『真理』とお前たちが呼ぶもの。オレは「全」、オレは「一」、オレは「世界」、オレは「宇宙」、そしてオレは『お前』だ』

 

 

 

 真理?世界?・・・ここは夢かな?それとも現実逃避が過ぎて発狂しましたかね?

 

 

 

『んー、その認識でも別にかまわんぞ?どうせここで見たことは誰にも言えやしないからな。それより、実はオレ困ってるんだよなー。お前何にも考えずに弾みで来たんだし、相応しい罰何かないかなー。まあ良いか、とりあえず真理を見せてやるよ、23人とその石ころの中の30人分』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――よう、おかえり。どうだった?』

 

 

 

 ・・・・戻ってから体がうまく動かせないんですけど、壊れちゃったんですかね?

 

 

 

『いや、どちらかというと故障に近いな。なんせ53人も質に入れた対価だ。正常に体を動かす、という情報が無数の新しい情報に塗りつぶされているんだろう。直良くなる。ああそれから、お前から取り立てる『通行税』が決まったぞ。安心しろ、たぶん他のやつより安い。「前金」になる者を先にもらったからな』

 

 

 

 『通行税』、この知識に対する代償の事でしょうか。いやそれよりも、『前金』・・・?私はこれに何かを奪われただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・ちょっと待ってください。23人?あの場にいたのはキンブリー中佐が置いていった護衛が20人、それから僕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――じゃあ、後2人とは一体・・・・?

 

 

 

 

『そら、今生の別れだ。最後に挨拶くらいして行けよ。丁度そこにいるんだから』

 

 

 

 

 これが指差す方へ振り向くと、良く見知った2人がいた。とても大切な、それこそ死に物狂いで戦場を駆けずり回ってでも取り戻したかったほど大切な育ての親が。どうして彼らが!だって、死んだ人間を錬成することが出来ないなら、対価にすることも出来るはずが無い!!

 

 

 

『お前達は魂について何を知っているというのだ?そいつらは確かに死んだ。心肺は停止し、瞳孔も開いていた。だが、何時、どのタイミングで魂が消え去るかなど知っていたか?知らんだろう、だからそいつらは此処にいる』

 

 

 

 な―――じゃ、じゃあ人体錬成はどうした!?魂はまだ現世にあるんでしょう?それならあの人たちを救えたはずだ。こんな所に居るはずが無い!!

 

 

 

『それこそ何を言っているんだ?人体錬成にこいつらを選ばなかったのはお前だろう?』

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・え?

 

 

 

『お前は頭を吹き飛ばされ、最早意識すら保つことが出来ないにも拘らず、本能だけで人体錬成を行って見せた。その生き意地汚さは称賛に値するよ。だが、死に瀕したお前が選んだのは育ての親ではなく自分の命だった。お前もヒトの子だという事さ、恥じることは無い』

 

 

 

 そんな、これじゃ・・これじゃあべこべだ!?あんなに救いたかったのに!そのために此処まで来たのにッ!!こんな、こんなことって・・・・!

 

 

 

『・・・だれが言い出したかは知らんが、「真理」とは残酷な存在らしい。だから分不相応な叡智に手を出した愚か者に正しい絶望を与えるのさ。まあ、お前が代わりに得たものはそれなりの価値がある。上手く使えば、京に一つだがオレに勝てるかもな。あ、それと一応言っておくがこいつらはもう『完全に』死んだ。もう一度ここに来ても無駄だ。つまり、お前がこの不条理を覆さない限り、こいつらは永遠にオレのものだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 

 ――――意識が浮上する。今は自身の思い通りに体を動かせる。一通り調べてみましたが、特に変わったところは見当たりません。そして視線を前に向けると―――――そこには『人だったナニカ』が捨て置かれていました。

 

 

 

 それは黒い肉塊、という表現が一番適切でしょうか。それから手足や内臓、あと頭らしきものが飛び出している。大きさから丁度成人男性50人分といったところ。あまりにも名状しがたい、この世のものとは思えない姿を悍ましいと感じるのに・・・それ以上に今は自分がその何倍も悍ましく思います。あれをただただ冷静に見つめていられる自分が。あの中に大切な人だったものが混ざっているのが分かっているのに、だ。

 

 

 

 何も感じないわけではありません。痛ましさ・悲しさ・怒り・気持ち悪さ、そのどれも正常に感じています。ですが、まるで他人事のような、唯の信号のように感じるだけです。

 

 

 

「―――ああ、これが僕の『もっていかれた』ものですか」

 

 

 

 

 

 さしずめ『情動』とでもいうのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご無事でしたか、少尉。いや、私の部下が大変な不始末を仕出かして申し訳ない」

 

 

 

 いえいえ、偶然“扉”を開けられたので何とか事無きを得ましたよ。

 

 

 

「・・・“扉”ですか。その単語を私に態々聞かせるということは、全部ご存知だという訳ですか」

 

 

 

 ええ、ですから一つだけ聞かせてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方に、僕の足を吹き飛ばしてでも足止めをしろと命じたのはどこの誰ですか?

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:イシュヴァール戦線作戦司令部

 

 

 

 

 

「ひ、ひいいいい!!?だ、誰か!紅蓮の錬金術師が叛逆を!!誰か居ないのかぁ!」

 

 

 

 ―――ここは作戦司令部、より正確に言うなら作戦本部だった場所だ。ここにいた連中はこの内戦を賢者の石精製及びそのフィールドワークに利用していた。そろそろ終戦が見え始めたので石を渡していた2人の錬金術師から回収しようとしたが、その内の一人によって司令室が吹き飛ばされ、最も近くにいたにも拘らず何故か無傷の男を除いた全員が室内の調度品と同じ運命を辿っていた。

 

 

 

「いくら叫んでも無駄ですよ。ここの壁と窓は一際耐久性と防音性に気を遣って作り直しましたので。外観を一切変えずに中身に細工するのは骨が折れましたよ」

 

 

 

「おお、エンフィールド少尉!助けてくれ、私が幾らでも出世させてやる!だから―――」

 

 

 

 男は恐怖のあまり先程青年が何を言ったかも碌に聞こえていないようだ。これでは話も出来ないので、足元に縋りついてくる男を蹴り飛ばし、右腕で鷲掴みした後ぬいぐるみのように軽く持ち上げた。

 

 

 

「貴方をたった今殺しかけた方から伺ったのですが、僕が間に合わなくなるよう彼に直接指示したのは貴方ですね?」

 

 

 

 今度は彼の言葉が一言一句伝わったのか、男は青を通り越して真っ白になった顔色で慌てて命乞いを始める。

 

 

 

「わ、私はただ命令に従っただけだ!!私より遥かに上の方の命令で、さ、逆らえるはずが無いだろう!!お願いだ、たす、助けて―――」

 

 

 

「命令?おかしいですね。中佐からは貴方が自身の手柄にするために、彼に個人的に頼んできたと聞きましたが?何がしたいのか知りませんが、随分仕事熱心ですね?」

 

 

 

「な・・・あ・・ああ、あんな男の言葉を真に受けるのか!?」

 

 

 

「少なくとも貴方方より余程信用できますが?彼は貴方の言う『あんな男』ですが、色んな意味で自分に忠実に生きていますからね。手柄のために筋書きに手を加えるような美学に反することはしないでしょう。別に嘘なんてつく必要ないんですよ?残念ながら貴方のお陰でどれだけ感情が沸騰しても行動に移ってくれないんです。ここで感情に任せて貴方を惨殺したり、頭が真っ白になってとんでもないことをすることは、僕にはもうできないんですよ」

 

 

 

 その一言に一瞬安堵するが、続く言葉に今度こそ絶望に叩き落される。

 

 

 

 

 

 

 

「ですから、何の感慨もなく、どうでも良く殺されて下さい」

 

 

 

 錯乱した男が再び命乞いを始めようとするが、息を吸った途端喉が焼切られるような激痛が走り言葉にならなかった。

 

 

 

「貴方があまりにも隙だらけだったので、少し神経を弄らせてもらいました。大したことはありません。痛覚を何倍にも引き上げただけですよ。僕も中々やるもんでしょう?錬成光を限りなく抑えて、被験者である貴方にも気づかせずにやってのけたんですから。・・・・・ダメですね。無様に転がる貴方に確かに何かを感じてはいるのですが、行動に表れないので何を感じているのかよくわかりません。本当に、最後まで役に立ちませんね」

 

 

 

 男の醜態に飽きたように手を翳すと、まるで風化していくように男の体が崩れ始めた。男が有らん限りの絶叫と釈明を続けるが、数秒も経たずに音は聞こえなくなり、一人の人間が塵へと変わった。

 

 

 

 

 

 

「――――やるねぇ、『紅蓮』の!それから、『翠煉の錬金術師』。二人目の人柱であるお前に相応しい席を用意してやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして彼の内戦は終結した。何もかもを投げ捨てておきながら、その実何も果たすことが出来なかった、取るに足らない何処にでもある悲劇。しかし、凡そ殆どの人間が得ることのない力を手に入れたことで、ここから先の話は、正真正銘『彼だけの物語』へと続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――そして、6年の歳月が過ぎた・・・。

 




ここまでご覧いただきありがとうございました!次回から原作一巻へと入っていきます。

しかし戦闘描写の勉強のつもりで内乱篇から入りましたが、上達した気がしないorz
皆さん、アドバイス等あればいつでも大歓迎です、マジで。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。