鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る   作:章介

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すいません、一巻に入る前に書きたくなったので閑話を挟みます。次回から原作一話目に入っていきます。


閑話 其々の印象と人物紹介

 

 

 

 

 ある兄の独白

 

 

 初めて会った時の印象は「気持ち悪い」だった。笑いたくないくせに笑ってるのがムカついて随分偉そうなことを言っちまった。そんな生意気なガキにいつも笑顔で付き合ってる変わった奴だった。

 

 

 何時ごろから仲良くなったんだっけな・・・?あ、思い出した。けどあんまり思い出したくないのもおまけでついてきやがった。たしか、アイツに説教されてアルとの向き合い方を考え直した時だった。『急にお兄ちゃんですね』って言われて得意げにアイツとあったことを話すと、今まで見たことのない表情で『お揃いですね!』と笑ってた。多分あれが初めて見た自然な笑顔だと思う。

 

 

 何でも、アイツの弟子になって直ぐに俺と同じことさせられたらしい。しかも丸一日、それで言われたんだと。

 

『ついていくと決めた相手に言われれば、どれだけ無駄に見えることにでも貪欲に肥やしに出来る、その愚直さは探究者に不可欠な素質だ。だが、得てしてそういう直向さは色々なものを忘れさせる。お前が今日担いだ重さは、母親が一年間その誕生だけを望んで背負い続けたものだ。絶対に蔑ろにするなよ』

 

 

 ・・・ちょっと嫉妬したとか、絶対に気の迷いだ。

 

 

 

 

 

 俺達が先生の所へ修行に行ってる間にウィルは家を出ていた。軍人になるための学校に入ったとか。ウィンリィを一人ぼっちにして何やってんだと騒いでたら、その当人に『お前らが言うな』ってスパナで殴られた。仰る通りです。

 

 

 なかなか帰ってこなかったけど、定期的に写真が送られてきた。最初のころは辛気臭そうな顔ばっかで心配したけど、少ししたらあの笑顔を浮かべていたから安心した。ただ、アルの奴が要らんこと吹き込んだらしく、写真の横に『今月○○センチ身長が伸びました』って書かれるようになり、それに憤慨する俺を見て皆が爆笑するのが日常になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある弟の独白

 

 

 僕にとってウィルはこうなりたいっていう目標だった。何でもテキパキこなすし、兄さんやウィンリィがどれだけ我儘言ってもニコニコ笑って叶えてくれた。しんどく無いの?と聞いたら『怒ったり、泣いたりする方が笑うよりしんどくないですか?』って返された。そういう意味じゃないんだけど・・・。ウィルは偶に天然というかなんというか。

 

 

 

 『イシュヴァール内戦』が終わって2週間後、ようやくウィルが帰ってきた。でもおばさん達は・・・。あの日からウィルはおかしくなった。何がどう、とは言えないけど、まるでボタンを押せばそれに応じて動く機械のような。前はこう反応していたよな、と確認するようなとにかく不自然なんだ。ピナコばっちゃんは時間が解決するしかないって言ってたけど、小さい時からあんなにお世話になったウィルに何かしてあげたい。それにウィンリィが毎晩泣いている姿が見ていられなくて、彼女には笑っていてほしいから。

 

 

 多分、だから僕たちはあの研究を再開させたんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 軍から来たっていう男の人と女の人が帰ってから数日後、血相を変えてウィルが帰ってきた。でも僕たちを叱るわけでも、幻滅するわけでもなくただ昔のように僕たちをあやす様に抱きしめるだけだった。

 

 

『二人の周りにはしっかり叱ってあげられる人達がいますからね。もうお腹いっぱいでしょう?だから僕からはこれだけですね。「皆の団欒を取り戻そうとしてくれてありがとう。そして生き残ってくれてありがとう。僕が帰る場所を守ってくれてありがとう」』

 

 

 僕たち2人はずっと『ごめんなさい』と謝り続けた。自分たちがどれだけのことをしてしまったのか、本当の意味で理解できたような気がした。

 

 

 

 

 

 ある女性士官の独白

 

 

 私と彼が親しくなったのは、彼が始めた奇妙な課外活動に参加してからだった。先に参加していた友人のレベッカから話を聞いて興味を持ち、向こうからも是非テスターをお願いしたいと快諾して貰えた。銃を扱うものとしては性能はより良いに越したことは無く、自分たちの考えや要望が形になっていくのはとても楽しかった。

 

 

 

 彼の腕前については在学中に相当悪質な噂がばらまかれており、恥ずかしいけれど当事者でなかった私も踊らされていた一人だった。だから実際にこの目で見るまでは正直それほどのものではないと思っていた。本当に実力者なら私の父の弟子のあの人のように国家錬金術師になっていただろうと。

 

 

 しかし彼の技術には脱帽させられた。どれだけ精密で繊細な細工でも完璧に錬成して見せ、その柔軟性も並大抵ではなかった。参加者の何気ない一言や思い付きさえも少し時間を掛ければあっさりと形にしてみせた。あの沢山の発明も彼抜きでは決して完成できなかっただろう。錬金術は比較的身近なものだったけれど、改めて規格外の存在だと認識させられた。机上の空論だろうがなんだろうが、構成や設計図さえ突き詰めてしまえば何でも形にしてみせるのだから、世界中の技術者に喧嘩を売ってる業よね。

 

 

 ただ、機能美や限界を突き詰めすぎて失敗していることも少なくなかった。あのどう考えてもやり過ぎな拳銃にはじまり、防弾・防爆加工のし過ぎで走れなくなったトラック、切れ味を追求しすぎて逆に使い物にならなくなったナイフなど、挙げればきりが無かった。なまじ理論さえ整えば何でも作れてしまうせいで歯止めがきかないらしい。錬金術師は皆こうなのかと、少し昔を懐かしんでしまうことも多かった。

 

 

 

 いきなり出兵志願の相談をされたあの日以来、彼はそんな失敗をするときと同じ目のままだった。唯目的を果たす、それ以外は自分も含めて眼中にない様子だった。気持ちは理解できる。だけど本当に限度というものを知らない、偶然彼の右腕について知ってしまった時、何も聞かずに彼を引っ叩いてしまった。

 

 

 

 けれど、そこまで身を挺しても願いを叶えられないのだから世の中は無常だと思う。彼はあの戦いで多大な功績をあげ、最後は突如反逆し、上官を7名殺害した国家錬金術師を単身制圧したことで特例で国家錬金術師の資格を得たとか。その後も出世を重ね、一機関の長もやっているらしい。誰もが羨む栄達を迎えながら、本当に求めたものを取りこぼしたなんて皮肉も良いところだ。

 

 

 

 今でも私やハボック少尉、プレダ曹長は彼と交流があり、偶に東部に来た時などは一緒に呑むこともある。どれだけ偉くなっても相変わらずの低姿勢なことを皆にからかわれている姿に、もうあの時の面影は見当たらないはずなのに、あの鬼気迫る表情がいつまでもちらつくのはなぜなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロフィール

 

名前:ウィリアム・エンフィールド

性別:男

愛称:ウィル

好きなもの:一家団欒、アップルパイ

嫌いなもの:真理、錬金術抜きの工作

特技:生体錬金術、工学錬金術、拳銃(特に早撃ち)、写真、図面引き

武装:

マグナムリサーチカスタムモデル『ワイアット』

 イシュヴァール内戦で愛用した下手物銃。マグナムリサーチの欠点である銃身の短さによるライフル弾の威力低下を、15インチまで銃身を伸ばすことで克服している。普通それだけ長い銃身だと破損のリスクが付きまとうが、錬金術によって既存の技術では再現不可能な金属構成で作ることにより強度も問題ない仕上がりとなっている。

 ただ欠点として、長い銃身と高密度の金属のためとても重い。普通なら扱えない銃を、ウィリアムは右腕に細工を施すことで運用している。また、左手で金属を持った状態なら、リロードなしで薬室に再装填されていくため、リボルバーでありながら機関銃の如く連射することも可能。

 

 

 仕込み散弾銃

 イシュバール内戦にて、とある屈強なイシュヴァラ僧に使用した銃。左腕の袖に仕込んである飛び出し式の拳銃。イメージは映画『シャーロック・ホームズ』でモリアーティ教授の仕込み銃、もしくは某吸血鬼漫画の狗の餌兄ちゃんのあれ。

 モデルはMILサンダー。散弾を撃てる拳銃、ただし袖に隠せるよう小型化したために威力が著しく減少したので、代替手段としてダブルバレルに改造し、とにかく2メートル以内の至近距離での緊急手段として開発、部隊全員に支給している。貫通力は皆無で、厚手のローブすら抜けない。その代わり衝撃を効率よく伝えられるよう細工がされている。

 開発の切欠は、イシュヴァラ僧と接近戦になった時の死傷率が8割を超えていると報告が上がったため、非常手段として急遽用意したもの。

 

 

 

『死神』(イシュバール人からの通称)

 賢者の石を手に入れたことで可能となった、広範囲殲滅用錬金術。建物や金属等に含まれる炭素から極細のワイヤーを精製し、主に隠れられそうな場所周りに展開し切り刻む。賢者の石が無くても室内で、且つ自身の周囲になら展開可能。敵に回避・潜伏を躊躇させるため、殲滅戦において絶大な効果をもたらす。

 その代わり欠点も多く、乱戦ではフレンドリーファイアの危険から使用できず、室内や市街地のように壁がすぐ近くにある地形でなければならない。

 

 

 

 

 

概要:ロックベル一家の親戚筋に生まれる。両親はともに錬金術師であったが、父親は何者かに殺され、母は人体錬成の失敗により他界。その後ロックベル一家に引き取られる。その後はホーエンハイムに弟子入り(基礎のみの条件付き)したり、士官学校に進学して青春を過ごす。

 在学中にウィンリィから両親がイシュヴァールにいることを聞かされ、志願兵として内戦に参加する。装備の強力さから新兵ながら士気のたかい部隊を率い、彼の発明により九死に一生を得た軍人たちの協力もあり、快進撃を続けるが人柱候補に上がったことからキンブリーに足止めが命じられ、それが原因でロックベル夫妻救出に失敗する。悲観に暮れていた所を、士官学校から因縁のあった人物に頭を撃たれ、弾みで人体錬成が発動してしまう。

 もって行かれたものは『情動』。感情を失ったわけではないので、怒りや悲しみ、喜び等は正常に感じる。しかし、それが行動に反映されず、まるで他人事のようにしか思えない。幸い過去に何度も経験している感情や相手によっては記憶から『こういう時はこんなふうに思ったり行動したりしてたなあ』と判断できるため、エルリック兄弟やロックベル一家に関しては以前とそう変わらず接することが出来る。しかし相手の機微に鋭い人間には不審に思われる。

 性格は基本的に温和で優しいと言われるが、キンブリー曰く、命を尊重してこそいるが、命の価値について厳格に区別しており、優劣に劣る存在についてかなりシビアな目線をしているとのこと。

 




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