「―――ったく、アルをトンデモナイところに放り込みやがって」
「貨物の方が運賃が安いのだ。“傷の男”に散々市街地を破壊されたせいで経理がうるさいのでな。それよりリゼンブールまでかなりある、今のうちにアームストロング家に代々伝りし製法で作られた軽食を食べておくが良い。さ、技術大佐も御一つ!」
「お、サンドイッチじゃん」
“傷の男”との会合から数日後、機械義手を壊されたため、役立たずの豆チビと化したエドワードを使い物にするため兄弟はリゼンブールへと帰郷していた。“傷の男”に協力者がいる可能性が出たことから、未だ警戒体制が維持されており二人の護衛としてアームストロング少佐、そしてもう一人の計4名で行動していた。
「・・・何で僕まで一緒なんでしょうか。近いうちに今度は南部に遠征しなきゃいけないし、東部での報告書も上げなきゃいけないのですが」
「こうでもしねえと帰って来ねぇからだろうが!」
もう一人の護衛としてウィリアムも同行していた。本人の言もあるが一つの機関の長だけあってウィリアムも忙しい。本来東部に彼の人事に口を出す権限はないが、貴重な人柱を無理なく監視できる関係であること、そして“傷の男”の捜索に人手を割きたいある人物たちの意向もあり随行することとなった。残念ながら彼への皺寄せは考慮されていない。帰ったらしばらく徹夜であろう。
「へっ!ウィンリィがスパナ振り回して待ってるだろうから覚悟しとけよ」
「・・・その時は多分君もスパナの錆ですよね」
「―――待ちやがれ!!」
「待つのだエドワード・エルリック!弟を置いていくでない。しかし抱えて行っては見逃してしまうが・・」
「僕が此処で一緒に待ってますよ。彼が本物のマルコー博士なら、僕が居たら怖がって話にならないでしょうから」
「お頼みしますぞ!これエドワード、一人で行くでない!!」
大人しく駅で留守番することになったアルフォンスとウィリアムは、通行の邪魔にならないところで待機していた。ただ途中でウィリアムが用事を思い出したと言い出し、公衆電話の傍にいる。勿論アルもすぐそばに連れ出して。優男が平然と甲冑入りの木箱を運ぶ姿に、通行人全員が目を点にしたのは言うまでもない。
「やあレーヴ中尉、仕事中にすみません。少し戻るのが遅れそうなので南部遠征の人選を頼みます。それから、最近妙に色々物騒なので腕の立つ護衛も揃えておいてください。あ、あと『ソラリス』に言伝を。昔度数の高いお酒を飲み逃げしたアーツトさんを見かけましてね。軍務で忙しいので代わりに建て替えた代金を徴収しておいてください、と。はい、場所は東部の・・・はい、よろしくお願いしますね。それでは」
『あれ、ウィル兄さん知り合いが居たの?僕の事なんて気にせず話してくればいいのに』
「・・・いえいえ、学生時代に酒代をちょろまかされた相手だったもので。下手に声かけて逃げられては取立てできませんから。それに、自分のことを『なんか』なんて言ってはいけませんよ?唯一戦犯じゃないアルまでスパナの刑に処されますよ?いや、むしろ泣かれかねませんね」
『あはは・・・それはやだなぁ。気を付けなきゃね』
それからエドワード達が戻ってくるまでの数時間、久しぶりの幼馴染の会話を楽しんでいた。
「~~~~っ!!帰ってくるなら前もって連絡しろって言ったでしょ!それと不良兄!!忙しいのは分かるけど、せめて電話位しなさいよ!!昔は頻繁に送って来たのに、最近は手紙も碌に出さないし」
「いや・・あの・・・・・その、すいません」
その後は特にトラブルもなくリゼンブールへと到着したが、待っていたのは笑顔の出迎えより先にスパナの洗礼だった。アメストリスにその名を轟かせた『翆煉の錬金術師』も妹分には勝てず、仁王立ちした彼女の前で正座させられていた。
「ぷ、あっははは!ウィルも昔からウィンリィには勝てなかったもんなあ。大総統直轄の特務機関長も形無―――」
「―――ところでエドォ♡いつもより横に小さく見えるんだけど、目の錯覚かなぁ?私の最高傑作は何処に行ったのかしらぁ?」
~~~~しばらくお待ちください~~~~
二人仲良く頭にスパナを生やして(ウィリアムはエドの巻き添え)昼食を過ごした後、エドワードとウィリアムは墓参りに訪れていた。
「―――そういえば、御母堂の元を参るのは初めてでしたね」
「・・・そういやそうだったな。だからもっと頻繁に帰って来いっつってんだ」
「えー、たしか以前戻った時はどこかの誰かさんたちが小さいころみたいにしがみ付いて離してくれなかった所為でもあるんですが」
「ギャーッ!!恥ずかしいこと思い出させんじゃねえ!・・・でも正直感謝してもし足りないよ。あいつが居なくなってからは母さんの手助けから何から、ずっと俺達を助けてくれてたんだから」
「改めて言われると照れ臭いですね。ですが恩義に思う必要はありません、あの日々は僕にとっても掛け替えのない宝物ですから。だからお相子です」
どちらかともなく笑いあう。本来トラウマの地であるこの焼跡で穏やかな気分でいられるとは思わず、束の間の休息を噛み締めていた。
「・・・・なあウィル、マルコーさんから聞いたんだ。『翆煉の錬金術師』は自分なんかより遥かに真理の近くにいるって。元の体に戻る方法を教えてくれっていう訳じゃない。多分ウィルが言わないってことは何か理由があるんだろうから。ただ、あの内戦とその後の6年間に何があったんだ?」
―――空気が凍る。もう既に先程までの穏やかさは無くなり、二人とも一錬金術師として顔を見合わせる。
「やはり件の男性はマルコーさんでしたか。彼とは内戦で何度もお会いしましたね。・・・僕から話せることはありません。ですが、僕は脅されているわけでも、惰性で歩んでいるわけでもありません。例え師の教えを破ってでも成し遂げたい願いがある、それだけですよ」
「珍しいな、ウィルが願いなんて言葉口にするの。それって―――」
「そんなことより、君たちがこれから飛び込もうとしているのは掛値なしの蟻地獄です。一度でも踏み込めば、転げ落ちて食われるか、それとも捕食者の喉笛を食い千切るか、二つに一つです。ですから、危険から身を守る手段を用意しなさい。君たちを助けようと手を伸ばした人が身代わりになってしまわないように。さて、そろそろ戻りましょう。もうじき晩御飯ですよ」
―――3日後、無事機械義手が完成したため、兄弟たちは玄関前の広場に出て作動確認を兼ねた組み手を行っていた。
「へえ、随分腕が立つようになりましたね。これもカーティスさんの教えの賜物ですね。・・・ん?」
「ですな。よろしい!僭越ながら吾輩も作動確認に協力しよう」
「『ギャーッ!!』」
突然上着を脱いで乱入してきた筋肉に仲良く悲鳴を上げる兄弟。2階で呆れながら見守るウィンリィ。ただし彼女の心配は兄弟の安否ではなく、仕立てたばかりの機械義手の無事なのだが。
「むぅん!!うむ、これだけ出来る者は軍でもそうはいまい。吾輩も良い修練になる!どうですかな技術大佐?貴殿も組み手に参加しては?」
「あ、私も見たいかも。いつもほんわかしてるし、強そうな兄さんも見てみたい!」
突然少佐に振られ、しかも思わぬところからもリクエストが入った。良く見れば兄弟も興味津々のご様子。やはり自分たちが瞬殺された“傷の男”を追い詰めたという兄貴分の実力は気になるようだ。
「うーん、僕は肉弾戦苦手ですから・・・。あ、これ使っても良ければ―――」(チャキッ)
「『良い訳無いでしょ!』」
「俺達が何のためにここまで来たと思ってやがる・・・」
「(いつ抜いたのかまるで見えなかった・・・)」
・・・結果、満場一致で不参加となった。
そしてさらに時が過ぎ、兄弟一行がセントラルに帰る日となった。ウィンリィもすごく眠そうにしながらも見送りに出ていた。
「うー、徹夜は勘弁してほしいわ」
「別に良いじゃねぇか。肌なんて気にする女っ気もねえ――『ガンッ!!』――痛ぇっ!?」
「ねえ、久しぶりに感想聞かせてよ!兄弟子としてさ」
「弟子入り30分で破門された身ですけどね。まあそれより・・・・残念ながら皆伝はまだまだ先になりそうですね。多分すぐに会えるでしょうから、セントラルに来たときは連絡下さいね」
最後に不穏な発言を聞かせ、「えっ?」という表情をした一同を尻目に駅へと向かっていく。彼の頭は、既にどれだけ速やかに書類を処理できるかしか考えていない。
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