いけすの間から少し歩き、俺達は赤い鳥居のある神社の前まで来ていた。
神社を囲むように生えた雑木林が重く薄暗い氷室邸の雰囲気をより強めている、
玉砂利の敷かれた参道をザクザクと歩いていく。
突如雷が落ち、辺りは眩い光と轟音に包まれる。
深紅「きゃあ!」
深紅は突然の雷に驚き、反射的に隣を歩いていた俺の腕にしがみついた。
女の子特有の柔らかさと匂いに俺はやや胸を高鳴らせる。
深紅「ご、ごめんなさい!」
真っ白な深紅の肌にほんのりと赤みがさした。
恥ずかしさと申し訳なさがその表情から伺うことができた。
イナミ「い、いやあ、俺は平気だよ」
歳の割に落ち着いた子だと思っていたが、そんな顔もするのか。
深紅「雷は昔から苦手なんです...母が死んだ時のことを思い出してしまうから」
イナミ「深紅のお母さん?」
深紅「はい...私の母はこの射影機を手にしてからみるみるおかしくなって最期には...」
首を吊って自殺した。
そして遺体を最初に発見したのが深紅だった。ちょうどこんな雷のよく落ちる日の出来事だったという。
深紅「忘れたくても忘れられない日。既に父も他界していて身寄りのなかった私達兄妹は高峰先生の援助を受けながら互いに手を取り合って生きてきたんです」
たった一人の家族のためにか。
だからこそこんな危険な屋敷まで探しに来たんだな。
イナミ「大丈夫、必ず見つかるさ」
深紅「ありがとうございます...」
参道を歩きやがて神社の本殿までたどり着いた。
扉には文字が刻まれている。
縄ノ巫女
裂縄ノ...儀...選バ...歳
ところどころ文字が掠れている
イナミ「この扉にも特殊な鍵が施されているようだが...」
冬彦〔空いているようだぞ〕
イナミ「俺達が来る少し前に誰かがここを訪れたってことか」
俺は深紅に目配せをし、意を決して本殿の扉を開けた。
中には古びた台に怪しげな木人形の乗せらせた祭壇があり、ろうそくの炎が内部を薄暗く照らしている。
足元に水たまりがあるのか歩くたびピチャピチャとした足音がする。
何気なく足音を懐中電灯で照らすと
イナミ「うっ...」
そこには大きな血だまりがあった。
俺は喉まで出かかった胃液を飲み込み、周辺を観察してみる。
血はまだ乾いておらず、特有の刺激臭が立ち込めていた。
どうやらまだ新しいものらしい。
イナミ「この屋敷に入った犠牲者のものなのか、あまりにも酷すぎる...深紅?」
深紅は微かに震えながら目の前のただ一点を見つめていた。
彼女の視線を辿って見ると見知らぬ人間がいた。
背格好からして男性だろうか。白いジャケットを着てどこか儚げな雰囲気のある美青年。
深紅「兄さん...!」
深紅は目の前にいる男性にゆっくりと近づいていく。
冬彦(なんだ...あの青年を見ていると
なぜこんなにも涙が溢れてくるんだ)
深紅「兄さん...私が分からないの?」
深紅が呼ぶ声を気にも止めず、青年は何かを必死に探していた。
深紅が兄に触れようと手を伸ばしたところで兄は光の粒となって消えた。
今のは幻?
深紅「兄さん!...どうして」
イナミ「深紅...」
今のが深紅のお兄さん。
深紅の大切な家族であり唯一の理解者。
冬彦〔喜んでくれるかな...あの人に...〕
イナミ〔冬彦?〕
冬彦〔ん?私は何を...〕
イナミ〔それはこっちのセリフだ。いきなり変なこと言い出したと思ったら。なんで泣いてるんだよ?〕
冬彦〔私にもよく分からない。気持ちの整理がつかないのだ。あの青年を見た途端いろいろな感情が溢れ出て〕
突如ガタガタと携帯が揺れ出した。
怨霊が近くにいる。
冬彦〔いたるところ所に同じような気配がする〕
深紅「今までの怨霊とは違う...複数の霊が混ざり合ったような」
なんとなくだが俺にも分かる。この感じは明らかに今までの怨霊とは違う。
やがてあちこちに散らばってた気配が一つに集約していく。
深紅「あ、あなたは...」
おびただしい数の怨霊を体内に取り込んだ初老の男性。
その男性の後ろには青白い怨霊の手が揺らめきながら何本も生え出ていた。
深紅「高峰先生!」