イナミ「なんだこれは」
深紅「暗くて何も見えない...」
この怨霊の能力なのか、辺り一面の瘴気が濃くなり視界が遮られた。
スマートフォンで気配を探るも、動きが素早く捉えることが出来ない。
冬彦(上だ!上から狙っているぞ!)
深紅「イナミさん!」
怨霊はオレの首を掴み、絞め上げた。
さらに無数の怨霊の手が身体に巻きついてきた。
恐ろしい程冷たい手はオレの身体から体温を、生命力を奪おうとする。
イナミ「ぐっ...」
何て力だ。首が絞まって息ができない。
視界がボヤけて...
『アトヨ...マイ...ドコダ...ド...ニア....』
殺される。
このままでは。
深紅「イナミさん!眼を閉じてください!」
深紅の指示に従い、素早く眼を閉じる。
オレの首を絞めている間、本体が無防備だったのだろう。
深紅の射影機が的確に被写体を中心に捉え、シャッターを切った。
ZERO SHOT!
『ギャァァァァァ!』
深紅の不意打ちが効いたのか、幽霊はたまらず首を絞めていた両手を離した。
そして支えを失ったオレはそのまま地面に叩きつけられた。
イナミ「ウッ...ゲホッゲホッ...」
朦朧とする意識の中、オレは気を振り絞り、スマートフォンを手に取った。
イナミ「ハァハァ...冬彦!奴の位置と状況を!」
今が絶好のチャンスなんだ。
怨霊が体制を立て直す前に勝負を決める。
冬彦(怨霊は頭を抱えて苦しんでいる...その位置だそのままシャッターを切れ!)
ZERO SHOT!
『ゴシ...キョウ...キリエ...シズメ...ニハ...ソレシカ...』
シャッターを切り、力を失った怨霊は深紅の射影機の中へ封印された。
辺り一面の瘴気は収まり、再び静寂を取り戻す。
深紅「イナミさん大丈夫ですか!」
イナミ「平気だ...ハァハァ...とはいえさすがに今のは危なかったよ。ありがとう深紅」
深紅「い...いえ...」
弾む息を整え、幽霊がいたところを懐中電灯で照らすと、そこには黒い手帳と何かの破片のようなものが落ちていた。
この手帳は高峰準星のものだろうか。
後半になればなるほど字が乱雑になっており、最後のページは何かが貼り付いているのか開くことが出来なかった。
わかったことは。
平坂という女の助手と二人で次回作の小説執筆の取材のためこの氷室邸を訪れたこと。
屋敷の散策中にキリエに遭遇し、目の前で助手が死んだこと。
そして自らも縄の呪いにかかり、この場所でキリエに殺されたことだ。
察するに、先程オレ達の前に現れた赤いカーディガンを着た女性の怨霊がその平坂さんだったのだろう。
深紅「これ、鏡の破片...みたいですね」
深紅は破片を手に取りそういった。
イナミ「普通の鏡とは違うっぽいな。神社の神棚に置いてあるやつに近い」
高級で神聖なもの。
現時点では分かるのはそれだけだ。
何か他に手がかりはないものか。
辺りを探索していると、大きな鏡が目についた。
全体的に老朽化しており、淵の木造部分は腐り始めている。
イナミ「ッッ!」
この感覚は...初めてオレが呪いのゲームを起動したときに起きた現象と同じだ。
何者かと目が合ったような感覚。
金縛りにあったように身体が動かない。
そうか、あの時の感覚はこいつのせいだったのか。
深紅「どうしたんですかイナミさん!...キャァァァ!」
オレに次いで異変に気付いた深紅も悲鳴を上げた。
今までにないくらい激しくスマートフォンが振動しているのがポケット越しにも伝わってくる。
その鏡が写したのはオレと深紅の姿だけではなかった。
本来いるはずのないあり得ないものの姿を写してしまったのである。
白い着物を着た長い髪の女性。
その眼は酷く充血しており、この世への殺意と憎しみが伺えた。
そして細い手足には不釣り合いな血の付いた太い縄が巻きつけられていた。
とうとう出会ってしまった。
もう誰も助からない。