鏡に写っていたキリエはオレと深紅の間から顔を覗かせていたが、深紅が振り向いてもそこにキリエの姿はなかった。
キリエの存在は目の前の鏡の中にしか確認できなかったが、確かにキリエは鏡の中に存在していた。
キリエはゆっくりと一歩ずつ、踏みしめるようにこちらに近づいてくる。
キリエが歩を進める度、鏡にピシッ...ピシッと亀裂が入りこんでいく。
深紅は震えながら射影機を構え、シャッターを切った。
深紅「射影機が...効かない!?どうして...」
深紅が何度シャッターを切ってもキリエには全く手応えがなかった。
今まで出会ってきた怨霊とは格が違うのか。
とてもじゃないが射影機の除霊能力では太刀打ちできないようだった。
深紅「イナミさん!早くここから逃げましょう!」
深紅の言う通り、早くここから逃げるべきだ。
射影機での撃退が不可能である以上、もう今のオレ達には対抗手段はない。
イナミ「あ...あぁ...」
しかしそんなオレの意志に反して、身体はピクリとも動かない。
オレの身体はキリエの放つ殺気に当てられており、完全に弛緩してしまっていた。
人間は未知の恐怖に遭遇した時、自己の防衛のため思考や行動を止めてしまうのだと何かの本で読んだことがある。
今まさに自分に起きている状況そのものではないか。
キリエが正面に手を持ってくると。
その動きに合わせてオレの手も意志に関係なく正面に手を突き出した。
イナミ「!?」
まるでキリエの操り人形にでもなったかのような...とても信じ難い光景だった。
深紅「しっかりして下さい!早くここから逃げないとキリエが!もうそこまで!」
深紅はオレの腕を強引に掴むと、神社の入口まで走って行った。
キリエは鏡をすり抜け、オレ達を捕まえようと歩を速めた。
こちらに向かってくるキリエの姿を見て改めてオレはこの女の異常性に気がついた。
あえて言葉で表すのなら。
人の形をした化け物。
その表現は我ながら的確だったと思う。
何故ならコイツは人の動きをしていなかったから。
人間に本来備わっているはずの骨や関節がないかように。
右にうねうね、左にうねうねと。
蠟燭の炎のように揺らめきながらこちらに向かってきたのだ。
深紅「開かない...どうして?....誰か!誰かいませんか!」
深紅が声を荒げながら扉をドンドンと叩く。
深紅の両手は既に血が滲んでおり、痛々しいくらい赤く腫れていたが、どんなに叩いても扉が開くことはなかった。
建物全体に見えない力が働いているのかように思えた。
唯一の出口が塞がれてしまった。
キリエは既に目の前にまで迫っていた。
後ろは壁...もう逃げられない。
深紅「いや...嫌ァァァァ!」
キリエはオレと深紅の手首を掴み上げると真っ青な唇を僅かに振るわせた。
アナタタチニモ
オナジクルシミヲ