零〜twin〜   作:鳳菊之助

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ゲーム本編ではあまり描かれなかったミステリー作家高峰準星とその助手の平坂巴の話になります。

テンポが悪くなると思って没にする予定でしたが、投稿します。

※一部設定変更あります。


氷室邸怪奇譚〜高峰一行の最期
黒い手帳の断片その①


【1986年09月09日11時00分】

 

 

準星「次回作は日本のとある地方に伝わる儀式を題材にする」

 

巴「儀式...ですか?」

  

高峰先生は第一作目である【刻命(コクメイ)(ヤカタ)】のベストセラー以来、なかなかヒット作に恵まれず、苦戦を強いられていた。

 

先生の助手である平坂巴(わたし)も次回作はなんとしても成功させなければならないというプレッシャーをひしひしと感じていた。

 

高峰「史実上実在したという氷室一族とその氷室一族が密かに行っていたとされる儀式をモデルにしたホラー小説にしようと思っていてね」

 

巴「刻命の館とは違って舞台が日本になるわけですね」

 

今までの先生の作品は中世ヨーロッパを舞台にした歴史ミステリー小説がほとんどだった。

 

しかし日本が舞台ならば歴史的な知識に乏しいライト層の読者も新たに獲得できるかもしれない。

 

それにノストラダムスの大予言の煽りを受けてか世間は空前のオカルトブームだ。

 

売れる。間違いなく。

 

しかしそんな気持ちとは裏腹に私の胸中には不安が渦巻いていた。

 

準星「かつてその地方の神事の全てを任せられ繁栄を極めていた氷室一族だが、ある晩を境に忽然と消息を絶った。氷室一族は家臣等を含めて総勢70名以上いたとされ、歴史上稀に見る規模の集団失踪事件として今も語り継がれている」

 

巴「失踪の原因は分からないのですか?例えば大きな自然災害に見舞われたとか一族総出で国外逃亡したとか」

   

準星「真相は未だ解明されていないままだ。何せ氷室一族に関する文献自体が極端に少ないからね」

 

そんな大規模な失踪事件なのに詳細が一切分からないなんて不気味なことこの上ないわね。

 

準星「実は氷室邸ではその後も失踪事件が起きている。後住者として宗方(ムナカタ)夫妻がこの氷室邸に移り住んで来たが、こちらも幼い娘一人を遺してみんな行方不明になってしまったんだ。これが当時の新聞記事だ」

 

先生は自身のネタ帳を開くとそこには新聞記事の切り抜きが貼られていた。

 

新聞紙自体も経年劣化が進んでおり、かなり黄ばんでいる。

 

日付を見るかぎり今から60年以上前の記事のようね。

 

巴「随分古い新聞記事ですね...」

 

民俗学者の宗方良蔵(ムナカタリョウゾウ)と妻の宗方八重(ムナカタヤエ)の他、村の子ども数名が行方不明になるという事件が発生。

 

唯一の生存者である宗方夫妻の一人娘、宗方美琴(ムナカタミコト)ちゃんはふもとの神社の境内で震えていたところを神主の男性に発見された。

 

しかし美琴ちゃんには事件前後の記憶が一切なく、唯一手かがりになりそうな物といえば彼女が大事そうに抱えていた風変わりなカメラのみ。

 

宗方夫妻の住まいは深い山々に囲まれており捜索は難航。さらに追い討ちをかけるように4名の捜索隊員までもが行方不明になってしまい、結局捜索は中断を余儀無くされた。なお、美琴ちゃんは遠い親戚の家に引き取られることになった。

 

内容を要約するとこうだ。

 

準星「氷室一族の黒い噂に加えて、そんな不可解な失踪事件が立て続けに起きたものだから誰も氷室邸には住みたがらず数十年の間、人を寄せ付けぬ廃墟となっているらしい」

 

コンコン

 

不意に部屋のドアをノックする音が聞こえ、私と先生は振り返った。

 

真冬「真冬です。失礼致します」

 

準星「おぉ!帰ったか!どうだ、収穫はあったかね?」

 

雛咲真冬(ヒナサキマフユ)君。

 

大学に通いながらも、私と同じように高峰先生の助手をしている青年だ。

 

真冬君自体は先生のことを恩人と呼び慕っていた。

 

既に両親を亡くしていて身寄りの無かった真冬君と妹の深紅(ミク)ちゃんに高峰先生が住まいを提供し、こうして真冬君に自分の助手として仕事を与えている。

 

そのおかげもあって兄妹共々しっかり学校に通いながら不自由無く暮らしていけているのだとか。

 

真冬「ふもとの村の住人に話を聞いてみても、氷室一族や儀式に関することに対しては頑なに口を閉ざしたままでした。ただみんな口を揃えて()()()()()()()()()()()()()()と」

 

真冬君は一足早くふもとの村に赴き、村民に取材に行っていた。

 

準星「ふむ...あの辺りは元々閉鎖的な地方ではあるからなぁ。他には何かわかったことはあるか?」

 

真冬「村では1()2()()1()3()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という風習が今も残っているそうです」

 

準星「12月13日か...それが氷室家で行われたという儀式と関係がありそうだな」

 

準星「こうなれば仕方がない。直接氷室の屋敷に赴き、取材に行く」

 

巴「...」

 

さっきからこの胸騒ぎは一体何?

 

すごく...嫌な予感がするわ。

 

これから何か恐ろしいことが起こるような。

 

真冬「高峰先生、もう行かれるんですか?」

 

準星「あぁ、今夜には出発するつもりだが...どうした?」

 

真冬「実は...深紅が高熱を出したみたいで、今から学校へ迎えに行かなきゃならないんです」

 

準星「それは大変だ!早く行ってあげなさい!」

 

真冬「申し訳ありません高峰先生...本来なら僕も行かなければならないのに」

 

準星「深紅ちゃんは君にとってたった一人の大切な家族なんだろう?」

 

真冬「はい...!本当にありがとうございます高峰先生!」

 

準星「後のことは私と平坂くんに任せて君は深紅ちゃんの側に付いていてあげるんだ。平坂くん、至急電車と宿の手配を頼む」

 

巴「...」

 

準星「平坂くん?」

 

巴「い、いえ、何でもありません!すぐ手配します!」

 

こうして気持ちの整理がつかぬまま、私達は氷室邸に行くことが決まってしまった。

 

この時何故自分の直感を信じなかったのか。

 

何故高峰先生を止めなかったのか。

 

後になって何度も、何度も後悔することになる。

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