その①零への誘い
イナミ「ホラーゲームですか...?」
とある曰く付きのゲームをプレイして欲しい。
それが都内某大学のオカルト研究部長から開口一番に言われた一言だった。
サイト「そうそう、イナミ君ゲーム得意でしょ?」
爽やかな笑顔をたたえた部長には言葉では言い表しがたい迫力があった。
部長は気さくで人当たりも良く男女問わず人気が高い。その割に浮いた話を耳にしないのは、本人が重度のオカルトオタクであるためだろうか。
イナミ「どちらかと言えば俺はSTG(シューティングゲームの略称)専門なんですがねぇ...それにただゲームをやるだけでいいなら他のオカ研メンバーに任せておけば」
オカルト研究会のメンバーは俺を含めて4人。このままでは存続も危うい状態である。俺が入部する少し前まではもう一人部員がいたらしいが。
サイト「いつもならそうなんだけどね、今回はちょっと当たりっぽいんだ。君は知ってるかい?縄女の噂」
縄女とは近年インターネット上でまことしやかに囁かれている怨霊のことだ。俗的な言い回しをするなら都市伝説と呼ばれるものだろうか。
内容はうる覚えだが確か縄女と出会ってしまった人間は首、両手、両足に縄をかけられ、最期にはバラバラに引き千切られ絶命してしまうというものだったと思う。
イナミ「縄女は知ってますが、それとゲームをプレイすることに何の関係があるんですか?」
サイト「その説明をする前にこれを見てくれるかい?これが件のゲームソフトだよ」
そう言うと部長は白いトートバックの中から透明なCDケースに入れられたゲームソフトを取り出した。
イナミ「これが呪いの...ゲーム」
サイト「そう、といっても一見普通のゲームソフトにしか見えないだろうから順を追って話すね」
部長が言った内容を要約するとこうなる。
このゲームを部長に送ってきたのは先日自宅のアパートで五肢を引き裂かれたまま遺体として発見された
槙村さんはこのゲームをプレイしてから毎晩のように不気味な屋敷で縄女に追いかけ回される夢を見ていたという。それから日を重ねるごとに縄女の呪いの証である縄の跡がよりはっきりと現実世界でも現れるようになり最後にはご覧の有様というわけだ。
この事件はどこのテレビ局や新聞社でも連日取り上げられていたから俺でも知っている。
殺害現場のあまりの凄惨さから警察は痴情のもつれによる怨恨の線が濃厚とし、今もなお被害者の恋人に疑いの目が向けられ、頻繁に取り調べも行われているそうだ。当然「縄女が恋人を殺した」と言っても信じて貰えるわけもなく、彼女は藁にもすがるような思いで同じゼミ生だった部長にこのゲームソフトを託したのだという。
イナミ「事情はだいたい分かりましたが、知人からの依頼ならば尚更部長が引き受けるべきでは?」
サイト「イナミ君霊能力あるんでしょ?羨ましいなぁ僕は生まれてこの方幽霊にお目にかかったこともないよ」
人懐っこい少年のような笑みで相手の警戒心を解き、懐に滑り込む。部長の常套手段だ。
イナミ「俺は普通の人より霊感があるだけですから。それに霊関係の話題は軽い気持ちで関わるとろくなことになりませんって」
霊感に関してもせいぜいぼんやりといるなぁ、ついてきてるなぁと感じる程度だ。それを霊能力だなんてとんでもない。
サイト「普通の人間には分からない感じられない不可思議な現象を調査するんだ。餅は餅屋...僕よりイナミ君の方が適任だよ」
サイト「僕はもう少し縄女のことや、呪いのゲームソフトについて調べてみるから、それじゃまた明日!」
イナミ「あっ、ちょっと!行ってしまった...」
やれやれ、どうしたものか。
そうして俺は今日何度目かの溜め息を吐きながら一人きりの部室でそう呟いた。
梅雨の訪れを予感させるような湿り気の強いある日の出来事である。