零〜twin〜   作:鳳菊之助

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【氷室邸二階 上座敷→階段廊下】


黒い手帳の断片その⑤

私は階段を見つけるとすぐさま駆け降り懐中電灯で周囲を照らしながら懸命に平坂君の姿を探した。

 

 

準星「どこだ平坂君!いるなら返事をしてくれ!」

 

 

声のした方向からしてこの周辺に彼女がいるのは間違いない。

 

 

彼女の悲鳴を聞いて急いで駆け下りて来たのだ。まだそんなに時間は経っていない。

 

 

焦らずにもっと注意深く辺りを探そう。

 

 

私は足元。左右。そして正面と順番に懐中電灯を傾けていき彼女の姿を探した。

 

 

準星「ッ!?これは!」

 

 

不意に目の前に明かりが灯った。

 

 

平坂君かと思い近づくもその明かりは平坂君のものではなく私の懐中電灯から発せられた光が正面の大鏡に反射しただけだった。

 

 

驚かせてくれるものだ...

 

 

しかしまたもや...鏡だ。

 

 

この屋敷の探索を初めてから注連縄と同じくらいの頻度で見かけている。

 

 

大小を問わないのであればどの部屋にも必ず一つ、鏡が置かれていると言っても過言ではないだろう。

 

 

正直言って気味が悪い。

 

 

目の前の鏡の大きさは縄が無数にぶら下がっていた廊下に取り付けられていたものと同じくらいのサイズの大鏡だった。

 

 

準星「また鏡か...一体鏡にはどういう意味があるのだろうか」

 

 

鏡は古来から占いなどの魔術的な用途に用いられることの多い代物だったが故に、鏡にまつわる都市伝説は後を絶たない。

 

 

一説では我々があの世と呼んでいる死後の世界が鏡に写っている向こう側の世界であると考えられている。

 

 

有名な都市伝説でいえば合わせ鏡の七不思議や紫鏡などがそれに該当する。

 

 

このような鏡にまつわる都市伝説が生まれた背景には鏡の中に写る自分の姿に対し人が誰しも少なからず抱いている本能的な嫌悪感や警戒心が一つの理由としてあるのかもしれないな。

 

 

他に鏡に関する逸話として有名なのは鏡そのものが神として祀られていることだろうか。

 

 

神社に納められている御神体が鏡なのはそこに起因すると言われている。

 

 

元来、鏡という言葉の由来として(かがみ)から()を取り除くと(かみ)になるということが転じて、鏡=神という意味合いになっていると聞いたことがある。

 

 

氷室邸の至る所に鏡が置かれているのは裏を返せば注連縄と同様、氷室一族の儀式において鏡が重要な役割を担っているということに他ならない。

 

 

しかしそれがどのような役割なのかは...残念ながらまだ分からない。

 

 

手がかりになりそうなのは以前氷室邸に住み氷室一族の儀式について研究をしていた民俗学者、宗方良蔵の遺した草稿だ。

 

 

まだ私は宗方良蔵が氷室邸に移り住んで来た経緯と裂き縄の儀式についての部分しか読み進められていない。

 

 

あの草稿にはその後も続きがあった。

 

 

もしやまだ読み解いていない宗方良蔵の草稿に縄の呪いを打ち消し、生き残るためのヒントがあるのでは.....

 

 

 

巴「うぅ......」

 

 

 

準星「!?平坂君!無事か!」

 

 

背後からうめき声が聞こえたため、振り向くと、鏡の置かれていた場所から少し離れた階段下の小さな区画に平坂君はうつ伏せに倒れていた。

 

 

私はすぐに彼女の元へ駆け寄り脈を取る。

 

 

巴「高峰...先生?」

 

 

良かった...どうやらまだ息はあるようだ。

 

 

準星「遅れてすまない...しかし無事で良かった」

 

 

思った通り平坂君の手首にも私と同様の縄の痕があった。

 

 

それは即ち彼女も私と同じ縄の呪いにかかってしまったということに他ならない。

 

 

準星「やはり平坂君もあの時縄の巫女に.......ううっ!?」

 

 

何だ...

 

 

また急に手首に疼きが....しかも以前より更に内側に食い込んでいる。

 

 

それに異変はそれだけでは終わらなかった。

 

 

巴「どうかされたんですか先生?先生!」

 

 

私は痛みに耐えきれずその場に倒れ伏した。

 

 

今度は縄の痕と疼きが手首だけではなく足首にまで回っているのだ。

 

 

今までとは痛みを感じる箇所も痛みそのものの強さも全然違う。

 

 

まさか...呪いが進行しているのか!?

 

 

縄の巫女は裂き縄の儀式に則り、我々の五肢に触れられざる縄を掛けて裂き殺す。

 

 

自分の受けた苦しみと同じ苦しみを与えるために。

 

 

最初に両手首、次に両足首。

 

 

縄の呪いが裂き縄の儀式を再現しているとすれば次に縄が掛けられるのは...ここだ。

 

 

私は自分の首をそっと撫でる。

 

 

私の首に縄が掛かった時、裂き縄の儀式...呪いが完成する。

 

 

もう私には時間がないということか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ...

 

 

突如目の前の大鏡に亀裂が入る。

 

 

初めて我々が縄の巫女と邂逅した時と同じように。

 

 

準星「!?鏡にまた亀裂が!?」

 

 

巴「まさかまたキリエが...嫌よ...嫌嫌嫌嫌嫌嫌!もうたくさんよこんな屋敷...!」

 

 

 

平坂君の精神はもう限界を迎えている。

 

 

霊感の強い平坂君が私と離れていた二日間に一体どんな怖い思いをしたのか。

 

 

私には想像を絶する。

 

 

平坂君にも私にももはや一刻の猶予もない。

 

 

ピシッ。

 

 

鏡に亀裂が入るのは縄の巫女が現れる前兆だ。

 

 

もう既に彼女は近くにいるのだ。

 

 

とにかくこのままここに留まるのは危険過ぎる!

 

 

ピシッ...ピシッ...

 

 

準星「ひとまずここを離れよう!鏡の近くにいるのは危険だ!立てるか平坂君?」

 

 

この仮説には根拠があった。

 

 

縄の巫女は必ず鏡の中から現れる。

 

 

我々が初めて縄の巫女と出会った時も彼女はまるで鏡の中から這い出るようにして現れた。

 

 

過去に鳴神村周辺で起きた変死事件の事件現場にも決まって遺体の側には...

 

 

そう、鏡があったのだ。

 

 

もしあの一連の変死事件と我々が見舞われている怪奇現象が全て縄の巫女によるものだとしたら対策は一つ。

 

 

鏡から離れることだ。

 

 

縄の巫女は鏡が無い所では我々に干渉出来ない。

 

 

巴「でもどこに逃げれば...屋敷の中はそこらじゅう鏡だらけで逃げ場がありませんよ...!」

 

 

「屋敷の中はな...だから鏡の無い屋外に逃げるんだ!そこなら彼女は我々に手を出せないはずだ!この扉の先の中庭を抜けた先に大きな湖がある!ひとまずそこへ避難しよう!」

 

 

巴「っ!分かりました!」

 




お久しぶりです。

今年最後の更新になります。


設定の改変や誤字脱字の多い駄作品にはなりますが、読者様の感想評価やお気に入り登録がすごく励みになっております。


お忙しい中、いつもご覧頂きまして本当にありがとうございます。


現在リアルが多忙なため不定期の更新になりますが、来年もどうかよろしくお願い致します。


それでは皆様よいお年を。
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