零〜twin〜   作:鳳菊之助

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第壱夜【裂き縄】
その①逢魔ヶ淵より


こっち...こっちだよ...

 

真っ白な空間の中誰かの声がする。まだあどけない、色を知らぬ無垢な少女の声。

どうやら俺は彼女に導かれているようだ。

 

次に感覚を取り戻したのは触覚だった。

 

どうやら手を握られているようだ。とても小さいが確かな体温を感じた。

相変わらず視界は真っ白だが俺はこの声とぬくもりの主を信じて進むことした。彼女を信じることに何ら抵抗はなかった。

 

しばらくして呼吸ができることに気がついた。

 

鼻から息を吸ってみる。やや湿気を含んだにおいが鼻腔を突いた。

まるでパズルを組み上がっていくように少しずつ、少しずつ感覚が戻り始める。しかしこのままではぼやけてしまう。俺を塞ぐピースが足りない。

 

次は口から大きく息を吸ってみた。吐き終わるころには全身の感覚が復活し始めていることに気づく。胸の鼓動がより俺の意識を鮮明にした。

 

俺は味覚の存在を確かめようと舌を出して指で軽く触れてみた。汗が混じっていたのかほんのり塩の味がする。

 

クスクス...クス

 

少女はそんな俺の仕草が可笑しかったのか無邪気に笑い始めた。やさしく波打つ海の水面を彷彿させるような穏やかで上品な笑い方だった。

 

やがて真っ白だった空間(キャンパス)に色が塗られていく。しかし出来上がった風景の中に先刻まで俺の手を引いていた少女の姿を認めることはできなかった。

ほのかに手に残った体温のみを残して彼女は消えた。

 

 

 

ふと自分の居場所を確認しようと思い足元を一瞥した。

 

俺は湖の上に浮かぶ小舟の上にポツンと一人佇んでいた。辺りを見渡しても霧が濃すぎて何も見えない。ひとまず俺はすぐそばに桟橋を見つけるとそこに小舟を寄せた。

 

イナミ「ここが...氷室邸」

 

先程の穏やかな空間から一転、辺りは重苦しい静寂に包まれる。

 

この静寂ですらも意思を持ち、今も自分の喉元に刃物を突きつけていると錯覚してしまう程に誰も寄せ付けない攻撃的な雰囲気を纏っていた。

 

桟橋を形成する木材は既にほとんど腐っており、踏みしめる度にギィ...ギィと音を立てて揺れた。

 

それにしても暗い...灯篭の灯りが点々と灯っているがそれでもライトが無いととてもじゃないが歩けない暗さだ。足を踏み外さないよう慎重に桟橋を渡り、ようやく陸へたどり着いた。

 

コツっと何かがつま先に当たってコロコロと転がった。

 

少しもたついたがどうにか蹴り上げたものを手で探り当てることに成功する。

 

懐中電灯だ!助かった!

 

それにまだ熱を持っているのか暖かいぞ。氷室邸は人の寄り付かぬ廃墟と聞いていたが、もしかしたら人間もいるのかもしれない。

 

懐中電灯のスイッチを入れて明かりをつけた。

 

やや心もとないが、さっきより視界は良い。

 

懐中電灯で前を照らすとまるで湖からやってきた者を導くように縦並びに設置されている何基かの石灯籠が見えた。注意深く見ているとどうやら一基だけ灯りがついてないようだ。

 

灯りのついてない石灯籠の下に懐中電灯の明かりに反射して何か光る物が落ちている。

 

オレは膝を曲げてその物体に顔を近づけた。

 

イナミ「これは確か...印籠?」

 

誰かの落し物だろうか。いまどき印籠を持ち歩く人間がいるとは珍しいと思い、手を触れた瞬間異変は起きた。

 

イナミ「うっ!?」

 

突如頭に弾けるような痛みが走り、その場に倒れ込んだ。

 

痛みが止まず、意識がどんどん溶けていく。俺は痛みを必死にこらえるように瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

瞼を閉じると何かの映像が頭の中に入ってくる。

 

『これ..あなたが?』

 

『はい、どうか..し.......て』

 

『こ........よ』

 

ノイズが混じってて上手く聞き取れない。映像も乱れててとても見れたものではなかった。

程無くしてビデオのチャプター再生のように場面が切り替わった。

 

『お...え、お前さえ...れば!』

 

『待って、私は..か......だ』

 

『悪..うな...氷室....だ』

 

ノイズと砂嵐で内容はほとんど分からない。

ただ肉を切り刻む音と飛び散る鮮血が壊れたラジカセのように何度も、何度も頭の中で木霊した。

 

 

頭の痛みが治まり、徐々に目を開いて辺りを見回した。

あまりの痛みに手に取った印籠を握りしめていたらしい。

 

見上げると主張の激しい月の光とそれに照らされた石灯籠の存在を確認した。

今の映像はなんだったんだろう。

俺以外の誰かの記憶...走馬灯のようにも思えた。

 

 

(ここは...どこだ?私は確か...)

 

誰かの声がする。

耳からの情報ではない。頭の中に響くような声。

俺はその何者かが次に言葉を紡ぐ時を待った。

声の主の言葉を一字一句とも聞き逃さないようにためである。

 

(そうだ..,私はここで...)

 

やはり出所は俺の頭の中...声からして男性のようだが。

 

イナミ「さっきからなんなんだ一体」

 

(誰かの声がする...)

 

俺が声を発したことで彼も俺の存在に気付いた...?

もしかしたらと思い俺は頭の中に居座る人物にコンタクトを取ってみようと試みた。

 

イナミ「お前は」

 

(きみは)

 

 

誰だ?

 




どこまでの過激描写なら許されるのでしょうか。
一作目の零は色々とエグい死に方をした幽霊が多すぎるから言葉選びに苦労します(苦笑)
今後展開次第ではR18指定にするのも視野に入れるのもありかもしれない。
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