深紅と歩き続けてから数分が経ち、いよいよ俺達は屋敷の内部へやってきた。
当然明かりなど付いておらず、俺達は懐中電灯の光を頼りに階段のある長い廊下の中を進んでいく。
先程深紅が言っていた通り、ここは怨霊の巣窟と化しているようだった。何者かの舐め回すような視線を屋敷のいたるところから感じている。
冬彦(なんて数の浮遊霊だ..)
俺は青白いモヤのようなものを視界の隅に捉える程度だったが冬彦にはその全てが見えているらしい。そしておそらくだが深紅にも。
冬彦「深紅、やはり君にはこの屋敷の霊達が見えているのか?」
深紅「はい...霊の姿はもちろんその霊が抱いている感情も頭の中に流れ込んできます...激しい憎悪...生前の未練...生ある者への嫉妬...」
イナミ「そんなものまで...俺なんかの霊感とは比べ物にならないな」
深紅「ご、ごめんなさい...気持ち悪いですよね...今の話は忘れてください」
イナミ「そうでもないよ」
深紅「...え?」
イナミ「俺の妹と君はとてもよく似ていたから」
深紅「....」
ずっと俯いてた彼女が驚いたように俺の顔を覗き込んだ。
イナミ「霊が見える以外にも、遠くの景色が見えたり、その人の身に起こることを予言したり、手を使わずに物を動かしたり、まぁ世間一般に言う超能力者みたいな感じかな」
イナミ「妹はその体質のせいで周りから気味悪がられてな。それでも根が優しかったから善意で不幸な目に遭うかもしれないクラスメイトに予言の内容を伝えたりもしてた。だが結局一人も友達は出来なかった。誰もあいつを仲間と認めなかったからだ」
良い意味でも悪い意味でも妹は優し過ぎた。
おおよそ善の心しか持たなかった妹にはコンプレックス、嫉妬、悪意に満ちた世の中に居場所が存在しなかったのだ。
深紅「そんな...それじゃあ私と兄さんと...同じ...」
人間は理解出来ないものに対して不安や嫌悪感を抱きやすい。
しかしそれは人間に限らず生物に生まれつき備わっている防衛本能でもある。
『いーちゃん...あたし...いきてちゃいけないの...』
脳裏に蘇る妹の悲痛な表情、声、思い。
胸を揺さぶる残響をかき消すように俺は再び言葉を紡いだ。
イナミ「俺は何があってもあいつの味方でいようと思った。兄としてとか家族だからとかそういう責任感からじゃなくて、あいつが省かれる理由を理解は出来ても納得がいかなかったからだ。それからは友達よりも妹といる時間を選んだ。でも....」
深紅「イナミさん?」
『...センセ...イ...ニゲテ...コノヤシキハ...』
耳にまではっきりと届いた。
今のは女性の声だ。
イナミ「!?」
深紅「これは!?」
今までの浮遊霊とは違うありえないものの気配。
俺はポケットの中で小刻みに揺れていたスマートフォンを取り出し気配を探った。
ミシ...ヒタ...ミシ...ヒタ...
冬彦(上に何かいる...)
冬彦の言う通りだ。ありえないものの気配は上から徐々に近づいて来ている。
ミシ...ヒタ...ミシ...ヒタ...ミシ...
この音は...階段を降りている?
すぐ側にある階段に目をやると赤いカーディガンを着た女性の姿がチラリと見えた。
イナミ「!?とにかくここを離れるぞ!」
深紅「は、はい!」
ここで鉢合わせになるのは危険だ。
俺達は後ろを振り返らないようにしながら長い廊下を走り、つきあたりに古びた扉を見つけると勢い良く扉をこじ開けた。
『ワタシニモ...ナワノアトガ.... 』
イナミ「うっ!?」
深紅「きゃあ!」
俺達はたじろいだ。
なぜなら扉を開けると階段にいたはずの女性が目の前に移動していたからだ。
女性の双眸は既には生気を失い、顔の半分はまるで硫酸でも被ったかのようにとろけていた。
『クルシイ...クルシイ...ナワノ....ノロイ..』
女性は首に手を当てては蹲りながら悶え苦しんでいた。俺には彼女が死の直前に受けた苦痛を今もなお何度も繰り返しているようにも見えた。
深紅「イナミさん、その霊から離れてください!」
深紅は小脇に抱えていたカメラを女性に向けて構えるとシャッターを切った。
ZERO SHOT!
独特のシャッター音の後、辺りは眩いの光に包まれる。
『キリ....エ...』
女性は深紅のカメラから放たれた光によって自身の霊力を吸い取られ、やがてカメラの中に吸い込まれるように消えていった。
霊に対して攻撃を加え、かつその霊を封印することの出来るカメラ。
まさか深紅の持っているそのカメラも
射影機?
ホラー作品は演出や展開を間違えると一気にギャグ化する...
なんとも言葉選びや展開に難儀しますね...
仕事が忙しくなりそうなので次回の更新はさらに遅れるかもです。