Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
リンさんが
わたし達は何とか英霊達を押し返して。
ドドドド!
クロが、わたしの背丈の何倍もある大きな剣を何本も投影して突き立てる。
「ったく、キリがないわ!」
「バ、バリケードも気休めにしかならないね…。また総攻撃が来たら…」
っと、あぶない。また弱音を吐くとこだった。
「リン!! お兄ちゃんの治療はまだなの!?」
「全力でやってるわ!! ……けど!!」
シロウさんは大怪我だし、治癒魔術は苦手だって言ってたから覚悟はしてたけど…。ただひとつ好転したのは、リナがたった今、ズーマを倒したことだ。もう少ししたらリナが参戦してくれる。そんな期待を胸にした、その時。
バキャァッ!!
たった一振りで剣のバリケードを砕いた、一体の英霊。……え? 泥だから顔はハッキリとはわかんないけど、がたいの良い、ロングコート姿で大剣を携えたあの英霊ってまさか…!?
「弓を射るわ! 足止めをして!」
っ、そうだ。今はもの思いに耽ってる場合じゃない。わたしは英霊が振り下ろした剣を聖剣で弾く。っく!
「クロ! 早く…!」
だけど、クロからの反応がない。振り返ってみると、泥の中から現れたアサシンと思われる英霊の短剣で、クロは太腿を刺されていた。
「ク…」
わたしが名前を呼ぼうとしたとき、身体に強い衝撃が加わって、わたしはクレーターの淵まで吹き飛ばされた。
「イリヤ!」
「だい…じょうぶ…」
リンさんにはそう返したけど、本当は体中が痛い。
「……イリヤ。クロを連れて逃げなさい」
「え…」
「わたしの稚拙な治癒魔術では時間がかかりすぎるの! このままでは全員死ぬだけだわ!」
……確かにこの調子じゃ、そこまで長くは持ちこたえられないと思う。……でも。
「辛い選択をさせてしま…」
「リンさん」
わたしはリンさんのセリフに被せて言う。
「選択なら、もうしたんだ。ミユも世界も、どっちも救うって。その世界には、今ここにいる人達も含まれてるんだよ?」
「イリヤ…」
リンさんはとっても驚いた顔をしてる。でも、当然だよね。
「イリヤ。よく言った」
そう言われて、わたしは髪の毛をくしゃっとされる。もちろんそれをしたのは。
「リナ」
「イリヤ。なんでか居る
やっぱりあの英霊って…。ううん。それはともかく。
わたしは聖剣の力を解放する。
「
放たれた宝具は、魔竜王を含めた英霊を…ううん、直線上の泥ごと蒸発させた。と、同時に。
ぱきぃぃぃん!
わたしの中からカードが排出される。
「魔力…切れ?」
『あの宝具は魔力消費が大きすぎます! 魔力供給には時間がかかりますよ!』
そっか。でもこれで時間稼ぎが出来た。
「今のうちにお兄ちゃんを安全なところへ!」
「今動かせば、命の保証はないわ」
クロが急かしたけど、リンさんの答えは非情だった。
「今は辛うじて出血を抑えてるの! せめて血管を繋がないことには…!」
「……そうだ! リナも回復魔術が…」
「残念だけど無理よ」
わたしのアイデアを一蹴するリナ。
「あたしが使える[
そ、そんな。
「……どうやら、のんびり話してる時間はないみたいよ」
クロに言われて見れば、再び泥が覆い新たな英霊達が姿を現し始めてる。
「……しょうがない。今度はあたしの番みたいね」
そう言って一歩、歩み出るリナ。
「イリヤとクロエは時間稼ぎをお願い。一発、
そう言ってリナは呪文を唱え始める。
四界の闇を統べる王
汝の欠片の縁に従い
汝ら
我に更なる力を与えよ
これは、魔力の増幅呪文! そして。
黄昏よりも昏きもの
血の流れより紅きもの
時の流れに埋もれし
偉大な汝の名において
我ここに闇に誓わん
異界の魔王の呪文を唱え始めた。
「……!? だめ…」
「……エリカ?」
泥の中の、エリカの呟きを訝しむジュリアン。だがそれは、エリカの耳には届いていない。
「あの呪文は、だめ…」
呪文? 呪文といったら…リナ? でも、エリカが慌てるような術なんて…。話に聞いてる、魔王や冥王を倒した術なんて、さすがに使うとは思えないし。
「ピトスのなかの、
「目覚める? エリカ、何が目覚めると言うんだ」
「あれがめざめたら、
「エリカ!?」
ジュリアンが呼びかけるけど、エリカはそれ以上答えようとはしなかった。
リナの詠唱が続く。
我らが前に立ち塞がりし
全ての愚かなるものに
我と汝が力もて
等しく滅びを与えんことを!
詠唱を終えて、リナが術を発動させる!
「
その威力はいつもの竜破斬よりも遥かに強力で、泥も英霊も、全てをキレイサッパリ吹き飛ばしてしまった。
「なんて威力…。リナってば、まだこんな隠し球持ってたの…?」
そういえばクロは、
「……さて、と。これでしばらくは大丈夫だと思うけど、くさい臭いは元から絶たないと、ね?」
そう言ってリナは、地面に突き刺さった…って、鍔元まで刺さってる!? あ、いや、とにかく剣を引き抜くと、わたしへと目配せをする。……そうか。元から絶つって事は、狙うのは泥が溢れ出してるキューブ、……ピトスの底。そしてわたしの役目は、リナをそこまで連れて行くこと。剣を振るには、レイ・ウイングの風の結界は邪魔なんだと思う。
わたしはリナを抱えると空へと飛び上がり、ピトスを目指す。
「だめ! こないでっ!! その剣は…!!!」
エリカちゃんの声が響いて、黒い泥の塊が迫ってくる。だけど。
サシャアアアアアアッ!
リナが突き出した剣が、何の抵抗もなく、軽く斬り裂き。
「止まれ! その剣を捨てろ! 稲葉リナ!!
ジュリアンが出した無数の黒い手の宝具が襲ってくるけど、わたしが魔力障壁と物理保護でいなしつつ、これもまたリナが斬り裂いて突き進んでいく。
「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!!!」
エリカちゃんが叫ぶ中、ピトスに辿り着いたリナは剣を勢いよく横に薙いで。
キッ……シャアアアアン!!!
一瞬の抵抗の後、その表面を斬り裂いた。
「斬妖剣でも一瞬、抵抗を感じるなんて…」
リナが驚き呟いてるけど、わたしとしてはこんなモノをあっさり斬り裂ける剣の方に驚きだ。神滅斬なら納得だけど。
でも、おかげで泥の流出は止まって、英霊共々消え去っていく。わたし達はミユの前に降り立ち。
「ジュリアン。わたし達の勝ちだよ」
そう告げた。
「イリヤスフィール…、リナ…」
ジュリアンはこちらを睨みつける。そして。
「……それは」
エリカちゃんが言う。
「異界の魔術礼装。魔力を糧に切れ味へと変え、神や魔をも…ピトスすら砕ける、伝説の剣」
……エリカちゃんは、変わっていた。まだ小学校の1、2年といった姿だったのに、今ではわたしと同じくらいの年齢に見える。そんな彼女が、うつむきつつも僅かに見える、紅い左の瞳をこちらに向けた。
「……そうか。つまり、俺達の天敵という訳か」
そう言ってジュリアンがピトスへ手をかざす。するとピトスは小さく変形してゆき、元の掌サイズになっていた。
「ベアトリス。帯雷二つまで許可する」
「愛してるわ。ジュリアンさま」
ジュリアンの命令でベアトリスが前に出てくる。
「もうやめて! これ以上争ってどうなるの? 世界を救いたいのはわたしだって同じだよ! 世界もミユも、どちらも救う道を一緒に…」
「万にひとつ」
え?
「両方を救う手があったとして。世界と美遊、それだけしか救えねぇんだよ…」
そう言ったジュリアンの表情は、怒りでも不満でもなく、悲しみにも似たとても切ないものだった。でも、そのワケを聞くよりも前に。
「召雷!!」
ベアトリスが宝具を発動させる!
「
「イリヤ! 美遊! 逃げるわよ!」
「「リナ!?」」
「あたしの剣技レベルじゃ、
……わたし自身、血の気が引くのがわかる。わたしはキャスターで撃ち負けた。
……うん。今のわたし達に残された手は。
「戦略的撤退ッ!!」
素直にリナの意見に従うことっ!
「吹き狂え! 元素の彼方まで!!」
逃げながらも振り向いて、決めゼリフを言うベアトリスを見たその時、わたしの視界にエリカちゃんが映り込み、そしてもうひとつの異変に気がついた。エリカちゃんの、右目の瞳も、青から紅へと変わっていた。そしていやな考えが思い浮かんで、頭を振ってその思考を振り払う。
「
そこへベアトリスが宝具を撃ち出した。撃ち落とされた雷は何とか躱せたけど、雷の柱がわたし達を追いかけてくる! ダメッ!? 逃げ切れ…。
次の瞬間。わたし達の後ろに七弁の光の盾が現れて、雷はその範囲だけを防がれ通り過ぎていった。……って、これは
「イリヤスフィール。美遊。束の間の夢を見るがいい。お前らの望みと俺の望みは決して交わらない。お前達は、必ず俺が
……そう言ってジュリアン達は、岩山ごと消えてしまった。不吉な呪詛と、底知れない破壊の爪痕を残して。
そして…。
「お兄ちゃん!」
リンさんのそばに着地したミユが声を上げる。
「なんて出血!!」
「リンさん、
わたしが尋ねると、リンさんは難しい顔をして。
「……長くは持たないわ」
な、そんな!?
「どうにもならないの!? 魔術なら直せるんじゃ…」
「イリヤ。凛さんを困らせちゃダメよ」
リナ…。でも、そう言って諭そうとするリナも、とっても辛そうだ。そんな中、ルヴィアさんとバゼットさんも駆けつけて来る。
「……士郎さんの塞がりかかってた傷口は、さっきの
「……ええ、その通りよ。これをどうにかするには、絶望的に魔力が足りないのよ」
そんな…。
「嘘…でしょう、シェロ…」
「……おにい…ちゃん。……ようやく…再開できたのに、……また、お別れなの…? ひどいよ。そんなのないよ。……お兄ちゃん!!」
ルヴィアさん…、ミユ…。
と、その時。ミユの目の前に、赤い宝石のペンダントがぶら下がる。ぶら下げているのは、バゼットさん。
「この世界に来た直後、大空洞内に落ちていました。この宝石は、貴女のものでは?」
バゼットさんはリンさんを見つめながら言う。するとリンさんは深く息を吐いて、キリッとした表情に変わり力強く言った。
「見せてあげるわ。宝石魔術の奇跡を!」
そして。リンさんが宝石をかざしながら魔術を発動させると、シロウさんの怪我が見る見る治っていく。
「これ…、ミルガズィアさんが使ってた治癒の術レベルじゃない…」
ミルガズィア? 確か…。
「それって
「……ああ、イリヤは並行世界の[スィーフィード世界]を見てたんだっけ。ええ、そうよ。アメリアが重傷を負ったときに、人間が使うものよりも強力な治癒の術を使ってくれたのよ」
そうなんだ。わたしが見たときはそのシーンが飛ばされたのか、そもそもそういう事が無かったのか、そんな展開は無かったけど。
「……何だか気になる会話をなさってますわね」
「その辺も長くなるから、さっきのと同じく後でね?」
ルヴィアさんとリナの会話の意味はよくわかんないけど、そんな中、シロウさんの治療が進み。やがてシロウさんは、意識を取り戻して身を起こす。そしてミユは、シロウさんに縋りついて涙を流した。
『取り敢えず、いろんな意味で当座はしのぎましたか』
「あくまで一時しのぎだけど、ね」
ルビーのセリフに、クロが疲れたように言う。いや、本当に疲れてるけど。
「ほら、美遊。嬉しいのはわかるけど、急いでここを離れないと。エインズワースの魔術は法則無視の置換魔術。姿を消しはしたけど、空間を入れ替えただけで場所は移動してないかも知れないからね」
「それって鏡面界みたいな場所に逃げたって事?」
リナの話を聞いて、わたしはわたしがわかる範囲の知識で尋ねてみる。
「まあ、そうね。鏡面界とは限んないけど、第二魔法に至らないレベルで、別の空間の同じ座標にいる可能性はあるわ」
『それでも充分、魔術の常識を超えてますけどねー』
あ、えっと、つまり、向こうからこっちを見てる可能性もあるって事? だから「急いでここを離れないと」なのか。
「……そうですね。リナの判断は非常に正しい。こちらは
相手は演出を大事にしているという事なので、ここで奇襲はかけないと思いますが、いつまでもこの場にとどまっていたら話は変わってくるでしょう。むしろ動ける状態となった今こそ、撤退のタイミングとみるべきです」
おお、本職モードのポンコツじゃないバゼットさん! 確かにこういう所を見ると、単純に脳筋だなんて言えやしない。
「……ああ、わかった。ほら、美遊」
「うん」
シロウさんに声をかけられて、素直に頷くミユ。……って、あれ?
「声が、わたしの知ってる
「言われてみたら、確かにお兄ちゃんの声ね?」
わたしの疑問に同調するクロ。
シロウさん、ずっと声が潰れてて、牢屋越しじゃ
「治癒魔術のおかげよ。治ったのは、斬られた腹部や打ち出されたときの打撲・骨折だけじゃなかったって事」
な、なるほど。リンさんの説明に納得するわたし。というか、切り口と出血にばかり気が向いてたけど、骨も折れてたんだ。ほんと、よく生きてたね?
「ほら、くっちゃべるのはいいけど、手足は動かす!」
「「あ、はぁい」」
リナに注意されて、わたしとクロは短く返事をする。確かにリンさんは、立ち上がって軽く身なりを整えながら説明してたし。
一方、注意してたリナは歩き出して…、え?
「それで、あんたはどうするの。アンジェリカ?」
ひとり、エインズワースから切り捨てられたアンジェリカに声をかけた。
「……わたしは廃棄された人形。どうもしません」
今までとは違って、何の感情も浮かべずに答えるアンジェリカ。まるで、わたしやリンさん、ルヴィアさんの身体に入れられてた擬似人格みたいだ。
「つまり、あたし達と戦う気はないってわけ?」
「はい」
その答えを聞いて、一瞬だけ考え込み。
「わかった。それじゃ、あたし達と来なさい」
「はい」
アンジェリカは、リナの誘いを素直に受け入れた。
「って、ちょっとお待ちなさい! 彼女は先程まで敵でしたのよ!?」
「戦う気がないって言われたって、簡単に信用できるもんじゃないでしょう!?」
当然、ルヴィアさんとリンさんが猛反対をする。でも。
「それでも、アンジェリカ
「ま、確かにそれがイリヤらしいわよねー」
わたしの意見に、クロが揶揄うように言う。
「……俺も、別に構わない。ちょっと思うところがあるからな」
シロウさんの「思うところ」って何だろう?
「……まったく、甘い連中が多いんだから」
リンさんはため息を吐きながら言ったけど、その顔には苦笑いが浮かんでる。リンさんも充分に甘いと思います。
「じゃ、みんな準備もいいみたいだし、さっさとここからずらかるわよ!」
『……リナさん。最後の最後で悪役のような言動ですよ?』
……わたしも思ったけど、ここは言わぬが花。クレーターから出るため、素直に歩き出したのでした。
今回のサブタイトル
「スレイヤーズ」
というわけで、エリカが怖がったのは田中の腕ではなく竜破斬の詠唱、ピトスの一部破壊は斬妖剣でした。
因みに、ここら辺の展開を考えた当初は例に洩れず神滅斬の予定でしたが、結界に潜入するのに一度使って、オマケに中でドンパチしといて魔力が足りるわけないので、斬妖剣へ変更しました。切れ味だけなら光の剣すらしのぐ(推定)ので、代用させても問題ないかと。
なお、ピトスが一瞬耐えられたのは、ピトスが神代の代物で神造物、そして「鍵が無ければ開くことが出来ない」という強固な概念が抵抗したためです。もちろん、その分魔力量も計り知れないので、結果的に斬り裂かれましたが。
エリカ、身長以外にも変化が出ましたね。まあ、大概の人は予想できてると思いますが、アレの影響です。今後どうなるかは、秘密です!
ちょっとおまけ
もしリナがミルガズィアを連れて来たら
リナ「この人…てか竜がミルガズィアさんよ」
イリヤ「ええっ!? わたしが見たのは、もっと若かったよ!?」
ミルガズィア「……この姿は人化の術によるもの。術をアレンジすれば、若い姿もとれるとは思うが」
イリヤ「声も渋い!!」
……アニメ版のミルガズィアの違和感が半端なかったことを思いだしたもので。
次回「ユア・ホーム・タウン」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!