それは宇宙の彼方から降り注ぐ奇跡の欠片【コスモピース】を掛けて行われる競技である。
手にしたものの願いをかなえるというその輝きを手にするべく、今日も全宇宙から集まった強者どもが激しい戦いを繰り広げている。
ある者は自分の故郷を救うため。
ある者は自分の兄を探すため。
ある者は自分の存在する理由を見つけるため。
それぞれの思いを胸に今日もリーガーはリーグへと赴く。
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「さあ!いよいよクライマックスになってまいりました!」
リーグも終盤に差し掛かり、最後のタワーが展開されると同時に興奮した実況の声が響いてくる。
ここまでの両チームの成績はほぼ互角。
かろうじてリッカのチームが優勢を保っているが、リッカの背後にある最後のタワーを落とされてしまえば敗北は決定的なものになるだろう。
「……」
なんとしてもこのタワーは守らなくては。
リッカは刻一刻と近づいてくるレーダーに映る敵のアイコンを見ながら、会敵の時を待っていた。
自然と両腕のガトリングガンを握る手にも力が入る。
――見えた。
遠く、うっすらと上がる土煙。
だがそれはみるみると大きさを増していき、数秒と経たないうちに土煙の根元に赤いロイドの姿が確認できるようになる。
「防衛ラインを突破したマシンドレット選手!そのまま一気にタワーを目指します!」
障害物のほとんどないこのフィールドではリッカの姿ももうすでに相手も捉えているはずである。
相手も他に味方はいない。このまま真っ向からリッカに一対一の勝負を挑み、リッカを撃破したのちにタワーを攻めようという魂胆なのだろう。
その打撃力で戦線を突破することを得意とするいかにもパンツァークラスらしい戦術だった。
「そうはさせるかよっ!」
「おーっと!ここでタワーの前に立ちはだかるのはリッカ選手!自慢の弾幕で進撃を防ぎきることが出来るか!?」
「先手必勝だぜっ!」
リッカはマシンドレットが有効射程に入ったのを確認すると、背中に装備されたリモートガンを一気に発射する。
光り輝くエネルギーの弾頭が目標である赤いロイドめがけて吸い込まれるように飛んでいく。
ドガッドガッドガッ!
命中と同時に激しく大爆発を起こし、爆煙がもうもうと立ち上る。
「やったか!?」
射線は完璧。間違いなく命中したはずだ。
だが、それでも敵が倒れたことを確認するまでは安心できない。
「リッカ選手の容赦ない攻撃!さすがにこれはひとたまりもないか!?」
爆発の後の沈黙に実況の声だけが響く。
だが、着弾の爆煙を切り裂いて赤いロイドはそのままこちらに向かってくる。
「あーっと!マシンドレット選手はダメージを受けたもののいまだ健在!リッカ選手、やはりフラグを立てたのがいけなかったか!」
確かに装甲の一部に被弾の跡があるが、マシンドレットの猛然とした進撃スピードが致命傷ではないことを物語っていた。
あえて正面から攻撃を受けることで被害を最小限に留めたのだ。
リッカも第一撃で撃破できる相手ではないと分かっている。
「チッ、そうこなくっちゃね!」
軽く舌打ちをしつつも、素早く武器を両腕のガトリングガンに切り替え、もうすぐそこまで迫っているマシンドレットへと銃口を向ける。
「いくぜっ!」
ウィィィ!とモーターの音を響かせてリッカ御自慢の両腕に装備されたガトリングガンの砲身が回転を始める。
「うりゃうりゃうりゃ!」
ガガガガガガッ!
一瞬の間をおいて砲口から弾丸が濁流のように迸り、一直線に突っ込んでくるマシンドレットに殺到する。
「このままハチの巣にしてやるぜっ!」
「くっ!」
さすがのマシンドレットも怒涛のように押し寄せる弾丸を無視することは難しいらしく、一気に進撃のスピードが下がる。
「このまま決めてやるっ!」
今がチャンスとリッカはありったけの弾丸を容赦なくマシンドレットへと浴びせかける。
絶え間ない銃弾の雨に流石のマシンドレットもついには進撃の足が止まり、その場で銃弾に耐えるだけになる。
一発の威力は少ないとはいえ尋常ではない数の銃弾に襲われ、少しづつだが確実にダメージが蓄積していく。
「降参するなら今のうちだぜ!」
勝利への道を垣間見たリッカがマシンドレットに挑発するように叫ぶ。
「ふんっ、そんな豆鉄砲痛くも痒くもないわ!」
<<アンチシェルダッシュ>>!!
「なにっ!?」
リッカは自分の目を疑った。
視界を埋め尽くすほどの弾丸を押しのけてマシンドレットがこちらへと迫ってくるのだ。
よく目を凝らせばマシンドレットの周りには薄い光のようなものが出現し、殺到した銃弾が装甲に届く前にことごとく弾かれている。
アンチシェルダッシュ。
それはパンツァークラスが使用する特殊能力の一つで周囲に射撃攻撃を無効化する障壁を張りつつ前進するというものである。
「チッ!」
リッカはそれでもガトリングガンを斉射し続ける。
アンチシェルダッシュの効果も永遠ではない。もって数秒というところのはずだ。
効果さえ切れてしまえば銃弾を防ぐことはできなくなる。そうなればいくら装甲の厚いマシンドレットといえどこれだけの近距離で銃弾の雨をまともに喰らえばタダでは済まないはずだ。
「うらああああああ!!」
リッカは咆哮しありったけの弾丸をぶち込んでいく。
ついにはアンチシェルダッシュの効果が切れ、弾丸の奔流が容赦なくマシンドレットの装甲を削り取っていく。
「くっ!!」
だが、それでもマシンドレットの速度は落ちない。
ダメージを顧みることなく前進し、さらには背中のブースターに点火して一気に距離を詰めてくる。
一段と加速したマシンドレットの機影でリッカの視界は一瞬で埋め尽くされる。
「うりやぁああああああ!!」
「くらえっ!我が鉄拳っ!!」
「ふぅ、さてと…」
リッカはリーグを終えてメインロビーに戻ってくると、とりあえず適当なベンチに腰を下ろした。
懐から携帯端末を取り出し、先ほどのリーグの結果をチェック。
「うーん…」
思わず苦い声が漏れる。
激しい連戦の後で体が鉛のように重いというのもあるが、それよりも戦績が悪かったことが大きい。
地道に敵に攻撃を加えて序盤はそこそこの順位にいたものの、やはり最後にマシンドレットに撃破されたことがマイナスとなり、順位も一気に転落。
結局そのままタワーも破壊されてしまい、味方チームも敗北するという散々な結果だった。
「はぁー」
リッカはため息をつき、メインロビーの巨大なガラスドームを見上げる。
もうリーグも終わり夕暮れの設定となったメインロビーの空には無数の星々が煌めいていた。
この輝く星の一つにリッカの故郷がある。
「みんなどうしてるかなぁ…」
思い出すのは故郷の友達や家族の顔。
かつてはこのコスモリーグでも名を馳せたという父。
あまりコスモリーグのことは話してくれなかったが、それでもわずかに聞いた話にリッカは夢中になった。
この広い宇宙の各地から強者たちが集う場所。
そこでは最強という栄誉を求めて、一攫千金のファイトマネーを得るため、参加するそれぞれの思いを胸に日々激しい戦いが繰り広げられるという。
いつかは自分もリーグに参加するんだと心に決めたリッカは必死に鍛錬を重ね、勢い勇んでこのコスモリーグの世界に飛び込んだのだった。
それからはあっという間に時間が過ぎ、破竹の勢いでルーキーリーグを突破した。
だが、さすがは全宇宙から強者たちが集まるコスモリーグ。
プライムリーグへと進むと参加するリーガーの実力もルーキーリーグとは段違いだった。
なんとかここまでは勝ち進んできたものの、最近は成績が伸び悩んでリーグでも上位に入ることが難しくなっていたのだった。
リッカ自身、実力が無いと感じているわけではない。
両腕に装備された自慢のガトリングガンの性能とそれを操る自分の技術には絶対的な自信があった。
だが、このコスモリーグは基本的に複数VS複数の形で試合が行われる。
そして参加するロイドごとにクラスというものに分けられる。
バスターのクラスに属しているリッカでは中~遠距離での射撃戦で威力を発揮するが、アサルトやパンツァーとった近距離での戦闘が得意なロイドに接近戦に持ち込まれるとどうにも分が悪いのだ。
「と、いうわけで…」
悩んでいても始まらないし、そんなのは自分らしくない。
リッカはそう自分に言い聞かせて、改めてメインロビーを見渡す。
今日もロビーは賑わっていて参加待ちのリーガー達が談笑したり技のキレを確かめたりとおのおの寛いでいる。
一人で勝てないなら、二人。要は簡単な話なのだ。
このコスモリーグではチーム制を採用していて事前に登録することでチームとして同じ試合に出ることが出来る。
複数人のチームで参戦し、あらかじめ戦術を考えておけば一人で参加するよりもより多くの状況に対応することが可能だ。さらにチームとしての結果も成績として残るため個人で参加するよりもメリットが大きい。
「適当に暇そうで強そうなのはいないかな~」
未だ見ぬ背中を預けられる相手を夢見ながらリッカはメインロビーの回廊を進んでいく。
狙いめは接近戦に強いパンツァ-。
先ほどのリーグでは敗因を作った憎い相手だが、それが味方になるとなれば話は別だ。
リッカが援護して道を作ってやれば敵への接近も簡単になるし、パンツァーの弱点である上空からの攻撃も自慢のツインガトリングの弾幕で近寄らせたりしない。
リッカが援護すればパンツァーは安心して進撃できるし、リッカとしては接近戦になれば守ってもらえる。
まさに理想の組み合わせだとリッカは信じて疑わなかった。
「おっ、あれは…」
回廊をしばらく行くと早速リーガーであろうロボの集団を見つける。
「やっほー!」
考える前にまずは行動。
リッカのモットーに則り、早速声を掛ける。
「ん、君は前回のリーグの…」
リッカの声に振り向いたそのロボは見るからに重厚で頑丈な装甲を身に纏っており、特にその巨大な両腕に思わず目を引かれる。もちろん、その姿にたがわずクラスはパンツァーである。
彼の名はマシンドレット。今のリッカにとっては聞くに苦い名前だ。
最近はたまに上位に食い込む活躍を見せるリーガーで、巨大な左右のアームから繰り出される一撃は非常に強力であり、多くのリーガーから恐れられていた。
「そうそう!あはは、昨日のリーグでは世話になったね」
「うむ。我が拳に臆することなく挑んだ勇気。見事だったな」
「いやぁ、それほどでもないよ~」
「で、如何用だ。まさか先ほどの挨拶をしに来ただけではあるまい?」
「話が早くて助かるよ。アタシ、チームメイト探してるんだよね~」
「ほう」
「よかったらあんたのところのチームに入れてくれない?」
厳つい外見のマシンドレットにもリッカは臆することなく軽い感じで語り掛ける。
大型ロイドであるマシンドレットの頭部はリッカの身長のかなり上にある。
その頭部にあるメインカメラが光を増し、量るようにリッカのつま先から頭の先までをじっくりと眺めたかと思うと、チームメイトであろう周りにいるパンツァーのロボと視線を交わす。
「HAHAHA、冗談はよしてくれ」
と、嘲笑交じりの声をあげ、それと同時に左右の巨大なアームを呆れたと言わんばかりに大きく広げてみせる。
「そもそもなんだその武器は? そんな豆鉄砲でチマチマやってられるわけがないだろう、熱い魂のこもった己の拳こそ最強なのだ!」
文字通り上から見下したマシンドレットの発言にカチンと来たものの、リッカはぐっとこらえてさらに話しかける。
「でもさ、でもさ、たとえばエアリアルとかフォートレスの奴らにはそのご自慢の鉄拳も届かないだろ?」
「まあ、そうなのだが…」
マシンドレット自身、苦い経験があるのだろう。あれだけ見下していたリッカの言葉にも意外に素直に応じる。
「だ・か・らさ、私が守ってやろうっていうんじゃない。アタシ自慢のコイツならあんな奴ら寄せ付けやしないよ?」
その反応にこれはいけると踏んだリッカは自慢のガトリングを掲げてみせてマシンドレットにそう畳み掛ける。
マシンドレットはしげしげとそのガトリングガンを眺めるが、やがて興味を失ったように視線を外して溜息を吐く。
「…こんな豆鉄砲ではダメだな。コイツからはこの胸を打つ熱さというものが感じられない」
「なんだってぇ!?」
ここまで必死に耐えてきたリッカだったが、自慢のガトリングガンをバカにされては黙ってはいられなかった。
「そんなんだからいつまでたってもプライム番長なんだよ!知ってる?あんたらシャインスターズのクリムに影で『あの人達、動きが単純なんでいいカモです☆』って言われてんだよ?」
「…ふん!う、うるさいっ!卑怯者のバスターの手など借りずともこの拳で勝利を掴み取ってみせるわ!」
あとは売り言葉に買い言葉。
「うっせー脳筋!おまえらなんかこっちからお断りだよっ、べーっ!」
ついにはお互い罵詈雑言を浴びせあい、結局喧嘩別れとなってしまうのだった。
「これだからパンツァーは嫌いなんだよ…」
と、一人ごちながらリッカはロビーをあてどなく歩き回る。
参加するリーガーの多くはロボで、リッカのようなヒュムは全体としては珍しい。
それにリーグの試合以外でヒュムと交流がないリッカにとってはそろそろ同じヒュムの知り合いがほしいところだった。
元来フランクな性格のリッカはこのコスモリーグでもすぐに打ち解け、ロボの知人や友人はすぐにできた。
ただ、ロボの集まりの中で一人だけのヒュムとなると意図せず浮いてしまう状況があるのも事実だった。
リッカ自身はそれも仕方ないと理解していたし、ロボとの付き合いに不満があるわけではない。
それでも、もし自分と同じヒュムの知人や友人がいればいろいろと情報交換できるかもしれないのに、と感じることは少なくなかった。
「おっ、丁度いいところに」
などと考えごとをしていた顔を上げると、中央から外れた広場の隅のほうにポツンと座るヒュムの姿が目に入る。
どこから迷い込んだのか、小さい蝶の昆虫型ロイドがひらひらと飛んで行くのをぼーっと眺めているようだった。
なによりもその少女の両腕がリッカの目を引いた。
少女自体はリッカとさほど変わらない位の背格好だが、その身につけている装備が尋常ではなかったのだ。
特に両腕に装備された武器はまさに巨大な鉤爪のそれで、迫力ならば先ほどのマシンドレットにも負けていない。
公開ステータスを確認までもなく間違いなくパンツァークラスだろう。
「フフ~ン。よっし、早速!」
はやる期待に胸躍らせながらリッカは小走りに駆け寄っていく。
「ねー、今ヒマ?」
「……」
「あたし、リッカって言うんだけどさー」
「……」
「ねぇ、一緒にチーム組まない?」
「……」
リッカが一方的に語り掛けるが、それでもその少女はきょとんとこちらを眺め続けているだけだった。
「…ねぇ、なんか答えてよ~」
痺れを切らしたリッカが半ば泣き顔で降参するが、少女は相変わらず珍しいものを見たという感じてこちらに視線を向けている。
リッカをじっと見つめているということは無視をしているということではないだろう。
どちらかというとどう対処していいかわからず、とりあえず観察しているという感じだ。
「…ん?」
ふとその顔がリッカの記憶の断片と重なる。リーグのダイジェストで何度か見たことあったのだ。
名前は忘れてしまったが、最近になって突然ふらりと現れたリーガーで破竹の勢いでルーキーを突破したと話題になっていたのだ。
興味を持ったリーガー達が我先にとチームに誘ったがすべて断ったという噂である。
それに出身地や経歴など細かいデータがほとんど謎に包まれており、その強さと相まって最近では気味悪がって誰も近づこうとはしていないらしい。
ちょっとヤバイ子に声をかけてしまったかと、リッカの頭を不安がよぎるが今は選り好みをしている余裕はないし、もう声を掛けてしまった以上こちらから引き下がるのも躊躇われた。
「……」
「それか、もうどっかのチームに入ってるとか?」
「…ちがう」
ようよやく少女が口を開く。
その声は小さいながらもはっきりとしていて、少女の芯の強さが伺える。
「じゃあ、OKね」
リッカは少女の返答を待たずにそう言っていた。
確かにリッカとしてはイザとなれば強引にチームに誘おうと考えていたが、そこまで真剣にというわけではなく冗談半分といった感じった。
なにより「この子とチームを組んでみたい」と自然に思ってつい口に出てしまったというほうが正しいだろう。
「そうは言ってない」
もちろん、リッカの強引さに少女も必死に反論する。
リッカの予想通りのその少女の反応が面白くて、ついついからかいたくなってしまう。
「いーから、いーから。一回だけ、ね?」
リッカは少女の目の前で手を合わせて、拝みこむように懇願する。
出会ってわずか数分の相手のはずなのだが、リッカはすっかりこの少女のことが気に入っていた。
勝手に『孤高の戦士』というようなイメージを持っていたが、今話してみた限りではそんな気は全くしない。
良くない噂の類はきっとこの無口なことが原因なのだろう。
もう少し話を聞いてみたい。チームのことよりもただ単純にリッカはそう思っていた。
「………」
が、その少女といえばより真剣味の増した視線を向けたまま、じっとリッカを見つめた後で
「…わかった」
と答えた。
「本当!?ありがとー!あんた無口だけど良い奴だね!」
また断られるんじゃないかと心の底で思っていたリッカはその返答に嬉しくなり、思わすその少女に抱きついていた。
「い、痛い…」
「じゃぁ、さっそく登録行こ、登録!」
そうと決れば話は早い。
まだリーグの事務所は空いている時間だ。善は急げと言わんばかりにリッカは少女の手を取って歩き出す。
「っ、引っ張らないで…!」
ぐいぐいと手を引っ張るリッカに少女が抵抗の声を上げるが、リッカは全く耳を貸さずロビーを突き進んでいく。
「そういや、アンタ名前は?」
途中で思い出したようにリッカが振り向いて少女に問いかけた。
「…シルヴァ」
すっかり抵抗を諦めて大人しく手を引かれながら歩く少女はぽつりとそう答える。
「あたしはリッカっていうんだ。ヨロシクなっ!」
「ンフフ~♪」
いつか溜息をつきながらリーグの結果を眺めていたベンチで、リッカは鼻歌混じりに自分たちのチームのランクを確認していた。
シルヴァとチームを組んでからというもの、今までの不振が嘘のようにぐんぐんと成績が上がっている。
リーグでも上位に付けることが多くなり、調子のよい時は1位を取ることが出来るほどである。
それもこれもシルヴァのおかげだ。
「いやぁ、シルヴァ。あんたと出会えて良かったよ」
シルヴァはパンツァークラスとしてはバランスのとれた戦闘能力を持っていた。
どこかの誰かのように近接武器のみということはなく、牽制やある程度対空にも使えるリモート式のガトリングガンを装備しており、さらに基本的な移動速度もそこまで遅くはない。
つまりは地形や対戦する相手に合わせて臨機応変に行動をとることが可能なのだ。
もちろん近接戦闘能力は非常に高く、繰り出されるアームファングの連撃は相手に大ダメージを与えることが出来る。
「わたしもリッカが指示してくれるから戦いやすい」
シルヴァの戦術に関しては少し問題があったが、それもリッカが状況を見ながら指示をすることでかなり改善することが出来た。
リーグというのは最終的にポイントによって勝敗が決する。
確かに単純に多くの敵を倒せばより多くのポイントを獲得することが出来る。
しかし時にはクラスの相性や戦況などによっては戦闘を避けポイントを相手に奪われないことも重要なのである。
特にパンツァークラスでは比較的装甲が薄いシルヴァは敵に囲まれると撃破されやすい。また、ブースト残量の管理もできていなかったため敵陣のただ中で動けなくなるということも多々あって、それがポイントを伸ばす妨げとなっていた。
シルヴァの戦闘スタイルはまさに本能の赴くままといった感じだったのだ。
ざっと周りを見渡し、敵を見つけると一目散に飛びかかっていく。
リッカにはシルヴァがリーグで勝ち進むより、ただ単純に戦いを求めているように見えてならなかった。
「そいやさ、アンタなんでリーグに参加してるの?」
リッカはふと頭に浮かんだ疑問をそのまま聞いてみる。
今日はバッタと追いかけっこをしていたシルヴァがリッカの声に反応してきょとんと顔を向ける。
「…わからない」
しばしの沈黙の後でシルヴァはそう答えた。
「わからないって、ねぇ…」
リッカは軽く溜息をつき、改めて頼れる相棒をまじまじと眺めてみる。
まさか、過去を聞かれたくないとか?
そう勘ぐってみたものの、シルヴァが器用に嘘がつけるとも思えなかった。
「わたし、昔のこと何も覚えてない」
「…!」
あれこれ考えていたリッカの耳にシルヴァの声が響く。
はっとして顔を上げるとシルヴァはロビーのドームを見上げていた。
ただ、それはいつかリッカがしたように故郷を懐かしむのではなく、広すぎる星空の中に自分の居場所を探して途方に暮れているような気がした。
「…わたし、気が付いたらひとりでここにいた」
リッカが今まで一緒に過ごしてきた中ではそんなことを感じさせる素振りはなかった。
ただ、思い返せば時にシルヴァはこうして遠くを見つめて寂しそうな表情を浮かべることがあるのだ。
「そっか」
リッカは相棒として気にはなったが、それ以上聞くこともしなかった。
「…もう聞かないの?」
シルヴァはしばらくリッカの次の言葉を待ってたようだったが、本当にそのまま何も聞かないリッカに困ったような表情でシルヴァが聞いてくる。
「他のロボとかには聞かれた。どこから来た?とか、何を目指している?とか…」
「それで?」
「わからないって答えたら、みんなどっか行った」
やはりこれだけの実力を持ったシルヴァなのだ。今までにもチームに誘われたことがあったのだろう。
そしてチームの一員になる以上、その人物がどういったものなのか確認しておく必要がある。
だが、その回答のほとんどが「わからない」では信用を得ることは難しいだろう。
「…そっか」
そのシルヴァの寂しそうな横顔を見ればそれ以上聞くことも出来なかったし、リッカにはそうする必要もなかった。
「そりゃ、あたしだって気になるよ。でも知らないんじゃ聞いても仕方ないじゃん?」
いつのまにかこちらに向き直っていたシルヴァの瞳が縋るような視線を向けてくる。
「それに、昔のことを思い出そうとするときシルヴァなんか悲しそうな顔をするからさ」
リッカにはその表情が辛く、視線を足元へと逃がす。
「……」
ふと沈黙が訪れる。
最後のリーグも終わり、多くのリーガーたちが宿舎へと戻ったロビーは日中の賑わいが嘘のようにしんと静まり返えっていた。
今度はリッカからシルヴァの視線をまっすぐと捉え、銃のトリガーを引き絞るように心を決める。
「あたしは気にしないよ。たとえシルヴァがどこから来て、何をしていても」
一度口火を切れば後は簡単だった。
リッカの自慢のガトリングガンのように思いが口を突いて次々と放たれていく。
「シルヴァはシルヴァじゃん。昔の事なんて何も知らなくてもいいよ。これから色々覚えていけばいいんだし」
思えばリッカ自身もリーグに参加すること、よい成績を残すことは心に決めていたが、その先の『手に入れた者の願いを叶える』というコスモピースの使い道については何も考えていなかった。
リッカとしてはリーグで上を目指し親父に誇れるような成績を残すことができればいいし、シルヴァとならばそれも出来るかもしれないと感じていた。
それに、コスモピースならばシルヴァの記憶を取り戻すことが出来るかも知れない。
言いながらそんな考えがリッカの頭をよぎる。
「…リッカ、優しい」
「べ、別に優しいってほどじゃないって!このくらい、普通だよ、フツー!」
シルヴァのその返答に、リッカはつい熱いセリフを言っていたことに気づいてあわてて取り繕う。
「チームメイトだし、ほら、友達だろ」
「…友達?」
「そうそう。トモダチな」
「…友達」
シルヴァはその言葉をもう一度つぶやく。
まるで噛みしめるように、胸の中で大切に育むように。
「…ありがとう」
そしてシルヴァはそう言って微笑んだ。
リームを組んでもうしばらく経つが、もしかしたらシルヴァの笑顔を見たのは初めてかもしれない。
「お、おう!」
なんだか胸の奥にくすぐったいような感覚が生まれ、それを隠すようにリッカもニッと笑うのだった。
「さーて、今日はっと…」
いつものベンチでリッカは参加予定のリーグを確認する。
今日も強者揃いの過酷なリーグになりそうだが、自然ときっと何とかなるという自信が湧いてくる。
なぜなら…と、傍らの頼れる相棒に視線をやる。
そこにはすりすりと頬を寄せてくるシルヴァの頭があるのだった。
「…ん?」
リッカの視線に気づいたシルヴァが顔を傾げる。
戦闘中の険しい顔など微塵もない緩みきった顔だが、それがなんとも愛くるしい。
「はは、なんでもないよ。今日もヨロシクな」
「まかせて。リッカはわたしが守る」
この広い宇宙の中で初めて故郷以外で出来た友人。
友人…というには少し距離が近すぎるような気がするが、この広い宇宙ではこれが普通なのかもしれない。
「…ま、いっか」
そう言って頭を撫でてやるとシルヴァは嬉しそうにほほ笑むのだった。
まだ次のリーグにはしばらく時間がある。
たまにはこうしてのんびり過ごすのも悪くないだろう。
「リッカ…すき」