不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。   作:アサルトゲーマー

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魔のゲームに手を出したため更新が滞りました。本当に申し訳ない。
今回は後日談ということで、光堕ちエスポワール回。
前後編の連続投稿です。




・エスポワール
本作の主人公。過去に色々やらかした。今は無害。

・アーノ
とある理由で森に迷い込んだ女性。

・コサーディ
アーノの手を引く男性。



後日談 これからの話、前。

 生態系はトランプタワーとよく似ている。

 まず土台となる机が生態系の範囲。タワー一段目が植物。二段目が草食獣。三段目が肉食獣だ。土台のトランプが多ければ多いほど二段目の余裕が増え、余裕の分二段目が増えれば三段目が増える。

 

 しかし日照時間の不足や自然災害で植物が育ち切らず、一段目のトランプが減ってしまえばどうなるだろうか?答えを知りたければ一段目のトランプから適当に何枚か抜いてみると良い。

 逆に日照時間が多く、台風などの自然災害に全く出くわさずに大豊作となった場合はどうなるだろうか。そうなると一段目が大幅に増え、二段目と三段目も大いに増える余地ができる。しかし次の年も大豊作とはいかないだろう。植物が例年並み、例えば大豊作の年と30パーセントほどの差があったとしよう。大きくなったトランプタワーの一番下から30パーセントもトランプを抜けば、ほぼ確実に全部崩れるハズだ。おまけに机からこぼれた肉食獣のトランプは家畜や人間を狙うだろう。

 

 崩れたタワーを元に戻すのは容易なことではない。ならばあらかじめ二段目と三段目のトランプを減らしておけば無用なリスクを減らすことができる。

 

「一匹やったわ」

 

 ピュウという風切り音が鳴り、狼の断末魔が聞こえた。俺たちがやっているのは生態系を維持するための間引きという訳だ。

 

 今日はニフと共にホワイトエルフ村から離れ、二人で間引きを行っていた。流石に爆発魔法では音が響きすぎるので、今回は予備人員以上の働きは無い。

 しかしやはりというかエルフには弓がよく似合うな!弓とフードと民族衣装はエルフの専売特許みたいなもんだ。意外と言っちゃうと失礼かもしれないけど、ニフは狩りと隠密行動に長けているし。

 

「何よ」

 

 ジロジロ見すぎたのか睨まれた。ニフの態度は結構経ったにもかかわらず、あまり改善していない。……といっても改善していないのは態度だけで、狩りに同行しても文句を言ってこない程度には信頼されているのはむずかゆくも嬉しいものだ。

 俺は「何でもないですよ」と返事をしてから先ほどの狼のところまで駆けていく。ニフはそう、と短く返事をしてから弓を構えて監視に戻った。

 狼の元に到着した俺は傷の様子と狼の状態を診た。矢は脇腹から心臓を一撃、間違いなく即死だ。毛皮に触れてみるとガサガサとした感触がある。色もくすんでいるし、よほどの老齢でなければ慢性的な食糧不足特有の状態だ。去年一昨年と二年続いた豊作のせいで狼が増えすぎ、ここにきて不作が当たったせいで草食獣が減り碌に食べるものも無いらしい。

 飢えたる狼は棒を恐れず、だったかな?つまり狼は今現在、食える相手ならば遮二無二襲い掛かる状態と見ていいだろう。

 

「キャーーーッ!」

 

 とても危険な状態だ。これは帰ったらパリラにしっかり報告しておかないと、と思った所で何者かの悲鳴が聞こえた。

 今の声はニフではない女性の声。ホワイトエルフ村からは俺たち以外に誰も狩りには出ていないから確実に異邦人だ。

 

 何者かは知らないが、とりあえずは助けるか。そう思いながら俺は森の中を駆け始めた。

 

 

 

■■■

 

 

 

 コサーディという人間の男がいた。彼は町の人間からは変わり者ともっぱらの評判で、外れの森近くのボロ家を借りて狩りをしながら過ごしていた。

 変わり者という評判のせいか、それとも彼の考え方のせいかは分からないが彼は成人してから10年以上は一人で過ごし、町の人間とも極力関わらないようにしていた。

 

 彼が変わり者だと言われているのには当然理由がある。それは度を越した好奇心にあった。

 1+1の答えが2なのは何故なのか?大きな1じゃないのか?

 空が青いのはどうしてだ?夕方になると赤くなるのはどういうことだ?

 これに答えられた大人は居なかった。最初は微笑ましく思っていた大人たちも、何度も質問されればウンザリする。次々と飛び出してくる質問に嫌気がさした町の人間はコサーディに変わり者の烙印を押しあて、コミュニティの外に追いやったのだ。

 

 そんな彼であるが、毎日を悲観しながら過ごしているわけではない。彼にはこれ以上無いといえる無二のパートナーがいたのだ。

 

 アーノというゴールドエルフの女性。コサーディが狩りをしているとき、偶然彼女が倒れているのを見つけたのが関係の始まりだ。

 彼女は死の二歩手前といえる程度に酷く衰弱していた。そんなアーノをコサーディは手厚く看護した。意識が戻った後も朦朧としている彼女に柔らかく煮た肉のスープを飲ませ、体を洗い、休ませた。その甲斐あって、7日後にははっきりと受けごたえができる程度に彼女は回復した。

 

 エルフは人間から嫌われている種族。アーノはコサーディになぜ助けたのかと質問をした。

 そして返ってきた答えはこうだ。

 

「どうしてエルフを助けちゃいけないんだ?」

 

 それとエルフって呪われてるってのはマジ?なんで耳長いの?その長い髪邪魔じゃない?等々……。邪気の無い質問の連打でアーノはポカンとした後、面白くなって笑ってしまった。

 そして彼女は彼の元に残る事にした。彼は変わり者な分退屈しないし、異性としても惹かれ始めていたのだ。

 本来エルフの恋愛感情は淡泊だ。それなのに誰か一人の、それも人間に惚れるなどという出来事はありえない。そう、彼女も十分に変わり者だったのだ。

 

 変わり者同士の生活は穏やかながらも楽しいものだった。気の長いエルフでも特に気長なアーノはコサーディの疑問に一緒に取り組み、好奇心の塊であるコサーディは人間とエルフの違いを真剣に調べたりと退屈する暇がない。

 

 しかし終わりは突然訪れる。今年の不作のせいで商人がコサーディの家まで直接獲物を買い取りに来たのだ。そのせいでエルフと同居していたのが発覚し、町の人間からエルフと手を切るか、町から立ち去るかと選択を迫られた。

 

 コサーディが選んだのは町から出ることだった。

 

 アーノとの旅は苦しい物だった。泣きながら謝る彼女をあやし、時には雨に打たれ、水の不足に喘ぎ…。一ヵ月あまりに数々の災難に見舞われながら、しかし二人はそのことごとくを乗り越え、強い絆を結ぶに至った。

 そして災難は再び彼と彼女を引き裂こうと大きな口を開けている。

 

「こいつを食らえ!」

 

 その大きく開かれた狼の口にコサーディが矢を放つ。ギャウ、と小さく悲鳴を漏らした狼がばたりと倒れて動かなくなったのを確認し、アーノの手を引いて再び逃げ出した。

 

「コサーディ!また来てる!」

「黄色い袋を投げて!」

「う…うん!」

 

 手を引かれていたアーノが鞄から黄色い袋を引っ張り出し、背後に向かって投げる。地面を転がるそれからは香辛料の粉が噴き出した。

 後ろから追ってきていた狼は目と鼻をやられてのたうち回る。やった、と安心した瞬間、アーノの真横から狼が飛び出した。

 

「キャーーーッ!」

「アーノ!」

 

 思わず、といった具合で弓を振り回したコサーディ。それは運よく狼に当たったが、矢が半ばほどから折れてしまった。

 

「くっ!しまった…」

「はっ…はっ…あ、ありがとう」

「礼は後!とにかく逃げよう!」

 

 再びコサーディはアーノの手を握り、森の中を駆けだす。彼らは今、絶体絶命の窮地に立たされていた。

 

 

 

■■■

 

 

 

「そこの二人!こっちへ逃げて!」

 

 なんか助けに行ったら訳アリそうな二人組が狼に追われていたの巻。

 男は狩人でありがちな皮の服に皮の腕抜きに皮のブーツ。まあ頑丈さとしなやかさを兼ね備えた全身皮装備だ。一方女は全体的に綿を主体にした服を着て、フードですっぽり頭を隠している。しかしそのフードからこぼれる長い金髪や鮮やかな色の双眸は明らかにゴールドエルフの特徴。

 

 つまり……愛の逃避行だな!

 人の恋路を邪魔する奴の末路はもう決まったも同然。そんなわけで俺は杖を大きく振りかぶった。

 

 


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