この空の向こうを見つめて   作:蕎麦饂飩

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朝と呼ぶには昏く、夜と呼ぶには寒くないから

高校生活が始まってから一ヶ月が経った頃、僕はその日の天体観測の場所を学校の屋上と定めた。

そこに大した理由は無い。敢えて理由があるとすれば高い事と人がいない事くらいだ。

特に後者は僕にとって大きな意味を持つ条件だった。何故なら騒がしいのは好きでは無いからだ。

 

屋上へと昇る階段を進むと塞ぐ扉を拓く合鍵はこっそりと作ってある。

バレなきゃ犯罪では無い。これも実に主観的で良い言葉だと思う。

果たして誰にも観測されない場合にも神仏が見ているというような絶対的な正義や悪があるのだろうか?

僕はそうは思わない。目撃者や証拠から推察する警察や探偵が犯人に罪を追及して初めて不実体な罪に実体が宿るのだと思う。

それが自己弁護の為の戯言に過ぎないのは解っているけど。

 

空には僅か程度に見える雲と、瞬く星。

宿題は既に終わらせたし、予習も問題ない。気兼ねなく決めた時間まで星を観測する事にしよう。

暫くレンズ越しに空の向こう側を眺めた後、僕は寝転がって上を向いた。

望遠鏡より遥かに制度の劣る人間の肉眼。でも、それにはそれで良いものもある。

望遠鏡と違って、広い範囲を眺められる生身の目。

その視界は先程望遠鏡の中では爛々と輝いていた星の主張にすら饗応せず多くの星々の一つに変える。

自分が先程見ていた星が、望遠鏡を持たない者には、消え去っても、隣に新しい星が増えても気が付かないという事実を再確認させてくれる。

自分が見つけた新発見を、他の人も気が付いていたらという不安を解消してくれるのだ。

僕は夜空を愛するが故に、夜空の平穏もまた、護ってあげたいという若干傲慢な願いを持っているのだ。

 

「あら意外ね、もっとまじめだと思っていたけれど」

 

僕だけがこの場所で夜空の風景を眺めている。

言い換えればこの空間の独占者になって悦に浸っていたのに、それを叩き起こす様に現実に引き戻す声を僕にかけてきたのは、

クラス内で素敵だなと思う女子暫定一位、朝倉涼子だった。

 

「君もだよ。まさか夜の9時に屋上の見廻りをする事までが委員長のお仕事に含まれてる訳じゃないんだろう?」

 

視線を向ける事無く、わざとらしさが敢えて伝わる様に返答した。

彼女がそれを受けてどういった表情をしたのかは判らないし、それ程興味も無い。

 

「ええ。だからこれは委員長とは関係の無い朝倉涼子としての行動よ」

 

そうか。それならそれで良い。

でも、僕にとって大切な事はそういう事じゃない。

 

「で、結局見逃してくれるのか、それともそうもいかないのかな?」

 

「どうしようかしら?」

 

そう返す彼女の声には心なしか余裕を感じた。

そして足音で僕の近くに歩いてくるのが判った。

 

そして、僕の横に同じような姿勢で寝ころんだ。

 

「綺麗ね」

 

声の方向からして彼女は今僕の方を向いているのだろう。

きっと横を向けば彼女の顔がある筈だ。正直気恥しい気分だが、同年代の男子高校生よりは平常心を保っていると思う。

 

きっと彼女は今だって余裕気な表情をしているのだと思う。

顔はまだ確認していないが、僕がそう思考している以上、確認をするまではそれが正解だ。

それが主観と言うものだろう。どこか腕の無いビーナス像の逸話と重なる。

 

そして僕はこのシュチュエーションでロマンチックさよりも、どうやら通報を受ける流れではなさそうだという、

男子高校生にはあるまじき思考をしていた。

 

「ねえ」

 

朝倉はその余裕のある声で僕に尋ねた。

その声の方向は今度は上を向いていることを予測させた。

きっと僕と同じような視界を共有しているのだろう。そんな彼女が一体何を言い出すのか少しだけ興味がわいた。

 

「宇宙人はいると思うかしら?」

 

「いないだろうね」

 

まさか、常識人枠の朝倉があの涼宮と同じ質問を僕にするとは思わなかった。正直驚愕した。

だがその質問に僕は即答した。信念を持って思考した事は突如ふられた事でも自信を持って言える。

僕が宇宙人を見た事は無いのだから、宇宙人などいない。お化けと同じだ。

 

 

「理由を聞いても良いかしら?」

 

「宇宙人と遭遇したことは一度も無い、それだけだね」

 

そう答えると、朝倉は堪えきれない様に笑った。

そこまでおかしな回答では無かったつもりだが、朝倉にはそうでは無かったのだろう。

捉え方は人それぞれだ。それが主観と言うものなのだから。

 

 

「じゃあ、もし私が宇宙人だったらどうする?」

 

彼女は笑いを潜めると、先程と同じトーンでそう聞いてきた。

 

 

「宇宙人が見る宇宙の事を沢山聞いて、僕が見る宇宙の事を沢山話して、

そしてそれを二人の秘密にすると思うよ」

 

そんな僕の答えに、朝倉は一瞬だけ呼吸を止めると、また小さく笑った。

 

 

「もし、宇宙人の組織の命令で貴方を殺したり、地球を壊そうとしているとしたらどうするの?」

 

その質問には余裕も笑いも無かったが、僕にはそれはシュールなジョークに聞こえた。

 

 

「そうだね、僕はそれを知れたことに満足するかな」

 

 

「…やはり貴方って面白いわ」

 

彼女は先程より雑味のある笑いを伴ってそう言った。




キチガイ×キチガイ
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