初日は様子見のためか大人しい奴であったが、二日目彼は不登校の女子をイジメていた数人の生徒の机の上に酷いイタズラをした。それを皮切りにその数人に暴力、恐喝、脅し、遣いっパシリなどイジメの仕返しをしていた。しかし、彼は上手にイジメるので誰も口出しできなかった。
徐々に、エスカレートしていくが教師陣もそれに気付かない。隣の席の偽善者な女子はその所業に耐えきれず、先生にその事を告発する。先生が転校生にその事が本当か聞くと彼はあっさりと認め、先生に説教を受けるが彼は逆に先生に説教する。
奥原は退学することになったが別の依頼が入ってきたので丁度良いと学校を去った。
彼が学校を去った翌日に不登校の女子が久し振りの登校嵐が去ったクラスと学校は平穏を取り戻したのだった。
というストーリが思い浮かびましたので、初日の物語だけ投稿してみます。
気が向けば続くかも?
Day.1#01
偽善と言う言葉を知っているだろうか?
辞書に拠ると
ぎ-ぜん【偽善】《名詞》
うわべだけいかにも善人らしく見せかけること。また、うわべだけの善行。(明鏡国語辞典 第二版より)
と言う意味らしい。
偽善者と言う言葉は正しく上記に有るようなことをしている奴の事である。本当に優しい人など居ないと誰しもが一度はそう思ったことがあるだろう。だからこそ、優しい人には裏があるのではないかと疑う。酷い話だ。
本当に心優しい人すらも立ち振舞いが下手な所為で、この言葉の対象になってしまうのだから。そして、周りは巻き込まれるのは御免だと見て見ぬふり。
日本人は世界のうちでは優しい人種に分類されると何処かで聞いたことがある。ならば、イジメが小学生から高校果ては社会人になってもイジメを受け、自殺を謀る人々がいる。この現実はなんだ?
等と言う下らない考えしている私は、正しい意味での偽善者だ。
『情けはヒトのためならず』
これは、情けはヒトのためにはならないよと言う意味ではない。ヒトに情けをかけるのは巡り巡って自分への見返りを欲しているためだと言うのが本来の意味だ。
何処の誰が勘違いしたのか知らないがえらい違いである。だが、この言葉を本来の意味で座右の銘にしている私はやはり偽善者なのだろう。
閑話休題。
さて、この朝のHRで転校生がうちのクラスに転入するそうだ。どんな奴なのか、男か女か、高二の三学期であるこの時期の転入は明らかに異常なため入ってくる前から其処ら中が騒がしい。
先生が一旦、うちのクラスを宥めてから転入生に入ってくる様に声をかける。
ところでだ。偽悪と言う言葉を知っているだろうか?
これまた字引を引いてみると
ぎ-あく【偽悪】《名詞》
わざと悪く見せかけること。偽善をもじって造られた語。(明鏡国語辞典 第二版より)
まあ、この場で初めて聞いたと言う人のが大半だろう。それはそうだ。偽悪することで得などないのだから、使うこともない覚える必要もない。
でも。この転校生はいやと言うほどに、その二字が似合う人物だ。
教室スッスッと歩いて入ってきた。そいつは。黒板に自身の名をさらさらと書いて、書き終えたと同じにこう名乗った。いや、宣戦布告をしたといえば良いのか?
「どうも皆さん、初めまして■■■■(名前を思い出したくない)と申します。このクラスには皆さんをイジメに来ました。短い間ドーゾヨロシク」
妙にイラつく笑顔でそう宣言した。
間を一つ置いて、クラスには笑い声が木霊した。在るやつは変な奴、と笑いながら言い、在るやつは、面白いな君はと言い、また在るやつは、バカじゃねえの?とゲラゲラ。
先生がもう一度宥めるのには時間が掛かるなと思いながら、私もふふふと嗜む程度に笑った。
まさか、誰が思ったろうかダァンと教卓を強く叩いてクラスを静める程に肝が座った転校生が相手だとは。
「なに?そんなに面白かったかい?いやぁ、そんなに笑ってくれて助かった。最初で最後の君らの笑顔が見れた。先生。何処の席行けば良いですか?」
その台詞を笑うものはいなかった。異質でどこか恐ろしい彼の歪んだ笑顔が皆を白けさせたのだろう。
先生は私の隣の空いた席を指定した。誰にでも良い顔している弊害がここで出てしまったようだ。
「短い間ドーゾヨロシクね」
と彼は私に声をかけてきた。当然、偽善的な私は
「ええ、短い間と言わず、宜しく」
この言葉に何度後悔したかは最早分からない。
「上っ面な良い言葉だ。大事にすると良いヨ。あぁ、さっきのやつに君は入ってない安心なさいな」
……何を言っているのだろうかこいつは。と思った私はきっと正しい。でも、前半の言葉は聞き捨て為らなかった。いや間違ってはいないのだが。寧ろ、図星だからこそどういうことだと文句を垂れたい気分になった。
その衝動に任せて口を開こうとしたら、キーンコーンとHR終了のチャイムが鳴った。
結局、言うことはできなかった。
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Day.1#02
普通なら転校生の机の周りに何人かが集まって質問攻めを受けるという様なテンプレートな非日常は起こることはなかった。
当然だろう、自己紹介の時に異様な雰囲気をまとって見せた転校生に話しかけることができる方が異常だ。容姿もいかにもヤンキーや不良みたいな感じがする。
私も最初に交わした軽い挨拶以降言葉を交わすことはなかった。
しかし、あの異常性に見合わず彼は大人しい。先程の啖呵はなんだったのかと思うくらいに静かに授業を受けている。それを隣からこっそり観察しながら、違うと私は感じた。彼はこのクラスを見渡して関係性を測っているのだと。
その姿はさながら獲物を目の前にして様子見をしている狩人――否、極悪犯を監視する看守のような鋭い目つきだ。と言っても実際にそれらを見た訳ではないので私の想像なのだが。
「……うるさいなぁ」
そんなことを考えていると隣から声が掛かる。チャイムはとっくに鳴って今は中休みになっていた。まさか今までの思考を口から垂れ流していたのか……!それは恥ずかしいと急いで確認する。
「え?もしかして、考えてたことそのまま口に出てた?」
「ハァ?何言ってんだ?視線がうるさいんだよ。ちょろちょろ見て来やがって、用があるならはっきり言え!」
ああ、私の観察行動に気付いて鬱陶しくなったのか。まあ、似たようなことをクラス全体にやってる奴に言われたくないが。誤魔化すのも面倒なので正直に口を割る。
「いや……なんていうか。あんなこと言ってた割には大人しいなって思って、興味半分恐れ半分で観察……みたいな?」
「……ふーん。なるほど、まあごもっともな疑問だな。で、何してるように見えた?」
「え?え、えーと。かん……し、かな?」
観察と迷って、より的確であると思った方を口にした。私にはその鋭い眼光をクラス中に当てて全員を見張っているというような気がしたのだ。
なぜ的確と思った方を口にしてしまったのか、おそらく、彼の睨んでいるようなその眼が、私の誤魔化そうという考えを打消させたのだろう。
私はここでも失敗したと思う。
この
彼はその眼を見開いてからハッと楽しそうに鼻でわらってこう続けた。
「なんだ。わかっているのか」
その顔は笑顔だった、ぐにゃりと歪んで如何にも悪魔がしそうな悍ましい笑顔。その笑顔に当てられて、恐怖した私は席を離れる。
気分が悪くなってしまったな、トイレにでも言って化粧直しをしよう。冷や汗できっと薄い化粧が落ちてしまっているだろうから。
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Day.1#03
化粧直しに手洗い場に来たはいいものの、今あの席に戻るのは抵抗がある。
あの転校生はやっぱり異常だ。あの笑顔からは何か混沌としたものが感じられた。
興味本位で観察なんてするんじゃなかったと軽く後悔……いや、多分さっきので目をつけられてしまったから深く後悔。好奇心猫をも殺す、ということわざがあるがさて私はどんな風にいたぶられてしまうのか……。
と、いじめられっ子になった気分で渋々手洗い場から出て、自分の教室まで重い足を引っ張る。
そんな思考をしていたらつい数週間前のことを思い出す。
いじめられっ子、といえば。
そうだ、今不登校の女の子がいたな、私が偽善的に助けてあげたこともあったっけ。まあ、私に被害が及ばない様な範囲でだけど。結局他人より自分が一番大切なんだ。人間はそういう生き物だ。
私が教室に戻ると、何人かの
これでは変に目立ってしまうからやめて欲しい。
「なんか言いなさいよ、女子にあんな下衆な顔向けるとかなに考えてんのって言ってるのよ」
「……はぁ」
それに、転校生は反省の色もないしさらには呆れているようだ。まあ、彼は悪くない。多分衝動的に顔がすごいにやけただけで深い意図は無かったのだろう。その顔が問題だったわけだが。
さて、ここで恩を売っておくか否か。助け船を出しておけば、クラス中の不満の一端を受けることになるだろう。反対に彼女らに乗って転校生くんを悪者にして仕舞えば、彼は転校初日からクラスの除け者となるだろう。
偽善者である私は、当然前者を選んだ。この選択に私は後々しておいて良かったと、否。後悔することになるが、それはまだ先の話である。
「わ、私は大丈夫だから。そこまでにしといてあげなよ」
若干怯えを残した風にそう声をかける。被害者面することで、私の体裁も保たれこれ以上事が大きくなることはないだろう。彼に悪者感が残ってしまうがこの場を納めるのだからそれくらいは我慢してもらいたい。
「……うぅ、あんたがそう言うなら別に良いけど」
その子達は鋭い目線で転校生を一瞥した後、自席に戻っていった。私も席に座って次の時間の準備に取り掛かる。隣の彼は、ここで私の性質を理解したのだろう。
そう小さく呟いたのが、私の耳には届いていた。
「偽善者……ってことね」
なんとなしに、その通りだよ。と心の中で返答した。
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Day.1#4
さて、午前中の授業も終わり、昼休みに入る。在る者は鞄から弁当箱を取りだし、在る者は購買部へ駆けて行き、また極一部の在る者たちは学校から許可なしに飛び出して近くのファーストフード店やレストランへ向かう。
私は、最初に言った派閥に属する。しかし、この場でお昼を取るのは、隣の転校生くんと何かのコンタクトが起こってしまう可能性があるため出来れば避けたい。
席を立って、さっき私のために怒ってくれた
彼が一人寂しく昼食を取るとしてもそれは自業自得だし、私が認知して付き合う程の仲と言うわけでもない。
ただ、少しどんな昼食を取るのか、と気になりチラッと彼の席の方に視線を向けた。
彼が手にするものはおにぎり。
それも市販で売っている様なものより一回り二回り大きなそれをガツガツと頬張っている。
そうして、一つ目を胃袋に納めると巾着袋から同じものを二三取りだしてまた頬張り始める。
あの隣で、昼食を取っていたなら私も間違いなく悪目立ちしていたことだろう。移動しておいて良かったとホッとして自作のお弁当をつつく。
我ながら良い出来だなぁと自画自賛の言葉を心の中で浮かべ、女子たちとのお喋りにも参加する。
詰まらない話や下らない話が大半だが、その感情をポーカーフェイスで隠して、如何にも楽しんでいるようにその昼休みを享受した。
「お前、何なの? 正直キモいから、もう来んなよ」
最後の方に軽い嘲笑を加えて、うちのクラスの汚点である阿呆(本人には言わないが心の中でそう思っている)は転校生くんに話し掛けた。気持ちは分からないでもないが無視しておけば良いものを。
「…………」
彼はそれに対して無言で、まるで話し掛けられて居なかったかのように握り飯をカッ喰らっている。さっきから数えて計二つ目を食べ終えて、水筒を出して中身を自身に注ぎ込む。その行動を終えてから、ようやく言葉を返した。
「心配すんな、どうせ一週間後には俺はここにいない。まあ、それでも嫌と言うなら、その間君が学校フケればイーヨ」
不敵な笑みを浮かべつつ、そして怖気が漂うように、そんな事を言った。良い返しだ。現にあの阿呆は、戸惑っている。
「……ほんと、変な奴。意味わかんねーし、バーカ」
そう言って阿呆は、その場──教室から去っていった。一体何をしたかったのだか。頭の悪い奴の考えることは分からない。
いや、別に私は頭が良いとか冴えているという自負があるわけではないけど。
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Day.1#5
さて、昼休みも終わって、やや眠たくなってくる午後の授業。小さく欠伸をかいて、番書をノートに写す。
退屈な授業だ。
もっとこう、楽しく学べるように工夫を凝らして欲しい。習ってる立場で偉そうに言えた口ではないが本当につまらない。
テストも授業でやってないとこから出てくる等という訳の分からない事をする(最初の授業でそう宣言してきた)教師だから、番書を写した後は自習である。
それをやらないのは、ギャルっ子やら元気よすぎな精神年齢小学生以下の男子ども。いつも、よろしくない点数でよく分からない大笑いをしている。勉強をちゃんとしろ。
閑話休題。
ふと、この詰まらない授業で転校生くんは転校初日でまさかの授業中睡眠をしているのではないかと、チラと盗み見る。頬杖をつきながらも番書をノートに書き込んでいた。ノートの方に目を落として見ると、番書よりも分かりやすく要点を抑えてあるようだ。
やはり、頭がかなり良いようだ。番書を自己流で分かりやすくまとめるとか相当に授業内容を理解していないと出来ないだろう。
少なくとも、私には真似できない。故に授業の後で自習しているのだから。
終業を告げるチャイムがなり、起立。気を付け。礼。を済ませて、携帯を弄り出したり、お喋りをしていたり、中には軽い自習をしていたり様々だ。
隣の彼はというと、やはりというかクラスメイト達の監視をしている。じっと、じっくりとクラスの仲間たちを冷たい眼差しで見詰めている。
嵐の前の静けさという奴だろうか。そんな、嫌な予感がする。
兎も角、今日の授業はもう終わったのだし、帰りの支度をしよう。そして、
「おい、○○(私の姓だ)。今日来たばかりの彼に学校を案内してやってくれないか? 」
この先公頭イカれてんのか! という言葉が、頭に浮かんだだけで済んだ私は、寧ろ素晴らしい忍耐力の持ち主なのではないか。
今朝彼がトンデモ発言したこともお咎めなしだった事も含め、うちのクラスの担任はクソ教師だった。
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Day.1#6
「けけっ、すまないネェ」
私の不幸を楽しむ、否愉しむようなその笑みはゾッとするので止めて欲しい。と心の中で呟きつつ校内を案内していく。
私は
『……出来れば、遠慮したいんですが』
『そうか! なら頼んだ。あいつには私から言っておこう』
との返しを押し付け、教卓へ戻って行く
優等生気取りでいると、問題児を押し付ける最低教師が居るらしい。
なんて回想をしているうちに図書室に着く。教室二つ分ほどの平均的な大きさのその部屋には司書のおじさんが居る。
「ここが図書室、放課後にここを使う人はほぼ居ないから勉強するには丁度良い所よ」
「ふむ、ちょっと蔵書みてきてもいいかナ?」
「良いわよ、ここで待ってるから」
此処まで、付き添って分かったことだが、無駄話に花を咲かせる事もなく(話しかけても無視された)、必要最低限の会話や偶に煽りくらいしかしてこない、相手をウンザリさせるのが得意な嫌な奴。
ただ、なんかそれをわざとやっている気がする。
まあ、何にせよ。私はこの放課後学校案内をしている内に嫌いになってきた。
「よぉ! 何だ? 男つれてきたのか? ここは逢い引きはお断りしてるんだが?」
「こんにちは、ニコニコしながらいう台詞じゃないよ。転校生に学校案内してるだけだから、心配要らないよ」
この図書室はよく利用しているので、この司書のおじさんとはすっかり顔馴染みだ。本を借りる時にノータイムで通してくれる程度には、仲が良い。ノリが良くて元気な話してて楽しいおじ様、といった感じの司書さんは言葉を返してくる。
「なんでぇ、転校生か。利用者が増えるって流れなら良いんだがねぇ」
「悪いナ、おじさん。今日が最初で最後の利用だ。これ借りるゾ」
何か目当ての本を持ってきたようだ。それを司書さんに渡す。題は何かと覗いてみる。以外にもそれは流行りの恋愛小説だった。あまりの意外さに面食らってしまい、少しの間私の時間が固まった。
「ほう、これを読もうとはお目が高いね……あ、まだ君のバーコードが出来てないな。図書カードがまだ残ってたはずだから、それ使うか?」
「ああ、構わないヨ。返すときは入り口の返却ポストに入れときゃいいダロウ?」
「うん、できればここに立ち寄って返してくれるとおじさん嬉しいんだがねえ」
「クク、できたらそうしてやるヨ。っと、どうも。で? ここで最後なのかい?」
「……え? ああ、そうね。だいたい紹介したと思うわよ?」
そう答えると彼は軽く礼の言葉を言って立ち去った。嫌味たっぷりだったが、感謝の意を示されて少し嬉しい気持ちになった。
けれど、そんな淡い喜びも、
次の日の惨劇によってかき消されてしまったけれど……。
ここまで読んでくださった読者様方に感謝を。
続きは思いつき次第更新されます。
誤字脱字や講評批評などございましたら感想欄へ。