聖遺物の適合者と禁断の果実(リメイク版 10話から最新) 作:百合に挟まる男を切るエルフの剣士
響は憐と二課に頼まれた事について話していた。それは‥
「別に二課に言われた通りにリディアンに通わなくとも良かったのに」
そう、響は目の届きやすい二課の隠し蓑である、私立リディアン音楽学院に通う事となったのだ。
「うんうん、リディアンだと二課の人が学費払ってくれるらしいから。憐さんには今、学校に通えるばかりか家まで貰ってそれだけで十分!これ以上は迷惑かけられないよ」
「気にすんな。あの時俺の所に来れた響への神様からご褒美だと思っとけ」
「初めて会った時はまさか本当に神様だとは思わなかったよ‥」
「まぁ、そこまで明るくなって良かった」
「エヘヘ‥」
「これは俺からの餞別だ。なんかあった時に使え。シェムザム達が全力で助けに行くと思うから」
そう言って渡したのはレモンエナジーロックシードとチェリーエナジーロックシードだ。
「レモンがシェムザムでチェリーがマキシムな」
「これに師匠達が‥ありがとう!憐さん!」
「行ってこい!戸籍等は変えてあって隠せるとは思うが響と仲の良い人が居たら姿は変わってないから気を付けてな」
「はい!行ってきます!」
だが、憐に背を向けた響の顔は暗いものだった。学校という昔の虐めの現場。憐も居ない。必然的に響の顔は暗くなる。そこで、憐の持つ二課から貰ったデバイスが鳴る。それに響も足を止めて憐を見る。
「はい。もしもし葛葉ですが」
『おう。憐君か。弦十郎だ』
かけてきた相手は弦十郎であった。
「で、どうしたんですか?響ならリディアンの用意をしていますよ」
『そうか、二人とも来てくれるか‥』
今、重大なすれ違いがあった気がする。
「二人とも‥?」
『む‥当たり前だろう。憐君も来るのだろう』
「はぁ!俺は通いませ‥」
その瞬間、響が憐の手を握る。
「響?」
「憐さん‥一緒に行こ?」
響の上目遣いアンド涙目=負け確定。
「わーったよ。弦十郎さん。俺も通うわ」
『そうか!助かるぞ。制服は来てから渡すから取り敢えず来てくれ』
「了解」
通話を切ると響が一気に明るくなりワクワクした顔で憐を待っていた。
「憐さん!」
「はいはい。行こうか」
「はい!」
そう言って二人は扉を開ける。二人の手は握られたままで、楽しくも不安な響と憐の初めての高校生活の始まりだった。
学園に着いた憐は響を下ろし乗っていたサクラハリケーンをロックシード状に戻す。先に降りた響は憐の手を掴み、入学手続きのために職員室へ向かう。職員室らしき部屋の前に着くと憐と響は決心して扉を開く。(響は一年とちょっと振り。憐は中学校に通っていないので三年振りになる)
「失礼します。転校の手続きに来たんですが‥」
「はいはい。二人はこっちにおいで」
二人を呼んだ男性は先日二課で見かけた男性だった。
「えっと、僕の名前は『佐々木 大成』だよ。憐君はこの制服を着て欲しいのとこの書類に署名してくれるかな」
「了解です」
「えっと、私は?」
「響君は特にないかな。憐君が全部やってくれているから」
「‥‥‥‥」
響は未だに憐の世話になっている事を自覚し少し落ち込むがそれを察した憐が響の頭を撫でる。
「憐さん⁉︎」
「気にすんな。気にするんだったらこの借りは大人になったら返せ」
「憐さん‥はい!」
その完全桃色空間に職員室にいた職員全員がブラックコーヒーを飲む。そして、職員達の心は一致した。
(((((((甘い‥甘すぎる!口から砂糖吐きそう‥))))))
「っと、これでいいですか?」
「‥うん。十分だよ。これで二人はこの学院の生徒だよ。憐君はリディアンの共学に向けた試験的な生徒だと思ってね」
「了解です」
そう言って、佐々木さんは立ち上がる。
「憐君は僕の担当のクラスで響君はあの人が担任だよ」
「う‥気の強そうな人‥」
自分の担任をみた響が思わずそう漏らすほどその人は確かに気の強そうな人だった。
「頑張れ。響」
「うぅ‥頑張ります‥」
「じゃぁ、お昼休みに行くから。また、後で」
「絶対ですよ!絶対ですからね!」
「はいはい。絶対だ」
そこで二人は別れる。憐はそのまま佐々木先生について行き、響は自分の担任のところへ行く。
響は担任に挨拶をするとそのままクラスに連れて行かれ教壇の前に立っていた。
「葛葉さん。挨拶を」
響は沢山の目線が自分に向かっているのを自覚し、緊張する気持ちを振り絞り自己紹介を始める。
「葛葉響です!趣味は人助け!好きな事は人助け!やりたい事は人助けです!よろしくお願いします!」
クラスからよろしくお願いしますとの返事が一斉に帰ってくるのを聞き少し安心する。
「葛葉さんは‥あの小日向さんの横の席ね」
「はい‥小日向?」
響が不審に思いながらその席に行くとそこに居たのは
「未来‥」
「響‥」
私の幼馴染『小日向 未来』だった。
一方その頃憐は佐々木先生が先に教室に入り連絡を伝える。
「今日、転校生が来ています」
その情報に生徒達は声を上げる。
「えー!先生!今ですか?」
「はい。特例です」
「可愛いですか?」
「さぁ、それはどうでしょう」
「この中に知っている人はいますか?」
「どうでしょうねぇー」
「先生!」
「先生!」
「先生!」
「うるさいぞ!」
生徒達の声を一声で黙らせる生徒が居た。
「何故ですか?翼さん」
翼である。
「たかが転校生などにいちいち声を上げる必要がありません」
「なるほど‥では、カーテンを閉めて」
佐々木先生は含み笑いを浮かべる。今回の為に特別に設置されたカーテンを閉めて扉から教壇を横切るように窓まで配置する。扉が開き、憐が入っていく。教壇の前に立つと後ろからバックライトを当てる。すると、カーテンには憐のシルエットが浮かび上がる。それを見た生徒の反応は
「髪は長いわね」
「結構身長高いわよ」
「運動してそうな体付きね」
そこで佐々木先生が憐に声をかける。
「では、転校生さん。挨拶を」
「はい」
「綺麗な声ね」
「そうね。確かに綺麗な声ね」
「私は9月23日生まれです。好きな物は‥そうですね、強いて言うなら鳥肉でしょうか。嫌いな物は特にありません」
「はい!はい!好きなアーティストさんはいますか?」
「風鳴翼さんです」
「その人ならこのクラスに居ますよ」
「えー!本当ですか!嬉しいです。昔お会いして一緒に遊んだことがあったんです」
「へーそうなんですか」
「風鳴さん。そう言っていますけど‥」
「知らん。私には覚えがない」
覚えてないという翼に憐が
「本当に覚えていませんか?」
再度聞くが
「くどい!知らん!」
まぁ、それも仕方ない。今の憐はウィッグを着けて声まで変えているのだ。普通ならわからない。
「どうしましょう?佐々木先生」
「もう、見せてもいいじゃないですか」
憐と共に後ろに隠れている佐々木先生は笑うのを我慢していた。それも結構ガチで。
「そうですか。私の愛しの翼さんは私のことを知らないんですからね」
「誰が愛しの翼さんだ!もういい!顔を見せてみろ!」
「だったら、翼さんがこのカーテン開ければよろしいのでは?私は開けた先にいますので」
「上等だ!その顔を拝んでやる」
そう言って、翼は階段を降りて教壇の光が消えてシルエットが見えなくなった転校生のカーテン前に立つ。そして、思いっきり、カーテンを引きあける。
「一体、誰‥だ‥」
「全く、俺がわからないなんて残念ですわ。翼」
翼はその姿を見て絶句する。他の生徒も別の意味で絶句するが、一人が声を漏らす。
「男‥」
「おう!転校生、葛葉憐!よろしく!」
その瞬間
「「「「「「「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」」」」」」」
黄色い声が響いた。それも学院中に響き渡るぐらいの声で。
「男よ!男!」
「しかも、カッコいい!イケメンの転校生よ!」
「しかも、風鳴さんの知り合いですって!」
憐は驚き過ぎて腰が抜けている翼を抱き上げる。お姫様抱っこで。それを見た生徒達は勿論
「「「「「「「「「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」」」」」」」」
叫びだすが当事者達は、と言うか翼はそれどころでは無かった。顔を真っ赤に染め
「憐⁉︎ちょ!降ろして!降ろして!」
そう叫ぶが
「降ろしていいのか?」
「‥やだ‥」
「「「「「「「「「キャァァァァァァァァァァァァァァァ!」」」」」」」」」
「あの!あの!孤島の歌姫の風鳴さんが!あんなに!あんなに塩らしく!」
「孤島?」
「ええ!誰とも仲良くしようともせず!」
「私は一人だ。と言って!」
「近付く者を追い払い!」
「トップアーティストとして!」
「歌姫として!」
「そしてついたあだ名が!」
「孤島の歌姫!」
それを聞いた憐は翼を降ろす。
「翼、正座」
その怒気にクラスが静まり返る。
「いや、憐。流石に人前‥」
「正座」
「いやでも‥」
「‥折角家の合鍵渡そうと‥」
「私が悪かったです」
「「「「「「速ッ!」」」」」」
憐が言い終わるまでに立っていた状態から完璧な正座をするまでコンマ0.1秒。そのあまりの速さに生徒は勿論、佐々木先生でさえも驚く。憐は正座した翼に近寄り手を頭の上に置く。
「憐?」
憐は生徒達の方を向いて一つのお願いをする。
「今まで翼は孤島の歌姫だったのかもしれない。誰とも仲良くせず、一人で生きていけるような強い人間。でも、本当のこいつは寂しがりやなんだよ。だからどうか、翼はトップアーティストで自分とは違う、上の存在だなんて思わないでほしい。翼は俺達と変わんないんだよ。ちょっと泣き虫ですぐ拗ねたりする唯の可愛い女の子だ。勿論、アーティストの面でも褒めてやってほしい。あの曲が良かったとか、あのライブ凄かったとか。それが、俺からの頼みだ。頼む」
憐のその頼みに生徒達から声が上がる。
「勿論です」
「確かに、今まではそう思っていましたけど」
「葛葉さんとのやり取り見てたらねぇ」
「女の子だよねぇ」
「だから、」
「「「「「「「「「私達と友達になりませんか?」」」」」」」」」
憐はそれを聞き翼の頭を少し小突く。
「いいクラスじゃねぇか」
「ああ、私もそう思う」
翼は立ち上がりクラスに向かって頭を下げる。
「わたしからもお願いする‥」
「「「「「「「喜んで!」」」」」」」
防人であり剣であった少女は変わろうとしていた。たった一人の少年によって。