知らぬ間にUAが増えていてびっくりしました。
今回はいつもより、少し長めです。
ではどうぞ
早速、修行に取りかかろうとした俺達だが、何せ剣は青薔薇の剣一本しかない。取り敢えず、俺がこの剣で型を見せてから、二人に反復練習してもらうか……ん?剣?
「なあ、エミヤ」
「なにかね?」
俺が話しかけると、近くにあった、ギガスシダーほどではないが大きめな木の上からエミヤが飛び降りてきた。
「…そんなところで何してたんだ?」
「この周囲を眺めていたのだよ。本当に国境沿いだな、ここは。あそこに微かに見える建物のようなものが在るところが、央都かね?」
「え?ここからじゃ、かなり遠くて央都なんてどんなに背伸びをしても見えないはずなのに…」
と、不思議そうな顔をするユージオ。…もしかして、視力も異常に良いのかこいつ…
「……この距離なら、もう少し鮮明に見えても良いはずだが…これも受肉した影響か?」
「どうした?」
「いや、なんでもない。ところで、こんな話をするために呼んだ訳ではあるまい」
おっと、本題を忘れるところだった。改めて俺はエミヤに尋ねる。
「ああ、そうだった。…俺達を助けに来たとき、エミヤ何か中華っぽい双剣持ってただろ?もしかして、あれって神器じゃないか?」
そう言うとエミヤは、『投影、開始』と呟く。するとまるで手品のように俺のいう双剣が現れた。
「これのことか。」
「ちょっ!?待て待て!!今何したんだ?」
俺もユージオもこの奇妙な光景に目を丸くしていた。
「ああ、これは……この世界でいう、神聖術のようなものだ。…恐らく仕組みは違うがね」
「な、なぁユージオ…」
「こんな神聖術、聞いたこともないよ。多分、セルカも知らないと思う。それにこんなに短い詠唱で、こんなことができるなんて……なぁ、エミヤ。君ってもしかして天職はものすごい神聖術師なんじゃないか?」
「いや、まさか。私にはそんな才能はない。精々三流がいいところだ」
どうやら、ただの神聖術でもなさそうだ。俺もALOで多くの魔法を見てきたが、何もないところから武器が出てくる魔法など、見たこともない。リズが聞いたら卒倒しそうだな……あえていうなら、召喚魔法や転移魔法といったところだが…それには確か、かなり長い詠唱が必要だったはずだ。それにどうにもしっくり来ない。それよりも、一番気になるのは―――
「まぁ、私の場合少々特殊ではあるが……説明すると長いのでな。詳しい話はまた今度にするとしよう」
「ちょっと、エミヤ」
俺はエミヤに近づき、小声で話す。
(お前、何で魔法使えるの!?現実世界から来てるんだよな!?)
(いや、これも話すと長いからまた今度…取り敢えず、この魔術…君の言う魔法は私固有のものだ。これだけ伝えておく。)
エミヤ固有の魔法?つまり、エミヤはALOみたいな魔法の使えるVRMMOから、コンバートしてきたのか?いや、ここは恐らくSAOが基になっている。もしかして、エミヤはSAOサバイバーで、オリジナルスキルとして魔法が使えたのか?流石に、現実世界で実は魔法があって魔法使いでした、なんてことはないだろう。いくらなんでも現実味が無さすぎる。
俺は先程よりもさらに混乱し、頭を抱える。
「しかし…今回キリトが教えるのは片手剣の技だろう?この剣は使わないな。」
そう言うと今度はその双剣が一瞬にして消えてしまった。そしていつの間にかエミヤの手に握られていたのは二本の片手剣だった。その片方を俺に渡してくる。
「無銘の剣だが、どちらもなかなかの業物だ。使用難度は青薔薇の剣より少し低いだろうが、練習には適しているだろう」
その言葉通り、青薔薇の剣や先程のエミヤの双剣には少し劣るが、十分に良くできている剣だった。
こんなものまですぐに出せるとは…
俺の頭はすでにパンク寸前だった
―――とにかく、なんやかんやあってようやく俺達は修行を開始したのだ。
甲高い音が空へと響き、森全体を揺らしてゆく。
「せああっ!」
ユージオの放った片手剣単発ソードスキル《ホリゾンタル》は仄かに赤く光るエフェクトライトを放ちながら、吸いこまれるように切れこみの中心へと向かっていった。
俺が型を見せて、二人はそれを模倣する。ユージオのセンスはなかなかのもので、俺が何度か型を教え込むと少しずつだが出来るようになっていった。…もしかしたら、俺よりも覚えが早いかもしれない。俺もうかうかしていたら、あっという間に抜かれてしまうだろう。
意外だったのはエミヤの方だ。彼はすぐに習得してしまうものだとばかり思っていたが、最初は意外と苦戦していた。本人曰く、自分には剣で戦う才能は無く、人一倍努力する必要があるとか。とは言え彼も、常人に比べれば相等早い速度で習得していった。
こうして練習を続けていた、ある日、
ついにその時はやって来た。
ぎぎぎっ
水平斬りを受けた巨樹が、それまでにない不気味な軋み声を発した。
俺達は唖然とし、次いでギガスシダーの幹を振りあおぐと、驚愕で凍りついた。
地面の方が傾斜しているのでは、と錯覚するほどに巨樹が重力に屈して頭を垂れる光景は非現実的なものだった。
大きすぎる自重に耐えきれなくなった巨樹は、石灰のような欠片を辺りに撒き散らしながら周りの樹木共々圧潰していった。
俺達は急いで避難し、その光景をただ見つめていた。
赤々としたかがり火が、集う人々の顔を明るく照らし出す。楽団の陽気なワルツと、それに合わせて踊る人々の靴音や手拍子が夜空へ舞い上がる。村中が活気で満ち溢れ、喧騒が絶え間なく聞こえてくる。
俺達三人は少し落ち着いた場所でその様子を眺めていた。
ギガスシダーが切り倒されたことを知った人々はまたも村会議を余儀なくされた。なにやら不穏な意見も飛び交ったらしいが、最終的にはガスフト村長の鶴の一声で、祭を催し、ユージオは法の定める通りに遇することになった。
俺はジョッキに入っていた林檎酒を飲み干し、傍らにあったビーフシチューに手をつける。これはエミヤが作ったものだ。口に入れた瞬間、柔らかな肉が溶け出して、芳醇な香りと旨みが溢れ出す。相変わらずだが、エミヤの料理は現実世界と区別がつかない、いやむしろ現実世界で食べた料理よりも美味しく感じる。これだけでもギガスシダーを倒した甲斐はあったというものだ。
真実を知り、脱出するために央都へ向かう。その計画の最大の障害だったギガスシダーは切り倒した。あとは…
「なあ、ユージオ…お前、このあと……」
その続きを口にする前に、甲高い声が頭上から降ってきた。
「あっ、いた!何やってんのよ、お祭りの主役が」
カチューシャも飾り、赤いベストと草色のスカートを身に付けていた少女―――セルカが両手を腰にあて、胸を仰け反らせて立っていた。
「あぁ、折角なので二人に料理を振る舞っていたところだよ。セルカもいるかね?」
「えっ!?本当!?………じゃなくて、ダンスに参加しなさいよ貴方達。」
くっ、エミヤの誘導も失敗に終わったか、と内心舌を打つ
「あ、いや……僕、ダンスは苦手で…」
言い訳をするユージオ。俺達も
「お、俺も、記憶喪失だし……」
「私も、こういった場には慣れていないのでな…」
と、次々と言い訳をしていく。そんな俺達に呆れたのか、一つため息をついたセルカは
「貴方達ねぇ…やればなんとかなるわよ!!」
セルカは俺達を有無を言わせず広場の真ん中まで引きずり、威勢良く突飛ばした。
途端、たちまち踊りの輪に呑まれる。
最初は戸惑い、見様見真似で踊っていたが、そのうちどんどん楽しくなってきて、気がつくとステップを踏む足も軽くなっていた。
――そういえば、以前もこうしてダンスをしたことがある。シルフの剣士リーファ。彼女の微笑みを思い出し、胸が痛くなる。
俺は、早く帰らないと。
俺がホームシックの切なさに浸っていると、唐突に音楽が終わった。周りを見回すと演台には、ガストフ村長が立っていた。
「―――ルーリッドの村を拓いた先祖達の大願はついに果たされた!悪魔の樹が倒されたのだ!我々はこれで、新たな畑や放牧地を手に入れるだろう!」
再び歓声が沸き上がる。それが収まると、村長は
「オリックの息子ユージオよ、ここに!」
すると、緊張の面持ちでユージオが壇上に上がる。隣の男性が父親だろうか。表情は誇らしげというより戸惑っているように見える。
「…親子といえど、余り似ていないのだな」
と、いつの間にか俺の隣にはエミヤが立っていた。彼の言葉に俺は頷く。なんというか、見た目も髪の色以外似ていない。恐らく
ユージオが村長の隣に立ち、広場に向き直ると、大きな歓声が浴びせらせる。
「掟に従い――ユージオには、自ら次の天職を選ぶ権利が与えられる!」
――――なんだって!?
ダンスなどしている場合では無かった。ユージオに念押しをすべきだったのだ。ここで、僕は麦を育てますなどと言われてしまえば、万事窮するのだ。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、エミヤは
「なに、ユージオのことだ。そんなに心配することはないさ」
と言ってくる。とはいえ、心配を完全に拭いさることはできない。
俺は息を呑みながらユージオを見つめる。
ユージオはなにやら迷っていたが、暫くの後、腰の青薔薇の剣の柄を握ると
「僕は―――剣士になります。ザッカリアの街で衛兵隊に入り、いつか央都に上ります」
静寂の後、村人にはどよめきが広がる。皆、苦々しい顔をして、なにやら話していた。
「ユージオ、お前はまさか――」
村長はそこで一度言葉を切り、続ける
「……いや、理由は問うまい。よかろう、ルーリッドの長として、ユージオの新たなる天職を剣士と認める。」
俺はつい、安堵の息を漏らしていた。これで央都に向かうことができる。…そういえば、彼にもまだ聞いていなかったな、と俺が声を発しようとしたその時、
「待って貰おう!」
と、一人の若者が前に出てくる。セルカから話を聞くと、彼はこの村の衛士長らしい。
俺が見守っていると、なにやら話は二人が決闘をし、勝った方の意見が聞き分けられることになったようだ。
俺とエミヤは、ユージオの元へと向かった。
「ど、どうしよう二人とも、なんだか大ごとになっちゃったよ」
「…もしや、本気の斬り合いか?」
「いや、剣は使うけど寸止めだよ」
「ふぅん……でも、その剣だとなぁ。いいか、アイツじゃなくて、剣を狙え。《ホリゾンタル》一発で終わるはずだ」
「本当に……?」
「あぁ」
その後なにか考えていたユージオだが、そこにエミヤが現れてなにかを伝えると、すっきりとした表情になった。なにを言ったのか尋ねると、
「別に大したことは、なにも」
とはぐらかされてしまった。ともかく、ユージオは衛士長と向き合い、ついに試合が始まった――
僕は青薔薇の剣を正眼に据え、左手左足を引いて腰を落とす。
「―――始め!」
その合図が聞こえた瞬間、相手が仕掛けてくる。
威勢の良い掛け声とともに、彼はそのまま上段からの斬り下ろしを―――しなかった。
相手の剣が、空中で大きく軌道を変える。上段斬りに見せ掛けての水平斬り。《ホリゾンタル》での迎撃は難しいだろう。―――《ホリゾンタル》ならば。
―――あぁ、
ユージオは衛士長――ジンクを知っている。彼が決して無能ではないことを。彼の努力を。だから、彼が何か仕掛けてくることは分かっていたのだ。それがただ、漠然と不安だった。それでも。僕はエミヤの言葉を思いだす
―――不安ならば、それでいい。
エミヤにはお見通しだったのだ。
――僕は、臆病者だ。
整合騎士が怖かったから、アリスを救えなかった。
決まりを破るのが怖かったから、アリスを助けに行かず、巨樹を切り続けた。
また目の前で誰かを失うのが怖かったから、キリトを庇った。
前と同じ過ちを犯すのが怖かったから、強くなろうとした。
僕はいつだって怯えながら生きてきた。でも、それでも…君を助けたい。この想いだけは、嘘になどしたくない。
――今更、勇敢な騎士にはなれないけれど、君を助けに行くよ。アリス。
斜め斬り《スラント》――彼は未だ、その名を知らないが――を放つ。それは稲妻の如く閃き、水平斬りの途上にあったジンクの剣を叩き、粉砕する。
―――その日、臆病者は、運命に抗った。
個人的に、アリシゼーション編はユージオが臆病から勇敢になる話ではなく、臆病なまま、それでも頑張っていく話だと思っています。