赤い弓兵と仮想世界   作:カキツバタ

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ここまでで一巻分(ものすごく省略)ですか…小説書くのって楽しいですけど大変ですね。

お気に入り登録、誤字報告ありがとうございます。

ではどうぞ



スタートライン

――ごめんな。■には、これくらいしか…

 

――…なんで?

 

――ん?

 

――なんで、なんで……謝るの?なんで、こんなに、優しくしてくれるの?

 

――…■は■■■■■だからな。 ――を■■■のは■■■■だろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――行ってしまうの…?

 

――あぁ。■は、■の■■を叶えるために、ここを出る。

 

――■■…?

 

――それはな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深い微睡みから醒める。

 

最近、夢を見ることがある。

断片的に流れる映像。その大部分は欠けていて、何も解らない。自分はただ何も感じることなく、それを眺めているのだ。

 

――それが、少し恐ろしい。もしかしたら、自分は何か、とても大切なことを忘れてしまっているのではないか。

 

漠然とした不安感が募り、目眩がする。こめかみを押さえながら、寝起きで余り動こうとしない脳みそを無理やり回転させる。

 

サーヴァントは本来、睡眠を必要としない。しかし、受肉したことで肉体が食欲や睡眠欲を感じるようになった。とはいえ寝起きで頭が回転しないのは、やはりぬるま湯に浸かり過ぎているといえる。これまで送った日々は、いつどんな理由で襲われてもおかしくないもので、常に最低限の警戒はしていた。勿論、この世界がいくら平和とはいえ可能性はゼロではない。実際に、山脈付近ではゴブリンに襲われる人も出ている。それゆえ若干は警戒するのだが、何分この村は争い事もなく、つい気が緩んでしまう。

 

―――確かにこの村は平和だ。しかし過ごす内に分かったことだが、その『平和』は『絶対的な法による統治』だろう。彼らは天職といい、多くを法によって定められていた。彼らは法に怯えて、必死に()()()()()()()()のだ。

これもまた、一つの平和の形なのかもしれない。しかし、『絶対的な法による統治』には穴がある。恐らく都合よく法を解釈し、悪事を働く輩もいることだろう。

――恐怖心から生み出される平和とは、本当の意味での平和と言えるのだろうか。

軽く頭痛のする頭で思考を巡らせる。

この村にいては、何も変わらないし何も解らないままだ。しかし、私はこの平和に否定的な一方、この世界に残りたい、ここで穏やかに過ごしたいという思いもある。私のいた世界と比べれば、確かにこの世界は平和なのだ。

 

――彼らと共に、央都に向かうか否か。キリトのことだ。恐らく時が経てば、この世界の真実とやらに辿り着けるのだろう。それを知ったとき、私はここで穏やかに暮らすことが出来るのだろうか。引き返すなら今の内だ、と囁く声がある。

 

 

と、からーんといつもの鐘が鳴った。気がつけばかなりの時が経っていたようだ。とにかくまずは朝食の支度をしなくては、と思案を中断し台所へと向かって行った――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも通り5時半に目が醒める。苦手だった早起きが、この世界に来てからは出来るようになった。その事実に、今更ながら感嘆する。これなら、もう直葉に叩き起こされることもないだろう。これもセルカのお蔭だ。と、俺は昨日のことをふと思い出す。

 

 

 

――試合はユージオの勝利。その流れるような美しい剣捌きに、エミヤを除く全員が唖然としていた。

ユージオの勝利を疑っていた訳ではない。俺がみっちり教えたのだ。自慢する訳ではないが、そこいらの衛士ならば勝てる位には鍛えたと自負している。

俺が驚いたのは、ユージオが俺の想像を遥かに越える剣捌きをみせたことだ。片手剣ソードスキル《スラント》。俺が教えても、見せてもいないその技をまさか使うとは思ってもいなかった。

 

思い浮かぶのは、一人で懸命に剣を振り続けるユージオの姿。あの技は、練習の中で偶然見つけたのだろう。しかし、無駄のないあの動き。

もし、この先彼が研鑽を積み、俺と彼が本気で戦う時がきたら一体……

 

 

 

 

やけになって林檎酒を飲み過ぎた俺は、セルカに引きずられるように教会に戻った。

 

『全く、さすがに飲みすぎよキリト』

 

と水を差し出すセルカ。冷たい水が、頭を冷やしてくれる。

 

『その……悪かったな。ユージオと話したかっただろ?明日にはもう…いや、まずは謝らないとな。ごめん。勝手にユージオを連れ出すみたいなことになっちゃって』

 

『……本当、あんたは…』

 

少し頬を赤らめた後、呆れ顔をしたセルカは続ける

 

『確かに少し寂しいけど、嬉しいの。ユージオがあんなに笑うようになって、自分からアリス姉様を探しに行くって決めてくれて。それに、前も言ったでしょ?私は私なりに生きていく――だから安心してユージオを連れて行きなさい。貴方達が、姉様を連れて戻ってくるのを待ってるから』

 

そのあどけなさの残る微笑みは慈愛に溢れていた。

 

『あぁ、ありがとう』

 

『ごめん』と一言口にし、セルカに顔を近づけ、真っ白な額に軽く唇を付ける。

 

セルカは暫く固まり、その後、顔を真っ赤にしてこちらを睨み付けた。

 

『あなた……いま、何を………?』

 

『うーん…《剣士の誓い》みたいなものかな』

 

ひとつ間違えれば禁忌目録違反よ、と呆れ顔のセルカ。

 

『で?誓いって?』

 

『約束だ。必ずアリスを連れて帰ってくるよ』

 

『俺は、剣士キリトだからな』

 

 

 

 

 

 

――今思い出すと少々恥ずかしいものがあるが、まぁ酔いのせいだろう。気にしたら負けだ。

 

俺はいつも通り礼拝をして、朝食を食べた。セルカが俺と目が合う度に顔を赤らめているように見えたのは気のせいだろう。うん。

 

 

 

 

 

 

俺はその後、ユージオと合流し、エミヤの下へ向かった。

 

「なぁ、エミヤ……お前も、来てくれないか?」

 

そう尋ねると、二人とも意外そうな顔を俺に向けてきた。

 

「どうして、私を?別に君達にとって私は…」

 

「え?今更なにを聞いてるんだいキリト。僕らはエミヤとキリトと三人で央都に行くんでしょ?」

 

と二人が言う。どうやらエミヤの驚きは、俺達が自分を必要としたこと。ユージオの驚きは、当たり前のことを聞いていることのようだ。

 

「えっと、無理にとは言わない。けど、エミヤは俺達を助けくれた仲間だから。――友として、一緒に来てくれないか?」

 

「……友、か。」

 

と、エミヤは顔を上げて続ける

 

「…了解した。では、私からも頼もう――どうか、私も連れて行って欲しい。…まだ、アインクラッド流もマスターしていないからな」

 

 

――こうして、ようやく俺達はスタートラインに立ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……枝?」

 

その後、村の人々に挨拶周りをしていた俺達はガリッタ老人に連れられ、あるものを見せられた

 

「ギカスシダーの中で、最もソルスの恵みを吸い込んだ一本がこれじゃ。その剣で切るがよい、」

 

ユージオが剣を構えるも、迷いがあるのか切っ先がわずかに揺れる。

 

「俺がやるよ」

 

と、前に出て剣を受け取り、真っ直ぐに斬り下ろす。枝は綺麗に切れ、それを左手で受け止める。

 

ガリッタ老人はその枝を分厚い布で包むと

 

「これをセントリアのサドーレという名の細工師に預けるがよい。強力な剣に仕立ててくれるだろう。道中、気を付けるのじゃよ。さらばだユージオ、旅の若者、そして紅き荒路を行く者よ」

 

 




――なんだ。どうやら考えすぎていたのは私の方だったらしい。先のことなど考えずとも、目の前に必要としてくれる仲間が、友がいる。それだけで十分だ。

――今は、前へ進もう。友の為に、自分の為に。たとえ、それがどんな結末を迎えようとも――

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