今回は説明回その1。原作と大体同じですね。
状況説明には不可欠なので、原作とあまり変わりませんが許してください。
ではどうぞ
アルヴヘイム南西部、シルフ領首都スイルベーンは夜の帳に包まれ、店々は固く鎧戸を下ろしている。
――現在は現実時間午前四時。最もアクセス数の少なく、静寂に包まれた街並を眺めているのは
水色の長い髪を垂らし、窓を見つめるその姿は憂いを帯び、いつも透き通るように白い肌はその白味がさらに増していた。こめかみを抑え、何やら思い詰めているその姿は、まさしく疲労困憊といったところだ。
「大丈夫ですか、アスナさん?」
「二人とも、無理してたらいざというときに頭が働かないわよ」
気遣わしそうに訊ねるのは長い鮮やかな金髪を一つに結っている
彼女の声もまた、元気そうに聴こえるものではなかった。
そんな二人に
アスナは二人に目を向けると、こくりと頷いた。
「うん…あとでベッドを借りるわ。本当、睡眠魔法がプレイヤーにも効けばいいのに」
「揺り椅子で寝てるお兄ちゃんは、なかなかに眠気を誘うんですけどね…」
リーファの呟きにアスナとシノンは口許を力なく綻ばせる。
「それじゃ、改めて……結論から言うと、お兄ちゃんは所沢の防衛医大病院に運ばれた証拠が見つかりませんでした。完全面会謝絶、ユイちゃんも病院の防犯カメラに侵入してもお兄ちゃんは映っていなかった。
つまり、防衛医大病院には居ない可能性が高いです」
「「………」」
三人の間に重い沈黙がはしる。
――事の始まりはSAO…《ソードアート・オンライン》時代のとある出来事まで遡る。
仮想世界での死が現実世界での死に繋がるというデスゲームの中でも、自分たちから進んでPK…《プレイヤーキル》を行う人々がいた。《レッドプレイヤー》を名乗る彼らは一人のプレイヤー《
――笑う棺桶 《ラフィン・コフィン》。
彼らは悪逆非道な殺戮を繰り返し、多くの人々が犠牲となった。
そして結成から八ヶ月後、アインクラッド攻略組による討伐部隊の手によって壊滅させられた。
死闘の末、ラフィン・コフィンで生き残り、牢獄に送られたのは十二人。そのなかにも、死者の中にも《PoH》の名は見つからなかった。
そして時は流れ、SAOから生還。アスナたちが須藤の手によって仮想世界に囚われた事件も、キリトやリーファを中心に多くの人々の力で解決。何とか現実世界に戻り、平和な日々を送っていたある日、GGO《ガンゲイル・オンライン》で銃で撃たれた人間が現実世界でも死亡しているという不可解な事件…《
キリトがシノン達と協力して突きとめたその犯人は、《ラフィン・コフィン》の生き残りである《赤眼のザザ》そしてその弟。さらに彼らはもう一人、仲間がいた。それが
――《ジョニー・ブラック》
ザザのSAO時代の相棒で、《死銃》事件の犠牲者のうち二名を殺害した実行犯。しかし、ザザと弟が逮捕されたなか、彼だけは行方を眩ましていた。
――そしてほんの二日前、事件は起こった。
行方不明だった《ジョニー・ブラック》による襲撃を受けたのだ。結果、桐ヶ谷和人…キリトは《死銃》事件で殺害に使われた薬品――サクシニルコリンを注射され、意識不明の重体となった。
その場に居合わせたアスナは、すぐさま救急車を呼ぶもキリトは心停止状態に陥ってしまう。
――それを何も出来ずにただ見ていることしか出来ない自分が、何よりも悔しかった。
その後、奇跡的に心拍が戻りなんとか一命を取り留めたと聞いたアスナは、安堵のあまり失神しそうになったが次いで告げられた、脳にダメージが発生した可能性があり、最悪の場合はこのまま意識が戻らないだろうという言葉で再び不安感に襲われる。
直葉に連絡をとり、その日は駆けつけた直葉とキリトの母と共に一夜を過ごした。
その後、一旦家に帰ったアスナ。するとキリトの母から連絡があり、自宅近くの病院へ転院することになったはずなのだが……………
キリトはどうやら、病院に転院せず何者かによって拉致されたという。この状況でぐっすり寝ろというのは無理な話だろう。
「犯人は、キリト君が入院した途端その情報を入手できて、本物の救急車を自分の目的の為に出動させられる人間……そいつのことはもう敵と呼ばせてもらうけど、敵の力はかなり強大なものね」
「いっそ、警察に届けるのは?」
もっともなシノンの提案だが、アスナはかぶりを振る。
「データ上ではキリト君はあそこに存在する事になってる。恐らく警察は動いてくれないわ」
「……でも、どうすれば…というかそもそも敵は何でこんなことをしたのかな?お金……はないとして、恨みはありうるけど」
「いや、確かにキリト君に恨みを抱く人はいるだろうけど、こんな強大な権力を持つ人物となると……」
考え込むリーファとアスナ。そこに、シノンが少し自信なさげに呟く。
「あのさ……根拠はないけど、敵はキリトのVRMMOでの能力を求めてたんじゃない?……魂に直接アクセスできるなら、意識不明でもフルダイブは可能でしょ?」
「!まさか、ラースが!?」
「え?あの、お兄ちゃんがバイトしてたとかいうあそこですか!?」
二人が驚き、ラースについて考えていたところ、ユイがやって来てさらに衝撃の事実を伝える。
「――キリト君が、ヘリで何処かへ連れていかれた!?」
「はい、恐らくは日本の何処かだと考えられます」
「なにそれ、ラースってもしかして国とつながってたりするわけ?……キリトにもっとちゃんと聞いておくんだった。あの時は……確か、アリスが何とかって」
「ラースっていうのは不思議のアリスに出てくる豚だか亀だかって奴のことね。それにしてもアリスか……キリト君、聞き覚えがあるとかなんとか」
「もしかしたら、ラースの研究所で聞いたのかもですね。何かの頭字語かな?」
「あっ!それなら確かキリト君が前に……確かアーティフィシャル、レイビル…インテリジェンスみたいな…」
「それならば、恐らくArtificial Labile Intelligence……《高適応性人工知能》です。これが、私のようなトップダウン型でなく、ボトムアップ型を示しているとすれば、その人工知能は人間と真に同じレベルに達しうる存在のことですね。」
「………そんな、じゃあラースの目的は、真の人工知能を創ること?」
「やっぱり、国とつながってるのかな。バイトを紹介したのって総務省の菊岡さんだし…」
「でも、国がらみなら隠蔽されてて何も分からない…」
「いえ、分かるわ」
手段はないというリーファの言葉を遮ったのはシノン。
「予算よ。そんな莫大な資金、流石にちょろまかすことは出来ない筈。国会の予算を見たら、何かの名目で予算に計上されてるんじゃないかしら」
「えっと………該当するものは見当たりませんでしたが、一つ。海底の油田やレアメタル鉱床を探すためのAIの予算が。優先度に対して額が大きいので、検索フィルターに残ったようです。プロジェクトは《オーシャン・タートル》に置かれていますね」
「あ、それ知ってます。確か海に浮くピラミッドみたいな……」
「待って。ユイちゃん、その画像出せる?」
「はい」
そうして目の前に現れたのは、確かに黒いピラミッドのような代物。四方の角からは突起が突き出し、カメの様に見える。
するとアスナが、
「でもこの頭のところ、ちょっと平らに突き出してて他の動物にも見えない?」
「あー、そうですね。ちょっとブタにも見えますね。泳ぐカメブタだぁ」
と、無邪気な声でリーファが言う。直後、自分の言葉に打たれたように両目を見開く。
「カメでもあり……ブタでもある…」
三人は互いに見つめ合い、声を揃えて叫んだ。
「―――《ラース》!」
ここで切っておかないと長くなりそうなのでここまで。
次も説明回。そこではちょっとだけオリ要素もあるかと。