完全に自己満足で書いている作品ですが、誰かに喜んで貰えるなら嬉しい限りです。
あと作者は投稿のムラがすごいです。
ユージオは悪意がない人なら誰とでも仲良くなれるタイプだと勝手に思ってます。
ではどうぞ
ーーなんだ、あいつは。
森に佇む褐色の肌に白髪、赤い外套の恰幅のある背の高い男性という異色極まりない状況に、俺は衝撃を受けた。
なにより、VRMMOとはいえ数多くの死線を潜り抜けてきた俺の本能が、奴は只者でないと訴えてくる。この世界にもこんな奴がいるなんて。もしかしたら、ユージオのいう、整合騎士の一人かもしれない。
俺は万が一、ユージオを連れて逃げられるようにユージオを庇う形で前に出た。ユージオは俺と出会った時と同じく、不思議そうな表情であいつを見つめていた。
奴は俺達を一瞥した後、自分に害意はないと伝えるかのように両手を挙げて……
「唐突ですまないが、此処が何処なのか教えてはくれないか?」
ーーーは?
いま、なんと言った…?此処が何処か教えてくれ、なんてそんなことをいうのはーー
「えっ、もしかして貴方も《ベクタの迷子》なんですか!?」
現実世界から来た人間<リアルワールド人>しかいない。
「ん?ベクタの迷子…?」
「ある日突然いなくなったり、逆に森なんかに突然現れるひとをそう呼ぶんですよ。闇の神ベクタの悪戯だって。この説明昨日もした気がする…やっぱり僕たちの村だけでしか言わないのかなぁ。あ!僕はユージオっていいます。隣の彼はキリト。ここはルーリッドの村の近くの森ですよ。」
と、俺が呆然としているうちに何も知らないユージオがどんどん勝手に話を進めていく。
「おい、ユージオ!」
俺はユージオを連れて奴から少し離れて囁く
(あいつの正体もわからないのに、話し過ぎじゃないか?)
(いや、別に悪い人には見えなかったし)
(人は見かけで判断しちゃいけないんだぞ。ほんとに。大体、あいつの名前もまだわからないのに…)
「あ!名前聞いてもいいですか?」
と、次の瞬間には奴の元にいたユージオ。
……ユージオって現実世界ならたくさん友人がいるんだろうな、俺と違って。と呆れを通り越して尊敬する。
「あ、ああ。まずはこちらから名乗るべきだったな。
ーーエミヤシロウ。それが私の名前だ。」
……エミヤシロウ。名前的に日本人だろうか。しかしハーフでもこんな日本人はいないような。兎に角彼は、テストプレーヤーか俺を助けに来たラースの職員だろうとあたりをつける。彼なら戻り方が分かるかもしれない。
「エミヤさん、ちょっといいですか?」
「ああ。それと、二人とも私は呼び捨てでかまわない。敬語で話されるのは慣れないのでね。で、何かね?」
「…ログアウトしたいんだけど…」
「……ん?『ログアウト』?一体どういう…」
「あー!!いや!なんでもない!」
予想が外れた。彼は本当の《ベクタの迷子》か、ここが仮想世界だと理解していないテストプレーヤーだ。となると、やはり央都に行くしかないか…
「エミヤは、泊まる場所ってあるの?」
とユージオが聞くと、彼は少し考えて
「…いや、ないな。出来れば紹介してくると有難い。」
俺達は三人で昼食のパンを食べ、エミヤにルーリッドの窓や、天職、大樹の話をした。ユージオはセルカが実はアリスの妹だということや、最近南にゴブリンの集団が現れておかしな事が多いこと、偉い人にしか使えない天命を回復させる《神聖術》の話を俺達にした。
そしてユージオは物置小屋からあるものを運んできた。
俺はそれに腰が抜けるほど驚いた。エミヤはほう、と興味深げにそれを見つめた。
「《青薔薇の剣》。おとぎ話じゃそう呼ばれてる」
「おとぎ話って…?」
「『ベルクーリと北の白い竜』ってやつでね…果ての山脈を探検にでかけたベルクーリは、洞窟の奥深くで白竜の巣に迷い込むんだ。竜は昼寝中で、彼は巣の周りの宝のなかの白い剣を見つけて持ち帰ろうとしたら、足許から青い薔薇が生えてきて、ぐるぐる巻きにされちゃって、倒れた音で白竜が目を醒まして…っていう、話。」
続きを尋ねるも、ユージオは長くなるから、と端折ってしまった。
「まあ、いろいろあって許してもらって、剣をおいて命からがら逃げ帰ったっていう他愛ない話さ。」
「ほう…では今もその竜は…?」
エミヤがきくとユージオは少し悲しそうな顔をして
「いや…六年前にアリスと探検したときにはもういなかった。あったのは宝の山だけだった。この剣は、三年前に運んできたんだ。ここまで運ぶだけで三月かかったけどね。」
俺は不思議そうにしていたエミヤにこっそりとアリスが整合騎士に連れていかれたことを伝えた。エミヤは少し驚き、そのまま黙っていた。
俺は暫く剣を見ていて、あることを思いついた。
「…ユージオ。今のギガスシダーの天命を調べてくれ。」
「…まさか、その剣で打つ気か?」
と、呆れ顔でエミヤが訊いてくる。
「ああ。」
「ええー…はぁ…23万2315だね。」
「まあ見てろって。重い剣は重心の移動で振るんだ」
と俺は《ホリゾンタル》ーー右中段水平斬りを見せるも、踏ん張りきれずふらつき、ちゃんと当たらず、俺は反動で顔から苔に突っ込んだ。
「わあ、言わんこっちゃない!」
「…だが、その剣の力は本物らしいな。」
とエミヤは大樹の幹を見つめて言った。そこにはギガスシダーにニセンも切り込んでいる青薔薇の剣の姿があった。
「な?とりあえず天命みてみろよ」
頷き、ユージオは窓を食い入るようにみつめた
「…23万2314……切り込んだ場所が悪いんだ。ちゃんと使いこなせれば、もっと天命を減らせたと思う。」
「……私にやらせてくれないか?パンの礼もしたいのでね。」
ここでエミヤが名乗りを挙げた。しかし、彼でも使いこなせるかどうか…そんな俺の思考を読んだかのように
「まあ、任せておけ。」
とエミヤはニヒルな笑みを浮かべた。
「ああ、ユージオ。ところで…
ーー別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」
「まさか、天命を2万近く削っちゃうなんて。本当に助かったよ、ありがとう」
「いや、やはり慣れるまで少々時間がかかりすぎてしまったよ。きこりも大変だな。」
結果的に彼は切れ込みにしっかり当てるのに慣れるまで時間こそかかったが、その後はあっという間に青薔薇の剣を使いこなしてしまった。
…あのあと確かめたあの剣の必要権限は45。俺は38だから、あいつは45よりも高いことになる。彼は一体何者なのか。少なくとも今は害意がなさそうだが…俺は出会ったときから感じている不安を拭いきれずにいた。
ルーリッドの村にまた新たなベクタの迷子がやってきた。さすがに村の人も二日連続は流石に怪しんだが、ユージオとエミヤの話術でなんとか切り抜けた。
エミヤはシスターに泊めてもらう恩返しがしたいと家事の手伝いを自ら申し出たらしい。シスターも最初は少し手伝ってもらうだけと考えていたが、エミヤの仕事あまりの完璧ぶりに感動し、彼がいる間は彼に主に任せることにしたらしい。その日の夕食は感動を覚える位旨かった。……エミヤは執事かなにかなのだろうか。セルカもキリトさんと違って素晴らしいですね、と誉めていた。…あながち否定できずに、耳が痛かった。
「うっはあ~」
風呂に浸かって俺は今日の疲れを癒した。
…もう俺がこの世界にきてから三十時間以上が経つ。今の俺は大ピンチでもあり、ラースの真の目的を探る大チャンスでもある。
ーーそしてあの赤い外套の男、エミヤ。彼は本当に只のNPCかテストプレーヤーだろうか。ユージオはすっかり打ち解けたようだが俺は彼を信じきれない。なぜなら彼の目はーー
「あれっまだ誰か入ってるの?」
声が脱衣場から聞こえてきた。恐らくセルカだろう。
「あ…セルカ。キリトだ。もう上がるから。……あと、今夜時間あるかな?」
「…で、話って?」
「…アリス。君のお姉さんのこと。ユージオから聞いたんだ」
「…そっか。ユージオ覚えてたんだ…今でもアリス姉様のことがなにより大切なのね…」
「セルカは……ユージオが好きなんだ?」
俺が言うとセルカは顔を真っ赤にして言った。
「なっ、そんなんじゃないわよ!………なんだか、堪らないの。みんな私と姉様を比べる。ーーユージオはそんな人じゃないけど私を避けてる。姉様を思い出すからって。…そんなの私のせいじゃない!私は、姉様の顔すら憶えていないのに……」
小さな背中が震える。俺はどうすればいいのかわからなかった。しばらく沈黙が続く。
「…ごめんなさい。なんだか、少しだけ楽になったわ。」
「……君はセルカだ。アリスじゃない。自分は自分だから、自分にできることをすればそれでいいんだ」
「……そうね。あたし…自分からも、姉様からも逃げてたのかもしれない………もうこんな時間。あたし戻るね。明日は安息日だけどお祈りはあるからちゃんと起きるのよ」
「が、頑張ってみる。」
一瞬だけ微笑んで、セルカは部屋を出ていった。
俺は瞼を閉じてアリスの姿を想像しながら眠りについた。
倒しても構わんのだろうとか言って天命10分の1くらいしか削れなかったエミヤさん。彼は頑張ったんだ…許してやってくれ。
次回は来週のどこかで