赤い弓兵と仮想世界   作:カキツバタ

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今回は少し短め。

世界史が好きなのですが、意外とFate好き内でなかなか話が合う人がいないので『Fateで分かる!世界史』とか漫画で出版してくれるって信じてます。ギリシャ神話にケルト神話、北欧神話にギルガメッシュ叙事詩、アーサー王物語、アレクサンドロスの遠征に、ローマ帝国の繁栄etc.…ネタは尽きません。


感想、誤字報告、アドバイス等お待ちしております

ではどうぞ


正義の味方

俺達は全力で走り続けた。呼吸は乱れ、空気を求め喘ぐ度に激しく胸が痛む。しかし、速度を落とす訳にはいかない。セルカを犠牲になど出来ないのだ。

 

不意に、行く手の岩壁にオレンジ色の光が揺れた。どうやら奥はドームのようだ。俺達は意を決して同時に飛び込んだ。

 

すべてを視ろ、そして最適な行動を起こせーー可能な限り早く。

 

ほぼ真円のドーム。床は氷に覆われ、端の方にはセルカが倒れている。中央部分だけ大きく割れていて、その周りに三十を超える『異形』が集まっていた。

 

身長は俺の胸ほどまでしかない。しかし、その体躯は幅があり、異様に長い腕と鋭い爪は逞しい。革の鎧と、鋳物の蛮刀を身につけ、肌はくすんだ灰緑色

ーーRPGではお馴染みの低級モンスター《ゴブリン》そのものだった。

 

なんだ、と俺はほんの少し安堵した。ゴブリンのステータスというのは、大抵かなり低く設定してあるのだ。

 

しかし、こちらに気づいた一匹が視線を向けた瞬間。俺は骨の髄から凍りついた。その異様に大きな黄色い目玉には、僅かな不審と驚き、そして残忍な悦びと飢えーー悪意があった。

 

こいつらも只のプログラムじゃない!?

俺はここまでに、この世界の住人の正体に行き当たっていた。彼らは恐らく何らかの人造メディアに保存された、《人工フラクトライト》なのだ。恐らく、現実世界の人間のデータを基にフラクトライトを生成し、赤子から成長させる。それ以外にこの状況を説明出来ない。

つまり、ラースの目的はーー真なるAI、人工の知性を創ることだ。人間を鋳型にすることで。

 

しかし、このゴブリンは人間のそれとは思えない。ならばこの本物としか思えない強烈な悪意は一体ーー?

等と考えていると、先程のゴブリンが、笑い声を上げ、喋った。

 

「おいおい、見ろよ!まーた白イウムの餓鬼が二匹も転がりこんできたぜぇ!」

 

途端に、ゴブリン達の喚き声が溢れ、こちらに餓えた視線をぶつけてくる。

 

「どうする、こいつら捕まえるかぁ?」

 

「男のイウムなんざ、売れねぇよ。そいつらは殺して肉にしろ」

 

殺す。

その言葉に俺は少し戸惑う。もし、この世界で俺が死んだらどうなるのだろうか。セルカや、ユージオは一体どうなるのだろうか。とにかく、やるべきことはひとつ。

 

「ユージオ、セルカを助けるぞ」

 

凍りついていたユージオの体がぴくりと動き、うん、という答えが返ってきた。やはり芯は相当強いらしい。

 

「まずは前の四匹を突破。俺は左、ユージオは右のかがり火を池に倒せ。そしたら床の剣を拾って俺のうしろを守ってくれ。俺がでかい一匹を片付ける。……行くぞ一、二、三!」

 

俺達は雄叫びを上げながら走りだす。その様子に驚いたゴブリンは眼を丸くして立ち止まっている。そこに全力のタックルをお見舞いする。ゴブリン達を倒したらすぐ俺とユージオはかがり火に飛びつき、水面へ蹴り飛ばした。

 

暗闇に包まれるなか、ほのかな青白い光がみえる。ユージオの神聖術による光だ。どうやらゴブリンはその光が苦手らしい。顔を覆ったり、うずくまったりしている。俺達は、今がチャンスだ、と剣を拾って駆け出す。

 

「ぐるらぁっ!この《蜥蜴殺しのウガチ》樣と戦う気かぁ!」

 

「違う!戦うんじゃないーー勝つんだ!」

 

そう自分に言い聞かせるように叫び、距離を縮める。剣を左肩目掛けて袈裟懸けに斬り降ろすが、敵の反応も予想以上に早く、肩当てを砕くに止まった。横殴りに振り回される蛮刀をぎりぎり掻い潜る。

がら空きの脇腹へ水平斬りを放つが、やはり防具を弾いただけで、手傷を負わせられない。

単発攻撃では埒があかない。そう判断した俺は、SAO時代に何度も練習し覚えた《ソードスキル》の型を再現しようとする。その刹那、剣が微かに赤い光を放ち、体が自然に動いた。その連撃は敵の身体に手傷を負わせた。

 

片手剣三連撃技《シャープネイル》は、正真正銘の本物だった。《ライトエフェクト》と《システムアシスト》が稼働したのだ。つまり、ソードスキルは存在する。以前《ホリゾンタル》を使った時には成功しなかったのに何故、と考えを巡らせていた俺は失念していた。

此処が只のVRMMOでないと。

 

ゴブリンはポリゴンのモンスターと違い、攻撃を受けても一瞬も動きを止めようとしなかった。そして振り回された刀を俺は回避できず、吹き飛ばされた。

 

「キリト!!」

 

ユージオの叫びが聞こえ、かすり傷だと返そうとするも、左肩から全身の神経が焼ききれるほどの痛みが弾け、涙が溢れた。

 

「っ~~!!!??」

 

こんな、仮想世界が、あって、たまるか……!

俺は、現実世界の痛みにはまったく慣れていないのだ。VRMMOではヒットポイントの減少でしかなかったのだから。俺は、魂に直接アクセスするという言葉の意味をようやく知った。

 

「…………取り敢えず、お前らを八裂きにして食い散らかしてやる……!」

 

痛みに悶絶している間にウガチが俺の目の前に来ていた。

 

俺は、終わるのか。降りおろされる刀を眺めながら、しかし、その刃は俺の元へは届かなかった。

 

「キリトーーーーッ!!」

 

気づいた時には目の前で真っ赤な血を流して倒れているのは、亜麻色の髪の少年。

 

「ユージオ……っ」

 

俺よりも何倍もひどい怪我を負ったユージオを、必死に助けようとにじり寄るも、二人の間に先程のゴブリンが立つ。

 

「邪魔が入ったが、まぁいい。お前もすぐにあいつと同じ所に連れて行ってやる」

 

と、無造作に刀が降り降ろされる。

 

 

 

ーー真っ赤な夕焼けの下、道を歩いている。

俺の手を握るのは、亜麻色の髪の少年と金髪のお下げの少女。ーーなぁ、■■■も来いよ!と、俺が誘うのは後ろを見守るように歩く一人の青年。彼は少し驚いた顔をすると、微笑んで、そっと少女の手を握る。

 

そうか……これは……

 

走馬灯の様に駆け抜けていった光景。俺はそれを知っている。守れなかったあの日々。

 

 

 

 

ーーふざけるな。俺達は、こんなところで意味もなく、お前みたいなヤツに、殺されてやるものかーー!

 

 

 

 

振り降ろされる刀。しかし、その刃はまたしてもキリトに届くことはなく。

 

 

「ーー投影、開始」

 

 

一人の男の手で阻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全く。君たちも無茶をする…」

 

現れた男ーーエミヤの両手には中華風の夫婦剣が握られ、それでウガチの刀を受け止めている。それが放つオーラは、神器に似たものを感じる。

 

「なんだぁ?てめぇ、誰だ。邪魔すんな。俺はこれからこいつらをぶっ殺すんだからよぉ!!」

 

「…出来れば手を引いて欲しいものだ。折角のシスターの弁当が無駄になってしまう。

ーーキリト、動けるな。私が敵を引き付ける。その間にセルカを助けて、ユージオを救え」

 

セルカとユージオを救うためなら、この程度の痛みなど耐えられる。エミヤの言葉に俺は頷く。

 

「もういい。こいつごと、殺してやる!行くぞてめぇら!」

 

ウガチの掛け声に合わせて、ゴブリンの大軍がエミヤに向かってくる

 

「ああ、誰だ、という質問だがーー」

 

 

「ーーただの、無銘の英霊さ」

 

 

 

その背中は頼もしく、まるで『正義の味方』のようで

ーーーーそれでいて、どこか悲しかった。

 

 

 

 




文才が欲しいです

次回は多分また週末に
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