赤い弓兵と仮想世界   作:カキツバタ

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女難の相 A+
自身に[女性]からのターゲット集中状態を付与(1ターン)&回避状態を付与(1ターン)&防御力をアップ(3ターン)&NP獲得量を大アップ(1ターン)

女達による数々の修羅場を潜り抜けてきた者だけが得られるスキル。一部の男性からは尊敬(哀れみ)の眼差しが送られる。



アインクラッド流

 

 

暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。暗い。怖い。暗い。暗い。怖い。暗い。怖い。怖い。暗い。怖い。怖い。怖い。怖い。暗い。暗い。暗い。暗い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。暗い。暗い。暗い。怖い。怖い。怖い。怖い。痛い。痛い。暗い。暗い。痛い。痛い。痛い。暗い。暗い。痛い。痛い。暗い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。辛い。痛い。辛い。辛い。辛い。痛い。辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。

 

 

 

 

 

 

 

…寂しい。

 

どこまでも続く、この暗闇が。私は恐ろしくて仕方がない。

 

私のこころは何処へ行ったのだろう。

 

私のこころに、がらんと開いた空っぽのあなが、痛い。

 

あれからどれほど経ったのか。

 

1ヶ月? 2ヶ月? 半年? 1年? 10年?…もしかしたら、1時間も経っていないかもしれない。

 

―――嗚呼、こんなにも、愛おしい

 

傍にいてくれるだけで、どれほど幸せだったか。

 

いつも私の髪を撫でてくれる、力強くて優しい手。

大丈夫だ、と暖かく包み込んでくれる声。

よく私を背負ってくれていた逞しい背中。

いつも作ってくれる優しさで溢れた料理。

不器用で、優しい。それでいて繊細な硝子のような心。

 

感じることのできるすべてが眩しかった。

 

――戻ってくる、と。そう私に告げた。

 

それなら、私はいつまでも待ち続けましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――暗闇のなかで、少女は一人、この闇を照らす光を求め続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…助けてよぅ、お兄ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とユージオとセルカは次の日の朝、シスターに呼び出されて村の広場を訪れた。そこに居たのは村の人々だった。みんな俺達の顔を見て、安堵していた。

 

話を聞くと、昨日は日が暮れても子供が3人帰ってこないと捜索隊を出そうか話し合い、出発する寸前までいったそうだ。そこに帰ってきた俺達から事情を聞いたシスターが止めに入ったらしい。

 

彼らの思いやりに感謝しようと、俺が声をあげようとしたとき、村の人々の中から一人の男性が出てきた。ルーリッド村の長でセルカとアリスの父、ガスフト村長だ。

 

……嫌な予感がする。慌ててシスターに助けを求めようとするも、シスターはその笑顔()で、『セルカを助けてくれたのは感謝するけど、あんな無茶したら叱られるべきだよね』という意思を伝えてきた。

 

なんでさ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、村長からの叱責を受けた俺達は事情を説明しろと迫られ、北の洞窟に野営していたゴブリンの集団のこととを話した。村長達は子供の戯言だ、と笑い飛ばしたが、

『では、これを見てもまだ戯言だと言えるかね?』

と、ウガチの生首をもってエミヤが現れた。持ってきてたのか…と少し驚いていると、エミヤは俺達の説明は正しいこと、自分とこの首が証明していることを語った。エミヤは村人からの信頼も厚い存在だ。そんな彼が正しいと言い、得体の知れない生首がある。それだけでも効果はてきめんで、彼等は子供の戯言だとは言えなくなった。

議題は村の防衛に移り、エミヤは彼らにずっとアドバイスをしていた。

 

俺達はそのまま開放され、セルカは教会、俺達はギガスシダーの元へと向かい、別れた。

 

 

 

 

 

 

打楽器のように軽やかに澄んだ音が、空高く拡散した。どうやらユージオも調子が良いらしい。竜骨の斧を軽々と使い、かなり真芯に当てている。それも当然だろう。今朝、自分の《窓》を開いたときにオブジェクト・コントロール権限、システム・コントロール権限、天命の最大値が大きく上昇していた。つまりレベルアップしていたのだ。

 

それとなくセルカにも確認したところ、神聖術が妙に上手くいく気がするらしい。セルカは戦闘はしていない。つまり、俺達4人がパーティー扱いされ、全員に経験値が入ったのだろう。

 

そこはまだわかるのだが、やはり気になるのは…

 

「…なあ、ユージオ。お前が倒れてたとき、誰か…女性の声とか姿とか感じなかったか?」

 

「?…セルカのこと?……うーん。言われてみれば、なにか暖かさを感じたような」

 

『セントラル・カセドラルで待ってる』そう言って俺達を救った誰か。そして、死を予感したときに走った走馬燈のような光景。渦巻く思案を一度中断し、作業に集中する。

 

「いや、なんでもない。次は俺の番だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、俺が竜骨の斧を振るっているとエミヤがやって来た。どうやら彼の的確なアドバイスでスムーズに議論は進んだようだった。

 

家事が出来て、戦闘能力も高く、お人好しで人々から信頼され、人助けが趣味、頭も切れるときた。…もはやただの人間には思えなくなってきた…どこの主人公だよ。

 

などと考えていると、エミヤは手伝いたいと申し出てきた。俺達の調子はさほど悪くないので断ろうかとも考えたが、折角手伝ってくれるのだ。人手は多くて損はないと判断し、手伝って貰うことにした。

 

「すまない。今日は色々と世話になって…」

 

「気にするな。シスターには今日くらい休めと言われていたが、何もしないではいられない性分でね。丁度手持無沙汰だったのだ」

 

「あはは、相変わらずだねエミヤは。それと、改めて――助けてくれて、ありがとう。あっもちろんキリトも」

 

「人をそんなついでみたいに言わないでくれ…」

 

「ごめんごめん。…でも、本当に感謝してるんだ。君達がいてくれなきゃ、僕もセルカも助からなかった」

 

「そういえば…セルカにはちゃんと伝えたのか?」

 

「もちろん。早朝に教会の近くで会ったときにね」

 

なるほど。だから今朝はセルカの機嫌が良かったのか。俺は今朝のセルカの言葉を思い出す

 

『私、自分らしく生きたい。姉様の代わりじゃない、私自身として。……だから、その……ありがと』

 

と、顔を赤らめて足早に去っていった。彼女が幸せに生きられるよう、俺も応援しないとな。ふと、横に目を移すと、エミヤが少しだけ驚いた顔をして突っ立っていた。

 

「エミヤ?さっきからずっと固まってどうした?」

 

「…ん?ああ、いや。『ありがとう』という言葉も、久方ぶりに聞いてな。―――この言葉を聞くのは、こんなにも嬉しいことだったのだな。」

 

「………」

 

彼の顔は驚くほど穏やかで、逆に少し悲しくなった。彼はたくさんの人々を殺し、たくさんの人々を救ったと語った。ならばせめてでも感謝されるべきだ。しかし彼は、ありがとうの言葉すら、ずっと聞いていなかったのだ。それでは、殺戮に意味を感じることができない。自分は目の前の人々を救ったのだ、と感じることすら許されない。そんな、機械的な殺戮の日々を送っていたのだと思うとむなしくなる。

 

「私のことはこれくらいにして、仕事にかかるぞ」

 

「お、おう」

 

そうだ。俺も仕事に集中しないと。俺は央都に向かわないといけないのだから。ふと、俺はあることを思い付いた

 

俺は、傍にあった一本の剣――青薔薇の剣を掲げる。

 

「キリト、持てるのかい、その剣が?」

 

「………なるほど、経験値か。」

 

唖然とするユージオと、少し驚くも納得した様子のエミヤ。

 

二人を前にして俺は片手剣単発ソードスキル、《ホリゾンタル》を繰り出す。技のイメージと融合したシステムアシストが動きを加速させ、斬撃に凄まじいスピードと精密な標準を与える。痛烈な衝撃音が轟き、ギガスシダーの巨木がびりびりと震えた。

 

ユージオは口をぽかんと開け、エミヤも驚いた顔をしていた。

 

「今のは……剣術かい?その、流派の名は……?」

 

俺は一瞬考え、こう言った

 

「アインクラッド流だ」

 

咄嗟に思い付いた名だが、それ以外にはあり得ないと感じた。俺の技は、あの浮遊城で身に付け、磨いたものだ。

 

数秒後、顔を上げたユージオの眼には毅然とした強い輝きがあった。

 

「――僕に、アインクラッド流剣術を教えてくれ。もしかしたら、何かの規則に違反するかもしれないけど……」

 

ユージオは少し顔を俯く。

 

彼は今、葛藤しているのだ。掟と、自分の意思とで。

彼は運命を自分の意思で切り拓こうとしている。

 

エミヤも理解しているようで、彼の葛藤を見つめる。

 

「……でも、僕は…強くなりたい。なくしたものを……取り戻すために。僕に、剣を、教えてくれ」

 

彼は、その一歩を踏み出したのだ。

 

 

「…そうだな。キリト、私にも教えてくれないか?」

 

ユージオはまだしも、さすがにエミヤからこの申し出が出てくるとは思ってもみなかった俺はとても驚いた。

 

「えっ!?…エミヤはもう、剣術として完成してないか?」

 

彼の剣技は洗練されていて、今更他のものが入ってくるのは烏滸がましく感じる。それに、悔しいが俺よりも強いのだ、エミヤは。

 

「確かに私は生涯をかけて、己の限界まで技を磨いたつもりだ。…まぁ言ってしまえば、君の剣に興味が湧いたのだよ」

 

「……解った。二人とも、付いてこれるな?」

 

――こうして三人での、修行が始まった。

 


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