番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~ 作:ふたやじまこなみ
「だいぶ来たけど、そろそろなんだよね?」
バスを乗り継いで下車してしばらくーー10分ほど歩いたところで、俺は2人に尋ねた。
「うん。そう……だと思う」
「だと思うって、随分曖昧だね。地元じゃなかったの?」
俺はEDOGAWAGAKKIの存在は知っていても、実際に行ったことはなかった。大体の場所をネットで抑えたくらいだ。
この辺についての土地カンは彼女たちの方があるはず。
たえは小学生5年の時にこの街に引っ越して来たと行っていたから、地元と呼んでもいいはずなんだが。
「そうだね。だけどこの辺はあんまり来たことないから」
あ、そういうこともあるか。
たとえ地元でも足運ばない場所ってあるよな。
しかもまだ中学生になったばっかりだし、行動範囲もしれてるってもんか。
「というか、この辺ーー旧市街地は、ガラの悪い人が多いから、あまり行かないようにって言われてた。
だから私はあんまり知らない。香澄も、だと思う」
「あー、だからさっきから香澄ちゃんがキョロキョロしてたのか」
バスを降りたあたりから、何だか旅行先の子供みたいに目を輝かせていたから妙だと思ってたが、そんな理由があったのか。
今もあちこち珍しそうに見回している。
というかこの旧市街とやらは、治安が悪い地区なのか。
学年集会とかで「この辺は近づかないようにしましょう」とか御触れが出るような場所なのかもしれない。
それならあんまり2人を連れてこない方が良かったな。
しかしこの世界の香澄はアニメ世界の香澄より、気持ち行動が抑えめな気がする。落ち着いているというか常識的というか。
言っちゃなんだがアニメ版の香澄は、青空ぶっ飛びガールなところがあったからな。まぁ、そこが魅力ではあったんだけど。
香澄の性格なら、小学生時代に冒険と称して飛び回っていてもおかしくないんだが。何しろ高1にもなって、道に貼られたシール追いかけちゃうような子だからね。
そうしてないあたり、そこら辺に理性のブレーキがある気がする。
たえも不思議ちゃん的要素が薄れて、思ったより常識的だ。香澄の抑えに回ってたりするし。
やはり芸能界の闇という外的因子が、そうさせたのだろうか。
ただ、ガールズバンド結成とかって割と常識じゃできない行動だから、この常識的になった部分が今後のライブ活動とかにどう関わってくるのかがちょっと考えものだ。
戸山香澄伝説。ここでも作ってくれるのかな……
「わー、初めて見るお店がいっぱいだよ。
ねぇねぇ、このお店とかすっごいよ。なんのお店だろう? すっごくキラキラしてる!」
「わっわ! 香澄ちゃん! そこはっ!」
香澄が電飾の激しい店に吸い込まれていく。
落ち着いてるとか思った途端に、すぐこれだよ!
「キシシ。おおっ可愛こちゃんごにゅうてーん!」
おらぁっ!!
ドガッバキッ!!
「香澄ちゃん、ここはゲームセンターっていってね、変な人しかいないから入っちゃいけないよ」
「変な人? あっ、ホントだ。あの人ゴミ箱に頭から突っ込んでる! 大丈夫なのかな」
「ユニーク」
大丈夫。変な人って丈夫だから。
「でもこがねん、ここ初めてなのによく知ってるね!」
「……まぁね」
前世じゃよく行ったからね……
より変なのが集まってこないうちに、そそくさとゲーセンを後にする。
香澄とたえが離れないように、しっかり手綱を握って歩き出す。
「ぷはーっ」
「……(ジロジロ)」
しっかしここーー旧市街だっけ。ホントガラの悪い奴ら多いな。
コンビニ前でタバコ吹かす奴らとか、ガードレール前でメンチ切ってる奴らとか多すぎだろ。
大通りはまだマシなんだが、道を外れるとそれが如実だ。
これに比べれば俺たちが主に住んでいるーー新市街の治安はずっとマシと言える。
新市街にいる分には、御谷中の生徒はまぁ安全だろう。
ちょっと前までは、隣の宮田中の不良から絡まれることなんかもあったようだが、最近は例の番長ーー是清くんが暴れているようで、それも落ち着いたようだ。
助けてもらったとかいう話も聞いた。
番長ってそういう生物だっけ?
UMAの生態なんか知らんからな。
助けるのはいいんだけど、タカトシとやらにやり込められていたようなやつが、そんなことできる実力あるのかねぇ。
ま、ビッグフットの足のデカさを気にしても仕方ないか。
「あっ、ここ通ったほうが近道っぽくない?」
「うーん、初めての道だから変なトコはやめとこう」
歩いてるとチラチラ脇道が目に入るんだけど、裏道は入ったらやばそうだからね。
行政は何をやっているのかな。道路もゴミとかひどいし風紀が乱れてる。
風紀委員がいたら激おこしそうだな。そんでもってそのまま連れ去られそう。
ここを禁止区域に指定した香澄両親ぐっじょぶだよ。こんなところにいたら処女膜が何枚あっても足りないよ。
できればさっさと通り過ぎたいところだ。
「ぐるぐる先生によるとこの辺なんだけどなー」
現実の聖地と地名どころか地形すら違うから、マップを見てもさっぱりなところがある。
「大社通りはもう一本向こうだから、あっち」
途中から起動していたスマホのアプリだが、位置情報がズレていたようだ。
たえの指差す方に向かうと、大社通りの看板があった。
「ほんとだ。あとはここの道沿いに行けばオッケーか。
でも大社通りっていう割に、近くにお寺とか神社ないんだね」
ちょっと見渡してみても、目立つシンボルが見当たらない。
地図上にもそれらしい記号がなかった。
「お寺、お寺……あ、そういえばこの先の星見の丘って、昔神社があったんだよって、お父さんが言ってた!」
「へー、そうなの? 香澄ちゃん」
「うん。建物は火事で無くなっちゃったからもうないんだけど……ほら、あそこ。あそこのグリーンなところだよ」
香澄の指差す先ーーその先には生い茂る森と小高い丘があった。
この大社通りとやらは、昔神社があったと言われるその丘へ続いているようだ。
その丘はこの辺で唯一星がよく見える場所ということで、最近では星見の丘と言われているらしい。
「森の反対側は原っぱになってて、鳥居だけ残ってるんだ。
ずぅーっと前に、お父さんとあっちゃんと行ったんだよね。あー、懐かしいなー。
今は私有地になっちゃって入れなくなっちゃったんだけど……」
鳥居だけ残った原っぱとか、微妙に怖いな。
神社って、転生してから最も行きたく無い場所の一つなんだよね。
なんせ神の理不尽さを現在進行形で経験してる身だからね。
でも俺って世界で一番神の存在を信じてる存在かもしれない。信心はカケラもないけどな!
「あ、私もそこ行ったことあるかも。変なところだった。
でも来年には何かの建物が建つから無くなっちゃうって聞いたよ」
「え、おたえホント!? そっかぁ……無くなっちゃうのか。
あそこから見える星、綺麗だったんだけどな」
星かぁ。星、星……ってか星見の丘?
「……星の鼓動」
「!? えっ! こがねん何でそれ知ってるの!?」
「え、あ、あ」
やっば。
香澄が星とか言い出したら、つい口をついちゃったよ。
ここだと、香澄は自己紹介で星の鼓動なんて言ってないんだったわ。
星の鼓動なんて単語を、俺が知っていたらおかしい。
「ひょっとして、こがねんも聞いたことあるの? 星の鼓動!!」
「え、う、うん。まぁね、私くらいになると星の鼓動の一つや二つ……」
混乱のあまりわけのわからない回答をしてしまった。
なんだよ星の鼓動の一つや二つとか……刻の涙なみに意味不明だわさ。
「ううっ……やっぱりあったんだ! 星の鼓動!! こがねーん!!」
しかし香澄は目を潤ませて、抱きついてきた。
あわわわわわ。
胸の鼓動を感じるよ!
「よかった! 私がいくら聞いたことがあるっていっても、みんなバカにするし、おたえ以外誰も信じてくれないし……」
「!! ある!! 香澄ちゃん! 星の鼓動はあるよ!! クズなのはこの世界のやつらだよ!!」
若干涙目となった香澄を、俺は必死で慰める。
うーん。この世界バンドリみたいに優しく無いし、クズ多いしバカにされてしまったのか。
自己紹介で言わなかったのは、そのせいもあったのかな。
「でもこがねんも聞いたことあるなら、やっぱり星の鼓動はあるんだね!」
「ソウデスネ」
「しかもこがねんは2回も聞いたんだもん! 私よりずっと聴いてる!星の鼓動マスターだよ!!」
そんなマスターは嫌だ。
どちらかというと胸の鼓動マスターになりたい。
☆
ほどなくして楽器店にたどり着いた。
EDOGAWAGAKKI。うん、アニメで見た通りの店構えだな。
でもちょっと寂れた感じがするような……掃除は行き届いてるんだけど、建物全体からくたびれたオーラが漂っているような……。
フロントガラスも修繕の跡があるし。3Fスタジオも「改装中につき使えません」の張り紙がしてある。
でもそんな感想を抱いたのは俺だけのようで、香澄とたえは店内の楽器を覗き込んで「早く入ろっ!」と息巻いている。
「わぁ……綺麗」
「すごい」
そでを引っ張られるままに中に入ると、さすが楽器店という感じだった。
色とりどりの楽器が飾られている。
管楽器で言えばサックス、マーチングメロフォン、コルネット。
以前は何とも思わなかったかもしれないが、吹奏楽をやって見識が付いてくると、目に入る楽器が頭に入ってくる。
ギターももちろんあるぞ。よしっ!
「あれ、でも店員さんがいないね」
レジにテーブル、商品棚と見回して見ても誰もいなかった。
無人店舗。ぬいぐるみが接客。
イスに乗せられた謎のぬいぐるみが、寂しそうにこちらを見ている。
「留守かな?」
「それはないと思うけど」
「……だから! リィちゃんはゼーッタイっにイヤだかンね!
ここ辞めるなんて絶対イヤなんだからっ!!」
急に二階から女の子の怒鳴り声が聞こえた。でもちょっと涙も混じってそうな様子だ。
そして二階へと続く階段から、声の主が降りてきた。
「ぐすっ……んやーっ、お客さんっ!? ごめんね、変なトコ見られちゃって」
えへへっと頭を書きながら、彼女は照れ笑いを見せる。
イスにあったぬいぐるみを抱き寄せて、恥ずかしそうに顔を埋めた。
「店員さんですか? ずいぶんと若いような……」
若いというか、小さい。
俺たちと同じぐらいの年代。つまりは中学生にしか見えない。
蝶ネクタイにエプロンみたいな制服が、おままごとに見える。
「そうだよ。ちょっーと店長は今、立て込んでてね! あ、リィちゃんはここのバイトなのじゃー」
えっへんと胸を張るバイト戦士、リィちゃん……。
あ、このテンションの高さ。この子がひょっとして鵜沢リィか。
Glitter*Greenーーグリグリのベースだ。
名札を見ると、案の定「鵜沢」の文字があった。
えーと、アニメでは高3だから、今は中3のはずだ。
ずいぶん古参の雰囲気出してたけど、中3からバイトしてたのかよ。
校則緩いなぁ。どこ中か知らないけどさ。
この世界、校則どころか法律すらユルユルだから気にしても仕方ないね。
「それでそれでーー? ありゃりゃ、よく見るとずーいぶん可愛いお客さん!
珍しいねー! 今日は何かお探しかな?」
「あ、私たち御谷中で吹奏楽やってるんですけど、それで楽器を見にきたんです!
お店の中、キラキラでビックリしました! こんなにたくさんの楽器、見たの初めてっ」
香澄が目を輝かせて答える。
「フッフーーーー☆ 結構種類あるでしょ? リィちゃんもここの子達、大好きなのじゃー!!
それにしても吹奏楽? パートは何々?」
「ユーフォニアムです!」
「トランペット」
香澄とたえが即座に答える。
「んむむー、ゆーふぉゆーふぉ……トランペットは棚にあるけど、ユーフォは裏から出さないとねー。確か調整したばかりのやつがあったはずなんだけど。ちょーっち待ってて」
「あ、お金はあんまりないんですけど……」
「ふふっ、そんなの分かってますって。とりあえず見て見てよ。値段の話はそれからってことで!」
香澄が指をもじらせるのを見て、鵜沢リィは苦笑した。
楽器は基本高いから、こんな見るからに中学生3人組が即買いするなど思ってもないのだろう。
それなのに触らせてくれるのを優先するとは、できた店員だな。
裏に回ったリィは、すぐに一抱えしつつ出てきた。
箱から出したばかりのような、新品オーラを醸し出すユーフォニアムだ。
歴代で使い回された吹部のやつより、圧倒的に光り輝いて見える。
「じゃーん! うちにあるユーフォはこれだよ!
他にもいくつかあるんだけど、とりあえずすぐ出せるの持ってきたー」
「ええっ! すっごい! すっごいよ!!」
「んやー、吹いて見る?」
「ええええ、いいんですか!」
「もっちろーん☆ 楽器は吹いてこそだねっ!」
「キラキラだぁ……私、見つけたかもしれない……」
見つけちゃらめぇーーーっ!!!
ユーフォを見た香澄の反応がすっごい!
将来が不安になるレベルで興奮していらっしゃる。
キラキラはーーキラキラ評価はランダムスターのために取っておいてくれ!!
視線をたえに移すと、あっちはあっちで壁に飾ってあるトランペットを見てうっとりしている。
トランペットごときが、たえをギターから寝取ろうとしてやがるっ!
ラッパごときがぁ……っ!
まずい……まずいぞ。インターセプトしなければ。
「おーっと。そっちの君は何にするんじゃー?」
「こがねんはシンバ……」
「ギターを」
言ってはならない単語を香澄が口にする前に、俺は血走った目で要求する。
なにがシンバルだバカバカしい!
香澄の綺羅星はギターがいただくんだ!!
「一番いいギターを頼む」