番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~   作:ふたやじまこなみ

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第16話「番取り!」

「人に正しくありなさい。そうすれば天使様がやってきてくれるからね。間違ったことはしちゃいけないよ、悪魔がやってくるからね」

 

小さい頃バアちゃんは良くそう言って人助けやゴミ拾いをしていた。

 

「うん! 僕悪いことはしないよ!」

 

ガキだった俺はそう言って、喜んでバアちゃんを手伝った。

 

しかし正しいことをしていたバアちゃんはひったくりにあい、打ち所が悪くて死んでしまった。

ひったくりは刑務所からすぐに出てきて、飲み屋で笑っていた。

俺はひったくりを叩きのめし、ーー結局、天使も悪魔も誰のところにも来ないことを知ったのだった。

 

だから俺は是清を潰すのに、手段を問わなかった。

是清の舎弟を捕まえてボコり、それをエサにして是清達のグループを宮田中の旧校舎まで呼び寄せた。

 

俺たちのテリトリーで、こちらは30人。あちらは8人。

いくら是清個人が奮闘しても、結果は見えている。

これが俺が考えた()()()絵巻図だ。

 

だがーー

 

「木村、あれはなんだ?」

 

俺がアゴで刺した先には女が転がっていた。

木村が勝手に連れてきた女だ。是清がボコられるのを見て暴れたため、ついカッとなった舎弟が殴り倒してしまった。

今は気絶している。

 

だが、ここに女がいるのは俺の本意ではない。

 

「あれっすか。三輪希っていって、是清の女っすよ」

「そんなことは聞いてねぇ。だれが連れて来いっつった。俺はそんなこと指示してねぇぞ」

 

不快感をあらわにすると、普段なら怯えるはずの木村は笑みを浮かべた。

こちらを馬鹿にするような不快な笑みだ。

 

「穴澤さんはぬるいんすよ。たがが舎弟を拉致ったところで是清がどうでるかわからねーじゃないっすか。

 こいうのは、もっと確実にいかねぇーと」

「……てめぇ、誰に向かって物言ってやがる」

「おお、怖いっすよ、穴澤さん」

 

木村はおどける仕草をすると共に、開いた胸元をこちらに見せつけるようにした。

そこにあったのは、シルバーチェーン。ただし指輪が通されている。その指輪には、二匹の蛇が絡みつくような意匠が施されていた。

 

「ーーツインズか」

「そうっすよ。俺もそこの一員になれたってワケっす」

 

ツインズーーこのへんの若者を中心に結成されている不良チームの最王手だ。ヤクザの下部組織という噂もある。

メンバーになると二つ蛇の指輪を配られるというが、さっきのがそうなのだろう。

 

こいつの自信はこれが原因か。

 

「ちっ」

「まぁ、別に穴澤さんと敵対したいわけじゃないっすから、気にしないで下さい。

 ただーー俺は俺のやり方をさせてもらいます」

 

木村のやり方ーー無関係の女子供を人質にとるのが、こいつのやり方か。

俺は悪だが、こいつはクズだな。

 

状況は決している。是清たちは抵抗することもなく地面に転がり、木村のおかげでこちらの被害はゼロだ。

しかし、俺はここまで一方的な展開を望んでいたわけじゃなかった。

 

悪とクズは違うーーいや、同じか。こいつも俺も。

 

どんな手段を使おうと、どのような思惑がもたらそうと、この世には結果だけが残る。

是清が何もできずにサンドバッグになって転がっている。それが結果だ。

 

かつて是清と対峙した時、俺は是清の生き方に憧れたこともあった。

しかし同時に俺には出来ない生き方だとも分かった。

是清は正しく生きたかもしれないが、その結果がこれだ。

 

やがて集まったこいつらが是清の相手に飽きた時、一方的な暴力で高ぶった加虐性がどこに向かうかはいうまでもないだろう。

 

そしてそれを咎めるものはどこにもいない。

 

いないーーと思っていたが。

 

ドゴンっ!

 

突如として鳴り響く轟音とともに、教室のドアが弾け飛んだ。

その前に控えていた不良とともに、散り散りに粉砕されたカケラが転がっていく。

 

「めっちゃ軽い扉ですねー。腐ってるのかと思いましたよ。まぁそもそもこの世界が腐ってるんですが」

 

不遜な表情で誰かが入ってくる。

 

女だ。目立ちは整っているが、幼い。

だがただのガキではないーーそんな気がした。

 

「てめぇ……誰だ」

 

そして悪魔は名乗った。

 

「ゴールドェ……ゴホンゴホン!! クズに名乗る名前はありませんね!」

 

 

あぶねーっ!

 

また変な名乗り方するとこだったよ。

小学生の頃、一時期調子に乗って「やっちゃえゴールドエクスペリエンス!」って掛け声かけてたから癖になってんだ、名乗るの。

 

ちらりと三輪先輩を見遣る。気絶してんな。是清は丸まっとる。死んだか。

うんうん。俺の名乗りを聞いてないようで何より。

クズどもはともかく、知り合いに聞かれたら悶絶もんだからな。

 

三輪先輩もたいした外傷は無いようだな。

 

はぁ。それにしてもこれほど気乗りしないカチコミは久しぶりだよ。

今もまだ本当にここに来る必要があったか、疑問がグルグル回ってる。

 

でもあの様子じゃあ、三輪先輩来なくなったら香澄にメンタルダメージいきそうだしなぁ。

 

しかしなんでもかんでも助けられるワケでは無い。線引きを改めて考える必要があるな。

ポピパメンバーなら助けるのは当然として、その家族の危機なら? とか、クラスメイトなら? とかね。

その他の原作キャラならどうするか?

グリグリは……ロゼリアは……ハロハピは……なんか際限なく出てきたぞ。

頭痛くなってきた。

 

「高木と鈴木が見張ってたはずだが、どうした?」

「その2人なら俺の横で寝てますよ」

 

指差した横には、すでにぶん殴った2人が倒れていた。高木だか鈴木だか知らんがな。

今度は正しく使えたぞ!

 

「なんでガキがこんなところに?」

「高木と鈴木がやられたってマジか? こんなガキに?」

「こいつの制服、御谷中だぞ。是清たちの援軍か?」

「ジョーダンだろ。ただの女さ」

 

不自然な俺の登場に、えらく場が騒がしくなった。

い訝しげな視線のやつのいれば、俺の体を見ていやらしい笑みを浮かべる奴もいる。

でも全員クズってとこは共通している。

 

「穴澤さん、あの頭から花生やした女ひょっとしてーー」

「ああ、木村。お前の言っていた奴か」

 

今「穴澤」と呼ばれた、奥で偉そうにしてるのが隊長格かな。

室内にいる宮田中の奴らは……30人か。御谷中の是清グループは10人くらいいたみたいだけど、みんな伸びてるね。

現状、30対1ってわけだ。

 

ま、なんとかなるでしょ。

そう、俺は伊達に頭がお花畑ではないのだ。

 

「おい、このクソガキ。何笑ってやがる」

「はいはい。汚い手で触らないでくださいねー」

 

すぐ横でアホズラ晒してたバカが掴みかかってきたが、ひねって交わしてぶん殴ってやった。当然のように教室のハジまで飛んでいった。

 

相変わらずゴールドエクスペリエンスはすごいなぁ。

人間の飛び方ではない。

 

「なっ!」

「……は?」

「…………っ!!」

 

ピンボールみたいな飛びっぷりに、周囲は固まっている。

だが穴澤だけは動じず鼻白む。

 

「ふん。その体躯でその威力。前に知り合いの格闘家に見せてもらったことがあるなーー八極拳か」

 

……どうしてこいつらはすぐ中国拳法に結びつけるんだろう。

憧憬でも抱いてるんだろうか。ちょっと夢見すぎじゃない?

 

「よく分かりましたね。これはマジいカル八極拳といいます。私がマジ怒った時にだけ使えるんですよ」

 

「!! こいつ、バカにしやがって!!」

 

適当に答えたら、流石に適当だとわかったのか、一気に周囲が憤慨し出した。

高山で沸かしたお湯みたいに沸点が低い。

バカって度し難いなぁ。

 

「う、げほっ……お前、こがねか」

 

あ、生きてたんだ。

 

周囲の怒号が刺激となったのか、近くに転がっていた是清が立ち上がった。

暴行にうまく対応していたのか、思ったよりダメージが少ないようだ。

 

「お前なら任せられる……今なら奴らの手から離れている。希を頼む」

 

不屈の闘志で立ち上がった是清が不良を睨み付けると、穴澤を含めた宮田中の奴らは緊張しだした。

 

指差す是清。

たしかにそっちには、三輪部長絶賛放置中になってるけどさ。

 

任せられる……って、まさか俺とお前が共闘すると思ってんの?

 

俺と?

お前で?

 

このクソみたいな状況って、誰が原因か分かってる?

 

「はぁ」

「?」

 

俺はこれ見よがしにため息を吐くと、疑問符を頭に浮かべる是清を思いっきり殴り飛ばした。

是清もまた、先ほどの不良をなぞるかのようにピンボールとなった。

 

壁にぶつかってバウンドしたが、こいつはそれだけじゃ容赦しない。

俺はすかさず追撃し、是清の顔面を蹴りまくった。

 

「誰のせいで俺がここにきたと思ってんだこのクソレスラーが!!!

 お前アホなの? 死ぬの?

 番はってるだかわけわかんないこと言ってたけど、その結果がこれかよ!

 守れてない! 全然守れてないじゃん!!」

 

ここにいる連中全員がどうしようもないクズだけど、諸悪の根源は間違いなくこいつだ。

こいつが番長ごっこしてるから、いざこざを引き起こして、結果俺も巻き込まれているのだ。

そして当人はその自覚がかけらもないまま、勝負だか戦いの続きだかをしようしている。

正直、一番ムカつくのはこいつである。

 

俺はつま先が是清の返り血で真っ赤に染まるまで、ひたすらに蹴り続けた。

 

周囲からのちょっかいはなかった。あまりの凶行に唖然としているようだ。

 

「……お前、是清たちの仲間じゃないのか?」

「はぁ? なんで俺ーー私がこいつの仲間何ですか。こいつがどうなろうとしったこっちゃ……ありますね」

 

白目で血まみれ歯が折れて泡吹いた是清を見て、ようやく冷静さが戻ってきた。

そういや、三輪部長の他にこいつも無事じゃないといけなかったんだわ。

まぁ、ゴールドエクスペリエンスで治るだろ。うん。

 

「一応聞きますけど、これで私たち帰りますって言ったらどうします?」

「許すわけねーだろ」

「なんなんだよ、てめーわよっ!」

「ひん剥く。絶対にひん剥く!!」

 

向こうも冷静さをとりもどしたのか、瞬間湯沸し器のようにあっという間に、再び怒りのボルテージが上がった。

 

やっぱり沸点が低い。

けどさっきの自分考えると、なんかこいつら馬鹿にできない気がしてきたよ……

髪の毛を馬鹿にされた仗助みたいなキレ方をしてしまった。

 

朱に交わればなんとやら。俺もこの世界に毒されてしまったのではないだろうか。

クズだクズだと叩きのめしてるうちに、ひょっとして俺もまたクズになっているのではないだろうか。

 

なんかこういうの差した格言があったよね。

ニーチェがカッコイイこと言っていたはずだ。深淵がどーたら。なんだっけ?

 

えーとたしか、深淵を覗くとき……そう! 「深淵を覗くとき、深淵を覗いているのだ」!

ぐぅカッコイイ。

 

さてと、ではこいつらに深淵を覗いたことを後悔させてやるか。

 

場は第二ラウンド開始の様相を見せていた。

 

「お前たち、油断するなよ。今の様子をみると、是清の仲間じゃない。

 だがおそらく、タカトシたちを潰したのはコイツだ」

「…マジかよ」

「は? こんなガキが? ジョーダンでしょ穴澤さん」

「いや、見ろや穴澤さんの眼をヨォ。本気だぜ」

 

穴澤の言葉に半信半疑で騒然となったが、基本的に信じたようでこちらを睨む目つきが鋭くなった。

普通に考えたら俺みたいな見た目じゃ疑うのが当然なんだが、油断がなくなっている。

これが一種のカリスマなのかな。クズでも人望ってあるんだな。

 

奴らは思い思いのポーズを取ると、こちらを包囲するような陣形を取り始めた。

俺は黙ってそれを見送る。

 

さて、今回はどう処理しようかな。

人数も多いし前回の作業量を考えると、全裸土下座撮影会を再び開催するのはめんどくさい。

それに今日は一仕事して不殺の誓いを破ってしまったから、働きたくないでござる。

 

こんな時はアレか。

 

「あれ、こないんですか? ではこちらから行きますよ。

 ちなみに、今回はあまり時間をかけたくないので、こいつを使おうと思います。

 最初に言っておきますが、めちゃくちゃ痛いと思いますので、覚悟して下さいね」

 

握った拳をアピールするが、案の定分からないようだ。でも大丈夫。すぐに体で分かるから。

 

無言で右斜め後方から忍び寄って来る奴に気がついた。まだ舐められているのか取り押さえるつもりらしい。

こっちの見た目、中1女子だし普通はいきなり殴りかかられないか。

 

最初の犠牲者はこいつにしよう。

 

伸ばされた右手を掴み取ると、引き寄せながらストレートをお見舞いしてやった。

ゴールドエクスペリエンス上乗せで。

さらに、あのチカラを上乗せして倍満だ。

 

俺がただこいつをパンチしただけ。そう見えたに違いない。

だが光景は一瞬でーーしかし変化は劇的だった。

 

「ぎぎぎぎぎ、ぎゃあああああああああああああ! いでぇぇええええ!!!

 いでぇぇぇええよぉぉおおおおお!!!」

 

殴られた男は体を痙攣させながら転がり周り、痛さのあまり絶叫しだした。

 

「いでえぁああぁえぇぁあああ!!!」

 

止まることのない悲鳴が断末魔のようだ。

ただ殴られただけとは到底思えないリアクション。

 

実際、クソ痛いはず、だけどね。

はずというのはコレを食らったことは俺はないから。

 

「ふふ。痛みを1000倍にする秘孔をつきました。彼は今、地獄の痛みを味わっています」

 

と、俺はシャフ度でそう言った。

もちろん大嘘である。

なんだよ1000倍って。テキトーにもほどがあるわ。

 

でも秘孔だの好きそうだしね。

こういうのはそれらしきを言って、欺瞞しておくことが大事なのだ。

 

これはゴールドエクスペリエンスの能力のひとつ。

作中ではこの能力について明確な名前を与えてはいなかったが、俺は便宜上「感覚暴走」と呼んでいる。

 

ゴールドエクスペリエンスは触れた無機物に生命エネルギーを流し込むことで生物を生み出すことができるが、元々の生物に生命エネルギーを流し込むと、感覚や意識を暴走させることができる。

感覚が暴走するとその者の体感時間が非常にゆっくりになり、感覚が鋭敏になる。その結果、感覚暴走中にダメージを受けた場合、実際の何倍もの痛みとして味わうことになるのだ。

 

その痛みは経験したことがないのでどれくらいか分からんが、これを食らった某ギャングのブチャラティ氏は、これを数発食らえばショック死するとまで断言している。

暴力と隣り合わせで生きているギャングがそういうくらい何だから、相当なもんだろう。

 

現に先ほどの彼は、最終的に殴られた頬を押さえたまま、白目になって失禁してしまった。

中学生といえど、半分大人だ。それが失禁するんだから、相当痛かったんだろうなぁ。

それが伺いしれる様子に、奴らは何が起きたかわからないながらも顔を青ざめさせている。

 

「秘孔だと……っ!」

「ええ。全員に味わって貰いますよ♪ 次は君ね」

「ぎえぇぇぇぇええええええええええ!!!!」

 

さらなるプレゼントを提供すると、また1人叫びながら倒れていった。

喜びのあまりってやつだな。

 

でも、他のみんなはちっとも嬉しそうじゃない。

誰もが絶対に貰いたくないって顔してる。

でも残念でした。これ全プレだから!この場にいる皆様に、ログインボーナス!

 

「お前らぁ! 物使え!! 囲んで一気に行け!!」

 

未知なる恐怖に追い立てられたのか、角材や鉄パイプなんか持ち出してきた。

幼気なJCに乱暴だなぁ。

 

「でもこういう時、なんて言えばいいか。私知ってますよ。

 そう、無駄無駄無駄ぁっ!!!」

 

それからは特筆すべきことは何もなかった。

得物を持ち出してこちらの攻撃範囲から外れようとしているみたいだけど、秘孔とかパンチを装っているが実際に殴っているのはゴールドエクスペリエンスだ。リーチの差などあってないようなものである。

 

数発くらいもしたが、全てヤイバの鎧で跳ね返したので問題なかった。

伊達に身体中から草生やしてるわけじゃないんですよ? 脱いだら大草原不可避。

 

無駄無駄無駄ラッシュ後、気が付いたら穴澤を残して全員が地面に倒れていた。

穴澤は血が出るほど拳を握りしめ、睨みつけている。

 

「これがっ! これがっ! これが報いなのか……この悪魔めっ!」

「悪魔でいいよ……悪魔らしいやり方で、話を……話は別にいいや死ねっ!」

 

振りかぶる拳。

 

ドゴォ!!

 

そして穴澤もまた、死ぬほどの痛みの海へと沈んでいいった。

穴澤は不良どものボス猿だけあって、是清とはいかないまでも大分鍛えていたようだ。

しかしそれもスタンドの前では、大猿か子猿かの違いに過ぎない。

呆気なく終わった。

 

しょうりとはいつもむなしい。

 

第2部完っ!!!

 

「ゴールドォォォオ! 動くなぁぁぁああ!!」

 

せっかく俺が勝利宣言をあげて浸っていたのに、水をさされてしまった。

振り返ると金髪の男が気絶した三輪部長を抱き上げて、ナイフを首筋に当てていた。

 

えーと、こいつは確か穴澤の隣にいたーー木村とか言ったっけ。

 

「動くんじゃねぇぞ……動いたらこの女がどうなっても……ヒヒヒ」

 

血走った眼で月並みなことをいう。

全員ノシたと思ったが違ったようだ。おそらくやられていく仲間たちをみて恐れをなし、乱闘に紛れて三輪部長のそばまで忍び寄っていたに違いない。

 

卑怯だな。しかし実に正統派な不良だ。

 

「別にどうなってもいいですよ? そんな女、私は知りませんし」

「ごまかそうったって、そうはいくかよ。この女がお前の部活の部長だってことは調べが付いてんだ」

 

うーん。

 

最初のこいつと穴澤との会話といい、どこからか俺がタカトシをやった話が漏れてるようだな。

別に完全に隠せるとは思ってなかったからいいが、どこまで広がっているのか気になるところだな。

発信源は後日改めてこいつから聞くとするか。

 

「よくご存知のようで何よりです。

 ではもう一つ私のことを教えてあげますね。

 このこがねが、人質なんか気にすると思いますか?」

「お、おい。まさか……っ!」

 

冷や汗を浮かべる木村に、俺は飛び込んでいった。

木村は三輪部長の首元にナイフを当てつつ、盾になるようにした。

 

だが関係ない。

 

俺は部長の体ごと、木村を殴り飛ばした。

木村は当然分かっていないが、俺はいつも殴るモーションを取っているだけで、実際に攻撃しているのはスタンドである。

 

だから俺は、三輪部長を自分の腕で殴ったが、スタンドの攻撃は木村の腹に叩き込んでやった。

部長も多少ダメージを受けたかもしれんが、所詮は非力な女子中学生のパンチなので我慢していただきたい。クビにナイフがかすったようだが、こちらもゴールドエクスペリエンスで手当てしたので問題ないね。うん。

 

俺は咳き込む木村の前に立ちはだかった。

 

「ま、待って!!」

「待ちませーん♪」

 

こういう卑怯な奴は根っこが藤木だから、絶対にまた繰り返す。

ことが終わった後、根に持って復讐だ!とかいい出すのも、大抵こういうやつ。

正統派な不良には、正統な対処をしてやろう。

 

「だから無駄無駄いきます」

「さ、無駄無駄ってまさかアレをっ……やめろっ! 俺はツインズだぞ! やめろやめろやめてっ!」

 

ギャングが数発食らえばショック死するという痛みを、はたして君は何発耐えられるかな?

 

………

 

……

 

三輪部長が気絶している間に全てを片し、是清も無事ーーじゃないけど生きてる! 十分な結果であろう。

これにてミッションコンプリート。

 

これで後は「明日の朝、そこには元気になった是清と三輪部長の姿が」ってなってくれれば、香澄も大満足であろう。

できればさらに是清が「もう不良なんてやめるよ!」って言ってくれるとなお嬉しい。

 

今度こそ、勝利宣言。

 

最後に立つのはいつも俺1人。

周りは死屍累々であった。

 

「ぐぅ……見事なものだな」

 

気が付いたのか是清が目を覚ましていた。

いつから見ていたのかな。

しかし立ち上がる気力はないのか、壁を背に座ったままだ。

 

「まさか1人で奴らを全員倒すとはーー希も無事か」

 

腫れた眼で教室を見渡し、そう弱々しくこぼす。

不良なのに謎の正義感を発揮する男はうなだれている。

えーと、そうか。こいつはマタマモレナカッタしちゃったんだったな。

 

うーん。

硬派ってほんと理解できない。

 

正義ごっこしたいなら、不良やめればいいのに。

道を外れてもスジを貫く俺カッコイイなんだろうか?

でも道外れてる時点で、そのスジの行く先は明後日の方向だよね?

カタギに迷惑をかけないっていうヤクザみたいなもんか。

 

「あなたが弱すぎるんですよ。そんなに弱いなら不良やめたほうがいいんじゃないですか?」

「そうだな。奴らだけじゃない。倒したのは俺を含めてーーだったな」

 

なぜかフツフツと笑い出す是清。

 

「いいだろう。誰も守れない俺に、番はふさわしくないな」

「だ、大丈夫ですか?」

 

突然笑い出してキモイんですけど。なんか変なこといいだしたし。

やべぇ。頭打ったか? 打ってるね。めっちゃ蹴ったわ。ゴールドエクスペリエンスで治るかな?

 

「思えばお前はタカトシを下し、俺を倒し、そして宮田中を潰した」

 

まぁ、倒したかな。

 

「御谷中を守るのに、これ以上ないほどの力だろう」

 

んん?

 

「だから……番を譲ろう、ゴールド」

 

は?

 

「今日からお前が番長だ」

 

そして俺は番長になった……

 

「ってなるわけねーだろ!!!」

 

俺はもう一辺是清をぶっ叩き、スケキヨみたいに木の床から下半身をはやさせてやった。

そうしてさっさと三輪部長のみ回収して、その場を後にした。

 

しかし何が番長だよ。

勘弁してくれよ。

 

これってバンドリだよね?

番取りじゃないよね!!!!???

 


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