番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~ 作:ふたやじまこなみ
つい先日、こんなことがあった。
とあるカラオケ店でのことである。
「わー! こがねん、歌上手だね! すっごくキラキラしてて、私ドキドキしちゃった!
こがねん、やっぱりバンドのボーカルやるの? えーとなんだっけ? トップになるんだっけ?」
「え゛! や、やだなぁ。香澄ちゃん。そんなわけないでしょ!
ボーカルなんてとてもとても。私に出来るのはせいぜいシンバル叩くぐらいだよー。
こがねシンバル叩くの大好き!!
そ、それより私、香澄ちゃんの歌が聴きたいなー」
「うーん。私あんまりカラオケって来たことないから、何歌っていいか分からないなぁ。
オリジナルな曲ならあるんだけど……」
「例えばコレ! これだよ! きらきら星!! 私、香澄ちゃんのきらきら星聞きたい!
歌って! お願い!!(切実)」
ガチャッ
「おおお! やっぱあの子達この部屋だったよ!!
さっきレジ前で見かけて気になってたんだよね! ちわーっす!」
「ホントだ! 女の子ばっかじゃん! かわいーっ! こっち男ばっかでーっす!
一緒に歌いませんか!? 俺のマイクで。なんつってー」
「ここ監視カメラないから、大騒ぎできるから安心して楽しもうぜー」
「……香澄ちゃん、ちょっと待っててね。すみません、皆さん。
私がみなさんをもてなしますので、ちょっとあちらでお話しいいいですか?」
「マジ!? 美少女のおもてなしキターっ!!」
……バタン
ガチャ……バタン
「あれ? こがねん、さっきの男の人たちは?」
「なんか部屋間違えてたみたい。プレート見せてもらって、別の部屋に案内したよ」
「あ、そうなんだ? 突然入って来てビックリしたけど、あわてんぼうだね」
「ふふ。そうだね」
「……ただいま。なんか隣の部屋で店員さんが騒いでたけど、何かあった?」
「おたえ、おかえりー、ドリンクありがとー。え、何かあったのかな?
こがねん知ってる?」
「……隣の部屋で男同士で裸で抱き合ってるのが見つかったみたいだね」
「何それこわい」
☆
こんなこともあった。
香澄が家の用事で早退し、たえと二人で夜道を帰宅中のことである。
「今日のホームルームはビックリしたよね。
となりの中学校の用務員さんが、ハチにさされて亡くなっちゃったから、皆さんも気をつけて下さい、とか……ハチって怖いね、たえちゃん」
「……そうだね」
「? どうしたの? たえちゃん、私の顔なんか見つめて」
「なんでもない。でも、こがねはちょっと嬉しそう」
「そんなことないよー。あはは。
あと、最近ロングコートをきた不審者が出てるみたいだから、家には早く帰るようにとも先生が……」
ササッ
「ヒヒヒ。お嬢ちゃんたち、ちょっといいかな?」
「……なに?」
「いいものを見せてあげよう。それはね……これだぁぁぁぁああああ!!
あ、あれ? モノがねぇ!! 俺のものがねぇぞおお!! いでええええええええええ!!!」
「またつまらぬものを潰してしまったか。
ささ、たえちゃん。こいつきっと不審者だよ! 逃げよう逃げよう」
「え、うん」
☆
こんなことも。
「香澄ちゃん、おまた~。じゃあ早速ショッピングに出発しようか……って、あれ?
その手に持ってるのなぁに?」
「あ、こがねん! えーと、これはね、こがねんを待ってたらサングラスかけたお兄さんがくれたの!
なんか飲むとキラキラできるんだって! お試しなんだって~」
「え”っ!! ちょちょちょっと貸して……っ!!
ペロッ……これは麻薬っ!?」
☆
「フヘヘへ。一緒にいいとこいこうや」
「フーフー。お嬢ちゃんたち、いくらかな?」
「天国へ行く方法を教えてあげよう」
……
「まったくどーなってんだよ! この街はよぉ!!!」
俺が怒りの衝動をぶちまけると、ゴールドエクスペリエンスさんもシンクロしてしまった。
手近にあった机が飛んでった先で壁にぶち当たり、ガラス細工のように粉々になった。
粉々である。木製なのに。
いかんいかん。
落ち着け、KOOLになれ円谷こがね。COLDでもGOLDでもない。KOOLにだ……
「まぁ、落ち着け、ゴールド」
「誰がゴールドだ! このスケキヨがぁあああ!!」
したり気な顔で是清が諌めてきたので、またもや思わず奴の上半身を逆さに床に埋めてしまった。
うお、またやっちまったよ。綺麗に逆さになった。だが謝らんぞ。
こいつプロレスラーみたいな上半身にやたら筋肉がついた逆三角形の体型してるから、そっちの方が安定してるんだよね。
重力に逆らわずさ、地球に優しい人間になれよ。
それにこの迎賓館の床はボロいから、大したダメージは無いと思う。
しかし是清の舎弟どもは、一連の流れを見て震えていた。
こいつらは是清の強さを知っている。それを一瞬でノした俺。
どうみても恐怖政治であった。
「そうした輩から生徒を守るのが、俺たちの仕事だ」
「……ふん」
床から這い出した是清が知ったような口をきくが、仕事では無いと思うよ? 俺たち中学生だよね?
レスラーみたいなお前見てると忘れそうになるけどさ。
でもこの世界、マジ警察とか役に立たないからなぁ。
不良漫画とかで警察が仕事したシーン、見たことある?
ないよね? あんな感じ。
残念ながらこの世界に自浄作用はない。
放っておけば腐っていくだけである。
俺は小学生の頃、この世界の浄化方法としてチョコボール理論を実践していた。
その実践っぷりたるや、熱心な研究者ーーいや信者といっても良かった。
チョコボール理論とは、とあるお侍さんが考え出した世直し理論である。
それは、まず1個のチョコボール(悪人)を叩き潰す。するとチョコボールの容器から、よくもやったなと次のチョコボールが出てくるので、それも叩き潰す。すると次のチョコボールが……と次々に出てくるのでそれを次々に成敗していくのだ。
するといずれチョコボール箱は空になるので、それをもって世直し完了といった理論だ。
実にスマートでわかりやすい理論といえよう。
しかし世の中、そうそううまくいくものでは無い。
この世界のチョコボール箱はめちゃくちゃ巨大だった。というより、悪人・不良・クズ・DQN。雨の後のタケノコのように次から次へと生えてくる。
倒しても倒してもキリがなかったのである。
小学生卒業をもってチョコボール理論に見切りをつけた俺は、仕方ないので中学入学を機に、事なかれ方式へと切り替えることにした。
それは出来るだけトラブルは避け、もし関わってしまったとしても後腐れのないよう工夫をこらすものである。
道端に落ちているチョコボールは避ける。近寄らないようにする。ま、犬のフンと同じ扱いだな。
だが、やはりこの世界は甘くなかった。
必死にチョコボールを踏まないように歩いていても、そこら中から湧いてくるのである。
俺だけならなんとか避け続けられるかもしれないが、香澄やたえにそれを強いるのは酷というものだろう。
そんな酷なことはないでしょう。
ここにいたり俺はようやく、こいつらがチョコボール箱から出てくるのではなく、この世界がチョコボール生産工場であったことに気がついたのだった。
今はまだいい。香澄とたえだけなら、なんとかなる。
しかしポピパのメンバーには加えて有咲にりみに彩綾とまだ3人もいるのだ。
全員を守りきるには手の数が足りない。ゴールドエクスペリエンスさんを入れてもな。
つまり香澄たちを守りきるには、抜本的な行動指針の変更が必要ということだ。思考のパラダイムシフトって奴だな。
中長期的にポピパメンバーを守りつつ、最終的にはチョコボール生産工場を廃業に追い込むようなーー
とりあえずその一環として、是清たち番長グループを利用することを考えついた。
6月のあの騒動は世間的には、是清たち御谷中の番長グループが義憤に駆られて宮田中に乗り込み、穴澤たち不良グループを一掃したということになっている。
俺の名前は表に出てない。
その結果として、宮田中の不良が御谷中の生徒に絡むことが全くなくなった。
以前は、お互いの中学の不良がお互いの一般生徒に絡み締め上げるといった、イジメ、カツアゲ、暴行行為が横行していたが、是清が両校のトップになることで、それらがなくなったのだ。
この街でもいっそう素行の悪い2校が静かになったので、他校も荒ぶることがなくなった。
少なくともこの街の中学生間では学校同士の争いもなくなり、平和になったのである。平和万歳。
是清たち番長グループの評判はうなぎ登りとなった。
あいつらはただの不良じゃないよ。いい不良なんだよと。
なんだそれ。
不良にいいも悪いもあるわけねーだろ! 雨の日の捨て猫に傘さした不良みたいな扱いにすんじゃねーよ。
こいつらはただのクズ!!
しかし俺はこれを見て気付いたーーこれは使える。
中学校間だけとはいえ、たしかに治安は良くなったのである。少なくともこの近隣で不良に絡まれる頻度は激減した。
つまりこれは香澄やたえが俺の目を離れたところで単独行動していたとしても、より安全になったのだといえる。
安全保障面から考えても理想とすべき展開だ。
そう、俺に足りなかったものは、手数。
必要なのは人員、そしてエリアカバー力。
是清たちを使うことで、それを補えばいいのだ。
目には目をクズにはクズを。ハムラビ法典から理念と違うと文句言われようが、それを実践するのだ。
最終的にクズが対消滅してくれると、こがね嬉しい。
そして番長グループにそれを穏便に相談しにいったらーー
やりたいなら相談じゃなくて命令しろと言われた。
そう、俺はすでに影番となっていたのだ。
通称ゴールド。あの時の変な名乗りを、こいつらは聞き耳立てたらしい。
この街の学校不良のトップに君臨する、知る人ぞ知る不良オブ不良。
番長を影から操る存在ーー影番。それが俺。
何がゴールドだよ。ニューヨークギャングの殺し屋みたいなあだ名つけんじゃねぇ!
その話を聞かされた時にも、思わず是清をスケキヨにしてしまったね。
地面がコンクリだったから、危うくホンマモンの殺し屋になるとこだったわ。
そしたら、実は俺がトップってあるってことに不満そうだった是清の舎弟も、一瞬で押し黙ってしまったよ。
思えばあれが恐怖政治の始まりでしたね。
まぁいいや、都合のいい手駒が手に入ったと思おう。
そして是清グループを招集し、現在迎賓館にいるというわけだ。
迎賓館とは初日に俺がお招きされて、全裸土下座撮影会を開いた場所である。掃除させたのであの時よりグッと綺麗になった。
使用者が誰もいなくなったので、ちょうどいい基地として使うことにしたのだ。
え? タカトシたち? なんか後日家庭訪問したら学校来なくなっちゃったみたい。
なんでだろうね。こがね知らなーい。
「それで? ツインズだっけ? 調査進みました?」
「ああ、穴澤から報告が来ている。これだーー」
渡された調査書と思しき紙束には、ミミズがのたくったような字がかかれていた。
これは高度な暗号なのだろうか……
全く。字が汚いなら、メールで送ればいいものを。
穴澤の字かな?
字の綺麗さと人間性は比例すると聞いたことがあるが、どうだろうね。俺は否定派なんだけど。
「メールできたものを、俺がまとめた」
「……」
字の綺麗さと人間性って比例するんだなぁ……
ちなみに宮田中の番長だった穴澤も、是清グループの舎弟となっている。
是清グループのというより、反応が俺の舎弟っぽいけど。
感覚暴走の威力ってすげぇわ。
痛みによる恐怖が染み付いているのか、お願いすると何でもやってくれる。泣き笑いの表情で、顔を高速上下運動させる。
何でもやるって言いながら、頭そんなに振られると気持ち悪いんですケド。
いかつい顔でそんなことやられても嬉しくない。夢に出そうだ。こりゃ淫夢じゃなくて悪夢だよ……
それで俺は奴らに、ツインズとかいう不良グループの調査を命じていたのだ。
ここら辺一帯の不良による被害が激減したといっても、それはあくまで中学間の話。
この街には中学校の枠にとらわれない不良チームがいくつもあり、そいつらは未だにのさばっているのが現状である。
こういうのが深夜徘徊していると安心してグッスリできないから、いずれ掃除する必要が有る。そのための下調べということだ。
その中でも代表的なのがツインズと呼ばれる不良グループだ。2匹の蛇をマークにした結構な規模らしい。
このチームのメンバーは中学生だけではなく高校生も参加しているーーというより、中学にも高校にも通ってない奴らが主となって構成しているチームのようだ。
社会からつまはじきにされたーーというか望んでレールから外れていったろくでなしどもの集合体ということだな。
お願いと称して、おきまりの恐喝やら金品のまきあげやらを行うらしい。
これだからツインズは……やっぱお願いされるならティーチャーだよな。
社会からドロップアウトした爪弾きのクズどもである。
そのまま人生からもドロップアウトしてくれりゃいいのに。
「穴澤グループのの木村とかいう奴が、ツインズのメンバーだったらしい」
「ほむほむ」
あの金髪か。最後にしなくてもいい愚行を犯した。
俺相手に人質とるとか、木村ってほんとバカ。
「お前のアレで……正気に戻ってないようだ」
「逝ってしまいましたか。円環の理に導かれて……」
おいたわしいことだ。ぜひ来世で更生してほしい。
まぁ来世ってロクなもんじゃないけどね。太鼓判押してもいいよ。
もう2、3発手加減すべきだったかな? 焼け石に水か。
今もまともな意識があるなら、感覚暴走をたてに脅迫できたんだが、これでは奴からツインズについての事情聴取できんな。
しかしそうなると調査はどうしようか。
その辺にいるの片っ端から捕まえて、ごーもんするって手もあるけど、今の所そこまでアグレッシブには攻める必要ないんだよね。
ツインズの件はそこまで優先順位が高くないんだ。とりあえず放っておこう。
料理にたかるハエみたいな奴らだ。どうせ放っておけば嫌でも向こうから寄ってくるだろう。