番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~ 作:ふたやじまこなみ
6歳になったとき、俺のそばに佇むように、それは現れた。
人型のマネキンのような滑らかな肢体は金色をしており、体のあちこちに謎の球体が埋め込まれたような丸みを帯びた外見をしている。
明らかに人間ではない。これはスタンドだ。
その名の通り、いつもそばに寄り添う存在ーースタンド。
そうゴールドエクスペリエンスである。
あちゃー、とうとう出てきちゃったかぁ。という感じだ。
ジョジョにおいてスタンドの発現は精神力に依存するため、人によりその時期はまちまちだという記述があった。
転生した俺は、精神はすでに成熟しているはずだから、最初からいるのかと思ったけどスタンドの姿は、これまで影も形もなかった。
なので、違うかもって期待していたのだが。
ーー神様だの芸能界の闇だの、俺がレクイエムされるだのとか、全部冗談だったのかも、と。
しかし、こうして記憶もって転生してるんだし、甘かったな。楽観が過ぎたようだ。
神はいたし転生もした。そしてスタンドもあった。
つまりこのままでは、俺は本当にゴールドエクスペリエンスレクイエムされてしまうのだろう。
転生後の俺の名前は、「円谷こがね」という。
そう、なぜか女の子になっていた。
いわゆるTS転生である。
は? なんで女!?
なんでTSしてんの!?
意味のないTSはヤメロ!!
混乱しつつも泣き喚いた声は、オギャーに変換された。
最初はめちゃくちゃ混乱した。
しかし6年も経てば流石に慣れる。というか達観する。
このTSに意味はあるんだろうか……とか考えたりもしたけど、あの神のことだから何も考えてなかったのかもしれん。
男の俺がメンバーに近づくのが許せん、とかいう身も蓋もない理由もありえる。
しかしバンドリ世界で行動することを思えば、女の子であるのが一番かもしれない。
作品の舞台は花咲川女子学園高校ーー女子校だ。
ゴールドエクスペリエンスを使ってポピパを守るというのなら、同じ高校に通えねば話にならんからな。
改めてゴールドエクスペリエンスをみてみる。
てんとう虫がモチーフになっていることもあって、いっそ昆虫とか爬虫類とも見紛うような容貌だ。しかし俺を見下ろすその眼差しには、どこか優しさがある。
ゴールドエクスペリエンスは成長すると作中最強レベルのスタンドとなり、禁断の力・レクイエムを手にいれる。
軟弱な俺の心に、最強の力が宿ってしまったということか。俺に黄金の精神とかないんだが……。
今は優しげだが、神のミッションに失敗したら、こいつにレクイエムされちゃうんだろうか。憂鬱だ。
Q:レクイエムされるとどうなるの?
A:永遠に死に続けることになるよ!
永遠に「死」を与えられるとはそのまんまの意味で、殴られて死んだと思ったら、次の瞬間トラックに轢かれて死亡。と思ったら次の瞬間海に落ちて溺死。と思ったら次の瞬間爆弾が爆発して爆死。と思ったら次の瞬間ーーといった感じで、本当に永遠に死に続けることになる。
終わりのないのが終わりと評されるのは、伊達ではない。いうまでもなく極刑よりひどい最期となる。13階段登った方がなんぼかマシだよ。
ジョジョでこれを食らったのは、ラスボスのディアボロさんだけである。
ディアボロさんは外道ギャングであるからレクイエムされるのはしょうがないにしても、これをパンピーの俺に食らわせるとかのたまうあの神こそが、真の外道ーー吐き気を催すほどの邪悪って奴なのではあるまいか……。
はぁ。
気を取り直して、ゴールドエクスペリエンスの基本スペックでも思い出してみるか。
ゴールドエクスペリエンスはスタンドの一種だ。
スタンド、それはジョジョの奇妙な冒険に出てくる、ある種の特殊能力の総称である。
スタンドは基本的に人型をしており、本体であるスタンド使いは自由にスタンドを使役することができる。
自由に等身大のマネキンを操作できると思ってくれればいい。
そしてこのマネキンは他人の目には映らない。スタンドはスタンド使いにしか見えず、スタンドはスタンド以外から触れられないという性質もあるためだ。
つまり俺以外にスタンド使いのいないこの世界では、やりたい放題というわけだ。
ゴールドエクスペリエンスは、ジョジョの奇妙な冒険第5部の主人公であるジョルノ・ジョバーナが使用するスタンドのことだ。
俺はときめきエクスペリエンスと掛けたとかいう、たわけた理由でこいつを与えられたということになる。
スタンドにはその在り方に応じて特殊な力が宿っており、ゴールドエクスペリエンスの場合、それは生命の操作と創造だ。
無機物を殴ると、命ある存在に変えることできる。それがゴールドエクスペリエンスの基本能力。
例えば、岩を殴ってカエルにしたりウサギにしたりだとか。
いろんな漫画で禁忌とされている生命の創造が、あっけないほど簡単にできてしまう。鋼の錬金術師たちにみせたら発狂もんだよ。
改めて考えても超然的な力だ。
前部主人公の承太郎さんは、どんなスタンドも失った命は戻らない的なことを言っていたが、こいつの力を考えるといてもおかしくないような……まぁ、それはいいか。
死者の蘇生とかは、できないみたいだしな。
その代わり部分的な生命創造もできるので、失った腕を再生するとかはできる。
しかしこんな力があるとはいえーーこれでポピパを守れか……。芸能界の闇と戦うとかどーすりゃいいんだ。
「守る」の意味が気になる。ただ側でボディーガードするだけとかじゃダメなんだろうな……。
幸い今は6歳児。時間だけはたっぷりと与えられている。
とりあえず今後の方針を整理しよう。
・メンバーに会う。
・メンバーを守る。
・バンドを結成する。
・ときめきエクスペリエンスを演奏してもらう。
1点目のメンバーに会わなきゃいけないのは言うまでもないだろう。
原作に沿うなら、花咲川女子学園高校に入学しとけばオッケーと思うかもしれないが、ことはそう単純じゃない。
2点目にからめて考えて欲しい。
2点目ーーメンバーを守る。これは生命はもちろん、おそらく純潔的な意味でも守らなければならない。
何を言っているかというと、
君たちは、花園たえがクライブに連れてきたのがウサギではなく、本当のボーフレンドだったとしても許せたかな?
ということである。
多分アニメのあのシーンで、たえが連れてきたのが本物の彼氏だったとしたら、暴動じゃすまなかったのではないだろうか。
すなわち、ファンが暴れ出し、ネットは炎上し、DVDが物理的に割られた動画がようつべにアップされるのが火を見るよりも明らかだったろう。
これはアニメヒロインのいわば宿命なので、仕方のないことだが重要なことだ。
でも現実的に考えてーーつまり芸能界の闇さんが仕事したら、どうなるか?
神も言っていたが、あんな可愛い子たちが高校まで誰一人として恋愛を経験してないとは、とても思えない。
つまり呑気に高校で会えばいいやとかって放っておいた場合、彼女たちと会った時には、香澄はギターを彼氏に習い、有紗は彼氏と同棲ひきこもり、りみはストーカーにつきまとわれ病みメンヘラ、彩綾がギャル化しているとかありえるわけだ。
そんなメンバーを集めてポピパを結成できたとしても、それはポピパといえるだろうか?
「5人合わせてPoppin'Partyです!いぇ~い!!」ってライブ挨拶した時、俺は遺影になってる気がする。
全世界のバンドリファンが許さんのと同様、あの神も絶対許さんぞ……間違いなくレクイエム案件になる!
だから彼女たちと会うのを、高校入学とか待ってられないわけ。
俺は一刻も早く彼女たちに会い、花につきまとう虫けらどもを、薙ぎ払わなくてはならないのだ。
そうして無事メンバー集結することができたら、ポピパを結成し『ときエク』を歌ってもらう。
そうすれば晴れてミッションコンプリートだ。
しかし集結したからって原作通りの流れでバンドって結成してもらえるんだろうか……ここは様子をみて、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処するしかないな。