番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~   作:ふたやじまこなみ

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前回の番取り

文化祭に行った俺を待っていたのは、花女が廃校になるというお知らせ。
香澄たちのキラキラした高校生活がぁ!!
廃校を阻止するためには入学してくる生徒を増やすしかない!!……のか?
そこで俺は、今最流行?のスクールバンド??をやって学校をアピールすることにした???
花女のために何かしたい、諦めきれない……俺、やる!!


第24話「スクールバンド」

「というわけで、バンドだよバンド!!

 香澄ちゃん!たえちゃん!! スクールバンドでラブなライブやって、廃校を阻止するよ!!」

「え、ラブ? ラブはともかく私はバンドはいいかなーって……」

「こがね、そもそもライブでどうやって廃校やめさせるの?」

 

くっ、このっ!

スクールバンドに無理があったとはいえ、2人のこの冷たい反応である。

いや、だがまだまだ他に手はあるはずだ。がんばれ前世の知識たち。

 

「ライブが無理ならバンド道! バンド道って言ってね、茶道・華道・バンド道は古くからの乙女のたしなみ。そして全国で優勝すれば……」

「え、バンド道ってなにかな?」

「うーん? 優勝ってことは、大会? そんな大会聞いたことない」

 

こんな時ばっか常識的なこと言うんだから、この子たちはっ!

 

当たり前だがバンド道などない。バンドは乙女のたしなみどころか、始めたら両親からたしなめられる世界である。

あるのは無難に軽音部くらいで、仮に軽音部で全国大会優勝しても、普通、廃校は中止にならない。

というか、そもそも御谷中である俺たちが頑張ったところで、花女になんの影響もない。

 

「他に……他に方法は……」

 

くっ、何とか立て直さなければ……しかし手立てが。

他に廃校ネタって何があったっけ? まなびストレート、たりたり、こんにゃく……ダメだ参考にならん。

 

「おたえ、こがねんアレからずっとあんな感じだけど、大丈夫かなー?」

「口から何か出てるね」

 

教室で机に突っ伏した俺を、香澄たちが心配している。

 

「そもそも、こがねんは何で花女の廃校に落ち込んでるの。行きたかったのかな?」

 

お前の母校になるんだよっ!

 

と言っても聞くわけがないか。

今の香澄にとっては花女なんてただの近所の女子校だ。

無くなるからって奮起するわけもない。

 

「香澄ちゃんは何とも思わないの!? 明日香ちゃんが来年から通うんでしょ!?」

「うーん、でも廃校になるのって、すぐってわけじゃないし、3年後みたいだし……

 あっちゃんが通ってる間は、存続するみたいだよ」

 

廃校というのはどこぞの学園艦のように、決まったとしても翌日叩き出されるような非道なものではない。

在校生や手続き等の関係で相当な猶予期間が設けられるのが普通である。

花女のそれは3年後だった。

 

しかしその3年後だから問題なんだよ。

つまり香澄たちが入学する年に廃校ってことじゃん。

 

「それにあっちゃんも廃校になるの知ってたよ。でも中学生の間は関係ないし、花女は制服が可愛いからいいんだって!」

「せ、制服……」

 

女の子が中学選ぶ理由の8割は、制服の可愛さとか聞いたことあるわ。

そうだよな。小学生で高校の去就を気にして就学をためらう奴はいないよ。

 

「はいはーい、皆さん授業ですよー。席についてくださーい」

「あ、先生きた。そっか、次国語だったね。おたえ、席に戻ろう」

「うん」

 

香澄たちが去っていき、授業が始まったが俺は上の空だった。

 

「……ここで先生は『精神的に向上心のない者はばかだ』と以前言っていたことを引用しつつ返すわけですが、その時の心境を考えると……」

 

『こころ』を先生が朗読している。

淡々と進む国語の授業で、先生が親友の心をえぐる必殺の一言を放っている。これはお辛い。

 

はぁ、花女が廃校とか夢オチが良かった。

こんな辛い思いをするなら、草や花に生まれたかったよ。

晩年の先生もこんな気分だったのだろうか。

いや俺は彼らほど繊細なこころを持ってないけど。

 

あ、でも先日の文化祭が夢オチになったら、たえがバンド始めてくれないや。これがゲームでもリセットボタンは押せないか。

 

人は何かを失って初めてその大切さに気づくという。

 

「でも、廃校とかないわ」

 

気づくのはいいけど、流石に失いすぎだろう。アニメ版バンドリの舞台が丸々ぶっとんだとか。

SPACEの時とは影響範囲が違いすぎる。「ぼうけんのしょ」が消えたとかそういう次元ではなく、学校から帰ったら母親がゲーム機ごと捨ててたような衝撃だ。

 

極論をいえば、花女がなくても目的の達成は可能だ。

だがそれは、電車がなくても北海道には歩いていけるよね、といった論旨でありその困難はいかほどものだろうか。

原作というレールを完全に外れていったポピパ号の行く先を、俺は想像ができない。

 

しかしなんだってこうもバンドリ関係の施設が消えていくんだよ。

運が悪いってレベルじゃねぇぞ。

 

俺何か悪いことした?

 

「悪いこと……」

 

心当たりしかねぇわ。

 

しかしこの世界に天罰はない。

それはその辺をうろつく奴らが呑気に生きていることが、証明している。

もし天罰なるものがあるのだとしたら、真っ先に奴らを抹消すべきだろう。俺に構ってる場合じゃないぞ。

 

物思いにふけっていると、つんつんと腕をつつかれた。

横を見ると隣の席の子が、紙片を手渡してきた。どうやら香澄から回ってきた手紙のようだ。

 

『こがねん大丈夫? 花女もそうだけど、鵜沢さんのバイト先もなくなっちゃうんだからショックだよね。元気出してね☆』

 

可愛らしくデコった絵柄とともに、そう書いてあった。どうやら授業中の俺の態度を察して、回してくれたようだ。

負の怨念が浄化されていくよ。ありがたいことだね。

まぁ、鵜沢リィのバイト先とかは心底どうでもいいんだが。

 

ってか、あれ。

そういえばEDOGAWAGAKKIが立ち退きせまられてる理由に、区画整理だの旧市街地の再開発がどうのとか鵜沢が言っていたような……

 

なんかひっかかるぞ。

 

そもそも今までバンドリ関係の物件が次々に消えてるって事態、かなりおかしい。

日々俺は芸能界の闇と戦いつつ香澄たちを守っているわけだが、芸能界の闇って戦う相手ではあるが敵ではないんだよ。

奴に意志があるわけじゃないからね。芸能界の闇は、悪ではあるが悪意はない。言ってみれば自然災害みたいなもんである。

 

俺がしてるのは、台風の日にワラで出来たライブハウスでバンドしようとしてる子猫ちゃんたちのために、レンガでできたライブハウスを用意してあげるという、そういった行為だ。

俺と芸能界の闇は、直接の敵対関係にあるわけではない。

 

つまり、芸能界の闇が意志をもってバンドリを潰そうとしているわけでは絶対にないのだ。

だからSPACEにEDOGAWAGAKKIに花女と、バンドリ物件ばかりが被害にあっていると考えるのは早計なのではないだろうか。

ピンポイントに狙われてるわけじゃなくて、もっと大きなナニカに巻き込まれているだけなんじゃないのか?

 

更地になったスペース、立ち退きを迫られる楽器店、廃校になる花女。それらが一本の線に繋がった気がした。

 

「あー、そうか!! 先生! ちょっと昔ヒザに受けた矢のケガが疼くので、今日は早退します! では、さようなら」

「え、ちょっと、こがねさん? そっち窓ですよ……あー、行っちゃいました。でもケガが痛むなら仕方ないですかね」

「先生、ここ2階です」

「こ、こ、こがねさんっ!?」

 

 

「アスファルトあっつ!!」

 

楽器店の前に滑り込み、あまりの地面の熱さで俺は我に返った。

 

授業を突然失礼して出てきたけど、鵜沢リィまだいるわけないじゃん。

 

冷静に考えるまでもなく、今日は平日であった。

言わずもがな鵜沢だって授業中である。こんな時間にバイトしているわけがない。

事情聴取をしようにも、証人はまだ出頭していなかった。

 

一旦立ち止まると、落ち着いてきたわ。

花女にしろEDOGAWAGAKKIにしろ、今日明日に執行されるみたいな一刻を争う事態というわけでもない。スペースはもう手遅れだしね。焦っても仕方なかったわ。

 

「さてどうするか」

 

手持ち無沙汰になってしまったな。

今から学校に戻るのも馬鹿らしいし……鵜沢の代わりに店長とやらに話を聞くか。でも二度手間になりそうだな。

 

そうだ。そういえばあの宿題があったな。今日はあれから一週間、ちょうどいい頃合いだろう。

……そろそろ狩るか。

俺はピエロな表情をしてメールを送る。

 

俺はスカートのポケットからスマホを取り出し、アドレス帳から名前を検索した。

宛先はSkaterBoysの「タクト」だ。牛込……西本ゆりを手篭めにしようとした連中のリーダー的存在である。

 

「これからいきます。歓迎の準備をお願いします^^……と、送信」

 

そう。タクトたちをボコった後、また行きます宣言をしていた件だ。

 

鵜沢のバイトが始まるまでの暇つぶしだな。

前回のSkaterBoysとの諍いでは、大した後始末をせずに事を終わらせていた。

いつもなら後に引かないようきっちりカタをつけておくのだが、それを怠っていた。

 

すなわち相手からすれば、中坊に好き勝手されて逃した事になる。

ああした連中の思考回路は単純明快。恨み骨髄、腸煮え繰り返っているはずだ。

 

土日の間に闇討ちしてくるケースも予想していたのだが、襲撃は何もなかった。

いつ来てもいいように対策はしておいたんだがな。無駄になってしまった。

 

まぁ、それも仕方ないがな。どんなに恨みを抱いていたとしても、あの場に偶然居合わせただけの俺たちを捕まえるのは、相当難しいだろう。

この街の人口を考えたって、顔と名前を知ってる程度の女子中学生3人を発見するのは、そう簡単にできるもんじゃない。できるならとっくに俺がメンバー全員見つけてるわ。

 

とすると奴らの視線に立って考えれば、必死で俺たちを今も探しているか、最後に俺が言った「また行く」宣言で待っているはずである。

 

うんうん。こっちも要望に応えて、また存分にボコってやろうではないか。

 

そして今度こそキッチリとカタにはめておく。何もせずあぐらをかいて放っておいて、アメリカのサブマリン特許のように後々の問題になっても困る。

復讐とか馬鹿なことを考えられないようにね。

 

「さて、とはいえどんな手を用意しているか……」

 

あれから結構時間が経ったからな。いろいろ準備するのだって十分だったろう。

俺にあれだけの立ち回りをされて、何もせず座して待っているとは考えられない。俺を倒すために入念な準備をしていてもおかしくない。

 

こちらも十分な態勢を整えておこう。

 

俺は暇があれば、常に俺を倒す方法を考えている。

確かにゴールドエクスペリエンスは無敵で最強であるが、それは万全を担保しない。スタープラチナも逝くときはあっさり逝くし、似た能力を持った一方通行さんも大抵逆走されてる。

 

例えば俺は、ミサイルの直撃にも耐えることはできる。レールガンの的にされても問題ない。

しかしゴルゴ13に装備の隙間を狙撃されると危ないし、ベンズナイフに塗ったとされる0.1mgでクジラを動けなくさせる毒とやらを散布されるとまずい。

 

他にも落とし穴や高所からの落下など、俺を殺す手段はいくつでも考えられる。

 

だから俺の能力を一番知る俺自身が、俺を倒す方法を考えに考えるのが当然である。日々それに備え、訓練もする。

むしろなんの対策もせず弱点を突かれるキャラたちが不思議なくらいだ。

 

さて、奴らはどんな歓迎をしてくれるだろうか?

 

人数を揃えての待ち伏せかな?

それとも突然部屋を暗くしての不意打ち?

過去の経験だと、ガスとか目潰しもあったか。

 

手間がかかるが、やらねばならないことだ。

それにただ厄介というわけでもない。面倒さと楽しさは両立する。これを乗り越えたとき、俺はまた強くなる。

 

こうした作業は掃除に似ている気がするな。

掃除は始めるまでは面倒だし気乗りしないが、いざやり始めると途中から楽しくなり、手が止まらなくなってしまう。

やるからには徹底的に綺麗にしたくなり、こびりついた頑固な汚れが取れると気分爽快スッキリした気分になれるのだ。

 

まさに暇つぶしを兼ねた、もってこいのイベントといえよう。

 

 

ここがあの男のライブハウスね!

 

ビーバーズの玄関で腕を組み、胸を張って仁王立ちする。

平日昼ということもあって、周囲に人影はないーーといっても元々この辺りって全然人気なかったけど。ひょっとしたら人払でもしたのかもしれないな。

 

でもビーバーの顔がにっこりしているから営業中のはずだ。表を向いてる。

俺はこれからのことも考えて、親切に裏返して入店した。

 

「はろー」

 

中に入ると以前は誰もいなかったレジカウンターで、コップ磨きをしている奴と目があった。

年嵩でスキンヘッド、髭を蓄えたダンディーな雰囲気の男だ。仕立てのいいウェイター服を着ているから、オーナーかもしれない。

 

オーナーはため息をつくと、露骨に顔をそらした。

美少女の客見てため息をつくとは! 接客業失格だな。

 

「中に入っても?」

 

顎で奥を指し示された。

どうやらSkaterBoys連中とは、なんらかの意思疎通がなされているようだな。円滑で何より。

 

続く先にあるのは、あの犯行現場。会場は今回も第二スタジオでいいみたいだな。

歩を進めてカウンターを通り過ぎた辺りで、オーナーがポツリとこぼした。

 

「中で何が起きても俺はしらねぇ。店の迷惑にならないようしろ」

 

は?

何言ってんだこいつ?

 

まるで他人事のように話す奴に、カチンときてしまった。

 

「じゃ、こんなことされても何も知らないですねーーうぉりゃあああああああああっ!!」

 

カウンターの陳列棚に連なって並んでいる、色とりどりの酒瓶。

その一番端に腕をひっかけ、一直線にダッシュを決める。

 

ダダダダダダダダダダッ!!!!

 

弾き飛ばされるビン。ビン。ビン。

次々に宙を舞うと、それらは物理法則に従って地面に落ち、中身をぶちまけて残骸となった。

 

「ふぅ。スッキリ!!」

 

一度やってみたかったんだよ。

 

「なっ、何しやがる!!」

「何をした、はこっちのセリフだハゲ。レイプハウス運営しておいて、自分は関係ありませんって傍観者気取ってんじゃねーよ」

 

こいつがSkaterBoysとグルってことは、ゆりの話で分かっている。実際には場所だけ提供していただけかもしれんが、そんなことは関係ない。場所の提供は立派な従犯である。

我関せずを通そうとしているようだが、こいつは同じ穴のビーバーなわけだ。

 

こちらの所業に引きつった顔で頬をピクピクとさせたが、ブチ切れて襲いかかってくるようなことはなかった。

そこらへんは大人なだけあって、分別が多少あるようだな。

 

「その酒がいくらすると思ってやがる。

 こんなことをして、どうなるかわかってるんだろうな。……弁償してもらうぞ」

「弁償? 片腹痛いですね。させてみなさい。させられるものならね」

 

法を守らないやつが、法に守られると本気で思っているんだろうか。鼻で笑ってしまうわ。

俺もたいがい法を守らないが、法に守ってもらおうともこれっぽっちも思っていない。

 

床に散乱したガラス片を踏みにじると、パキパキという小気味いい音が鳴り響いた。

これは掃除が大変そうだな。頑張れよ。

 

「誰が誰に弁償するのかは、ココの掃除が終わってから決めることです。ーーココの掃除がね」

 


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