番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~   作:ふたやじまこなみ

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第25話「ヒマワリの少女」

「私が来たっ!!」

 

BABAAAAAAAAN!!!

という効果音とともにドアを蹴破ってスタジオにインする。

 

罠は……ない。

 

さてさて、何人待ち構えているかな……8って、あれ前と人数変わらないやん。

メンツも変わらないぞ。顔に包帯とか湿布をあててるけど、前回のSkaterBoysメンバーで占めてる。

 

だが扉の前で行ったゴールドエクスペリエンスの生命感知では、中に9人の反応があった。

一人隠れているものがいる。不意打ちだろうか。

 

「マジできやがったのか……なめやがって」

 

一番奥に座っていたのはタクトだ。鼻に包帯を巻きつけて、女受けする顔が無残なことになっている。

ビジュアル系バンドによくある化粧でごまかそうとしているが、限界があった。

 

「このアマがぁ……」

「ざけんじゃねーぞ」

 

周囲もコメカミに青筋をおっ立てて、いきりだした。

アクション映画を見始めたら、開幕ビルが大爆発したような怒りを感じる。最初からテンションクライマックスのようだ。

 

憎っくき仇敵を目の前にした反応として分からなくもないが。でも待って欲しい。

このメンツじゃ前回と何も変わらない。これではまるっきり焼き直しである。

多少角材とか鉄パイプとか、武器を持ち出してるようだけど、そういう問題じゃないよね。そんなのヒノキの棒みたいなもんだぞ。

 

例えばトラに襲われ命からがら生き延びたとして、再度トラと戦うときに「今回は鉄パイプあるから安心だぞっ」ってなる?

これこそネタじゃなく本当に、そんな装備で大丈夫かって言いたくなるわ。

 

学習能力とかないんだろうか。

こいつら前回俺に散々コテンパンにされたのに、何も対策とかしてないの?

 

「前回は油断したが、今回はそうはいかねーぞ。お前だけは許さねぇ」

「うーん、油断ですか……」

 

油断とかそういう次元の話だっただろうか。戦闘力の差が歴然だったよね? 悟空とヤムチャくらいあったよね?

多少なりとも反省する頭があれば、そのくらいわかると思うが。

そう思ったからこそ、俺もいろいろ考えたり準備したりしてこの場に臨んでいるのだ。

 

なのに、まさか気付いていらっしゃらない? そんなことないよね?

 

これじゃあ警戒して頭にヒマワリ付けてきた俺が、馬鹿みたいじゃない!

 

いや。それともよっぽど不意打ちに自信があるのか……

 

「全然怯えてないみたいだな。そのスカした態度が気にくわねぇ……

 お前は自分の力に自信があるみたいだな」

「ええ、最強ですよ」

 

控えめに言って人類最強である。それは間違いない。

それでもこんなに用心しているのである。

 

「確かに多少やるようだが、しょせんは女だ。それをわからせてやる……この世界には信じられないくらい強い男がいるんだぜ。

 先生っ! お願いします!!」

 

ん?

 

「やれやれ。この子が俺の相手? ずいぶん可愛らしい子じゃん。本当に強いの?」

「はい、Kさん。こいつはデタラメな奴です」

「ふーん、俺の名前はK。今はそう名乗ってる。一応、SkaterBoysのメンバーってことになるのかな」

 

奥から9番目の男が出てきた。不意打ちですらなかった!

 

すらっとした長身の男だ。顔が非常に整っており、世間一般で言うところのイケメンだった。

ただし、なよっとした弱々しい感じではなく、精悍な表情は自信にあふれており、服の下には引き締められた筋肉を感じさせた。

 

「へへっ、俺たちがツインズにも逆らっていられたのは何故だと思う? それはバッグに先生がいたからさ。

 先生はな。昔ボクシングの試合で人を殺したことだってあるんだ。お前なんかイチコロよ。

 SkaterBoysに逆らったことを後悔するんだなっ!」

 

タクトがKの陰に隠れて、卑屈に小者みたいなこと言い出した。

お前リーダーじゃなかったっけ。そんなんでいいのか。

 

「彼の言う通り、俺はボクシングをやっていてね。世界でも結構なところに行ったんだ。

 相手が弱すぎたせいでやりすぎちゃったから、こんなところにいるんだけど」

「はぁ、それはずいぶんと間抜けな自己紹介ですね」

 

ってかえらく誇らしげだけど、ボクシングやってて相手殺しちゃったって、自慢になるの?

サッカーの試合で、対戦相手の別のボール蹴り上げちゃって自慢しているようなもんだぞ。それただの反則であって凄くもなんともないよね。

 

「ふっ。今のを聞いても退かないんだ。体は小さいのに口は大きいんだね。

 でも、俺は女の子だからって殴ることに躊躇いはしないよ。それでもやるのかい?」

「口は小さい方ですよ、小顔なので」

 

女の子を平気で殴る宣言とか、言ってて恥ずかしくないのかな。

こういう奴ってきっと、ちょっと馬鹿にされただけでもすぐキレるんだろうな。

器のちっちゃい男だよね。

 

「小顔か……それにしてはその車輪みたいなデカさのヒマワリ。本気? 可愛いけど頭は残念なのかな?」

 

うるせぇ! ぶっこぉすぞ!!

 

「やれやれ、本当に君は強いのかな」

 

そう言ってKはタンクトップを脱ぎ捨てた。その下にあったのは想像通りの鍛え上げられた肉体だ。

是清とは違ったベクトルの体つきだな。バーサーカーと武道家というか。STR特化とバランスタイプというか。

 

是清の体になりたいかと聞かれるとみんな「うーん」ってなるかもしれないが、Kの体になりたいかと聞かれれば諸手を上げてしまうような感じだ。

鋼の肉体という表現がふさわしいかもしれない。

 

それに比べて、こっちはこがねの肉体なので、Kの反応も分からなくもない。

 

「Kさん、こいつボコったら俺たちにもおこぼれをください!」

「俺はそういうことはしないから、好きにすれば」

「うひょー」

「顔はよしてくださいね。いたすとき萎えるんで!」

 

やんややんやと盛り上がる周囲。

それにしても、こいつらホント何も変わらんな。

説教しながら殴ったところで改心するような奴はいない。やっぱ人間、1回倒されたくらいじゃ何も変わらんのよ。

 

しかも連中、どうやら本気でKとやらが俺に勝てると信じているようだ。

 

前回俺が殴り飛ばしたら、10mは軽くお空飛んだの覚えてないのか?

こいつにそんなことできる?

まさかこれが、俺用に考えた対策案じゃないよね?

 

「やれやれ」

 

肩をすくめたKは、ファイティングポーズをとった。インファイト系のピーカブースタイル。顔面を拳でダブルブロックする、一歩はじめちゃう人の構えだ。

背丈の関係から俺視点からだと、腹がガラ空きなんだが大丈夫かコイツ……

 

何もしないのもアレなのでこちらもテキトーに構えてスタンドを出しておく。

すると奴の表情が変わった。

 

「……前言撤回だ。君ーー強いね。オーラが見える」

「!」

「君に重なるように、揺らぎがあるね」

 

まさかコイツ、スタンドが見えるのか!?

 

「気を操るのか。ははっ、その体でタクトたちを投げ飛ばした理由がわかったよ。合気道だろ、それも達人級」

「はぁ……」

 

そんなわけがなかった。

 

また始まったよ。もういいからそういうの……なんかみるみるテンションが落ちていくよ。

あ、これ最低のパターンかも。

 

「はいはいその通りです。萩月流古武術ですよ。世界最強の古武術です」

 

やはりここにはバカしかいないようだ。

 

「萩月流古武術ーー聞いたことはないけど、相手にとって不足はないみたいだね。

 それじゃあ始めよっか。さ、いつでもどうぞ」

「じゃあ、行きますよ~。ほいっ」

 

「鋭い一撃だ。だが俺には全てが見えて……ふべしっ!!!!」

 

そしてKはステージ上に二次曲線を描き、楽器類をなぎ払って壁にぶち当たった。

ドラムセットがまた一つ犠牲となった。

 

「「「「ケッ、Kェェェェーーーーーーっ!!!」」」」

 

なんだったんだコイツは……

 

SkaterBoysの連中は俺の顔と、壁から体を生やしたKを交互に見て青ざめるばかり。

本当に奴らの対策案はこれで打ち止めみたいだ。

 

「ぜ、全員でかかればなんとかなるはずだ!!」

 

だからそれ前やったじゃん!

 

「学ばない人たちですねぇ。ほんとバカばっか。

 精神的に、向上心のない奴は、馬鹿だ。聞いたことありません? まさにあなたたちのことですよ」

 

案の定、1分もたたずに全員床に伸びた。

なぜなんとかできると思ってしまったのか。

 

さて、今日はどこまでやるべきだろう。いつもの感覚暴走で十分だろうか。

この物覚えの悪い連中、ただ叩きのめしただけじゃ絶対再犯確実だぞ。性犯罪者って再犯率高いらしいしな。

生半可な対応では、こいつら8人は必ず同じ過ちを繰り返す。同じアニメ8回見ても気が付かなそうだもの。エンドレスエイトだ。

 

うーん。

馬鹿は死んでも治らないというが、こいつらこそ死んでも治らなそう。

俺は転生して、前世とだいぶ変わった自覚があるってのに。

 

ん? 転生?

 

そうか……転生だよ! 転生!!

 

「いいこと思いつきました! 君達も転生しましょう!! Re:birthdayですよ!!」

 

高らかな俺の宣言に、床で呻いていたSkaterBoysは怪訝な表情をした。

あの名曲をご存じない? それはいけないね。

 

「そうなるとSkaterBoysってバンド名もよろしくないですね。

 バンドも解散。そして結成!! そう、あなたたちの新しいバンド名は、今日からSKBです!!」

 

そうと決まれば、話は早い。

まずは栄えあるSKB発足の前章として、SkaterBoysの活動記録に終止符を打ってやろう。

 

 

宦官という職業が昔あった。

皇帝や後宮に仕える際に、皇帝ハーレムでおイタをしないよう大事なものを天に捧げてクラスチェンジできる珍しい職業だ。

主に男に人気の職業だったらしい。男の子はレアリティ高い職業が大好きだからね。

有名なのは中国で、古代中国時代からあったようだ。技術的に未成熟でも、可能だということである。

 

猫は飼ったら避妊手術をしなければならない。

妊娠率が100%近い猫は、ねこ算計算で増えていくためである。

オス猫の手術費用は、メス猫の大体1/2ですむ。なぜならオスの方が、取るだけで簡単だからである。

 

可能で簡単。

つまりゴールドエクスペリエンスにかかれば、難しいことは何もない。

 

「~♪」

 

というわけで彼らは無事、転生した! しかもTS転生である。

大事なものをささげ、生まれ変わったのだ。

前科何犯か知らんが性犯罪者にふさわしい末路であろう。

 

めでたくSKBも発足させることができたし。心機一転だろう。

バンド名、SkaterGirlsの方が良かったかな。まぁ、厳密にはGirlsじゃないし、SKBでいっか。

 

もちろんアフターフォローもばっちりである。

最初は絶望のあまり反抗的だったけど、これから先またおイタするようなら、男同士でつるむのが大好きなレスラー体型の屈強な男が、お前たちを襲いに行くと伝えたら震えながら飛び上がってたし。

 

まったく、いい仕事したわ。

 

でもこれって、今後も応用できるんじゃないの?

 

ラブライブでは、男キャラが全然いなかった。まともに登場したのは主要キャラの家族くらいである。

サンシャインにいたっては、男キャラが皆無となった。背景から男性用トイレすらも抹消される徹底ぶりである。あの世界ではきっと男は絶滅したのだ。

 

アニメ版バンドリに男いたっけ? いたような気もするし、いなかった気もする。

そんなレベルなら、いなくても問題ないだろう。

 

そう。

まずはこの街の掃除として、凶悪犯を全員TS転生させるのだ。そして徐々に対象となる犯罪のランクを落としていく。

するとそのうち、どんな馬鹿でも「悪いことをするとTSさせられちゃう」って気づくだろう。

 

誰も悪いことできなくなる、と思いきや悪い奴ばかりなので、確実に世界は女の子だけになって行くだろう。

そして俺が認めた、ドキドキでキラキラな女の子だけの世界を作るのだ。

 

そう……そして俺が、百合世界の神となっ

 

「いてっ!?」

 

馬鹿なこと考えてたら、看板に顔ぶつけた。

めちゃくちゃ痛い。

こういうのは反射されないんだから気をつけないと。

 

つーか百合世界の神ってなんだよ。邪神は2体もいらんわ。

 

……冷静に考えたら、別に転生させてない気がしてきたし。これただのTSだわ。いやTSかどうかすら怪しいし。

とんでも私刑やったばっかりだから、頭がポッピンパーティーしてたね。

 

「TS転生ねぇ」

 

でも思ったんだけど、これが私刑になるなら、ある日突然TS転生くらった俺ってなんなん?

なんで俺、神様から性犯罪者にふさわしい末路プレゼントされてんの?

 

精神は肉体に引きずられるってよく言うけど、ホルモン悪さしねぇよな。

思春期入って男にキュンキュンしだしたら発作的に自主転生に走るかもしれん……

あまり深く考えないようにしよう。

 

鼻をさすりながら、楽器店の前へ到着した。

時計の針は5時ちょっと過ぎを指している。ちょうどいい頃合いだろう。

 

「ちわ~。円谷でーす」

「フッフー☆ いらっしゃー、こがねちゃん」

 

入店するとバイト中の鵜沢が出迎えてくれた。右手に箒、左手にちりとり。

バイト服の上には、珍しくエプロンなんか装備してる。

 

「あれ、その格好、掃除中ですか。奇遇ですね。こっちも掃除してきたところなんですよ」

 

鵜沢は床に散らばった何かの破片に、ちりとりをかけているところだった。

バケツの中には銀色の残骸。棚から楽器でも落としたのかな。

 

「あ、これは……ちょっとね」

 

渋い顔をして、鵜沢は頭をかいた。

 

「それよりこがねちゃんもその頭……ううん、なんでもないんじゃ。いつものことだったね」

 

ヒマワリ外すの忘れてたわ。

でも、いつものこと認定されてることがショック!

 

「ま、いいです。今日はちょっと聞きたいことがあってきました。この間の電話のことなんですが……」

「あ! あれだね。うん、わかった。すぐ片すからちょーっと待ってて!」

 

手早く箒とちりとりを納戸にしまうと、手近にあったぬいぐるみーーデベコを抱き寄せて、鵜沢は二人がけテーブルに腰掛けた。

勧められるまま、俺も正面に座る。

 

「あの時は突然電話しちゃって悪かったんじゃー。リィちゃんもちょっとテンパっちゃってー!

 ちょっと焦り過ぎだったよね。どこまで話したんだっけ?」

「この店がなくなるってとこまでです。そのーー再開発がどうのとか」

 

あの時は俺も気もそぞろで聞き流してしまっていたが、たしかそんなフレーズを口にしていたはずだ。

 

「あーそうそう、再開発の件ね!

 この辺りって結構前から再開発指定ってのされてるんだけど、こがねちゃんは知ってる?」

「さぁ? 私も中学になってからこの街に引っ越してきたところなので、さっぱりですね」

 

なんとなくワードから想像はつくけどな。詳しくは知る由もない。

 

「んやー、そうなんだ。ま、地元民でも当事者じゃなきゃ、あんま知らないよねー。

 こがねちゃんもここら辺歩いてるならわかると思うんだけど、しょーじき、旧市街地って昔っからあんまり治安が良くないんじゃー。

 建物も道も汚いし、そのせいかタチの悪い連中がうろついてたりするし……」

「この間もSPACE跡地で、変な奴らに会いましたもんね」

 

このエンカウント率はちょっとね。ファミコン版ドラクエでもやってる気分になるよ。

むしろこんなところで暮らしてる鵜沢はよく無事だと思ってる。トヘロスでも唱えてるのかな。

俺はニフラムを唱えたい。

 

「むむむー、そうだね。あそこら辺もだねー。

 だから再開発ってのは要するに、ここら辺一帯の建物を壊して、新しい街づくりをしましょうってことなんだよね」

 

割と予想の範疇の回答だが、この辺からSPACEまで範囲というのが気にかかった。

 

「でもここからSPACEまでって結構距離ありましたよね?

 範囲広くないですか?」

「リィちゃんもよくわかんないけど、でっかい道路を通そうって話もあるみたいだから、相当広いんじゃないかなぁ」

「そうなんですね……どの程度の規模かわかる地図みたいなのってあります?」

「んやー、そんなのここにあるわけなんじゃー。でも、区がやってることだから、ネット見れば載ってるんじゃないかなー?」

 

そりゃそうだな。

しかし主体が自治体ときたか。ある程度想像はしていたが、思ったより大きな話になってきたな。

 

レジ裏にあるノートPCを借りて、一緒にホームページを見てみることにした。

区の広報に載っていた「土地区画整理事業に基づく再開発計画について」をみると、対象区画を示す地図が表示されていた。

 

「うわぁ……こうしてみると結構な広範囲ですね」

「うちの店はここだからねー」

 

どうやらこの区だけではなく、隣の区とも提携して道路を引こうとしているらしく、地図の端から端までが赤く染まっていた。

計画自体は10年前から始まっているらしく、開発の終了は5年後を目処としているようだ。

なんとも壮大な話だ。

 

その赤い区画内には鵜沢の言う通り、この店のみならずSPACEの跡地が含まれており、そして予想通り花咲川女子学園もあった。

これをみる限り、やはり相当大規模な計画のようだな。

 

「反対とかないんですか?」

「んむむむ。そりゃあったんじゃー。だから結構難航してるって話だね。

 でも賛成意見も多いみたいなんだよね。道路が通れば景気も良くなる。この辺が綺麗になれば治安も良くなるって。

 旧市街は評判悪いからね……」

 

旧市街が主な対象地区のようだ。古い建物も多いし。旧市街という名は伊達ではない。

一般に道路が通ったり、駅ができたりすると景気は良くなる。莫大な金が動くからな。

 

「それに最近じゃみんなも諦めモードに入ってるんじゃー。立ち退きを迫られて、店を畳んだところも多くなってきたみたい。

 首を縦に振らないと、嫌がらせもあるし……」

「嫌がらせですか? 地上げ屋的な?」

「地上げ屋っていうほどじゃないんだけどね。わーるい人たちがやってきて、店内で暴れたりするんじゃー」

「あ、ひょっとして、さっき片付けてたのが……」

「うん……」

 

なるほどね。大変だな。

 

めっちゃ他人事のような感想しか出てこない。ってか他人事だしな。

この店がなくなっても大勢に影響がないから、どうでもいいんだよね。

この店で起きるのって香澄の号泣イベくらいだし。あれもランダムスター壊れないように現場で見張ってれば防げる話だよね。

 

でも都市再開発自体は他人事じゃないんだよなぁ……花女とか密接に絡んでくるし。

しかし相手は行政だからなぁ。どうしようかなぁ。

 

ふぅ。

 

でも大体の事情はつかめたな。

これ以上は別ルートで探ることにしようか。

 

「最近じゃ店長も弱気になっちゃってさ。それでついこがねちゃんに電話しちゃったんじゃー。

 まだ完全に決めたわけじゃないみたいだけどーーたぶんダメみたいかなぁ」

 

ははは、と力なく笑う鵜沢。

たかがバイト先がなくなるくらいで悲嘆しすぎだろと思わなくもないが、きっとこの店には鵜沢なりの思い入れがあるのだろう。

それこそ香澄にとっての号泣イベ以上に、積み重ねてきたイベントがあったにちがいない。

 

「奥の練習スタジオもいろいろ整理で使うからって、使わせてもらえなくなっちゃたんじゃー」

「あー、それなんですけど、練習場所はなんとかなると思います」

「え、ホント?」

 

暗い話の続いた中での朗報に、鵜沢はようやく顔を綻ばせた。

 

「はい。とりあえずゆりさん誘って、今週末一緒に行きましょう。とっておきの場所を用意しておきましたので」

 


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