番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~ 作:ふたやじまこなみ
チーム・ツインズ。
2匹のヘビをシンボルとしたこの街にはびこる不良集団の一つであり、その規模は最大級を誇る。
構成人数は10代~20代を中心としたおよそ300人ほどとのことが、だいたいこの手の人数というのは大本営発表のごとく誇張されるので、それ以下というのが是清の見立てだ。
末端や語りを含めなければ、実際のメンバーは指輪を貸与された100人ほどのようだ。
前世で有名だった暴走族ーー関東連合の最盛期の人数が2000〜3000人くらいだっけ。ネット小説じゃ、突然数千人の盗賊が現れたりもする。
それに比べりゃ大したことない人数にも思えるが、暴走族とかチーマーってだいたい1チーム30〜40人っていうから、やはり相当な数だと言っていいだろう。
対する俺たちは……と、旧迎賓館に集まった是清とゆかいな仲間達の面々を見渡す。
今後の指示を出すために、今日は全員に集合してもらったのだが、うん。両手に満たない。幼稚園児が数えられる数しかいないね。
ならば量より質と言いたいが、正直是清くん以外の質もないからなぁ。もともとアテにしてないからいいけど。
しかし思わず是清とゆかいな仲間達って名付けちゃったけど、このネーミングって絶望的に昭和くさい気がする。いや、この野生動物みたいな連中が悪いんだ……そうにちがいない。
ツインズにいわゆる幹部格は5人おり、三山、長富士、海江田、山田、一葉ーーらしいが、ま、こいつらはどうでもいいな。
重要なのはそのトップに立つ神崎という男だ。
「こいつがその神崎だ。……今のこいつは悪だ。目を見ればわかる」
そう言って是清が手渡してきたのは、1枚の写真だった。
写真を見る限りでは茶髪ロンゲのスカした男で、一見どこにでもいそうな不良であるが、その瞳には確かに邪悪な光が宿っている。
が……俺は正直その目よりも、是清がこの写真を入手した方法が気になる。
これ、ブロマイドみたいに写りがいいんですけど。誰が撮ったの?
この神崎という男は、ツインズのシンボルである蛇のように執念深いことで、その筋では有名らしい。
自分や指輪のメンバーの誰かと一度でも敵対した相手は決して許さず、チームの総力を挙げて潰す。
その方針を徹底しているため、ツインズと事を構えるものは非常に少ない。すると指輪のメンバーはでかい顔でのさばる事ができ、それに憧れてツインズに入りたがる希望者が増えると。そんな流れでここまで大きくなったらしい。
そんな相手と二度も敵対してしまった誰かさんは、大変ですなぁ。ははは。
だがチームが大きくなり、組織化してくると当たり前に必要になってくるものがある。そう金だ。
近年のツインズはその身に宿した贅肉を維持するために、またこれ以上の力を求めるために資金不足に悩んでいたらしい。
そこで目をつけたのが、再開発計画というわけだ。
再開発の裏でうごめく土建屋や地上げ屋の手先として動き、金をせしめているのだ。
「金のためにこの街を売るなんてヨォ」
「俺は確かに不良だがよ……筋の曲がったことはキライなんだ」
「再開発ってなんだよ。俺たちの街がなくなっちまうのか?」
「俺たちの街で勝手は許さねぇ!!」
ゆかいな仲間たちが何か言ってる……ああ、硬派な不良なんだっけ?
硬派だと街を自分のものにできるのか、初めて知ったわ。
ラップだと、DQNや不良はいつも地元や両親に感謝しているという。その延長線上かもしれない。
でも感謝してるなら、アスファルトにツバ吐かないでゴミ拾いでもすればいいのに。
相変わらず、わけのわからん思考回路してんな。
どんな脳内構造してるんだろ。頭かっぴらいて「あっあっ」とか言わせたらわかるかな?
「神崎は……神崎のアニキは、前はこんなことをする男ではなかった」
なんか是清まで唐突に語り出したよ。
「黙っていたわけではないが、この機会に話しておこう。ツインズのリーダー、神崎は俺の兄貴分だった男だ」
ピピピ
「……なん……だと」
「俺がガキだった頃に、面倒を見てくれたのが神崎のアニキだ。
昔はこんな眼をした男じゃなくてな……俺にとっては頼れる兄貴分で、喧嘩をすれば負けなし。だが強いだけではなく懐に入れたものを思いやる熱さがあった」
「……」
「アニキはよく言っていたよ。守るにも強さがいる。だから俺はその強さを手にいれる。そのためのツインズだ、とな。
その背中を追いかけて、中学を卒業したら俺もツインズに入ろう。そう思ってたこともある」
「……」
「だがいつしか、神崎のアニキーーいや、神崎は力に溺れた。ツインズという力を得て、見るもんが変わっちまった。
下へ向いていた眼差しは上だけを睨みつけるようになり、守るための力は奪うための力になった。
なぜ神崎がここまで堕ちたのかはわからん。だがその理由の一端がこの再開発計画にもあるというのなら、俺は奴を止めなければ
「あの是清さん。ちょっと黙っててもらえます? 今ちょっと友人の家にゴキブリが出てそれどころじゃないんですよ」
「……っ!」
スマホのメッセージで、香澄が俺に救援を求めていた。
なんということだろう。部屋にゴキブリが出たのだ。
もしこれで香澄が「ギターのピックってゴキブリの羽に似てる。ギターキライ」とか言いだしたら、ゴキブリはどう責任をとってくれるのだ。
俺の香澄になんてことをっ。絶対許せないね!
ゴキブリハンターで有名なアシダカグモを香澄の家に放つべきだろうか? アシダカ軍曹は半年もあれば、家のゴキブリを全滅させると聞く。
しかし今度は軍曹を目撃した香澄が「ギターの弦がクモの糸に見える。ギターキライ」と言い出すかもしれない。
そうしたら「アシダカグモは基本的に糸を吐かないから大丈夫だよ」と諭せばいいか。
よし、今夜にでも香澄の家にアシダカグモを10匹ほど解き放とう!
うんうん。そうしよう、それがいい。
「で、なんでしたっけ? 是清さんのアニキがゴキブリで退治しないといけないって話ですっけ?」
「いや……そうではなくてな」
「いや、きっとそうなんですよ。そうしましょう。
あのね、是清さん。別にツインズのリーダーがあなたの兄弟だろうが両親だろうが恋人だろうが、どうでもいいんですよ。
……いや、まぁ恋人だったらめちゃくちゃビックリしますけど」
さすがに三輪部長が出てきたら、部長?何やってんだよぉ!部長ォ!って叫んじゃうかもしれない。
「大事なのは、ツインズとかいう連中が、この私の邪魔をしているという一点だけです。
ゴキブリだかヘビだか知りませんが、頭ラリパッパな害虫がハッスルし出すと、急速に治安が悪化して街が大変なことになってしまうのです。
そこに住む女の子たちが危ないのです。この簡単な理屈がわかりますか?」
「……」
分かってる?
「だから、ツインズは潰す。それだけなんですよ」
「そうだな。俺たちがやらなければならん。……再開発計画は俺たちが阻止する」
なんも分かってなさそう。
ま、いいや。アホの相手はアホに任せよう。
とすると命令は単純な方がいいかな。
「ここにいる全員に告げます。このツインズって奴は、街の平和を脅かすわるーい奴らです。
ですので、今後ツインズのメンバーを発見次第、ぶっとばしてください。例外なくね」
俺は立ち上がり、配下に控える是清一同に命令を下した。
命令の意味が真綿に水が染み込むように理解すると、メンバーは次第に興奮していく。
特に是清は目がらんらんと輝きだした。
「いいのかゴールド? それはツインズ100人と敵対することになるんだぞ。
ツインズは手を出した奴を決して許しはしない。それでもヤるのか?」
……なんかウボーギンみたいなこと言い出したけど、大丈夫かな。
相手はヨークシンのマフィアよりマシだけど、こっちの団員が貧弱すぎて……この蜘蛛、ゴキブリに負けそう。
しかもそれだと君、お亡くなりになりますけど。そして俺がレクイエムを奏でるのか。
それもまた人生だよね。
適当に返事しておこう。
「ふっ、俺が許す。殺せ」
俺さえいれば蜘蛛は存続するしな!
☆
あぁ。頭がハッピーセットの奴らはいいなぁ。
是清たちが鼻息荒く出て行ったのを見送った俺は、旧迎賓館の壇上でゴロリと横になって唸っていた。
リノリウムの冷たい感触がひんやりとして気持ちいい。
俺もたいがい頭がお花畑だが、奴らは脳みそまでお花畑にちがいない。開かなくてもわかるよ。
脳筋どもは、ツインズの善良市民に対する非道を止めるためと、喜び勇んで出て行ったけど、ことはそう単純じゃないのよ。
地上げ屋を潰したくらいで再開発が止まるなんて奇跡があれば、なんと都合の良いことか。それは所詮、目下の危機に対する対処療法に過ぎない。
目に付くシロアリをいくら殺したところで、巣を駆除しなければ侵食がとまらないようなものだ。
この水面下には、もっと巨大ものが渦巻いている。
ではこの再開発計画における巣とは何か。それは端的に言えば行政である。具体的に言うなら地方公共団体、または広域連合といったところか。
つまり再開発計画を根元から断ち切るとするならば、それは行政を敵に回すに等しいということになる。全くもって厄介な話だ。
これが例えば儲けを企む市長の一存で決まったとか、とある県議会議員の横やりでとかそんな独裁的な経過で決まったならば、そいつらを失脚させるなりコロコロしてしまえば済む話なのだが、どうやらそんな都合のいい裏話はないようだ。
すなわち、大勢の人間が、大多数の合意で、計画を決定し施行しているごくまっとうな(その思惑はいろいろあるにしても)計画のようなのだ。
だとすればこれは特定個人をコロコロしたとしても、計画を止めることはできないことを意味する。
民主主義の強みだな。トップをどうにかしたところで解決しない。
本気で止めようとするなれば、市長以下部長職等、首脳部を一掃する気で取り掛からなければならないだろう。行政ジェノサイドだ。
……市役所ガス爆発とか? 職員旅行先でバスが崖から転落とか? 会議中、全員一酸化炭素中毒……
いやいや。それで止まる保証もないしな。一時マヒしたとしても、後任が引き継げば結局再開されるし。ためらわれるところだ。これは最後の手段。
また、そうした表面上の行政組織の他にも、その下には利権を求めた有象無象がいることだろう。
再開発によって生じる莫大な金目当てに、目の色変えた黒い団体が貪りついているのは想像に難くない。
原発除染の請負業務に反社会的勢力が殺到したり、東京オリンピックに関わる建設会社の一覧にヤクザのフロント企業がちらほら名を連ねているのと同じことだな。
今回のツインズなどは、その氷山の一角にすぎない。
だからここでツインズを壊滅させたとしても、別のチンピラにお鉢が回るだけなのである。
これはチョコボール理論を駆使しても同じ。相手のバッグにチョコボール生産工場があるようなもんである。
実行したとしても、倒しているうちに卒業を迎えてしまいそうだ。
「うーん」
やはり再開発を止めるためには、思考のパラダイムシフトが必要だな。
パワーイズジャスティスの精神でここまできた俺には、ちょっと厳しい注文だ。
何かいい手はないものかな……
頭リフレッシュするために、改めて再開発の対象地区をまとめてみる。
印刷してテープでつないだ粗末な地図をステージ上に広げて腕を組んで見下ろした。
「なんという広範囲。めまいがしそう。ちょっと整理してみるか」
俺はうつ伏せになり、足をパタパタさせながら検討に入った。
赤に塗りつぶされた部分が、買収済み・整理済みの部分。青の部分が、有権利者と取り込み中の部分か。
SPACE跡地なんて真っ赤っかだ。
やはり実際に工事の着手がされており、地主との調整や既存建築物の解体とか始まってるの痛いところだ。
行政というのは静止摩擦係数はやたらと大きいくせに、動摩擦係数はめっちゃ小さいからな。一度動き出した計画を止めるのは、容易いことではない。
もう、かっぱえびせん状態になっちまってる。
再開発の対象となっている地区は主に旧市街地だが、一部ハジの方に新市街地も入っている。
これは再開発計画の目的が、隣町の繁華街と新市街地の中心街との間に幹線道路を通すことで、一大消費エリアを形成することだからだ。
そのため、二つの街にハンバーガーされた旧市街地の多くが対象地区となっている。
この計画が達成された暁には、旧市街地は跡形もなくなり風景が様変わりすることだろう。
大阪万博では事前に行われた開発で、結構な地区の治安が良くなったと聞く。
正直、旧市街地とかなんの思い入れもないから、バンドリ関係の施設さえなかったら、喜んで再開発計画支持してたんだが。
対象となる区域で原作的な観点から問題になりそうなのは、旧市街地側では元SPACE、EDOGAWAGAKKI。
新市街地側では花女……と、あれ、ここ山吹パンって、沙綾の家かよ! 思わぬ伏兵。ここも対象じゃったか……
山吹パンなくなったら、沙綾どこ行くんだろう。県外に引っ越されたら目も当てられんぞ。
SPACEは、もう更地だからいいや。
EDOGAWAGAKKIがなくなっても、鵜沢が泣くくらいだからこちらも問題ない。
対して新市街地側で対象になるのは、花女と山吹パンか。こちらは断固阻止する必要があるだろう。
すると、あれ。ひょっとして旧市街地は割とどうでもよくなるな……
計画全てを潰さなくても、新市街地側の開発だけ止める、あるいは軌道修正するとかしてなんとかならないだろうか。
「ん? この丘って」
ふと目に入ったのが、旧市街地区域にある『星見の丘』と書かれた丘だ。ここも対象に入っている。
等高線を読み取る限り、大した高さの丘ではない。
しかしこの一見何の変哲もない丘が目に入ってきた理由はーー指でなぞった先が大社通りにつながっていたからだ。
すなわちここは、昔神社があった場所。香澄が星の鼓動を聞いた丘だ。
……ここはどうなんだろう。
この辺は昔から台地や山を切り崩して湾の埋め立てをしているみたいだから、ここが再開発されるということは、この丘は多分なくなるということだ。
街中にある結構な規模の丘。神社がなくなっている以上、完全に遊んでいる土地だ。
ひょっとしたらこの遊閑地をどうにかするのが、もともと計画の発端だったのかもしれない。
星見の丘の消滅、か。
もうすでに香澄が星の鼓動とやらを聞いた後なので、影響はなさそう……に思える。
でも香澄のメンタルへの影響はないだろうか。泣いちゃったりしないよね?
あの日以来、星の鼓動が聞こえないの、とか相談されたらどうしよう。
あの日以来、あの日がこないのって告白されるよりマシだけど、それでも問題あるかもしれない。
ちょっと探ってみるか。