番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~   作:ふたやじまこなみ

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第3話「中学入学」

美しい絵画を描くのは難しいが、汚すのは一瞬である。

それはどんなに綺麗な純水でも、トイレの水が1滴でも混ざれば飲めなくなるのに似ている。

無菌であるからこそ、雑菌があっという間に繁殖してしまうのだ。

 

なぜこんなことをいっているのかというと、それほどまでに芸能界の闇がバンドリ世界へ与えた影響は甚大だったということだ。

 

神はちょっとだけ傷つけちゃっただとかのたまっていたが、これはとてもじゃないが、ちょっとどころではない。

バケツをひっくり返したようなレベルで混ざってる。

 

ヤツのバンドリ世界への影響力は、まさしく恐ろしいものだった。

 

一度テレビを付ければ、アイドルがバックバンドの男メンバー全員と寝た! 清楚系女優が乱行キメセクパーティでオールナイト日本! 大物お笑い芸人が暴力団と癒着発覚など、芸能界の闇が出るわ出るわのバーゲンセール。

 

現代日本でどこかで聞いたことあるようなニュースが、バンドリ世界でも普通に流れていた。

 

そして闇の力は、芸能界だけにとどまらない。その力は一般世界にまで波及している。

不良少年やギャングなどが横行し、日本各地の中学や高校が荒れ放題。

ひどいところは学級崩壊を超えて学校崩壊まで起こっており、不良率90%で卒業生の3割がヤクザ関係の仕事に就く高校とかあるらしいーー開久かよ。

番長とかいう単語が生で存在してるの、初めて聞いたわ。

 

これはおそらくだが、芸能界の闇の本質が原因である。

芸能界の闇とは、端的に言うなら暴力団である。ジャ⚪︎ーズや吉⚪︎興業を考えればわかることだが、芸能界とヤクザはズブズブの関係である。

つまり芸能界の闇の力が増したということは、その背景の暴力団の影響力が増したということである。

 

その結果、暴力団の温床となるべく不良少年が増加し、中学校高校が大抗争時代へ突入しているのだ。これはまるで1970年代の日本のようだ。

今から考えると信じられないことだが、学校内をバイクで暴走する生徒とか普通にいるーーそんな時代が日本にはあった。

今世がまさにそれだ。

 

もはやク◯ーズとかB◯Yの世界だよ。

今日から俺はどうすりゃいいんすかねぇ。

 

なぜここまでひどい世界になってしまったのか。

もともとのバンドリ世界というのは、悪い大人は全くいないし、女の子だけでバンド組んじゃっても問題ないし、観客もみんな女の子だし、絡んでくる変な男も一人もいないし、と言って見れば無菌の温室みたいな世界だったわけだ。

そこへ神が引っ掛けたせいで、どっと芸能界の闇がビニールを突き破りなだれ込んでしまった。その結果、悪意への耐性のなかった世界があっという間に汚染されてしまったためだと思われる。

 

また、そんな界隈なのでガールズバンドとか当然ない。

正確にはいるっちゃいるんだけど、企業案件というかヤクザの集金装置というか……うん、まぁ黒い力で作られた集団だ。白ワンピで草原降ってくれそうな、あどけなさと対極に位置しそうな奴等である。間違ってもアレをガールズバンドと言いたくないね。

 

はぁ、こんな世界じゃガールズバンドなんて夢のまた夢だよ。

ライブハウスとか、不良のたまり場以外の何物でもないんだけど。

彼女たちが食い物にされる未来しか見えない……

 

さらにそのおかげで、小学生時代もひどい目にあった。

キレたガキやネグレクトされた子供が、小学校のガラスを全て叩き割ったり、校舎に火をつけたりするものだから、それを止めるために各地で奔走するはめになったのだ。

 

突っかかってくる奴らを千切っては投げ、千切っては投げの大立ち回り。

ゴールドエクスペリエンスのスペックは、破壊力C・スピードA・射程距離E・持続力D・精密動作性C・成長性A。

破壊力Cは、スタンドバトルで言えばそれほど高いランクではないが、それでも現実世界で猛威を振るうには十分な性能だ。

油断すると、本当に千切ってしまいそうになったから困る。

 

力加減はそこで学べたが、さすがにバイオレンス過ぎる小学生時代だったな。

クズどもの更生に時間をかけていたら、あっという間に中学生になってしまった。

 

しかもそのせいで、ポピパのみんなを探すどころか何にも出来てない。

成し遂げたのは、ゴールドエクスペリエンスの使い方だけだよ……

ここまでひどい小学生時代をメンバーは過ごしてないと思うけど、みんな大丈夫だろうか……。レディースとかになってないよね?

 

ーーこのままじゃダメだな。

 

そう思った俺は、人間関係をリセットするために父を転勤させ、中学への進学と同時に転校することにした。

転校先はもちろん花咲川女子学園高校のある、舞台となったあの街である。

この世界、地名どころか地形すらも原作や現実と変わってたから、花女を探すのも一苦労だった。おかげで私立の入試に間に合わず、近場の別中学へ入学だ。

 

今までのように気の赴くままに暴れてしまうと、方々から目の敵にされバンドリどころではなくなってしまうことがわかった。

騒がしい場所で音ゲーに集中しようとしても、うまくプレイできないようなものだ。大切な仕事の前にまず環境を整えることが大事。

だから次の新生活、ひっそりと息を潜めるようにして、目立たず生きてくことにする。

 

原作キャラ以外は助けない。力を振るわない。

ポピパのみんな以外にはゴールドエクスペリエンスの力は使わないことを徹底せねば。

ここからは血と暴力の世界からおさらばして、ときめきの生活をするのだ。

 

 

そして俺は、中学生になった。

真新しい制服に身を包んで通うことになったのは、御谷第二中学という原作には影も形もなかった中学だ。

 

ここで俺は表立ってはひっそりと目立たず暮らし、裏では日本のどこかにいるメンバーを探す生活をする。

 

中学になって使える金や行動範囲も広がったし、自由度は大分増した。

自分一人だけの力じゃなく、探偵とか雇ってもいいかもしれないな。

 

この中学自体は普通の中学のようだ。制服着用、男女共学。

普通ーーあくまで「芸能界の闇さんが仕事したバンドリ世界」での普通だけど。

 

今日は通学初日。

空から降り注ぐ日差しが、『夏空 SUN!SUN!SEVEN!』と暑苦しいが今はまだ春である。

入学式は昨日、御谷第一中学で合同して行ったため、何気に第二の校舎へ足を運ぶのは初めてだったりする。

 

「おはよー」

「おはよっ!!」

 

往来には、ハツラツとした挨拶が飛び交っている。

新品の制服に身を包み、格好こそいっぱしの中学生だが、つい先日までは小学生だった子たちだ。

元気いっぱいという感じで、飛び跳ねるようにして中学に向かっている。

 

「うわぁ、今日もいい天気っーー!! ねぇねぇ、私たち同じクラスになれるかなっ!!」

「うん。なれるといいね」

 

今も元気印の女の子と、ちょっと落ち着いた感じの女の子が並んで登校しているのが横目に見えた。

 

友達同士だろうか。

いいな。

俺に友達はいない。

唯一あげるならばスタンドだろうか。とんだエア友達だな。

 

そんなポッピンでハートフルな登校風景だったが、御谷中の校門前に近づくとその喧騒はなりを潜め、何やら緊張感が漂い出してきた。

 

「声が小さい!!」

「はいっ!」

「おはよーございます!!」

「なんだお前その声はぁっ!! もう一回だ!!!」

「ぐすっ……はい!!! おはよーございます!!!!!」

 

そんなやりとりが耳に入ってきた。

両方ともかなりの大声。

片方は怒声であり、挨拶している方はちょっと涙声だ。これはもう完全にハートフルボッコ。

 

早速、この光景。さすが芸能界の闇さんが仕事した世界の中学だよ。

あいつはやることがソツない。

 

校門を抜けた左側に、御谷中の制服を着た男子が数名で仁王たちをしていた。

詰襟の学ラン。手には竹刀を持っている奴もおり、ガタイもそこそこいい。

今まで小学生だった身からすると、中学生男子ってのは大抵、見上げるような連中なので結構な威圧感がある。

 

制服の模様が赤だから三年生かな。

 

「よし、お前はもう行っていい……そこのお前も挨拶の声が小さいぞ!! この学校では先輩を見かけたら、まず挨拶!! 

 挨拶が認められなければ校門をくぐれないと思え!!」

「はい! おはよーございます!!」

 

また一人の男子新入生が呼び止められていた。ビクッと硬直し、一瞬後に直立不動で腹から声を出す。

 

おいおい。

挨拶指導って奴か。

白羽の矢が立った男子は、入学初日から泣かされて大変だな。

 

この手の通過儀礼というのは現実世界じゃあったし、そう珍しいものでもない。

バンドリ世界じゃ絶対なさそうだけど。

無駄に歴史が長い学校って、こういうとこあるんだよな。長い間続いたしきたりを、伝統って勘違いして強要してくるような。

挨拶しないとFF外から発言できないような無駄なルールを、礼儀だと勘違いしているのに似てる。歴史短くてもあんなんできるしな。

 

幸いにして、洗礼を受けているのは男子だけのようだ。

ご愁傷様だな。まぁ若干先輩方が暴力的空気を出してるけど、それくらいだし。

ふつーふつー。

ま、頑張ってください。

 

「ねえ、あんた! 待ちな! そこの変な髪飾りのあんただよ!」

 

と思ってひっそりと通り過ぎようとしたら、誰かを呼び止める声が聞こえた。

 

呼び止めてきたのは、右側からの女声。

校門の右側には、左側とは対照的に女の先輩が4人並んでいた。

 

どいつもこいつも大した顔をしてないが、険しく歪めて校門の新入生を見張っている。

カラーから2年と3年のようだが、格好が割とひどい。

 

不良だ。

典型的な不良女子。

 

制服をだらしなく着崩したり、なんかやたら長いロングスカートを履いて、スケバンみたいな格好している奴もいる。ーーみたいな、というか本物のスケバンなのか?

あのバッテンされたマスクにはどんな意味があるんだろう。マホトーンでも食らったんだろうか。

 

呼び止めた女はこちらを見ながら、指クイしている。

どうやら男子は男子の、女子は女子のイニシエーションがあるようだな。

 

「さぁ、早く来なっ!」

 

あれ、というか対象って俺なのか? 変な髪飾り?

おかしいな。頭の花飾りは外したはずなんだが……。髪も目立たないよう黒く染めたし……。

 

「……私でしょうか?」

 

一応、聞いてみる。

 

「違う! そっちのノーテンキな顔したあんただ!! さっさとこっちに来な!!」

「え!! 私ですか!?」

 

素っ頓狂な声を出し、俺の後ろにいた女の子が自らを指差した。

呼び止められたのは俺ではなく、別の子のようだ。

 

あれはさっき登校中に見かけた、元気印の女の子だな。

確かに前髪にキラリと光るヘアピンがある。女の子の可愛い容姿にピタリとあったもので、変なと形容するほどのものでもない。

 

「はいはーい! なんですかーっ?」

 

女の子がてこてこと近づく。

不機嫌な女先輩のもとに向かう足取りは軽く、確かにこれはノーテンキではあるかもしれない。

一緒にいた落ち着いた感じの女の子の方は、想像がついたようでちょっと心配そうに後をついていく。

 

「おはよーございますっ! 今日からお世話になりますっ!!」

「……っああ」

 

ビシッと元気いっぱいに挨拶されたせいか、指クイした女は多少たじろいだようだが、すぐに調子を取り戻した。

校門で待ち構えていた先輩の化粧の濃い1人が、威圧的な目を向けている。

 

「いや、そうじゃねぇ……何それ? その頭につけてんの」

「なんですか? えっ、これですか? これは星です☆ 私のお気に入りなんですっ! えへへ」

「んなこときいてねー。誰の許可を得てそんなのつけてきてんの?」

 

なにやら難癖をつけだしたぞ。

どうやら女子の方は、身だしなみチェックのようだな。

女の子の星型の髪飾りに駄目出しをしている。

 

「え? ダメなんですか。でも先輩たちも付けてるような……?

 先輩たちの髪の毛も、キラキラしていて素敵ですっ!」

 

この回答に俺は吹き出しそうになったが、必死でこらえた。

確かに、不良女子の中に金髪バッテンマスクがいるのに、こんなこと言われたくない。

女の子はそんな意図で言ったのではないみたいだけど。

 

「はぁあ? だから誰の許可を得てるのかっつってんの?

 あたしたち、許可した覚えないんだけど」

 

化粧女は不躾な視線で女の子を見下すと、「ふんっ」という鼻息とともに胸を張った。

 

「あんた1年でしょ? 1年がこんなのつけてくるとか、許されると思ってんの?」

「え、でも……」

「罰としてこれは没収な。よこしなっ」

「いたっ!」

 

そう言って化粧女は、無理やり髪飾りをむしり取った。

苦痛で女の子が涙目になる。

 

「ちょっと待って。髪飾りに許可がいるなんて、そんな学則どこにもない」

 

髪を抑える女の子をかばうようにして、後ろに控えていた落ち着いた感じの女の子が前に出てきた。

腰まで届く長い黒髪をした、これまた可愛い女の子だ。

通せんぼをするように化粧女と対峙した。化粧女と清楚美少女。新入生に先輩なので、力関係で言えば猫に睨みつけられたネズミだが、顔面偏差値はネズミが圧勝していた。

 

「載ってなくても、そーゆー規則があんの。

 1年の分際で色気付くんじゃねーよ。ブサイクが調子にのんな」

「……わかっt…りました。では次から気をつけるので、それは返してください」

「だからこれは没収だっつってんだろ。さっきの聞いてなかったの?」

「返して」

「……あ”?」

「返して。それは香澄のーー大切なものなの」

「……」

 

ロングな女の子が一歩も引かなかったせいで、先輩方の空気が変わった。当社比4倍の険悪さ。

今までは化粧女だけが対応していたが、見守るようだった他の3人も寄ってきて、2人の新入生を囲んだ。

 

周りもそれを察してか、息をひそめるようにシンとなった。校門周辺の注目が集まっている。

 

「あのさ、てめーなめてんのか?」

「返して」

「ここであたしたちに逆らう意味、わかってる?」

「返して」

「わかってんのかっつってんだよ!!!」

「か、返して……」

 

罵声を浴びせる化粧女と、ほか3人の圧力。

ロングの女の子は気丈に振舞っているが、その足は震えていた。

 

「せ、先生を呼びます」

「へー。呼べば?」

「……」

 

怯えるのも仕方ないな。

俺から見ればこの化粧した中学3年の女とかただの小生意気なメスガキだが、ついこの間までは小学生だった子たちからすると、上級生とか恐怖の以外の何物でもないからな。

 

自分を振り返って中学時代を思い返せば納得いくと思うが、1年生のとき上級生には言い知れない怖さがあったはずだ。

廊下ですれ違うときには当然道を譲るし、階段でだべってる横を通り過ぎるときには緊張もする。

先輩は神様、なんて言葉があったっけ。馬鹿馬鹿しく思えるが、中学生という時代ーーそんな見えない圧力を感じたことがあると思う。

 

そんな先輩4人が、敵意をもって囲んでくるわけだ。

感じる恐怖心は相当なもんだろう。

 

それに立ち向かえるとは、大したもんだよ。

ただ、こういう奴らはメンツを何もよりも重要視するから、こんな往来で逆らったりしたらどうなるのか。

 

その代償は高くつくのが、不良世界だ。

 

「あんたの顔は覚えたよ、今後この学校で平穏に暮らせると思うんじゃねーよ」

 

あちゃー。

睨まれてしまいましたね。

 

1年の初日にして、2・3年の上級生に睨まれる。

この意味は重い。

これから2年間はずっとこの状態ということだ。

 

上級生に目の敵にされているとあっては、周囲のみんなは自分も巻き込まれてはいけないと、倦厭するだろう。

この往来での出来事、この件はあっという間に周知されるに違いない。

 

「だ、誰か……」

 

星のヘアピンの女の子もようやく立場が分かったようで、オロオロとしだした。

あたりを見回すが、誰も彼も目をそらすばかりで誰も助けてはくれない。

対面で挨拶強要していた先輩男子は、完全に我関せずといった様子だ。女子の事情には口を挟まないみたいだな。

 

悪いな。

助けてやりたい気もするが、俺もあっちじゃ強くなりすぎた。ここでは平穏にやってくって決めたんでね。

暴力行為はもうしない!!(キリッ

 

「あんた、名前は?」

「……」

「名前は?」

「……花園たえ」

「ふーん。あんたたち、これから3年間、地獄決定ね」

 

ふーん。

 

あんたの名前、花園たえっていうんだ。

 

……

 

 

ふぁああああああああああああああああ!!!!!

 

えっえっ!!!

おたえじゃねーか!?

 

するってーと、あっちの星型ヘアピンの子は、ひょっとして香澄なのか!?

でも香澄モチーフのあの独特な髪型……猫耳というか星ミミというかをしてないぞ。あれはただのミディアムボブだ。

あ、でも髪型を星ミミにしたのって、高校デビューと同時だったっけ。だからこの時点では普通のヘアスタイルなのか。

 

そういえばさっき、たえが香澄とも言ってたな……。

 

でもカスミなんて名前だけで、分かるわけないだろ?

光宙(ぴかちゅう)とかキラキラしてるならともかく、カスミなんてそう珍しい名前じゃない。

今まで過ごしてきたこっちの生活でも、普通に聞く名前だったし。

 

それより、いや、だって、ほら。

おかしいだろ? なんで、たえがいるの?

 

香澄とたえって、花咲川女子学園高校で初めて知り合うはずだろ。

なんで同中に通うばかりか、すでに親しげなんだよ!

 

ひょっとしてこれも芸能界の闇の力のせいなのか……なんでもありだな、闇の力。

たぶん今日の朝食がまずかったのも、口内炎がなかなか治らないのも全部闇の力のせいだな。

 

じゃなくて!!!

 

これ、まずくない?

 

不良に目をつけられた香澄とたえ。

 

このままだと香澄とたえの中学生活が、暗黒時代になっちまうよ。

どう考えても、いじめられ続けて3年後、迎えた花咲川女子学園高校であんな天真爛漫に育ってくれるとも思えん!

 

Poppin'Partyとか夢のまた夢だよ! こんな不良にからまれちゃって。

下手したら乱交パーティとかありえる!!

 

なんとかせねばなるまい。

 

ふう。

 

幸いにして、なんとかする力が俺にはある。

そうゴールドエクスペリエンスだ!

 

この力を小学生時代に使い続けた俺は、この力の持つ可能性・潜在能力を引き出し、使いこなす術を身につけた。

その熟練度は、もはや本家であるジョルノ・ジョバーナを超えただろう(慢心)

 

この力をつかい、ここを穏便に済ませる。

 

平和的解決だ!

 

 

誰も助けに向かわないと思われた中、6人に近づく影があった。

もちろん俺だ。

 

忍び寄る俺に目もくれない不良連中だったが、俺が化粧の濃い女の顔を覗き込むようにすると、さすがに気がついた。

 

「……なに? あんた?」

「いえ……こんなに可愛い新入生を指差してブサイクと言っていた人がいたので、本人はどれだけ可愛いのかなと気になりまして」

「は?」

「でも、とんだブサイクでびっくりしました!」

 

とびっきりの笑顔とともに、とびっきりの暴言を放ってやった。

 

「……………」

 

4人の上級生は、口をパクパクさせている。

当たり前だな。

今までの、たえの非礼とは圧倒的にレベルの異なる発言だ。

飛び跳ねた水を注意していたら、横からバケツで泥水をぶっかけられたようなもんだ。怒るより先に理解が及ばない。そういう状態だ。

 

「ブサイクな顔を、必死に化粧で塗り隠そうとしているようですが、残念ながら品性は隠せないようですね。

 悲しいことです。うんうん」

「あ、あんた。ーーなめてんの?」

 

突然のことに、まだまだ頭が追いついてないようだ。理解の周回遅れ。

もともと少ないであろう語彙からは、ありきたりな文句しか飛び出してこない。

 

「やだなー。そんな化粧面、舐めるわけないじゃないですか。

 私がぺろぺろしたいのは可愛い子だけです」

 

この子みたいな、ね。

 

にっこり微笑みながら俺は、取り上げられていたはずの髪飾りを香澄に手渡してやった。

髪飾りは先ほどまで化粧女の手に握られていた、香澄のものだ。

 

それをいつの間にか、俺が手にしていた。

混乱した隙をついて、ゴールドエクスペリエンスさんがやってくれました。スタンドは一般人には見えないからね。

 

「え、えっと。あ、ありがとう……」

「うん、ここは私に任せて、先に向かって」

「え、でも……」

 

困惑する香澄。口を鯉みたいにパクパクさせている不良女子と、俺とを見比べている。

俺を置いていくことに抵抗があるようだ。可愛い。

 

「あ、あれ? その髪飾りは……。なんであんたがもってんだ!?

 あんた、なにしやがった!」

「さぁ、なにをしたんですかねぇ。

 少なくともあなた達みたいな少ない脳みそでは、決して理解の出来ないことですよ」

 

たぶん。この世界の誰も理解できないと思うけど。

 

「ふざけてんじゃないよっ!!」

 

そういって、化粧女は俺の胸ぐらを掴みあげてきた。

そして周囲を他の3人が固める。

 

28歳男の精神と圧倒的な黄金の精神(スタンド)があるとはいえ、俺の体はまだ13歳JC。この間まで小学生だったツンツルテンだ。

なので中3のガタイには勝てず、あっけなく持ち上げられてしまった。

 

あわわわ。

 

「あんたの名前を教えな。ここまでコケにされたのは初めてだよ」

「このままで済むと思ってんじゃないよね?」

「お前、ぜってー泣かすから」

「……」

 

口々にヤンキー女どもが罵ってくる。

怖いなぁ。

そんな不細工な顔で睨まれたら黄金水もらしちゃうよ。

 

「今までそのブサイクを指摘されなかったとは、かわいそうに。

 知っていますか? バンドリ世界にブスはいないんですよ?」

 

バンドリ世界じゃモブだって、京アニ作品並に美少女ばっかだ。

つまり、こいつがブサイクなのは、芸能界の闇のせいだ!

だから容赦しない。

 

自分の体が影になることを確認したら、すかさずゴールドエクスペリエンスで腹をぶん殴ってやった。

 

「ぐっぽ」

 

ボディーブローで、化粧女は変な声を上げた。

手加減したとはいえ、想定外の不意の一撃が、みぞおちに的中!

 

突然腹を抑えて膝をついた化粧女に、周囲は目を白黒させている。

俺はなにもしてないよ、こいつが勝手に膝ついただけだからー。

 

でもこれでちょうどいい位置に奴の胸元がきたので、今度はこっちが胸ぐらを掴んでやった。

 

「私の名前が知りたいんですよね? じゃあ教えてあげます」

 

思いっきり息を吸い込んで、耳元で叫んでやる。

 

「つぶらやこがねですーーーーっ!!!!!」

 

「こがねーーーーーーーーっ!!!!!」

 

「つぶらやーーーーっ!!!!

 

「1年新入生代表ーーーーーっ!!!!!」

 

「つぶらやこがねをよろしくっーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

校門の一帯に響き渡るほどの大音量を、右耳に叩き込んでやった。

その勢いは鼓膜が破れるほどだったかもしれない。

 

「円谷こがねをよろしくね♪」

 

最後ににっこり笑って周囲を見渡し、掴んだ化粧女を放り投げてやった。

腹パンとのコンボで、奴は完全に目を回している。

 

地面に倒れ伏す化粧女に取り巻きが駆け寄るのを横目に、俺は校舎内へと立ち去った。

 

よしよし、誰も血を流してないな。

 

穏便に済ませることができたぞ!……穏便だったよな?

んなわけないね。

 

これで、上書きできたかな?


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