番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~   作:ふたやじまこなみ

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第31話「燃えよツインズ」

時刻は8時半を回った。

約束の時間まで後少し。

 

日はすでに落ち、代わりに点灯した街灯が公園内を寂しげに照らしている。

その袂に是清たち9人がいた。こがねが是清と愉快な仲間たちと呼称する9人だ。

それぞれが思い思いの獲物を手にしている。是清の手には何もない。彼にとっては己の肉体こそが最大の武器だからだ。

 

この場所は、ツインズの待ち構える廃工場まで15分ほどの地点だ。

こがねの指示に従い、是清たちは共闘する仲間ーー仲間と呼んでいいかは微妙だがーーと落ち合うことになっていた。

 

「まさかお前と肩を並べることになるとはな」

「ふん。これはこっちのセリフだ」

 

公園の出入り口、暗闇から顔をのぞかせた穴澤からの揶揄に是清は答える。

穴澤の後ろには、宮田中の不良集団30名が控えていた。

 

「あの金髪ーー木村といったか。そいつ以外の全員が来るとは、不良にあるまじき出席率だな」

「あの女から呼び出されて、こねぇ奴がいるかよ」

 

穴澤は忌々しげに吐き捨てるが、その後ろに隠れた恐怖を是清は見逃さなかった。

実際に集まった人数は大したものだった。この場にいる不良連中は総勢40人。ちょっとした集会場ならそのまま占拠できそうなほどの人数だ。

 

しかしこの後に控えているツインズたちの人員ーーおそらく100人以上を考えれば、穴澤が心もとなく感じても仕方ない。

 

「では行くとするか。時間にそう余裕があるわけもない」

「ちょっとまて。本当にこの人数で行くのか?……というよりあの女はどうした?」

 

是清が後に続くよう手を挙げると、穴澤がそれを押しとどめた。

 

「知らん。ゴールドは先に始めろと言っていた……が、あいつについては考えても仕方がないことだ。俺たちは言われた通りにすればいい」

「勝てるわけがない。ツインズのことは俺たちだって知ってる。あの女に言われて調べたからな。

 100人はくだらねぇんだぞ。こんな人数でやりあえるわけがねぇんだ!!」

「本当にそう思っているのか? 穴澤」

 

勝てるわけがない。そんなセリフが穴澤自身が白々しく思っているのを、是清は見抜いていた。

それが心底から出てきた応えなのかどうかは、こがねと実際に対峙したお前が一番よくわかっているはずだと。

 

「……っ」

 

穴澤は答えに窮す。

 

「本当にそう思っているのなら、お前はそもそもここに来ていないはずだ。

 だが、それもどうだっていいことだろう。

 おそらくゴールドは、それでも構わんと思っている節があったからな。

 誰一人来なくても構わないと。もちろん俺を含めてな。しかしそれでも奴はーー」

 

勝つ。

 

「……分かってんのか、是清。あの女は異常だ」

「……」

 

「あの女はな。あれから折をみては宮田中にきて、俺たちを用もなく殴っていくんだ。あの精神を抉ってくるような拳でなっ!

 ……いや、用はあるのか。『人はすぐ忘れる生き物ですからね。ときどきメンテしないと♪』そう言っていたな。

 くそっ!! なんなんだ! あいつはっ!! あの目は人を見る目じゃねぇ。モノや動物を見る目だ!

 あいつは俺たちを人だと思ってないんじゃないのか!?」

 

穴澤が叩きつけた拳が、街灯をグワンと揺らした。

 

「教えてくれ、是清。あいつは何を考え、何をしようとしている!! お前は気にならないのか!?」

「さぁな」

 

穴澤の必死の懇願に対し、是清はそっけなく答える。

 

「俺とお前は、ゴールドを通して見るモノが違うのだろう。同じコインを見ても、裏と表で絵柄がまるっきり違うようにな。

 ただひとつ確かなことは、俺もお前もゴールドに負けたということだ。

 負けた以上は勝ったものに従わなくてはならない。それが俺たちの世界のルールだろう。違うか?」

「……」

 

「ゴールドが何を成すのかは、お前の目で確かめるんだな。……では行くぞ」

 

是清が廃工場へと足を向け、今度こそ穴澤は後に続いた。

 

 

馬鹿と煙は高いところが好きというが、俺も高いところが好きだ。

といっても俺が馬鹿なわけではなく、俺は馬鹿を見下ろすのが好きなのだ。

 

俺は今、ツインズの本拠地である廃工場に潜入していた。

 

工場跡地は大門を越えた後、旧工場と新工場にエリア分けされているが、そのうち新工場側は建設されることなく予定地で終わってしまったため、ほぼ空き地になっている。こちらがツインズの格好の溜まり場というわけだ。

今も敷地内には何十台ものバイクが集まり、けたたましい音を響かせている。耳が痛いね。

 

さて、俺がどこにいるのかというと、新工場の隅っこに積み重なった廃材の山の上だ。

この場所には、新工場を建築するための建築資材が回収もされず、野ざらしになりながらも幾つもの山を作っている。

 

その小高い山のひとつに、俺は腰掛けていた。

ここは敷地内の光源の位置関係からいうとちょうど逆光になるため、そうとう意識して目を凝らさないと下からは見えない位置にある。

そのため一方的に奴らを俯瞰することができ、非常にいい気分だ。まさに観劇にふさわしいベストスポットといえよう。

 

この場所に陣取ってから20分ほどたち、約束の時間が近づくにつれて、ツインズのメンバーも続々と集結しだした。

 

「思ったよりもいるなぁ。150人ってとこかな?」

 

よく集まったもので、この街の膿がここに溜まっていると思うと感慨深いものがある。

数は数えるのもの馬鹿らしいほどおり、100人と予想していたがゴールドエクスペリエンスの生命感知はそれ以上の数を俺に教えてくれた。

 

やはりどう見てもその1・5倍はいそうだ。ひょっとして全員集合なのか? 

無駄に高い団結力が発揮されていた。

いや、単純にメンバーが暇なだけか。中卒とか小卒ばっかみたいだし。人間暇だとろくなことしねーんだよな。

 

時計が9時ちょうどを指した時、大門から入ってくる人影があった。是清たちが来たのだ。

こちらの数は40人ほど。

 

あ、へー、全員きたんだ。よきかなよきかな。

SKBのメンバーの姿はないが、これは想定通りである。

 

是清たちの正面に、神崎が対峙した。神崎の仲間たちもバイクから下り集まってくる。双方の団体を背にしてにらみ合う2人。

そう、40VS150の決戦が今まさに始まろうとしているのだ。

 

いいね、盛り上がってきたよ!

 

この不良同士の決戦に、俺はいつになく興奮していた。

この構図。何が素晴らしいって、両方クズしかいないところなんだよ。

 

普通、戦いにおいて敵と味方に分かれて戦った場合、どれほど大勝利を収めたとしても味方側に損害が出てしまうものである。

 

しかし現状を見てもらってわかるように、なんとここにはクズしかいない。双方、本来バンドリ世界にいるべきでなかった異物たちである。

つまりどっちが傷つきどっちが倒れても、この世界に得しかないのだ。

 

こんな素敵なことってある?

 

これは今後においても、応用が利きそうである。

例えば1万人のクズがいたとして、それを駆逐するのに1万人の正義の味方を用意するよりも、分断して5千人VS5千人で争わせれば、綺麗に対消滅してくれるというわけである。

こんなにクリーンな方法はあるまい。

 

世界浄化計画。これはその先駆けなのだ!

 

「クックック。いいぞ……争え! もっと争え!!」

 

俺が支配者のポーズをとって一人盛り上がっていると、にらみ合っていた二人に動きがあった。

どうやら殴り合いの前に、話し会いをするらしい。まどろっこしいな。早くやり合えよ。

 

お互いに廃工場に響き渡るような声で、話し出した。

 

「久しぶりだな。是清」

「……」

 

神崎の表情には余裕がある。後ろに控えた150人がその自信の源なのだろう。

神崎は両手を広げて、誇らしげに言った。

 

「俺たちの城へようこそ」

 

城。

 

城かぁ。

 

たぶん、この寂れた廃工場のこと言ってるんだよね?

 

DQNって気楽でいいよな。安上がりというか。

俺、この世で一番幸せな人種ってDQNだと思うんだよね。

彼らは身につけたアクセサリが、金や銀だと信じて疑わない。

 

メッキでも本人が金だと思ってりゃ、そりゃ金を持ってる幸福感味わえるもんな。

こんな薄汚れたゴミだらけの場所でも、猿の遊び場としてなら立派な城になるのだろう。

 

「ああ、久しぶりだなアニキーーいや、神崎。できればこんな形で会いたくなかったが」

 

発言を受けて、是清が神崎の後ろを見渡す。

 

「神崎。コレがあんたが目指したもんなのか?」

「そうだ。これが俺のツインズだ」

 

親指で後ろを指し示す神崎。その背に控えるのは150人のメンバーだ。

 

先ほどの間抜けな「城」発言はともかくとして、実際こちらは大したものである。これだけの数を束ね、一声で集合させるというのは容易なことではない。

神崎くんはDQNではあるが、それなりのカリスマ的なものはあるのだろう。

 

「是清。お前は変わらないな。その目、この人数を見ても臆さないその態度ーー」

 

神崎は一瞬だけどこか眩しいものを見たかのように目を細めたが、首を振って切り出した。

 

「単刀直入にいう。是清、ツインズへ入れ」

「!? 神崎さんっ! 何を言って……ふべっ」

 

打ち合わせになかったことなのか、側近が突然の勧誘に驚いたが神崎はそれを裏拳で黙らせた。

 

「俺の後ろをみろ、是清。ツインズはここまで大きくなった。そしてまだまだ大きくなるだろう。

 まだこの街にも逆らうやつがいるようだが、それも時間の問題だ。そして俺は、ツインズをこの街だけで終らせるつもりはねぇ。

 俺は試したいんだ。どこまでいけるのかをな。関東関西……どこまでだって行く。そしていずれは全国制覇を……っ!!」

 

神崎は、何かをつかもうとするかのように虚空に手を伸ばした。

 

これは……

 

スターダストシェイクハンドだ! 生でやってるやつ始めて見た!

 

腹が痛い。

しかも全国制覇って。

 

お前らにはせいぜいスプレーで「全こく制は」とか落書きする程度がお似合いだよ。ろくに漢字もかけないような連中の集まりなんだからさ。

 

「ふっ。全国制覇か。その気持ちは男としてわからんでもない」

 

是清もなぜか頷いている。ありゃりゃ、シンパシーでも感じてしまったのか。

俺は男だが全然わからんぞ。元男だからか?

 

「だが、そのためにこの街に手を出したのか?」

 

是清が冷徹に神崎を睨みつける。

 

「……ああ、ツインズがもっとでかくなるためにも、金が必要なんでな。

 是清。お前も知っての通り再開発計画で、えらい金が動く。乗らないでどうする」

 

そのビッグウェーブにみたいな言い方はやめろ。

 

「それに今はまだ公表されてないが、計画の第2段階ではこの工場跡地も対象になっていてな。ここの最終的な権利は俺が押さえている」

 

ほほう。

 

これは驚きだった。

動物園の猿を見ていたら、道具を使ってバナナを取ったくらいの衝撃がある。

あ、そういう知恵はあったんだ、みたいな。

 

先ほどの「城」発言といい、神崎くんってば阿呆な夢見るDQNかと思ってたら、意外と自分でも考えてた。

 

馬鹿にして悪かったよ。

それなら確かに城だと呼称してもいいかもしれないな。

 

この工場、今は二束三文でも、再開発の対象になるなら地価は跳ね上がる。

結構敷地面積あるし、かなりのまとまった額になるだろう。

 

もしかしたら故意に不良のたまり場にし、環境悪くして地価を下げる目論見などもあったのかもしれない。

この言いっぷりなら積み重なった抵当権も、どうにかなるのだろう。

神崎くんは、割と考えるDQNにランクアップだな。

 

「地上げ仕事はチンケな仕事だが、これがうまくいきゃ、山内組からこの街を俺たちのシマにしていいって話になってんだ。

 より大きな仕事も任されるようになる……是清、時代は動いてるんだ。もっと上を見ろ」

 

より大きな仕事か。何だろうね。

まぁヤクザから任せられるような仕事だ。間違っても海岸の美化清掃とかじゃあるまい。

 

これはツインズの野望を止めるためにも、是非、是清に頑張ってもらわなくてはなぁ。

 

「チンケか……神崎。あんたは上ばっか見すぎて、大事なものを失ってしまったようだな」

 

神崎の悪意を感じて、是清も拳を握りしめた。

 

場の空気が変わったのが分かった。お互いの陣営がひりつき、構え合う。

話し合いの時間はおしまい。これからはより原始的な交渉が始まる。

 

「最後に一つ聞きたいんだが、本気で勝てるとでも思ったのか?」

「それはこの戦いの最後に分かることだ」

「そうか。残念だ是清。……いくぜっ!」

 

そして戦いの火蓋が切って落とされた。

 

くっ、頑張れ是清!

 

あんたが今ここで倒れたら、この街の平和はどうなっちゃうの? 

次回、是清死す。デュエルスタンバイ! 俺も高いところから応援してるよ!

 

 

「だからね、私は言ってあげたんだよ。今はまだ私が動く時ではないってね」

「あはは、何それ。おもしろーい」

 

「ふん。是清わかったか。これが俺とお前の差だ」

 

「あ、なんか出番きたみたいだから切るね。後ろ騒がしくってごめんね」

「うん。じゃあね、こがねん。また明日」

 

ふう。

さるかに合戦は終わったみたいだな。

 

応援は一瞬で飽きたので、途中から香澄と電話してたわ。おしゃべりトークについ夢中になってしまったよ。

下を見ると是清とゆかいな仲間たちVSツインズの決着がつこうとしていた。

 

やや。

圧倒的ではないか、敵軍は!

悠々としている神崎たちに対し、是清たちの方は、死屍累々といった有様である。

 

今も、かろうじて肩で息をしながらも立っているのは是清くらい。あとは穴澤含めて床に大往生している。

その生き残った是清も身体中から血を流して、まるで落ち武者だな、ありゃ。

 

全滅したこちらに対し、ツインズは120人ほどが健在だ。

つまりせいぜい30人ぐらいしか倒していない。一人一殺したくらいか。いや、是清の戦闘力を5人くらいと見積もると、何もしてない奴がおるぞ。

 

うーん、もう少し健闘してくれると思ったんだけどなぁ。

 

とはいえ30人倒してるのも、なかなかのものなのだろうか。

40人VS40人ならいざ知れず、40人VS150人で戦ったわけだし。単純計算でもこちら1人に対しあちらが3人で囲っていることになる。

 

正面向いて戦ってると、2人に頭を殴られる関係といえば難易度がわかりやすいかな。

その戦況でほぼ同数の敵を倒しているなら、十分といってもいいのかも知れない。

 

でも、こう……もう少し火事場の馬鹿力的なものが発揮されると思ってた。

ここで引いたら、ゴールドに殺されるんだぁ!! 的な?

 

頑張り足りなくない?

 

あと意外に神崎くんが強かったのも良くなかったな。

そういや是清の兄貴分だったっけ? これだけの組織率いてるやつが弱いわけないか。

 

途中から番長対決みたいになって是清が神崎にかかりっきりになってしまったから、突破力が発揮されずにその他の仲間がやられていってしまった。

 

まぁ最後は是清スマッシュが炸裂するかと思われたところで、是清以外を倒し終わった奴らが後ろから釘バット振りかぶったせいで是清くん負けちゃったんだけど。

残念。数には勝てないよね。

 

「もう一度言うぞ、是清。俺たちの傘下に入れ。これが最後通告だ」

「げほっ……ふん。これが最後だと? いや違うな。これからが始まりだ。

 いいかげん出てきたらどうだ、ゴールド」

 

「ゴールド……? 何を言っているんだ?」

 

片膝をついた是清の視線が、不審げに見下ろす神崎の頭を超えた先ーーこちらへ向かっている。

 

なんだ。気づいてたのかよアイツ。

しかし介入しようと思ってたとろだから、丁度いいな。

 

「ていっ」

 

俺は積み重なった廃材の上から、飛び降りた。

3階建てくらいの高さだったが、俺自身の自重がまだ大したことないので、衝撃はそれほど来なかった。

 

「やれやれ、残念ですよみなさん。もっとやれると思ってたんですが」

「どこから来たんだ……」

「まさかあの上に?」

 

むっさい男の中に、可憐な女の子参上。

 

殺伐とした処刑場に突然現れた俺の姿に、周囲は騒然とする。

狼たちの縄張り争いに、ぴよぴよひよこがやってきたようなものだ。そりゃわけわからなくもなるか。

 

「なんだ、てめぇは」

「だいたい是清さん、あなたまだ戦えるでしょ。なにサボってんですか」

 

誰何してきた神崎を無視して、俺は是清を蹴飛ばした。

 

スタンドは使っていない。だから絵面としてはちょっと小突いた程度である。

俺はありていに言って美少女なので、その筋ではご褒美にあたるかもしれない。是清にその気はないみたいだからやってるんだけど。

 

「是清の女か?」

 

俺を注意深く伺っていた神崎がこぼす。

 

ひぇっ。

なんつーこと言い出すんだこいつ。

 

無視してたら、なんか背筋をぞくっとさせること言いだしたぞ。TSした身からするとちょっとリアリティあるからやめろ。

神崎……恐ろしいやつ。

 

「ふん。そんなわけがあるか」

 

代わりに反論したのは是清だ。

 

「こいつはゴールド。俺の……俺たちのボスだ」

「ボス……だと……」

 

ボス。

影番はボスになるのか?

 

是清の言葉には突っ込みどころが満載だったが、この設定というか立場というかを肯定していくことにした。

ここにいたっては、真実はどうであれ都合のいい事実は使っていくにこしたことはない。

 

「ボスでーす! 缶コーヒーじゃないよ?」

 

かしこまっ! のポーズを決めてみたが無視されてしまった。むなしい。

……綺羅星にすべきだったろうか?

 

「冗談はよせ。じゃあなんだ。俺たちツインズの邪魔をしたのも、たったあれだけの人数で殴り込んできたのも、全部この女の指示だったとでも言うつもりか」

「そうだ」

「……笑えねぇ話だ」

 

未だに信じられないといった顔で、神崎は振り向いた。

こんどはてへペロのポーズをしてあげた。

 

不良グループのトップが女。しかも中1。ついこの間までランドセル。

漫画なら炉理事長とかいたりするけど、そりゃフツーないか。

 

でもどっちもどっちじゃない?

 

「そうですか? 私みたいなガキをボスにするグループより、全国制覇とか鼻息荒いグループの方がよっぽど笑えると思いますけど」

「……殺されてぇみたいだな」

「殺す殺すとか、人を殺したこともないくせにそういうことばっか言いますよね、あなたたちって」

 

使ってもいいのは、ぶっ殺しただけだよ!

 

「それで、そのボスとやらは尻尾巻いて逃げるならともかく、今更出てきてなにがしてぇんだ?

 まさか謝るので許してくださいとでも言う気か?」

「謝る? 逆ですよ全部が逆。むしろ謝って欲しいのはこっちの方なんですが」

 

まだ混乱しているのかな? 

逃げ出すならわざわざ前に出てくるわけがなかろう。

 

「それに尻尾巻いて逃げるのはそっちの方です。ま、逃がしませんけどね。……おい、SKB。でてこい」

「よっと。ようやく出番かい、こがねちゃん。こっちは全員揃ってるよ」

 

俺の呼びかけに応えて、入り口よりSKBメンバーが現れた。

先頭に立ったKが、陽気にこちらに手を振る。

 

「SKBだと。お前ら誰だ……いや、そこにいるのは、もしやKか?」

 

新手の登場に誰何した神崎だったが、どうやらKとは顔見知りだったようだ。

 

「久しぶりだね~神崎くん。君の誘いを断った以来かな。

 あはは。こんなんになっちゃったけど、そうだよ。俺がKだ」

 

こんなんと言いつつKは自分の頭を撫でた。撫でる先には何もない。

俺がむしり取ったからな。

 

にしても、そんなKを神崎はよく見抜いたものだ。

 

他のSKBメンバーは毛を全部むしったら別人と化したが、Kは禿げてもあんまり変わらなかったからな。

イケメンが禿げたイケメンになっただけだった。やはりイケメンは得だ。

 

「ということは、他の奴らはSkaterBoysか。

 ひょっとして女、お前がやけに強気だったのは、まだこいつらがいたからか?

 確かにKは脅威だ。だがたった9人増えたぐらいで、なにができる」

 

「勘違いしないでください。こいつらはただの蓋です」

「蓋……だと?」

 

「SKBの皆さん、その門から誰も逃さないでください。誰1人としてね」

「えっ! こがねちゃん。俺の出番は?」

 

Kが素っ頓狂な声を出した。

出番? そんなものあるわけなかろう。共闘するつもりなら最初から出しとるわ。

なんのために待機させてたと思ってる。

 

「ですから蓋ですよ蓋。雑魚は引っ込んでてください。邪魔なので」

「あ、うん……」

 

お前も一緒に戦ったら、俺がこれからすることの意味が薄れるからな。

 

ちょっと納得がいかない様子のKのケツを叩き、工場の重たい門扉をSKB総出で閉じさせた。

これでバイクを使っても簡単には抜け出せないだろう。

 

「さて、さっさと始めましょう。これだけいると、さすがに時間がかかりそうですから」

 

ふぅ。

ようやく舞台が整ったか。

 

神崎は是清たちを、見せしめとして利用するつもりだった。

そのためにわざわざツインズの全員を集合させ、決戦風味にこの場を用意した。

 

だがそれは逆に言えば、この場でツインズを処刑することができれば、誰も俺に勝つことはできないという証明になるわけだ。

そしてその証明をより強固にするためにも、是清たちには一度沈んでもらう必要があった。

 

そう。なぜならこれは、是清や穴澤たち、そしてSKBに対する見せしめでもあるからだ。

 

今でこそ従順に俺に従っている奴らも、もとは性根の腐った不良だ。ふとした弾みで俺を裏切る可能性は十分にある。

 

俺は1度勝ったからとか、感覚暴走で殴ったからとかだけでは安心しない。

繰り返し何度でも、刻んでおく必要があるのだ。俺に逆らったらどうなるかを。これはそのための場だ。

 

「てめぇ……この人数とやれると思ってんのか?」

「ゴキブリにしてはよく集まった方だと思いますよ。あ、ヘビでしたっけ。これは失敬」

 

1VS120か。過去最大の人数差だな。

これは1人と戦っていると、119人に頭を殴られる関係である。うーん、酷い!

 

しかし戦力比で考えればそれほどでもないね。なんせこちらには、無敵のゴールドエクスペリエンスがあるからな。

 

不安はない。

だが懸念はある。

 

それはゴールドエクスペリエンスのステータスに煌めく「持続力D」の文字だ。

このDとは、スタンド業界では「ニガテ」を意味する。

すなわちスタンドの持続力Dが、どこまで持ってくれるのかというのが、気がかりと言えば気がかりだ。

 

ある意味これは、俺自身の試験でもあるわけだな。この場をしのぐことができれば、俺は将来にわたって人数差で悩むことはなくなるといっていいだろう。

 

果たして120人という数。捌き切ることができるだろうか。

 

俺は神崎たちツインズ全員に向かって宣言する。

 

「さて、お前たちにはできないかもしれない」

 

 

「さぁさぁ、どんどん来てくださいよ〜!」

 

1VS120。

 

これは1人と戦っていると、119人に頭を殴られる関係といったが、当然これは正確ではない。

リアル人間というのはネトゲの自キャラと違って嵩張るので、一度に襲い掛かれる人数というのは限りがある。

 

相手が機関銃でも持ってれば話は別だが、こうした殴り合いみたいな原始的争いなら、敵が何人いようが一度に襲いかかって来られるのは、せいぜい5~8人がいいとこだ。

つまり一度に8人を捌く術さえあれば、1VS8でも1VS10でも1VS100でも勝確になる。

 

人をお空に殴り飛ばすパワーと、反則じみた反射能力を持つゴールドエクスペリエンスならば、難しい注文ではない。

 

「あ、ありえねぇ……」

 

だいたい40人……第5waveをこなしたあたりで、奇妙な間が空いた。

是清たちが倒した以上の人数を、たった一人で圧倒した俺に尻込んだのだろう。

 

つぶやいたのはSKBのタクトだったが、その場にいる敵味方全員が同じ感想を抱いているであろうことは、手に取るようにわかった。

Kですらも、冷や汗を浮かべている。

 

唖然とするのもいいが、自分達の役割を忘れてないだろうね。門番。

この光景を味方にも見せつけることが目的の一つでやってるとはいえ、アクション映画を鑑賞するみたいに集中されても困るな。

幸いにしてまだ逃げ出すツインズはいない。

 

「手を止めるんじゃねぇ! 畳み掛けろっ!!」

 

おお。

 

そんな異常な空気の中でも、神崎から発せられた檄は的確だった。

指示に従い第6waveがやってくる。俺も迎撃作業を再開する。

 

この1度に襲い掛かれるのは8人が限界です理論の穴は、何と言っても受け手側の持久力である。

どんな対人戦の達人でも、徒手空拳で戦っている以上、いつかは体力的な限界がくる。

そうなれば犠牲は出るにしても、最終的には数に飲まれることになるので、攻めの手を休めないというのは戦術的に正しい。

 

俺も唯一心配していたのが「持続力D」だからな。

 

第8waveがやってくる。

前からくる敵におざなりパンチとキックをして、後ろからくる敵になんちゃって回し蹴りをする。

たまに迎撃し損ねて一撃くらっても、反射で勝手に落ちていく。楽なもんだね。

 

ーーこうして戦い続けていても、未だに疲れを感じない。

 

体の疲れは、軽い準備運動をした後程度である。俺のやってることってパントマイムに近いもんな。

精神的な疲れは……どうだろう。よく分からない。せいぜい腹が減ったかな、くらいなもんだ。

 

まだまだ存分に行けそうである。

 

総合的に考えるに、「持続力D」ーーそれほど心配しなくても良さそうだ。

 

というかスタンドの持続力なる概念は、ジョジョの読者すら理解してないと思う。ひょっとして荒木先生すらも……。

スタンドの維持時間なのか、能力の発動時間なのかそれすらも曖昧なんだよな。

 

持続力については、真面目に受け取らなくてもいいかもしれない。FATEのパラメータみたいなもんだと受け取っておこう。

 

いろいろ考えてるうちにも、無意識で敵の迎撃は進んでいた。

いつの間にか第12waveくらいまで済んでいたらしい。疲労らしい疲労もない。

 

「ひ、ひぃいいいい! 化け物ぉぉ!!」

「お前たちっ! いけっいけっ!!」

 

未だに残っているものの、残りのツインズは完全に及び腰だ。だいたい20人といったところか。

戦場では勇敢なものほど死んでいくとはよく言ったもので、残っているのはツインズの中でも出がらしみたいな連中なのだろう。

 

神崎がしきりに発破をかけているようだが、もはやその威光も届かない。

中には逃げ出そうとしている奴もいたようだが、SKBの通せんぼにより取り押さえられている。

 

ここで取り逃がしたら俺がどうするかを考えると、SKBの連中も文字通りの決死の覚悟だろうから、あっちはアレで大丈夫そうだな。

 

「このクソどもがぁ……貸せっ!!」

 

もはや烏合の衆と成り果てた面々にしびれを切らしたのか、神崎がとうとう動き出した。

 

何をするのかと思いきや、腰が抜けた側近を殴りつけ、奴が跨ったのはバイクだ。

止めてあった1台に跨ると、爛々とした目つきでこちらを睨んでいる。

 

えっと。

まさか、それでこっちこないよね?

 

その大型二輪がJCに直撃したら、どう考えても殺人未遂は確実だと思うんだけど。

喧嘩という枠を明後日の方向に放り投げてしまったのか。

その前にこの広場には、100人以上の俺が散らかした人間が転がってるんだけど、それはどうするんだろう。

 

「死ねっ!!」

 

と、そのまさかを神崎は実行した。

アクセルをめいいっぱいにふかし、一直線にこちらに向かってくる。地面の仲間たちを轢きながらだ。

 

ひどい。死体蹴りだ。

 

ダートトラックレースもかくやという路面状況なのに、そのハンドルがぶれることがない。

ある意味すごいドライビングテクニックではある。

 

さて。

とはいうもののどうすべきか。

 

単純に避けるのは難しいだろう。

相手も顔真っ赤にしてるとはいえ闘牛じゃないんだから、反復横とびでどうにかなるとは思えない。

 

では迎撃か。

 

ゴールドエクスペリエンスの破壊力C。成長してB。

バイクをオラオラしてぶっ壊せる程のレベルではない。

 

となると反射……能力で作った生物をバイクが引いた場合、ダメージはドライバーにいく。

つまり、バイクが俺にぶち当たると、なぜか神崎の体がバイクにひかれてすっ飛んでいくことになる。

さすがに不自然すぎるか。

 

というわけで、

 

「ていっ」

 

俺は足元に落ちていた気絶したツインズ2人を引き起こし、斜めに構えた。

 

人間の盾である。

 

「なっ!!」

 

驚きのあまり、急にハンドルを切ることもできず、神崎バイクは人間滑り台の上を駆け上がり、夜空へ飛んで行った。

発射台となった人間の盾はどうなったか……あー、生きてる生きてる。たぶん。

 

夜空を滑空する神崎バイクは、空中で神崎とバイクに分離し、神崎は地面という名のおろし金にかかった。

バイクは壁際の廃材置き場までガリガリ滑って行くと、砕けて、ガソリンを吹き出し、燃えた。

 

燃えた。

 

誰も言葉を発さない。

廃工場を、バイクの焚き火が人工灯より明るく映し出した。

 

「神崎くぅん! ダメでしょ、お友達引いたら!!」

 

神崎もピクリとも動かなくなっていたので、手にした盾を投げ飛ばしボウリングーーストライク。

お、神崎動いた。こっちも生きてる生きてる。

 

近づき見下ろすと、神崎はひどい有様になっていた。

バイクで交通事故にあったようなものだから、擦り傷がひどい。

 

着ていたジャケットも見る影もないし、全身擦過傷状態。今夜の風呂はさぞかし染みることだろう。入れたらだけど。

 

「う、ぐぐぐ……」

「まだ、やる?」

「な、なんなんだ。てめぇは……」

 

突然、哲学的疑問を投げかける神崎。

なんなんだと言われましてもね。こがね困ってしまうよ。

 

俺の方こそ、お前ら不良を見てていつも「なんなんだお前ら」と思っているんだが。

 

バンドリ見てて、背景にこんな茶髪ロンゲの怪しい風体のDQN映ったら困惑するでしょ? 

俺は毎日その光景を目にしてるんだ。

 

とはいえ神崎くんの感想もわからんでもない。

彼からすれば、金稼ぎの一環として地上げして金も手に入ってこれからだって時に、よく分からん女が大暴れして、苦労して作ったチームがバラバラになってしまったのだ。

 

なんなんだと言いたくもあろう。

 

「俺たちを……」

「ん?」

「ぐぐ……俺たちをやったところで、地上げはとまらんぞ」

 

こんな状態になっても、まだ減らず口を叩くとは。たいしたもんだ。

 

「俺たちがやらなくても第2第3の別のやつがやるだけだ」

 

おいおい。お前は四天王の最弱なのか?

 

ツインズは所詮下っ端なので、ツインズを潰してもせいぜいしばらくの間地上げが止まるだけーー

下請けが一つ潰れたところで、元請けは別の下請けを探すだけーー

 

実際その通りとはいえ、しかしこいつは今更何を言っているんだ? そんなこと言われんでもわかってるわ。

あ、いや。是清くんたちは分かってなかったね。

彼らはツインズを止めれば、再開発も止まるもんだと止まるもんだと勘違いしていた節がある。

 

「あー、それは動機のひとつなのでどうでもいいことです。

 どうせ再開発計画はストップするので」

「なん……だと」

 

愕然と目を見開く神崎。

光に映し出されて強調されたマヌケヅラが、ちょっとおかしい。

 

「お、おい……火がっ」

「さっきのバイクが……っ! 燃えて!!」

「火?」

 

にわかに騒がしくなった周囲に反応して燃えたバイクを見るとーー見ると、と思わず二度見してしまった。

 

ファイヤー!!

 

バイクから飛び火した火の粉が、廃材に燃え移ってキャンプファイアーみたいに燃え上がっている。

 

うお。

めっちゃ燃えとる。

 

あー、最近雨降ってなかったからなー。

火の裾野は横へと広がり、次から次へと横の廃材に着火しているようだ。

 

俺がさっき腰掛けていた廃材の山も火の海に包まれている。

こりゃ結構燃え広がりそうだわ。メンドクセェな。

 

「それより一応これも聞いておきますが、神崎さんは山内組に命じられて地上げやってたんでしたっけ。

 次の大きな仕事って何ですか?」

「いや、それより火が……」

 

「火? あれなら大したことないないない。それよりいいから喋りなさい」

「……誰が話すか」

 

無言で殴る。

 

「ぐぎゃああああああああああああああああ」

「で?」

「……だ、誰が」

「ぐぎゃああああああああああああああああ」

「で?」

「……」

 

ありゃりゃ。

その後2回ほど問い詰めたのだが、気絶してしまった。あるいは円環の理に導かれたか。

感覚暴走で殴ったというのに、最後まで口を割らなかった。

 

たまにこういう奴がいるんだよな。我が強いというか、意志が固いというか。状態異常にかからないタイプだな。精神耐性に相当数値を振ったのだろう。

 

まぁ、他の幹部格にでも続きを聞けばいいだろう。

さらば神崎。

 

「ゴールド。終わったか?」

「ん? 是清か……ええ、まぁ」

「そうか。これだけの数を一人でやるとは。さすがだな」

 

改めて見渡すと、死屍累々の酷い有様だった。敵も味方も屍の山だ。

とはいえ俺にとっては、雑草をちぎって投げただけに近いのでそれほど大したことではない。

 

「火の周りが思ったよりも早い。見ろ、廃工場まで燃えだした」

「わ。ほんとですね」

 

火の手はいつの間にか、空き地の廃材から廃工場まで燃え広がり、夜空を煌々と照らしていた。

見事な燃えっぷりである。

 

「このままでは俺たちも危ないかもしれん。ここは引き上げるべきだろう」

「引き上げる? 何言ってんですか是清さん。まだ残っている奴らがいるでしょ」

「なっ」

 

俺の発言に是清は驚いているようだが、驚きたいのはこっちのほうだよ。

 

「あと20人ほどですか……その身に刻みつけてあげないと」

 

ここで逃すようでは、もったいない。

やるならば徹底的にやらねば意味がない。

 

是清にしろ神崎にしろ、しきりに火の手を気にしていたようだが、そもそもここは空き地だ。

燃えているのは、周囲を囲うようにまとめられた廃材だけである。

 

ドーナッツみたいに炎に囲まれてるから大げさに見えるだけであって、焼け死ぬなんてことはまずない。たぶん。

 

俺たちがいるのが廃工場の中とかならともかく、すでに外に出ているんだからこれ以上避難する必要など、どこにもない。

 

だからどちらかというと、気にすべきは警察や消防だ。

街外れとはいえ、このまま延々と煙を上げていれば気づかれるだろう。ってかもう気付いてるだろ。

 

「是清さんは、SKBと誰一人逃さないように見張っていてください。

 もちろん皆さんも先に逃げ出さないように。逃げたらーー」

「ぐぎゃああああああああ」

 

俺は手近にいたツインズの残りに断末魔を上げさせた。

 

この場にいる全員から、俺に対する戦慄の眼差しを感じる。

 

あとは時間との勝負だな。

行政が介入してくるまでに、どれだけクズの掃除ができるか。

 

考えてみたら廃工場が全焼というのも、まるで館ものの最後みたいで乙なもんだ。

ツインズは本拠地とともに、最後を迎えるのだ。

焼け野原には何も残らず、この街から不良は一掃されグッと綺麗になる。

 

これでこの街に平和が訪れると思うと、ちょっとテンション上がって来ちゃうね。

 

よぉし、後片付け。きっちりやるか!

 

「ひゃっはー! 燃えろ燃えろぉ!!」

 

 

 

 

そしてその日、ツインズは本拠地と共にこの街から姿を消した。

全焼した廃工場の出火については不良間の抗争によるものだとされたが、詳しいことについては誰もが口を閉ざしたため、原因は不明とされた。

 

ツインズのリーダーである神崎は警察に捕まったが、身体に激しい傷を負っていたため、病院へと送られていったという。

 

さらばツインズ。


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