番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~   作:ふたやじまこなみ

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第5話「自己紹介リピート」

「はーい、みなさん。席についてください~」

 

教室に入ると間もなく、担任の女性教師が入ってきて、初めてのホームルームが始まった。

最初の着席は出席番号順のようで、つまりは苗字のあいうえお順だった。

 

座席表とにらめっこしてみるがーーうむ、他の原作キャラはいないようだな。

 

「~というわけで今年こそ結婚したい!!」

 

女教師の熱烈なアピールが終わると、次は恒例のクラスメート自己紹介となった。

……なんだか今日は自己紹介ばっかしてる気がするけど、初登校日だから仕方ないかな。

変な連中が思い浮かぶ忌々しい自己紹介は、カウントしたくない。

 

「つ」の番が回ってきたな。「つ」は「つぶらや」の「つ」。

企業の面接というわけでもないので、これまで代わり映えのしない各人の自己PRが続いた。

俺は香澄たちを守るタンク。でもナイトでもあるので、謙虚に続くことにする。

 

「円谷こがねです」

 

どよっという効果音が響いたかのように、教室がざわめいた。

 

まだ名前名乗っただけなんだけど……

 

反応が、これまでの人達の自己紹介に対するものと違う。

酸性、酸性、酸性、はいアルカリ性ってな具合に、一つだけアルカリ反応を示した、リトマス試験紙みたいに目立ってしまった。

そのどよめきは、クラスの三文の一ぐらいの割合。

 

美少女が新入生代表やったからだね! 仕方ないね!

 

でも、驚いてるやつは、あいつがそうなのか……関わらないようにしようみたいな顔をしてるのなんでだろうね?

 

……うそです、知ってた。

 

ふぅ。

 

校門での出来事が、すでに教室内を駆け巡っていたのだろう。悪事千里をいくという奴だ。

反応してなかった生徒たちも、隣から耳打ちを受けたとたん視線が、アンタッチャブルピーポーに対するものに次々に変わっていくのがわかる。

 

完全に周知の事実となったようだ。

ま、いっか。どうせなら止めを刺しておこう。

 

「校門の女です。よろしく」

 

ーーあれが俺の自己紹介だよ。

ーー仲良くしようね。

 

にっこり笑うと、みんなに目をそらされてしまった。

情報提供を受けられなかった女教師だけが、首を傾げて訝しんでいる。

 

もういいから先に進めてください……

 

「つ」が終わって「と」の番になると、香澄が椅子を倒すような勢いで立ち上がった。

 

「戸山香澄です! 今日は朝からドキドキしていて、今もずっとドキドキしています……。

 なんか今日はいいことあるかもって朝から感じていて、ここにいるみんなと出会えました。

 えっと、うまく言えないんだけど、このクラスの全員と、仲良くなれたらいいなって! 

 みんなでキラキラできるといいなって、思います! そう! みんなで!!」

 

入学初日のテンションで意気込む香澄を見て、みんなぽかんとしていたようだが、どこからともなく誰かが手を叩き出すと、みんなが連なって拍手をした。

俺ももちろん拍手で答える。

 

ドキドキにキラキラか。

この胸を打つような純粋さが、俺が守らねばならないところだ。

 

そして頼むぞ、ときめきエクスペリエンス!

 

ーーでも例の「星の鼓動」うんぬんが自己紹介中になかったけど、中学の自己紹介では言わなかったのかな。

 

「は」になると花園たえの自己紹介が始まったが、

 

「花園たえです。みんなからは、たえちゃんとかおたえって呼ばれてます。

 できればおたえって呼んでください。……えっと、よろしく?」

 

といって座ってしまった。

 

呼んで欲しいの「おたえ」の方なんだ……そういえば香澄に名付けられて本人お気に入りなんだっけ。

でもみんな花園たえって名前には、聞き覚えのない様子をしていてよかったよ。

 

そうそう。

俺の名前だけ覚えてて!!

 

 

入学初日なんて、オリエンテーションみたいなものだ。

授業なんて当然なく、ほとんど学校説明とか準備で午前中は終わり、昼飯の時間となった。

 

見渡すとクラスメートたちは、各々思い通りの行動をしだした。

あるものは積極的に、あるものはおっかなびっくりで今日知り合った仲間に声をかけている。

そして、昨日までは知らなかった今日からの友達と、席を並べるのだ。

この学校に給食はない。だからみんな、それぞれの弁当を持ち寄っている。

 

初日のお昼、ブレイクタイムを誰と過ごすかは、今後に響くから大変だよな。

下手したら今後の学校生活がブレイクすることもあるから。

 

そして俺はというとーー

 

「こがねん! 一緒にたべよっ! やーっとお昼だよ。あーお腹空いたっ」

「うん、一緒に食べよう」

「え、いいの? よろこんで!」

 

香澄とたえに誘われて、昼を一緒することとなった。

ありがたいことだ。

 

というか、お昼に至るまで香澄とたえ以外の誰も話しかけてこない。それどころか目を合わせてもくれない。

こちらへの視線はあるのだが、感じて見やるとみんなの首がグルンと明後日の向こう側へいく。

完全に触れてはならない存在になってしまった。

名前を言ってはならない、例のあの人みたいに扱われてそうだ。

小学生時代を思い出すぜ。

 

「こがねんの唐揚げすっごい!! おいしーよっ!!

 これってお店で売ってるのより、断然だよ」

「ふふん。自家製だからね」

「唐揚げって作れるの? 凄い」

 

無駄に経験値を重ねた料理スキルが唸りを上げた。

確かに自家製だけど、よもや鶏からして一から育て上げた自家製だとは思うまい。

ゴールドエクスペリエンスで近所のブロック塀をオラオラして創った、自慢の雌鶏が元だ。

 

ゴールドエクスペリエンスが作り出した生物って、本来は生命エネルギーがなくなったら元の物質に戻っちゃうけど、そいつらが生んだ子供はどうなるの? とか、成長した生物の能力解除のタイミングはいつ? とか、そういった実験過程の産物だ。

最終的に能力の適用範囲は、スタンド使いの志向でかなりの自由がきくことがわかった。成長性Aは伊達ではないね。うん。

 

「そういえば二人は、部活とかどうするの? 

 こがねんはーーこんなに上手なんだから、料理クラブとか? あ、お料理研究会だっけ?」

「うーん。料理は趣味で出来ればいいからね。

 部活でやるのはどうかなー。たえちゃんはどうするの?」

「私はーー特に何も決めてない。やりたいこともないし。

 香澄がやるのを一緒にやろうかな」

「えー! 私だって決まってないよー! いろいろやってみたいことはあるんだけど。うーんっとどうしよっかなー」

 

香澄には、キラキラドキドキ探しって重要な使命があるからな。

部活の探索は重要な第一歩だ。

原作では中学時代の香澄は、将棋部とか柔道部とかいろんな部活にチャレンジしていたはずだ。音楽系はやらなかったのかな。

 

そういえば、たえはいつギターやるんだろう。

高校夏時点では、すでにギターが相当な腕だったよな。

原作に習うならば、小学生の時から始めててもおかしくないけど。あれ、中学生だっけ。原作もそこら辺、ブレッブレだったんだよな。媒体によって違うし。

ちょっと聞いてみるか。

 

「私、部活が何があるのかも、まだよく分かってないんだよね。

 この学校、音楽関係の部活とかが有名とかは聞いたことあるんだけどーー2人は何かピアノとかやってる?」

 

さぐりさぐり。

 

「私、音楽とか聞くだけでやったことないよー。

 小学生の時のリコーダーくらいかな。

 それも、あっちゃんに、お姉ちゃんの演奏って騒音だから家でやらないで! って怒られちゃったし……」

「私も習い事とかーーできなかったし、やったことない」

 

うーむ。

やはりギターのギの字もないみたいですねぇ。

どうしようかな。この時点で勧めといた方がいいんだろうか。

 

香澄は高校に入ってから初めたとしても、あっという間にライブハウスで演奏できるくらいの腕になるから問題ないんだ。そういう原作保証書がついてるから安心。

けど、たえは分からんからなー。

少なくとも、たえには在学中に手をつけてもらいたいけど、この二人が仲良しだと、たえだけ始めるのも変な感じだもんな。

 

ギターに精を出すたえを見たら、香澄とか絶対キラキラしてる! 自分もやるって言い出しそうだし。

って、それはそれでいいのか?

 

香澄が先にギターを学んでしまうデメリットーーは、有咲との絡みがなくなることか。

香澄には、引きこもった有咲を表に出すという、重大な使命があるのだった。

 

この時点で香澄がギターを始めてしまうと、

 

「有咲を蔵から引っ張り出す」→「一緒にグリグリライブ見学して感動」→「有咲! 一緒にバンドやろーっ! はぁーーーー? 知らねーーーっ!!」の黄金ルートを辿れなくなってしまう。

 

でもあれはランダムスターさえ香澄の目にとまれば、事前に香澄がギターやっていたとしてもいいの……か。

 

よし。

 

「私もやったことないから、みんなで音楽やってみるのもいいかもね。

 そういえば、バンドーーそう、バンドとか面白いらしいよ」

「バ、バンド!?」

「?」

 

ちょっと踏み込んだ発言をしたら、二人とも目を丸くしてしまった。

 

あれ? そんなに変なこと言ったかな。

バンドという単語に対する反応がよろしくない。

原作基準だとライブハウスに連れ込めば一発! の筈なんだけど。

 

「バンドって、そのーー小屋みたいなところで、ギターとかドラム?とかをいっぱい叩いて騒ぐの、だよね」

「うん。そんな感じだけど……」

 

小屋って……。

 

「そういうところは危険だから近づくなって、お父さんが言ってたけど、いいのかな」

「ライブハウスはーー危険」

 

あちゃー。

 

そうきたか。

そうでしたそうでした。

 

ここはバンドリ世界だけど、芸能界の闇のせいでバンド界隈は世紀末基準。

ロックといえば、音楽の種類というより、現代社会に怒りの雄叫びをあげる無法者どものこと。

そうしたアウトローどもの群れが集まるのが、ライブハウスになってるわけだ。

まぁ簡単に言うと、不良の巣窟だ。

 

すなわち、暴力・セックス・ドラッグ!! が蔓延る空間。

前世だとだいぶマシになったけど、1970年代なんて一般人が近寄っていい場所じゃなかったからね。

街外れのちっちゃいライブハウスなんてまさに隔離空間。犯罪の温床。大人たちの目の届かない怪しい場所以外の何ものでもないから。

 

これが偏見じゃなくて現実だから始末に負えんな。

 

そんなところに、まともな婦女子が行くわけないし、親御さんだって行かせるわけがない。

何がライブハウスに連れ込めば一発だ。そんなん一発どころか一発ヤられてまうわい。

 

……この世界で女子にライブやらせるのって、想像以上に難しいんじゃないか。

 

どうしてもライブハウスじゃないとダメかな。

学芸会レベルじゃダメ?

リコーダーとキーボードとカスタネットで、ときエクを学校発表会とか……。

 

あわわわ。

 

ゴールドエクスペリエンスさんがこっち見てる!

やっぱダメみたいですね。

 

ま、幸い時間はあるし、おいおい考えよう。

 

「でもバンド? じゃなくても、音楽やるっていうのはなんか楽しそう!」

「ここは吹奏楽が強いって、お母さんが言ってた」

「吹奏楽かぁ……入学式の日もすっごい演奏してたよね! いいなぁ、楽しそう!

 うーん、でも思いっきり体動かしたい気もするし……運動系も捨て難いような……」

 

憧れの表情を浮かべたり、考え込んだりと香澄は忙しい。

 

吹奏楽か。音楽関係というと、まずそうなるよな。軽音部はないみたいだし。

高校の時の友達も吹奏楽部でエレキ持ってたしな。ベスト選択かもしれない。

 

「すぐに決めることないよ。

 体験入部して、これだと思ったのをやればいいんじゃない?」

「そうだね! いろいろやってみたい!

 そして一番キラキラしたのやるっ!」

 

たえのアドバイスに、それだといった感じで香澄が意気込んだ。

握りしめた拳から熱意が溢れ出ているようだ。

 

「それじゃあ、放課後、みんなで部活探そうよ!

 やりたいこと探し、するよ!」

「おー」

「こがねんも、いいよね?」

「私は……あー」

 

俺はたぶん、今日はそんなことする時間はないというか、相手が与えてくれないというか……ま、今はいっか。

 

「うん、一緒に回ろう」

「やった! それじゃ、放課後にね!!」

 

 

「放課後になったよ!!」

 

香澄による、元気いっぱい放課後宣言。

 

午後のレクリも大したことなかったので、あっという間に放課後になった。

ワイワイガヤガヤと教室内は騒がしい。そこかしこで部活どうする? 何にする?みたいな会話が聞こえるから、だいたいみんなも体験入部めぐりするみたいだった。

部活動体験週間ーーこれを逃しても仮入部はできるけど、時期を外した体験入部はちょっと恥ずかしくなる。

 

香澄がたえまで駆け寄って行くので、俺も続く。

 

「おたえ! 放課後だよ! 放課後!!」

「うん。放課後だね」

「いやー、長かったねー。もう待ちきれなかったよ!」

 

身を震わせると、そこにないはずの星ミミ髪型がクイクイ動いて見えた。

あれ星ミミっていうか猫耳っぽいんだよな。

肝心の香澄は犬っぽいんだけど。

 

「わっわ。こがねん! どこ見てるの!」

「……どこも見てないよ」

 

なんか尻尾が幻視できるような気がしただけだよ!

 

「こがねんってば!! ひゃんっ」

「ここに尻尾がある」

 

たえがサワサワすると、香澄が飛び跳ねた。

 

タッチまでしてしまうとは、流石、女の子同士は違うな。

俺も女だけど、そこまでの芸当はできない。

男転生者、YES視姦NOタッチだ。

 

「おたえまで!! もっー! 尻尾なんかないよ!!

 それでーーまずはどっから行く?

 やっぱり、おたえオススメの吹奏楽部からかなぁ?」

「別にオススメしてはないけどーーそれでいいよ」

「それじゃ、部活探しの旅にしゅっぱーっつ!!」

 

香澄が元気よく宣言したところで、教室前方のドアがガラリと音を立てて開いた。

 

「あ、あのっ!!」

 

かすれそうだが切羽詰まったような声が、教室中に響く。

一見して気の弱そうな女の子が立っていた。

 

教室中のそこかしこからの視線に気圧されたように一瞬たじろいだが、意を決して女の子は口を開いた。

 

「……!! あの、円谷こがね…さん、いますか!」

 

やれやれ、ご指名のようだな。

俺は承太郎のようにヘアバンドを整えた。

予想はできていたので、ようやくといった塩梅だ。

 

「わたしだよー。私が円谷こがねです。私に何かようですか?」

 

俺はあえて明るい声で返事した。

 

「あなたが……!

 あの…その……先生が、呼んでるんです!

 何か話したいことがあるみたいで…それで連れてきてって」

 

ふむふむ。先生が呼んでいるねぇ。

このパターンか。

 

「そうなんですか。何でしょう? 何か悪いことしましたっけ?

 先生に呼ばれるようなこと、した記憶はないんですけど」

「それは……わかりません。とりあえず連れてくるようにって」

「ふーん。ま、いっか。とりあえずいってみます。

 ……というわけで、ごめんね。香澄ちゃん、たえちゃん。ちょっと行ってくるよ。

 遅くなるかもしれないから、部活見学は2人で行ってきていーよ」

 

振り返りながら、2人に謝る。

 

「えー! いいよ、こがねん。終わるまで待ってるよ!」

「……」

 

今日会ったばかりの俺をここまで気遣ってくれるとは。

思わず、ときめいてしまう。

感動もんだけど、この後にあるのはときめきとは正反対のもんなんだよね……どちらかというと、そうゴールドなんだ。

 

「うーん。どれくらいかかりそうか分からないからなー。

 そうだ! とりあえず2人で先に行っててよ! あとから合流するから!!」

 

必殺! 行けたら行く宣言!!

大抵の場合、絶対に行かない率100%。

 

「じゃあ、行きましょうか!……どこへ向かえばいいでしょうか?」

「えっと……し、視聴覚室です…」

 

これ以上香澄たちを巻き込まないよう、逆に女の子を連れ出すようにして、そそくさとその場を抜け出した。

 


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