番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~   作:ふたやじまこなみ

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第6話「黄金体験」

「こがねん、いっちゃったね……」

 

なんか最後慌ただしかったな。

なんでだろう?

 

「おたえ、どうしよっかー?

 先に吹奏楽部にいく?

 あれ? おたえ?」

 

振り返ると、おたえが深刻そうな表情をしている。

こんなおたえ、滅多に見ない顔だ。

昔見たのはえーっと、鳥に餌をやっている時にお腹が空いたおたえが、餌をつまもうか悩んでいたときだったかな?

 

「今のこがねを呼びにきた女の子、2年生だった」

「え?」

「リボン、青」

 

言われて思い返してみると、たしかにリボンが青かったような……

御谷中はリボンの色で学年が分かる。赤は3年、青が2年、緑が1年だ。

だから、青なら2年生だけど、それがなんなんだろ?

 

「普通、先生が学校に不慣れな新入生に用があるなら、先生が自分で来ると思う。

 それに呼んだとしても、上級生に頼まない」

 

うーん。

言われてみれば、ちょっと上級生も様子が変だったような……あれ、でもそれって。

 

「え!! じゃあ、こがねんに用があるっていうのが、嘘ってこと?」

「用があるのは本当だと思う。ただ、それはたぶん、先生じゃなくて……」

 

ここまで言われれば、香澄って鈍い、とか。頼むから感情で行動しないでお姉ちゃん、とかよく言われる私でも分かってしまう。

 

「朝の……怖い人たちってこと?」

 

頷く、おたえ。

血の気が引くのが自分でも分かった。

 

今朝のことを思い出す。

怖かったから、あんまり思い出さないようにしてたけど、思い出すと体が震えてきそうだ。

 

結局よく分からないうちにうやむやになって、校舎に逃げ込んだけど、あれがまだ尾を引いているのかな……

 

あの時は、おたえとこがねんが庇ってくれたから、私も髪飾りも大丈夫だったけど……

 

「え、じゃあ、こがねんがっ!! どうしよう……私、行ってくる!」

「待って。でも、本当にそうかはわからないからーー

 道案内が必要だったから、上級生だったのかも」

 

「でも、だからって放っておけないよ!!

 あ! そうだ。先生、先生に聞いてみようよっ!」

「うん、そうだね」

 

私たちはすぐに教室を飛び出した。

あたりを見回してみるけど、こがねんたちの姿は、もうどこにもない。

すぐに気が付かなかった自分が嫌になるけど、いいんだ。そんな場合じゃない!

 

でも、視聴覚室ってどこだろう……

この街で育ったって言っても、この校舎に入るのは今日が初めて。

 

あ、担任の先生の教員室なら、来る時通りすぎたから分かる!

そこで相談しよう!!

 

 

もし、こがねんが今朝の怖い人たちに呼び出されたら、どうなっちゃうだろう……

 

走りながら、嫌な考えが頭をよぎる。

 

思い出されるのは1人の女の子の顔ーーみーりゃんの顔だ。

 

小学校の頃、近所にお姉ちゃんが住んでいた。

私より1つ年が上の、おかっぱ頭の優しいお姉ちゃん。

 

もちろん本当のお姉ちゃんじゃないけど、小さい頃から地区の子供会とかで一緒になって、みーりゃん、かすみちゃんって呼びあって、よく遊んだんだ。

 

みーりゃんは優しいだけじゃなくて、とっても強かった。

 

私が男の子に嫌なイタズラされると、こらーって、すごく怒ってくれたっけ。

私が河原で歌っているのを見て、男子に「河原でカラオケしてやがった! こいつカワカラだ!! カワカラカワカラ!!」ってからかわれたことがあった。

胸が苦しくなって、歌なんて嫌いになりそうだったときに助けてくれたのも、みーりゃんだった。

あたしはお姉ちゃんだからーーって、胸を張りながら助けてくれたんだ。

 

「あたし、イジメとかって絶対許せないんだよね」

 

みーりゃんは空手とか、合気道とかの教室にも通っていたみたいで、小学校でも一番強かった。

 

でも変に誇示することもなくって、中学生になっても困ってる人を助けるんだって、張り切ってた。

 

それがすっごくキラキラして見えて、正直憧れてたなぁ。

 

でも、中学校に入って、みーりゃんは変わってしまった。

あんなにキラキラしてたのに、何かに怯えるようになってしまって、会うこともなくなっちゃった。

中学校に入ってしばらくして、なにか嫌な事があったみたいで、家に閉じこもるようになってしまった。

 

もうずっと会ってない。

 

お母さんに聞いても、詳しく知らないっていうし、みーりゃんのお母さんに聞こうとしたら、それは絶対にダメって、すっごく怒られてしまった。

 

何度も何度もみーりゃんに逢いにいった。みーりゃんの家にはよく行ったから、忍び込んで部屋まで行ったけど、泣き叫ばれちゃった……

 

だからそれから、もうずっと会ってない。

 

その時ほど何もできない自分が悔しかったことは無かった。

 

 

何があったのかは分からないけど、今のこがねんのことから、凄く嫌な予感がした。

 

私をあの時助けてくれたこがねんと、みーりゃんの姿が重なって見える。

だから、ひょっとしてこがねんもみーりゃんみたいになっちゃうんじゃないかってーー

 

みーりゃんの時とは違う。

私は今ここに、こがねんのそばにいるんだ!

 

だから私は必死に走った。

 

 

「うーん、そう言われてもなぁ……」

 

1年の教員室には、私たちの担任となった先生はいなかった。

代わりにいたのが40歳くらいの別の男性だったが、急ぎだったので相談したのに、帰ってきたのは、そんなつれない答えだった。

部屋の隅のゴミ袋がいっぱいなのに捨ててないことを指摘されて、バツが悪くなった。そんな顔をしていた。

 

「だいたい、呼びに来た子は先生が呼んでるって言ったんだろう?

 ならそうなんじゃないのか?」

「だから! その様子が変だったんです!!」

「でもなー」

 

その先生は、こちらの言葉にまともに取り合おうとしてくれない。

もどかしいその様子が、何か誤魔化そうとしているようにも感じてしまう。

 

「では先生、視聴覚室に行きたいので、付いて来ていただけますか?」

「やや、先生も今、ちょっと忙しくてな。

手が離せないんだ。すまんね、はは」

 

おたえがそう切り出すと、さっきまで呑気にお茶を飲んでいた様子だったのに、あわてて机の整理をし出した。

これはもう、明らかに関わりたく無いとその背中で語っていた。

 

「もういいです! いこう、おたえ」

「うん」

 

ラチがあかないので教員室を飛び出した。

周囲を見回しても、他に頼れる先生の姿もない。

 

「ほかに……ほかに先生のいるとこはどこだろう」

「先生は、ダメかもしれない」

「え!」

 

おたえが希望を打ち砕くようなことを言う。

どうしてだろう。

 

「朝の言い争いになった時、あの先輩、言いたければ言えばっていってた。

だからひょっとするとーー誰に言っても助けてくれないかも」

「そんな……」

 

でも、あるかもしれない。

すっごく悲しいことだけど、小学生の時も明らかなイジメをずっと見いて見ぬフリしてた先生がいた。

だから、みーりゃんが頑張って、そんな子たちを助けてたんだもん。

 

「でも、だからってこがねんを放っておけないよ!!」

「うん。それは私も同じ気持ち」

「私たちだけでも、行こう!!」

 

なんの助けにならないかもしれないけど、今朝よりずっと怖い目にあうかもしれないけど、それでも動かずにはいられなかった。

 

「場所さえ分かれば!!」

 

でもーー

 

向かった先には絶望も希望も何もなかった。

なんとかしてたどり着いた視聴覚室。

でもそこはもぬけの殻で、今まで誰かがいたような気配すらない。

 

そこには何もなく、誰もいなかったのだ。

 

「こがねん、どこいっちゃったの……」

 

 

「ずいぶん歩きますねー」

「あ、はい……」

「この学校の視聴覚室って、変なところにあるんですねー」

「はい……」

 

変なところどころではなかった。

というかここはもはや校内ですらない。

 

俺と呼びに来た女先輩は、すでに校舎を裏門から出て、裏山へと続く階段を登っていた。

といっても、この御谷中自体が山の傾斜に沿って建てられているため、登山というほどのことでもない。

 

でもまぁ、視聴覚室は絶対にこちらにはないだろう。

 

「いい眺めですね」

「はい……」

 

それにしてもこの先輩、さっきから「はい」しか言わないなぁ。

うつむいちゃって気も弱そうだし、気弱系YESマンなのかな。

 

「……なんか疲れた。こがね、もう帰る……」

「!! やめてください! もう少しなんです。お願いだから、付いて来て……」

 

はいって言ってほしかったけど、流石にダメだった。

なんか泣きそうになってるし……。

どう考えても、この後泣きそうな展開が待ってるの、俺の方だよね?

一緒になって泣いてもいいかな……ふぇぇぇぇ

 

「つ、着きました」

 

ほどなくしてたどり着いた先には、公民館みたいな建物があった。

 

しかし随分と手入れを怠っているようで、全体的に黄ばんでおり、木造モルタルの壁にはシミが目立つ。敷地内には空のペットボトルや空き缶、異臭を放ってそうなゴミ袋などが散乱している。

一見して寂れているし、こんなところに生徒を呼び出す先生がいたら、頭がおかしいね。

 

玄関には朽ち果てた看板があり、かろうじて「迎賓館」と記載されているのがわかった。

迎賓館はたしか中学校の校庭端に真新しいのがあったはず。たぶんこれは建て直される前の、昔の施設ってことか。

 

でもなんかこの雰囲気、小さい頃によく遊んだ秘密基地を思い出すんだよな。

あれは原っぱの片隅にあった工場跡地だったけど、廃れ方がちょうどこんな感じだった。

錆びた機械とか用途不明の巨大土管が転がってたりして、子供心がぴょんぴょんするものが詰まったオモチャ箱に見えたっけなぁ。

 

「つ、連れて来ましたーっ!!」

 

連れられるようにして建物の中に入ると、やや大きめの扉の前で先輩が叫ぶ。

するとガチャリという鍵を外す音とともに、扉が空いた。

 

「松原ちゃん乙ー」

「お、きたきた」

「意外に早いジャーン」

「あ、マジで? めっちゃ可愛いんですけど!」

 

案の定、広間の中には見苦しいオモチャが、詰まっていた。

全然心がぴょんぴょんしないよ。

 

ひいふうみよぉ……20人か。女が4人にあとは男。

すげぇな。これ全部クズかよ。この学校、だいたい上級生200人ぐらいだから、そのうちの1割がこれとか。腐ったリンゴ多すぎだろ。

 

しかもここに集まってるのが全部じゃないだろうし……全部じゃないよね? この学校の不良全員集合してるとか、そこまで暇じゃないよね?

 

「はいはーい。松原ちゃんはもう帰っていいよー」

「あ、あの……これでお姉ちゃんには……」

「うんうん。約束通り、見逃してあげるから。ほら行った行った」

 

今朝腹パン食らわせて目を回した化粧女が、ニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべながら、手を振った。

 

「っつ!! ごめんなさい!!!」

 

気弱な女先輩はこちらを一瞬申し訳なさそうに見ると、目元を潤ませながら、走ってさって行った。

……ちょっと泣いてたみたいだし、彼女は許してあげよう。

 

それを見送ると、入り口の左右に控えていた男が、無駄に頑丈そうな鉄製鍵を掛けた。

この広間、昔は窓があったみたいだが、今は木板がデタラメに打ち付けられている。

また、別の部屋に通じそうな通路の前には、中身の詰まった段ボールが積み重ねられており、人が通れそうな隙間がない。

 

昼間だというのに、ずいぶんと薄暗く感じたのはそのせいだな。

早い話、閉じ込められたわけだ。

 

「こんにちわ、こがねちゃんだっけ?

 さっきから黙ったままだけど、大丈夫かなー?」

 

「心配してあげるとか、ミキやさしーっ」

「いや、まだ状況わかってないんじゃね?」

「つーか、あの馬鹿でかいヘアバンド何? あいつ頭から花はやしてんの?」

 

化粧女のニヤケ顔がこちらを向くと、周囲も囃し立てて来た。

 

「もう分かってると思うけど、先生の呼び出しっていうのは嘘だから。

 今朝はずいぶんと楽しいことをしてくれちゃって、あのままで済むと思った?」

 

「はぁ。さっきまでは、めっちゃ楽しかったんですけどねー」

 

俺はため息とともにヤレヤレとした。

なんということでしょう! バンドリキャラと楽しい日常生活が、一瞬にしてこんな修羅場に!

闇さんの匠の技が光ります。

 

「楽しかっただと……こっちは今日1日、ハラワタ煮えくりかえって仕方なかったんだっつーの!!」

 

激高した化粧女に蹴り飛ばされた木箱が、派手な音を立てて転がって行った。

 

「はぁはぁ……ふふっ、だからこうして、タカトシたちにも来てもらったんだよね」

「おおっす。俺、ミキのことになると歯止めきかなくなるんだわ」

「そーそー、俺たちトモダチ思いだから」

「な」

 

化粧女が語りかけると、男どもが追従する。

眉毛を剃ったり、金髪に染めてたりと、見事にアホヅラばかりだ。

 

しかし、特に奥にいるタカトシだか含めた3人はデケェな。ほんとに中坊かよ。タッパが180に届いてそうだ。

3人は広間の一段高いステージのようなところに座って、偉そうにふんぞり返っている。

 

俺なんか150にも達してないから、大人と子供だな。

実際、悪い大人が子供をいたぶる気分なんだろう。

 

弱いものイジメが楽しくって仕方ないって顔だ。

分かるよ、俺も弱いものイジメって大好きだからさ。相手はクズに限るけどな。

 

「さて、この落とし前、どうつけさせてもらおうか」

 

落とし前をつけるですって!

前世じゃ一回も耳にしたことないけど、ここだと結構聞くセリフなんだよな。

果たして「落とし前」とは、どうつけられるものなのだろうかーー。

 

「……ちなみに、どうなるんですか?」

「まずはドゲザだよ。裸でな。

 そしてその後、楽しいイベントをしてもらう」

 

さっきまで怒り心頭だった化粧女の顔が、再びイヤらしく歪む。

 

「楽しい楽しい撮影会だ。二度とバカなことしないようにねぇ」

 

化粧女が指差した先ーー広間のハジの方には、マットとライトが準備されていた。

 

「ひょーっ! きたーーーっ!!」

「今回もやっちゃうんですか! ひでーーっ」

「この子めっちゃ好みなんで、オレやってもいいっすか?」

 

ゲラゲラ笑う男たち。

 

マジか。とうとう俺もAVデビューか。

ポピパのみんなより先にデビュー経験してしまうとは、たまげたなぁ。

 

マットの他には撮影機器が一通り揃っていた。レフ版もあるよ。偶然転がってるようなもんじゃないよ。

 

こいつらって、授業の準備とか仕事の支度とかはできないくせに、なんでこういう時だけ用意がいいんだろう。

頭悪い癖に、麒麟だの薔薇だの無駄に漢字スプレー出来たりもするんだよな。

 

はぁ。

さっさと終わらすか。

 

「なんかため息までついて随分と余裕そうだけど、こいつホントに状況わかってんの?」

「確かに。だいたいここまでくると、たいてーの奴はブルブル震えだすんだけどなー」

「ま、いいじゃん。前の奴思い出すし。これはこれで楽しいじゃん」

 

なんか不穏なこと言いだしたぞ。

 

「……前のやつ、ですか?」

「前にもいたんだよ。お前みたいな正義感ぶった奴がな」

「そうそう。こういうのは良くない! とか言いながら、文句いってきてな。

オレ、ああいうの見ると無性に許せなくなっちゃうんだよねー」

 

「分かるわー。だから、今のキミと同じ目に合わせてやったし」

「そいつも最初は気丈に振舞ってたんだけどね。

なんか空手みたいなのやってたみたいで、涙目で構えとかしちゃったりしてね

でも囲んでボコったら、すぐ泣いちゃった。あれは悪い事しちゃったなー」

 

「な。あれは傑作だったわー」

「でも、格闘技を人につかうなんて良くないよってことで、教育してあげたんだ。俺たちってホントいい奴」

 

「あの子、名前なんつったっけ?」

「もう忘れちまったわ。あ、でも今でもビデオにはお世話になってるし」

「うわ、お前サイテーだな」

 

ゲラゲラゲラゲラ

 

……

 

 

な。

 

聞きましたか、皆さん。

 

この世界ってほんっっっっっっっっっとに、クズしかいねーんだわ。

 

これってバンドリかぁ?

俺、転生してから、未だにバンドとか聞いた覚えないんだけど。

 

バンドやってるようなところにいるのはクズばかり。

バンドと関係ないところにいるのもクズばかり。

 

前世でネットで読んだ他の転生SSだと、みんな転生先でいちゃいちゃしてるのに、せっかくバンドリ世界に来た俺の周りには、いっつもこんなクズしかいねーんだわ。

 

そして、ようやく香澄とたえに会えて、荒んだ心がハスハス治って来たと思ったら、またもや出てくるクズクズクズ!!!!

 

あー! クズクズクズ!!!!!

 

この腐ったウジ虫どもが、いつか香澄とたえにも手を出すと思うと、吐き気しかもよおさねーわ。

 

今日だって俺があの時通り掛からなかったら、ここにいるのはあの2人だったわけだろ?

 

こんなバカどものせいで、俺がレクイエム。

 

「はいはいはーい!!

 もういいです。もういいでーーーーす!!!」

 

SAN値が削れた俺のストップで、ようやく奴らの話が止まった。

でも相変わらずこいつらニヤケ顔のまんまだ。

 

ゴミはゴミ箱に、クズはクズ籠より絶望に叩き込んでやらねば。

 

「クズの自己紹介ありがとう。

 お礼に俺も自己紹介してやるわ」

「「「?」」」

 

今更何言ってるんだって顔してるな。

 

俺は円谷こがねじゃねーんだよ。

 

「俺の名前はゴールドエクスペリエンス。黄金体験ーーさせてやるよ」

 

 

怪訝そうにひたいに眉を寄せる奴らを無視して、俺は出口に向かって走りだす。

 

「! 逃すな!! 止めろ!!」

 

何を思ったのかはだいたい想像がつくが、勘違いした号令がステージ上からとびだした。

扉の左右に控えていた男たちが俺の行く手を阻もうと、両手を広げて立ちはだかる。

 

しかし、こんなウスノロどもは大した障害じゃない。

軽いフェイントを駆使して抜けると、簡単に出口にたどり着くことができた。

 

そこで俺はドアの取っ手を掴むと、スタンドの力で思いっきり捻り潰してやった。

 

うんうん。

 

これで外からは鍵がかかっており、中からは取っ手がないので開かなくなったぞ。

鍵だけじゃダメだよ。内側から出れちゃうからね。密室とはこう作るもんだ。

 

出口までたどり着いたのに何故か逃げ出さなかった俺に、彼らは困惑を隠せないご様子。

 

こいつらに少しでも洞察力があれば、誰用の逃げ道を封鎖したのか分かったかもね。

さらにいえば、素手で取っ手をヒン曲げたことに気付ければ、異常性が分かったはずだ。

 

「おいおい、こがねちゃーん。びっくりさせないでよ。

 鍵の外し方がわからなかったのかーい?」

 

左手にいた男が、ほっとした様子で近づいて来た。

馴れ馴れしく肩に手を回そうとする。

 

「はい、まず1匹」

 

俺はそれをはたく仕草で手を振り払い、同時にゴールドエクスペリエンスでぶん殴ってやった。

 

破壊力Cーーゴールドエクスペリエンスの初期ステータスだ。

近距離パワー型の中では弱い方に分類される力でも、それはスタンド戦での話。

対人では圧倒的なそれを顎に受けた男は、無様にすっ飛んでいく。

 

あれは顎が砕けましたな。もう硬いもの食べられないねぇ。

 

「2匹目」

 

振り返りざまに回し蹴りのような何かを、右側の男に解き放った。

何かというのは、俺は格闘技をやっているわけじゃないので、これが回し蹴りなのかどうか分からんからだ。

 

でもそんなの関係ない。

 

重ねるようにして、ゴールドエクスペリエンス!

右の男も吹き飛んで行き、2、3回バウンドしたのち、壁が大きな打撃音を響かせた。

 

「「「「…………」」」」

 

すっかり静かになってしまった。

お猿さんたちにも、ちょっとはおかしさが分かってきたかな。

 

広間の広さはだいたい120平米。近距離パワー型スタンドの射程はせいぜい数mだけど、辛いが十分圏内に入る。

ゴールドエクスペリエンスはスタンド使い以外には見えないので、正直に言えば俺はポケットに手を突っ込んだままでも、こいつら全員を汚い花火に変えることは容易だ。

 

でもそんな自らスタンドをひけらかすようなことを、俺はしない。

 

透明人間が脅威なのは、「透明だから」ではなく、「透明人間なんていないとみんな思っているから」だ。

透明人間がいることが分かっているなら、その対策はいくらでも取ることが出る。

 

だからゴールドエクスペリエンスは、必ず俺の実際の体のモーションに重なるようにして使っている。

 

そうすることにより、あたかも凄い暴力を振り回しているように見せられるからだ。

そう思われている限りは、相手の行動だって予測がつく。

 

「ず、ずいぶんと自信があると思ったら、そういうことか。こいつ……格闘技か何かかじってやがる!!

 お前ら、囲め! 囲め!!」

「うっす」

「そっち、そっち!」

 

驚愕してるようだが、まともな判断を下している。

号令に従って、思い思い位の場所に陣取っていた奴らが、俺の周囲に散らばりだした。

中には金属バットや木材までも手にしている奴もいる。

 

あれで殴られたら相当痛そうだ。

ま、無駄だけどね。

 

「3びーき! 4ひーき! 5ひーきっ!!」

 

集団密度の濃いほうへ、前に向かって駄々っ子パンチ!

 

相手も向かってきてくれるから、気持ちよくぶっとばすことができる。

 

ああ、何の良心の呵責も感じずに暴れることができる。

相手がクズだった時の唯一の利点だなぁ。

 

「なんなんだよ、コイツ!!!」

「たっつん! なんかやべー、やべーってば!」

「ざけんな!! アレやれ、アレをやるんだっ!!」

 

アレ?

なんか企んでいるようだが構うものか。

 

俺は敵に囲まれても構わず拳を振りかざす。

 

「8ひーき! 9ひーき! 10……」

「ぐぎゃああああああああああ」

 

ん?

 

2桁目に丁度突入したところで、薄暗い部屋に光が瞬いたかと思うと、後ろから断末魔のような悲鳴が上がった。

そしてほのかに香る、焦げ臭さとオゾン臭。

 

振り返ると、背後にはスタンガンを手にした男が地にひれ伏していた。

 

これさっきこいつらが言ってた「アレ」ってやつか。

俺に食らわせようとしていたらしい。

 

集団戦に紛れて背後からこっそり忍び寄り、電撃を浴びせて仕留めるっていう強敵用のパターンなんだろうな。

どんな強者でもこれを乱戦でやられたら、避けるのは難しいだろう。

 

俺、新入生なんだけど。歓迎の祝砲にしてはちょっと過激じゃない?

女子供に不意打ちとか、ほんっと救えねぇな。

こういうのは明稜帝にやれや。

 

でもそのスタンガン、見事に自分に直撃しましたね。

なんでだと思う?

 

「おやおやー? ステキなプレゼントだったのでお返ししてあげましたけど、失神するまで喜んでくれるなんて、こがね感激です」

 

御谷中の制服は、ブレザーの下にインナーシャツを着込むタイプのものだったが、俺はさらにその下にシミーズを着込んでいた。

 

わざわざそんなものを纏っていたのは、こういう時のためだ。

 

そう、俺はここにくる直前シミーズを、コンブに変えていた。

コンブ。そう掛け値なしに、あの海藻のコンブである。

つまり今の俺は一皮むけば、コンブをボンテージよろしく体に巻きつけたヤバい女だ。

TMRもびっくりだな。

 

生きたコンブを体に巻きつけるとか、何言ってんだこのマヌケって思うかもしれないが、何を隠そうこのコンブ、最強の防具なのである。

 

なぜならゴールドエクスペリエンスの能力のひとつに、「生み出した生命へのダメージを全て攻撃者に反射する」というのがあるためだ。

 

公式チートだな。

 

あまりにチートすぎて、劇中では後半、なかったことにされた疑惑すらある。

ミスタが雑草ちぎっても何も起こらなくなってたし……能力が成長して無くなった説もあったな。

 

覚えている限りだと、原作でこの能力をまともに使ったのは序盤も序盤、涙目のルカ相手の時ぐらいだ。ルカはマジで泣いていいよ。

 

なぜジョルノがその後、この力をほぼ使わなくなったのかは謎だが、おそらく黄金の精神に関わる深い理由があったのだろう。

 

だが、俺の精神は汚い黄土色なので、容赦なく使う!

 

俺が初春もびっくりの花飾りを頭につけているのも、これが理由だ。

一番怖いのが頭部への不意打ちだからね。俺の頭は毎日お花畑だ。

 

頭にフラワー。肌着にコンブという、スカウターで測ったらお近づきになりたくないほどの女子力になっていたが、その防御力は他を圧倒する。

ヤイバの鎧とか目じゃねーから!!

 

反射を受けたスタンガン男は、見事にメメタァと地に沈んだ。

 

まさに無敵。

欠点は磯臭くなることだな。

でもこいつらドブ臭いから、お似合いだろ。

 

「てっ、てめぇ!! 何しやがった!!!」

「さて何でしょうねぇ……案外その人が手を滑らせたのでは?」

 

いうわけねーだろカス。

 

「さて続きといきましょうか」

 

そのままオラオラし続けて、男どもはみんなピクピク動くオブジェと化した。諸行無常だな。驕れる者は久しくないんだ。

ステージの上にいた3人も、ゴールドエクスペリエンスの前では皆等しく塵に同じだった。

こいつらよく見ると制服が他のやつと違うし。

高校生かよ。通りでデカイと思ったわ。

 

もっぱつ蹴飛ばしてステージから叩き落とすと、ハジの方で残った4人の女が震えていた。

化粧女を中心に、生まれたての子鹿みたいにプルプル震えている。

入り口から逃げようとした形跡があるけど、ドアは開かなかったみたいだ。

 

カーニバルに参加しないなんていかんなぁ。

 

「俺、仲間外れは嫌いなんだよ。だってイジメみたいだろ?」

 

「ゆ、許してください……」

「ごべっ、ごべんなさい……」

「ひっぐひっぐ」

「うっう」

 

ありゃりゃ。泣いてしまった。

よく考えたらこいつらまだ、女子中学生なんだよな……

 

泣いている女の子たちの姿を見て、俺に冷静な判断力が戻ってくる。

 

こいつらは、そんなに酷いことをしただろうか……

こんなに震えて、不安で泣き叫んじゃうほど悪いことをしただろうか……

 

えーと。

こいつらがしたことというと、気に入らない女子を引っ張ってきて、裸にして土下座させた挙句、ビデオ撮影して笑い者にしたくらいだっけ。

 

冷静な俺の判断力が、こいつらを許す必要は全くないと言った!

 

こうした加虐行為は、異性間よりもむしろ同性間の方が程度が酷くなるという。

さっき処刑した猿どもが一翼を担っていたのはもちろんだが、イジメというにはエスカレートしすぎた行為の元凶が、こいつらにあるのは明々白々だろう。

一緒になって笑ってたしな。

 

そしてキラめく俺の男女平等パンチが、4人を平等にぶっ飛ばした。

 

手加減とかしないよ。

大丈夫だ問題ない。だって俺も女だしね。

 

「第一部、完っ!」

 




小説版バンドリでは、小学生の頃香澄はイジメにあってました。
そのせいで高校入学時は、内気で内向的な性格になってます。アニメ版香澄とは全然違いますね。

ちなみに、みーりゃんなる人物は原作村のどこにもいません。
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