番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~   作:ふたやじまこなみ

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今更ですけど残酷な描写があります。


第7話「黄金体験レクイエム」

キッチンからホースで引っ張ってきた水を放水してやると、気絶してた奴らが跳ね起きた。

でも実際に飛び跳ねることはない。なぜなら両手足をロープで縛ってあるからだ。

 

しかも男女全員裸である。

4月のまだ肌寒い季節ということもあって、くしゃみをするものもいた。

 

「あれで終わりだと思った? 残念、これからでした♪」

 

ステージに腰掛けてにっこり笑いかけると、状況を理解したのか全員が青い顔をした。

オール全裸で水浸し。手足が縛られてるとあっては、これからの惨劇を理解したはずだ。

 

全裸にして手足を縛るって文章にすると簡単そうだけど、実際はめちゃくちゃ手間取った。

考えてみてくれ。意識のない人間から洋服を脱がせ、手足にロープを巻きつけて溶けないようにきつく縛るーーこれを20人分やったのだ。

そしてそれを地面に整列させるという苦行。

 

このシーンを作り出すために、地味な努力が必要だった。

ほむほむの気分がわかったよ。

時間停止中にさやかと杏子を並べるのって、悲しい作業だよな。

 

しかしこれもこれからのため。

大事なのはそう、これからなのだ。

 

俺は勧善懲悪モノの作品を見ると、常々疑問だったんだが、なんで主人公たちは数発なぐって気絶させるだけで、悪を倒した気になってるんだろうな。

 

さっさとトドメ刺せよって、いつもヤキモキしてたわ。

あげく蘇った敵に仲間を人質に取られて、とかいう展開をみると、もう目も当てられない。

 

トドメ刺せない人道的理由があるなら、せめて手足の骨折るとかしとけや。

それだけで敵が復活した後の戦闘力もだいぶ変わるだろ。

なんでその場に放置するん?

 

でもこんなのが野暮な指摘だなんていうのは、言うまでもなく理解してるよ。

主人公側は正義だから無茶なことはできないし、大抵仲間には聖女然としたヒロインがいるから、「そんなの可哀想だよ~」とか言い出して、死体蹴りみたいな真似は出来ないんだろう。

 

「念のため、手足を負っておきましょう(にっこり)」

 

なんてヒロインが言い出したら、キャラ付け変わっちゃうしな。聖女から腹黒ヒロインへクラスチェンジだ。

 

でも現実的に考えたら、殴って倒してはい終わりなんてことになるわけないんだよな。

 

俺が敵キャラだったら、負けた後見逃されたら主人公勢に徹底的に奇襲と闇討ちを仕掛けるよ。

 

朝晩隙を見ては一撃離脱で仕掛け続けて、対処されたら即撤収を繰り返す。

ヤサバレしてるのに巨悪と戦いつつ日常生活とか送れるんですかね。

 

しかも主人公たちって、呑気に学校に通ってたりするからね。

そんなの知ったら、両親はもちろんのこと、友人知人に執拗にアタックをかけるわ。

自分自身は異能で守れても、周囲の人を守り続けるとか絶対無理だからな。

 

果たしてそこまで受けても、悪は許さないスタンスを貫くことができるかな?

 

守るものが多いほど強くなる(キリッ なんていうのは、嘘だからね。

守るものが多いほど守るのが大変になるだけだよ。当たり前だけど。

 

現実が怖いのは、「その後」があることなんだ。

 

あのまま放置して帰ったら、目覚めたこいつらは絶対怒りの炎を燃やして復讐にやってくるよ。

間違いない。

逆恨みだろうとなんだろうと関係ないからね。

 

ヤクザと喧嘩して恐ろしいのは、ヤクザ自身の強さじゃないからね。

揉め事のあとに押し寄せてくる強請りや脅迫だから。

 

そして次に狙われるのは俺への闇討ちか、それとも香澄やたえへのーー

 

だから俺はこういうのは徹底的にやる。

誰がなんと言おうとな。

俺はバンドリ世界の住人でもないし、正義でもないから見逃しはしないのだ。

 

「折木遠矢、杉山華南、小林裕介、松村……」

 

俺はステージ上から、次々に人名をそらで読み上げていった。

裸正座で聴いていた面々も、内緒は誰を指しているのか怪訝にしていたが、自分の番にきて理解が追いつくと、震えだした。

 

読み上げた名前は、全員こいつらの友人知人家族の名前だ。

気絶している間に、スマホを奪ってアドレス帳から全部抜いておいた。

指紋認証も考えものだよねぇ。

 

「住所も全部、抑えてあります。もちろん君たち自身の分もね」

 

「なっ」

「ひっ」

 

うめき声が上がる。

 

「ちなみにこの光景も全部録画してますよー。

 楽しい楽しい撮影会ですからねー。いやー、いい機材です」

 

カメラが無駄に高性能なんだよな。随分と値が張りそうな一品だった。

たぶん、まともな方法で手に入れてないと思うけど。

 

「これからのことを君たちがバラした場合、この動画を全世界に向けてばら撒きます。

 そして、今名前をあげた君たちの家族全員にも、同じ目にあってもらいます。

 ……たぶん、私も捕まると思いますが、いつかは少年院から出られます。

 出たら必ず実行しますよ。ーーできないと思いますか?」

 

にっこりと笑ってあげる。

届けーーこの思い!!

 

普通ならできないと思うかもしれないが、さっきの20人無双を考えれば、そうは思わないはずだ。

 

ーーこいつは、やるといったら、絶対やる。

 

そう思わせることが肝要だ。

そしてここから先は、完全にイかれてると思わせなくてはならない。

 

「はい、皆さんの目が覚めたところで、一発目いきたいと思いまーす!!

 これなーんだ?」

 

「ま、まさか……」

 

俺が手にしたものと、水に浸った自らを見て彼らは戦慄した。

 

「そのまさかでーす。

 これで今までいっぱい傷つけてきたんでしょ?

 たまには自分で感じてあげなきゃ。

 というわけで、スイッチオン♪」

 

「「「「!?」」」」

 

一同はびくんとしたが、それだけだった。

 

「うーん。ちょっと出力が足りない見たいですねぇ」

 

俺は水が溜まったフロアに、拾ったスタンガンを押し当てたのだ。

でも残念ながら威力が足りてないみたいだ。

うーん、漫画だとこれでうまくいってたんだが。やはり難しいのか。

 

スタンガンそのものは無駄に改造されて出力が上げられているようなんだが、フロアを浸す勢いで張った水と、20人分の抵抗があると、全然威力がない。

 

塩でも撒いたほうがいいんだろうか。

 

いや、そういう問題じゃないな。

そういやスタンガンって電圧は凄くても、電流は大したことないんだっけ。

電圧がいくら高くても大した電流が流れないと、ダメージは出ない。

とすると。

 

「あは。そうだ♪」

 

思いついた俺は、奴らの死角にあるダンボール箱を、ゴールドエクスペリエンスで殴った。

 

「2発目いきまーす!」

 

ビクンっ!

 

「「「「あっあっ」」」

 

今度こそ感電したようで、座っていた奴らは一斉に後ろに倒れた。

 

うまくいったぞい。

ダンボールをデンキウナギさんに変えたのだ。

 

こんなことばっかり思い付くわ。

荒んだ小学生時代が、俺にゴールドエクスペリエンスの無駄な使い方ばかりを教えた。

 

野生のデンキウナギが発する電流は1A相当だという。

1Aというと数値としては少なく見えるが、人間は50mA〜100mAもあれば致死なので、威力としては十分だったようだ。

 

流石だな、デンキウナギ。神秘の固まりみたいなやつだ。

こいつの体の80%は発電機関だという。一体何食ったらそうなるんだろう。

 

深海魚のフォルムとか見てても思うんだけど、こういう謎な生物をみるとダーウィンの進化論って本当に正しいの? って人の気持ちもわかる気がする。

キリンの首が伸びたのと同じ理屈で、体が発電するようになったって、ちょっと無理ない?

 

ま、いいか。

でもこんなところにデンキウナギがいるのは絶対おかしいので、ポーズとしてはスタンガンを押し当てる。

 

「じゃ、3発目いきまーす」

「ま、まって」

「まちませーん♪」

 

ビクンっ!

 

新たに生まれるデンキウナギと、またも平伏すクズども。

 

むむ。

どうやら心臓が止まってしまった奴がいるみたいだ。

 

おおクズよ。死んでしまうとは情けない。

 

でも、でぇじょうぶだ!!

ゴールドエクスペリエンスがある!!

 

すかさず忍び寄ったゴールドエクスペリエンスが手を当てると、生命力が流れ込み、クズは復活した。

 

「おお! ゴキブリ並みの生命力ですね!

 まだまだ行けそうでなによりです!!」

「ま“っで!!!」

 

化粧女が目と鼻と口から出すもの全部出しながら、叫んだ。

たぶん下からも出ちゃってるなぁ。

 

「も”う……もうゆるじでぐだざい……」

 

涙と鼻水で、厚い化粧が剥がれ落ちてしまっている。

 

大変だ。こいつから化粧がなくなったら、呼称が変わってしまうじゃないか。こいつの名前はフルネーム暗記済みだが、呼びたくない。

特徴がブサイクしか残らなくなってしまうぞ。

 

「もうしません……しませんから」

「ううぅ……」

「ひっぐひ……」

 

ブサイク女に合わせて、男も女もみんな泣き出して謝罪会見が始まった。

高校生らしき3人も、恥も外聞もなく喚いている。

 

……

 

情けないとは思わんよ。

人間、裸になると精神的にめっちゃ弱くなるんだよな。

誘拐犯がさらった人質を裸にするのと一緒。

 

あれはもちろん逃げられなくするのが第一だけど、裸にされると自分が惨めな生き物になったみたいで、抵抗する気が失せてくるんだよな……

 

はぁ。

 

でもね。

こいつら見てると悲しくなってくるよ。

泣きたいのこっちの方なんだけど。

中学入ったらおとなしくしよ♪って思ってた初日からコレなんだから。

 

ゴミ処理する人の気持ち、考えたことある?

君たちみたいなゴミをこの世界からキレイキレイしないと、俺が世界からキレイキレイされちゃうんだよ?

 

わだじはぁ……この世界をぉ!ぅがえたいっ!!

って叫び出したいの、俺の方だよ……。

号泣会見だよ。

 

心を強く持たねば。

 

こういうときはあれだな、初心に戻ろう。

 

「前にもいたんだよ。お前みたいな正義感ぶった奴がな」

「そうそう。こういうのは良くない!とか言いながら、文句いってきてな。

オレ、ああいうの見ると無性に許せなくなっちゃうんだよねー」

 

「分かるわー。だから、今のキミと同じ目に合わせてやったし」

「そいつも最初は気丈に振舞ってたんだけどね。

なんか空手みたいなのやってたみたいで、涙目で構えとかしちゃったりしてね

でも囲んでボコったら、すぐ泣いちゃった。あれは悪い事しちゃったなー」

 

「な。あれは傑作だったわー」

「でも、格闘技を人につかうなんて良くないよってことで、教育してあげたんだ。俺たちってホントいい奴」

 

「あの子、名前なんつったっけ?」

「もう忘れちまったわ。あ、でも今でもビデオにはお世話になってるし」

「うわ、お前サイテーだな」

 

ゲラゲラゲラゲラ

 

俺はスマホから、先ほどの惨劇前の一幕を再生した。

ここにきてからの一部始終を、録音しといたのだ。

 

うんうん。

 

こいつら、今はこんなんだけど、本性はこっちなんだ。

騙されてはいけない。

腐ったリンゴは何したって、腐ったリンゴなんだ。

早くすり潰さないと。

 

自らの発言が繰り返されるのを聞いて、奴らの顔から血の気が引いていく。

俺が許す気など全くないと、分かったからだ。

 

「さぁ、お前たちの罪を数えましょう!

 次は4発目ーーーーっ!!」

 

広間内に声なき悲鳴が、鳴り響いた。

 

バンドリ世界で初めて聞いた演奏がこれとは、泣けるわ。

名曲やな。

 

 

迎賓館の玄関をくぐると、足元には西日が差し込んできていた。

そうか、もうそんな時間か。

 

最終的に36匹のうなぎで蒲焼にしたから、結構時間くったな。

 

小高い丘陵の上に位置するだけあって、ここはなかなかいい眺めだ。

眺望からは、街が夕日に染まり輝いて見える。

ゴミ掃除をした後だと格別だよ。

 

……帰るか。

 

水浸しになった広間の片付けは、奴らにやらせることにした。

もともと奴らの根城みたいだったし、指示しなくてもやったろうけど。

 

あとはこのことは言うんじゃねーぞって月並みな脅しをもっぺんと、一つの命令を下した。

最後になると全員レイプ目になってたから、ちゃんと聞いたかわからないけどーー明日になれば結果がわかるだろう。

 

来た道をえっちらおっちらと下っていく。

 

時間も時間だし、香澄たちもさすがに帰っただろうな。

それともまだ体験入部巡り中だろうか。

吹奏楽部に顔出してったほうがいいかな?

 

……やめとこう。

なんかこんなことした後で、会わせる顔がない。

 

別に後悔してるわけでもないし、反省してるわけでもない。

同じ状況になったら同じことをやるし、この先何回だってやり続ける。

まどかに尽くすほむほむじゃないけど。

 

それに100%嫌なわけじゃないんだよね。

暴力を思うがままに振り回すっていうのは、根源的な爽快感もあるし。

 

でもさすがに、さっきの直後に会いたくない。

もはや当たり前のことだが、バンドリ世界に血と暴力はいらない。

 

香澄とたえは、清廉なバンドリ世界の象徴でいて欲しい。

明日また、綺麗なこがねになったら会おう。

 

そう思ったのにーーー

 

「こがねん……ひっぐ」

 

校門にいらっしゃったーーー!

 

「うえぇえええええ」

 

しかも泣いていらっしゃるーーー!

 

「こがね……」

 

たえも泣いてこそいないものの、どこかほっとした顔だ。

俺も鈍感系の男じゃないからわかるよ。

探して探して探し疲れて、それでも待っててくれたのだろう。

 

「こがね。どうなったの?」

「うーん。えー。まぁ。なんとかなったよ! 

 ほら、同じ人間だし! 話し合えばなんとかなるっていうか!」

 

同じ人間→同じクズ

話し合い→物理

 

だったけど。

 

「そう。よかった」

 

たえはそう言って微笑んでくれた。

 

そうだよなーーこの子達は、そんな子だったわ。

 

流石だよ。流石。

この引けども引けどもクズしか出ない、この世界クズレア率99%の出会いの中で、やっと巡り合えたSSR!

 

正直にいうと、香澄とたえとは友達にならない方がよかった。

全然付き合いない関係のなかで、陰から助け続けるというのがベストだった。

なぜなら俺と友達になると、狙われるからだ。

 

俺には敵が多いーーこれからきっと多くなる。正面から俺に敵わないと知った奴らは、必ず俺の周囲を狙うだろう。

人質が一番効果的な脅しになることは、世界各地のテロリストが実証しているしな。

 

だから友達に、身近な存在になるべきではなかった。

ギアスのマリアンヌも言ってたしな。大切なものは手元から離して置いておくのが一番安全だって。

 

でもそれじゃあ足りないんだよな。もちろん最終目的はレクイエムを避けることなんだけど、それだけじゃない。

こうーーバンドリ世界で生きる意味というか、大切なものの大切さの確認というか、カントのいう自己直観的な必要性が俺にはあったんだろうと思う。

それがあったから、俺は香澄とたえと友達になってしまったーーなったのだろう。

 

香澄とたえを目の前にして、俺はそれをまじまじと実感していた。

 

そうだよ!

これがバンドリだよ!! バンドは全然してないけど!!

 

「こがねん! よかったぁ……よかったよぉ」

 

目元を真っ赤にしつつ、拭いきれない涙をよそに、香澄が俺に抱きついてきた。

 

うおおおおおおお!!!

SSRが今、腕の中にぃぃぃいい!!!

手、手を回してもいいでしょうか?

 

「ごめんねぇ……ごめんねぇ……」

 

香澄は全然悪くないのに、謝ってくる。

香澄だってバカじゃないんだから、いろいろ察したんだろうなぁ。

 

「悪くない。香澄ちゃんは悪くないよ」

 

そう。悪いのは全部芸能界の闇ってヤツなんだ!!

 

……やんよ!!

俺が守ってやんよ!!!

 

だから俺は守りきらなくちゃならない。この腕の中の、暖かいぬくもりを。

なんか俺の中の荒んだ心が、カスミエルの癒しの力で浄化されていくようだ。

 

あ、ゴールドエクスペリエンスさんが夕日に浮かんで見える……

 

お前、消えるのか……?

 

あ、消えませんか。すみません。

実際、ここでゴールドエクスペリエンスにいなくなられると、困るってレベルじゃないんだけどね。

 

というわけで、俺は彼女達を守る決意を新たにし、一緒に帰宅するのだった。

 

バンドへの道は遠そうだけど、まずは明日の部活探しからだな。

 

明日もがんばるぞい。

 


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