バンドリに追加された現時点最高難度の楽曲のフルコンを諦めた奈々歌です。今回は一番長くなりましたね。今までの文字数でいくと約二話分となっております。
これでこの章は終了です。全体的に修正を行いながら、次の章を書き進めたいと思います。でも来週まで忙しい……。
それでは、どうぞ!
目的のデータは無事に入手。その後、レヴィ9を寮へと送り届けた。本来ならこの任務はそれで完了だったはず。そのはずだった――。
『お前が言っていたあの女の子に危険が迫っている』
レヴィ0からの通信。猶予がないということは声色から伝わった。送られて来た場所は寮からさほど遠くはない。レヴィ6は目的地点へと急いでいた。
茂みの中を駆け、赤外線センサーを回避。監視カメラは姿勢を低くしながら走り抜ける。
「い、一体なんなのっ!? ちょっ、いたっ、は、離しなさいよ!」
指定された場所に近づくにつれ、少女の声が聞こえてくる。夜中、他の雑音が殆ど無い静かな時間帯。その為か、まだ距離があるはずなのに鮮明と耳へ声が届く。
「(不味いっ!)」
レヴィ6は能力で脚力を強化。地面を蹴り出して速度を上げる。目的地までの最後の監視カメラを通過した。もう映像に姿が映り込む心配はない。能力の出力を上げ、更に加速していく。
レヴィ0の通信を受けてから時間にしてほんの数分後。左右の茂みと木々が他より少し開けた場所、学院の校舎へと続く道の途中。現場へと到着していた。
レヴィ6は、視界に少女と二人組を男を捉える。事前に記憶していた監視カメラの設置箇所からして、配置的にこの場所は丁度死角となっているはず。
それを計算した上で、あの男たちは侵入し、少女を襲った。計画的な動きからして手練れの連中という可能性はある。苦戦するかも知れない。
レヴィ0が対処に向かった方は単なる陽動だろう。警報が鳴るようにわざと行動させ、守衛たちを一カ所に集める。しかもこの場所からかなり距離のある所にだ。お蔭でレヴィ0の到着が遅れている。二人で対処できるのが理想的だったが、待っている余裕はない。
男の一人はナイフを持ち、もう一人の男は少女の腕を掴んでいる。少女は抵抗しているが男との力の差は大きい。その腕が離れる気配は全くといって見られなかった。
男たちの行動からして、あの少女を連れ去るのが目的のよう。このまま、見す見す逃す訳にはいかない。
レヴィ6は接近していく勢いをそのまま利用して、少女の腕を掴んでいる男に体当たりを食らわせる。腹部に強烈な衝撃が走った男は吹っ飛ばされ、地面に転がる。同時に少女の腕から手が離れると、抵抗していた弾みで少女は尻餅をついていた。
「だ、誰だっ!?」
見えない相手からの強襲。残された男は周囲を警戒する。だが、迷彩機能で景色にとけ込み、況してやこの暗闇の中だ。いくら辺りを見回してもレヴィ6の姿を肉眼で捉えることは出来ない。
守衛が向こうで気を取られていることを知っているせいか、この場に駆けつけて来ないのを良いことで余裕を持っていた分、突然のことで焦りが表情に滲んでいる。
隙だらけの相手。完全な死角から再び接近していくレヴィ6。能力により、強化された脚力で繰り出した蹴りを直撃させる。男は防御も受け身も取れずに倒れると、そのまま気絶した。握られていたナイフは音を立てて落ちた後、地面を流れるように滑っていく。
「……ちっ、油断してたぜ……。姿を消す能力、アストラル使いか。そんな奴まで警備にいるとはなぁ。まぁ、ここの施設らしいといえば、らしいのか」
体当たりを食らわせた男が起き上がっていた。入りが甘かったのか、気を失わせるまでは持っていけなかったようだ。
しかも運の悪いことに、男の足元には先に気絶させた男のナイフが転がっている。それを拾った男は口元に不敵な笑みを浮かべると目を閉じていた。
「姿が俺に見えていないからって、反撃はそうそうされない。お前ほどの実力となれば、そんなことを考えている訳ないよな?」
男は怪しげな笑みを浮かべる。すると、男の周りに妙な風が吹き始めた。それは集まるように、男を中心として旋風のように。
「こんな場所に侵入する連中が普通な訳ないだろ? そんな奴らは、ただの捨て駒にされた馬鹿な奴らか、報酬の大金に目が眩んだ奴らくらいだぜ?」
男が目を開く。その瞬間、風の強さが一段と増した。地面を軽く抉り、巻き上げた葉や枝を切り裂きだす。超常の力、まるで操られているような不可思議な風。
「(こいつ、アストラル使いか!?)」
気が付いた時にはもう遅かった。急いで回避行動に移るが、それよりも男の動作が速い。男が手をかざすと、渦巻いていた風が周囲へ一斉に散り散りと吹き荒れた。
男の能力で発生した風の一つがレヴィ6の足に直撃する。密度が上がっているのか、刃のような切れ味を持った風は特班の制服を裂き、皮膚から血が流れる。
「ぐっ、ぁぁ……」
痛みにレヴィ6は膝をつく。幸いなことに特班の制服は機能を維持していた。迷彩は解けていない。だが、血が地面に滴り落ちている。位置が知られてしまった。
迂闊だった。軽率だった。自分のミスを悔やむところだが、それは許されなかった。それはミスにより危険に晒されるのが、自分一人の場合だけだからだ。
「きゃぁぁっ!?」
少女の悲鳴。レヴィ6が切られたのと同じタイミング。あの風の一つが少女にも当たってしまっていた。
悲鳴を聞いたレヴィ6は、痛みを堪えながら目を向ける。風の刃は胸元のシャツをざっくりと裂いていた。破けたシャツの間から、豊かな膨らみの富が露わになっている。肌が見えるということは、深く切られているのか。
少女の怪我の具合を確認しなくてはならない。だが、傷を負った片足に上手く力が入らない。立ち上がろうにも力が抜けて片膝をついてしまう。
ぽたりぽたりと地面を点々と小さく染める赤色。それを見た男は反撃が返ってこないことで、相手の状態を把握したのか、少女の方へと近づいて行く。
このままだと少女が連れ去られてしまう。男たちを制圧することに気を取られていた所為で、いつの間にか少女との距離が離れてしまっていた。
全開で能力を引き出せば間に合うか……分からない。でもやるしかない。今この場であの子を助けられるのは自分だけなのだから。
「(動け、動け、動け、動けよ! 俺の足っ!)」
能力の用途を変更し、足の痛覚を一時的に遮断する。無理矢理に力を入れて動かす。立ち上がり、少女の方へと跳躍。でも、この距離は届きそうにない。次は体を起こせるかなんて分からない。伸ばした手だけが、届かない手だけが、視界に沈んでいく。
救いの手ではなく、魔の手が少女に伸びる。怯える少女の姿が目に映った。間に合わない。諦めたくない。力はあるはずなのに、この手が届かない。
「――ッ……」
能力を使い過ぎてしまった、頭痛が襲う。遮断していた痛覚が戻り、痛みが襲う。どうすればいい? 打つ手がない。少女を助けなければ――。
『そこ、射線の邪魔だから屈め。レヴィ6』
痛みでまた膝をついた時、通信が入った。反射でレヴィ6は体勢を低くすると、体の上を一筋の影が微風を起こしながら通過していく。
「ぐあぁっ!?」
次の瞬間。男の声と共に、その手から刃物が落ちる。それはとても見覚えのある攻撃だった。レヴィ0が自身の能力を応用し、特注のゴム弾を飛ばす攻撃。
戦っている間にレヴィ0が、自身の能力範囲まで来たのだろう。同じく迷彩機能を使用しているからか、その姿は見えないのだけれど。
武器を失い、更には痛みで腕を押さえる男。そこに軌道を変え、戻ってきたゴム弾が直撃した。男は昏倒し、その場へ力無く倒れたのだった。
†
「――大丈夫か、レヴィ6」
後ろから声を掛けられた。迷彩を解除していないはずなのに、ほぼ正確で。ということは、現在地を知っている人物、レヴィ0。
「悪いミスった。俺はもう大丈夫。それよりも――」
少しふらつきを見せながらも立ち上がるレヴィ6。その足が向かう先には、狙われたあの少女がいた。少女は腰が抜けているのか、地面にへたり込んでいるまま。
「三司さんっ!」
あの少女の名前は『三司さん』と言うらしい。変に焦るレヴィ6を不思議に思ったが、少女をよく見ると、胸元のシャツがざっくりと裂けていた。
三司さんの傍まで駆け寄っていったレヴィ6を追い、隣に腰を下ろすレヴィ0。
「何があったんだ?」
「さっきレヴィ0が倒した男がアストラル使いだったんだ。俺の対応が遅れて、三司さんが巻き込まれた。傷が深いはずなんだ、急いで止血しないと」
「……ああ、分かった。簡易的とはいえ大体の道具一式は持っている、使え」
腰にある小型の医療パックから何点か用具を取り出す。包帯や薬やら止血剤まで色々と。簡易とはいえ、用意周到なのはいつもの癖の念のためだった。
ただ、疑問が一つ。些細なことかも知れないが、レヴィ6の言葉に違和感があった。それはこの子、三司さんのことなのだが――。
「そ、その声……もしかして、あ、在原……君?」
浮かんだ疑問を尋ねる前に、三司さんがゆっくりと口を開く。名前を呼ばれて少し驚いたが、レヴィ6も同じ名字だ。彼女が呼んだのは俺ではない。
この二人は面識があってもおかしくはないはず。既に編入しているからな。だが、これでは迷彩機能を使ってまで正体を隠している意味がなくなった。
これから手当てをする。余分なやり取りは時間の無駄だ。守衛がいつ駆けつけるか分からないし、俺たちに時間は余り残されてはいない。
「……いいか? レヴィ0」
「はぁ、室長には一緒に説明してやるよ」
「助かる」
もう隠してはおけないと判断したレヴィ6は迷彩機能を解除した。完全に正体を知られてしまうことになるが、緊急事態だ、仕方無い。親父には怒られそうだけど。
目の前に姿を現したレヴィ6、在原暁。その突然の光景に目を丸くする三司さん。まぁ、無理もないか。正体を明かした暁と直接声を交わしていたレヴィ0、在原伊吹も迷彩機能を解く。いずれ知られてしまうことだし、と。
「ほ、本当に在原君だったんだ……どうして在原君がここに……。それに、その人は誰なの? 何がどうなっているの? さっきの人たちは一体何なの? ねぇ在原く――」
「その話は後だ、今は胸の傷の手当てを、早く止血しないと!」
そう言うと、暁は破れたシャツに手を伸ばす。三司さんは自分に近づく手の先、胸元へと徐々に視線を下げていく。そして。
「えっ、胸? ……っ!? ちょ、ちょっと待って、在原君っ! だ、大丈夫だからっ! 怪我なんてしてないから! ホントに大丈夫だから、触らないで、ね? お願いだからぁ!」
暁の手を避けるように自分の手で破れたシャツを握り、裂けた部分を隠す三司さん。見られたくないものでもあるのか、暁から距離を取ろうと後ろに下がろうとしていた。だが、その手を暁は掴み、それを止める。
「大丈夫なわけないだろ、傷口を早く見せるんだ!」
「あっ! ちょっ――」
手当ての為に仕方なく。暁はシャツを押さえている手を無理矢理に退けた。三司さんの手からシャツが離れると、簡単に捲れ、素肌と下着が露わになる。下着にも届いていたらしく、それは傷の深さを現していた。そのはずなのに――。
「血が、出ていない? それに傷口も……ない」
「ああ、やっぱりか」
それが伊吹の抱いた些細な疑問の答えだった。暁が焦っている割には三司さんからは出血している匂いがしなかった。この場で血を流したのは暁だけ。
――ポロッ、ポロッ……。
捲れたシャツの中から血の代わりに、そんな音で表現できるような感じで“何か”が地面に落ちてきた。傷口の再確認で暁は気が付くのに遅れる。
「ん? なんだ?」
伊吹が前に落ちてきた“それ”を拾い上げていた。“それ”は何やら柔らかい物だ。感触を確かめること数秒間。“それ”がなんなのか理解したようだった。布製で作られている角の丸い三角形の物。
「……うん。あのさ、俺は初めて見たんだけど、これって――」
伊吹は暁にも“それ”を手渡した。同じく感触を確かめ始める。そして、二人はそれぞれ頷くと、結論へ至った。
「……ああ。俺も存在自体は知っていたけど、初めて見たな」
実物は見たことがなかった。だが、知ってはいた。でもまさか、こんな状況でお目に掛かることになるとは思いもしなかった。そう、これは――。
「パッドだ/だな」
「あ、あ、あ、ぁぁぁぁぁ……」
嗚咽を漏らすように、声にならない声が三司さんの口から溢れる。だが、そんな状態の三司さんに追い打ちをかけるかのように、暁があることに気が付いていた。
「パッドだけじゃ……ない?」
裂けてしまった下着の更に下。今度は布製ではなく、シリコン製の下着が存在していた。それも胸の大きさを盛る為のものだということは見た目ですぐに理解できた。下着にしては形が変だったから。
「……つまりあれか。この子は“巨乳”じゃなくて“虚乳”だったってことか?」
伊吹が顎に手を添え、そんなことを呟く。
「お、上手いな」
「全然上手くなんかねぇよ! 大丈夫だって言ったのに、触らないでって言ったのに、怪我なんてしてないって言ったのに……。それを、それを無理矢理ひん剥いて!」
目元を潤ませながら怒る三司さん。乙女の秘密、同性であったとしても知ってはいけない秘密。それをよりにもよって男である二人が知ってしまった。泣き怒るのも無理はない。
「余計なこと言うから三司さん怒ってしまったぞ」
「すまん、つい言いたくなってしまってな……」
と、やり取りをしている場合ではない。顔を赤くし、今にも泣きそうな三司さんをどうにかして落ち着かせないといけない。騒がれたら面倒なことになってしまう。
「わ、悪かった、三司さん。三司さんが俺のミスで怪我をしてしまったと思って、焦っていたんだ、本当に悪かった!」
宥めるように謝罪の言葉を並べる暁。でも、まだ三司さんは落ち着かない。
「だってほら、パッドがあるなんて知らなかったし、それで怪我をしなかったなんて、普通は考えられなかったから……」
「――ビキッ……」
「……隙を与えぬ二段構え、くくっ……」
「――ブチンッ……」
伊吹の思いつきで呟いた言葉が決定打となった。
「パッドのおかげで無事だった? 偽乳だから助かった? 何が二段構えだ?」
あ、これは終わりましたね、お疲れ様でした。
「辱めて、馬鹿にして、さらに馬鹿にして……ぐぬぅぅぅぅぅ……。誰が乳部・タイラーだっ! お前らまとめてぶっ殺してやるぅぅぅぅぅ!」
「そんなことは言ってねぇよ!」
伊吹と暁の声が綺麗に重なった。そして、この大声は非常に不味い。
「おい、こっちから声が聞こえたぞ!」
「侵入者か!?」
たくさんの足音が聞こえてくる。守衛たちにさっきの大声を聞かれたか。もう時間切れだ、撤収しないと不味い状況になってしまう。
「そもそも、なんでこんな時間に、こんな所で、一体何をしているの? さっきの連中も訳が分からないし……大体在原君、あなたは何者なのよ! 謎だらけなんだけどっ!」
「それは――」
「お、俺は……」
伊吹が誤魔化しに入ろうとしたが、先に暁が何かを言い掛ける。彼女と面識のある暁に言わせた方が良いだろうと、この時に任せたのが不味かった。が、後悔は遅い。
「俺は……君を守る為に来たんだ!」
隣の暁君は、それはそれはとんでもないことを口にしてくれましたとさ。
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