大変、遅くなりました。最近は忙しくて……。
それに夏は体力の消費がえげつないですね。帰宅してからパソコンに向かう体力があまり残っていなくて(^^;)もう歳なのかな(笑
今回は台詞進行の場面が多くなってしまいました。間にいれる文が上手く思いつかなかい自分の国語力の問題ですね、はい。
それでは、どうぞ!
Chapter.1-1
『全く……。とんでもないことを言ってくれたな、暁』
室長、隆之介の溜息混じりの声。仕方がないと言えばそうなのだけど……。
橘花学院から撤収した後、伊吹は人気のない路地に入るとタブレットの電源を入れていた。そして、自分の寮部屋に戻った暁と通信回線を繋ぐと、今回の任務報告をする為、親父にも通信を繋ぐ。複数通話というやつだ。
『本当に自分でも何であんなことを言ってしまったのかと……』
「ホントっすよね、暁っち、マジやばくないっすか?」
『まずお前は落ち着け伊吹、キャラが崩壊してるぞ。……にしても伊吹、お前がついていながらこんな予想外過ぎる事態になるなんてな』
「判断ミスっすね。マジ、てへぺろですな」
『ツッコミはしないからな? それにもう古いぞ、その台詞。はぁ……まぁ、過ぎたことを言っていても先に進まない。任務の報告をお前たちから頼む。こちらでも大まかには把握しているが、詳細を知りたい』
伊吹と暁は画面越しに顔を見合わせると、伊吹の方は目を閉じる。無言の圧力。お前がしなさいと言わんばかりの。その反応を見た暁は「まぁ、そうなるよな」と小さく一息ついた後、報告を始めた。
『……任務の目的だった偽札の容疑者についての情報入手は成功。データは既に特班にも送信済みです。ですが、入手後、撤収直前に敷地内で警報が作動しました』
『レヴィ0が侵入者をカメラで捕捉、対処へ行動を変更し、その間にデータを入手した俺とレヴィ9は寮まで確保していた退路を移動。その後、レヴィ0から緊急の通信を受け、俺が別の侵入者と交戦することになりました』
『――そしてその時にお前は彼女に顔を見られただけじゃなく、迷彩機能まで見られた。で、援護に入ることとなった伊吹の存在も感づかれて、二人とも仲良く正体を見られたと……』
『……はい……』
『……はぁ』
室長は長い溜息をつくと、呆れたような目で二人の顔を交互に眺める。暫くして、大きく息を吸い、もう一度溜息を吐いた。
『まぁ、暁の部屋に守衛や先生が来ていない所を見ると、あの子は一応秘密として守ってくれているということなんだろうな。もし、駆けつけた人たちに本当のことを話していたとしたら、今頃、暁は拘束されていてもおかしくはない』
「あの侵入者と交戦した地点は監視カメラの死角だったし、俺たちの姿も映ってはいないはずだ。念のため、七海に頼んで付近の監視カメラの映像は確認しておくつもりだけど」
とは言うものの、暁の話だと……七海に会う時にどんな反応されるかが怖いんだよな。
『偽札の件もまだ片付いていない。その前に学院側へ正体が露見しまっては全てが無駄になる。今回は彼女に感謝しておくんだな。とりあえず現状では二人共、減給は確定だから覚悟しておけよ?』
「ただでさえ……ただでさえ、最近は経費で落ちない出費が多いってのに……」
『ミスはミスだ。お前が任務のミスを嫌うのはよく知っているが、減給で済んだだけでも良い方だったと思え。取りあえず、現状での処分はそれだけだ』
『分かりました』
「……分かったよ」
『となれば、だ。あの女の子、えっーと、三司あやせさんだったか。彼女の信用さえ得ることが出来れば、暁、お前のミスによる問題は最小限に留められる』
『その上で、暁、いやレヴィ6。お前に任務の追加だ。彼女、三司あやせを護れ。そしてレヴィ0はそのサポート任務を追加する』
『それは潜入任務の件も継続しながら……ですか?』
『当たり前だ。学院に潜入させる前にも言っただろ? 潜入するには学生の身分であるお前たちが適任だって。そもそも今更すぐに他の人員を手配している余裕もないしな』
「では、彼女に姿を見られたが、学院から撤収することはないと?」
『ああ、現状での判断だがな』
『それにもし、今回の侵入者のような連中によって、彼女に何かあったとする。するとだ、社会的には三司あやせは“アストラル使い”だから狙われたんだと人々は考えてしまう。そうなると、アストラル使いへの隔たりが更に深刻化してしまう可能性がある……かも知れない』
「かも知れないんだって、暁ちゃんや」
『そして、それがアストラル技術の発展に後れを生じさせ、その結果として、諸外国と差を大きくつけられることとなり、国益を大きく損なうことになる……かも知れない』
「かも知れないんだよ、暁君や」
『いや、流石にそれは無理があるんじゃ……。それに伊吹兄さんもどうしたの』
『無理があるないの話じゃない。建前を作らないといけないんだよ、立場上な』
『兎に角だ。彼女の信用を勝ち取ることが出来れば、問題はまずなくなる。自分の台詞で巻いた種なんだから、自分でしっかりと刈り取れ、いいな?』
『……はい……了解しました』
『宜しい。では、これで通信終了だ。二人共、しくじるなよ?』
†
暁の問題発言から夜が明けて。折角、自分のお金を使って取ったホテルの部屋では一睡もせず、ホテルを後にすることに。
ああこれも経費じゃ落ちないんだよな……暁に請求するか。うん、そうしよう。倍くらいにして。
昨晩の任務で使用した特班の制服を脱ぎ、昨日この街まで着て来た私服ではなく、現在着ているのは橘花学院の制服。クリーム色をメインとしたブレザー仕様だ。
今日は編入初日ということもあり、あまり着崩したりはしないでいる。まぁ、最初の数日くらいだけど。
制服は橘花学院へ編入の申請をした時、暁たちと一緒に注文していた物。サイズは適当に特班の制服を作り直した時の値を伝えた。多分、あまり変わりはないだろう。
たった数年前のことだし、仕事柄、体型の変化には一応気を付けているつもりだ。鍛錬も怠ったりはしていないし。暁も同じようにしていたが、七海は自分で測り直していたっけか。まぁ、女の子だからな。
バックを肩に掛けて街を歩いていく。暁へシートを渡したコンビニを過ぎて、数十分もした頃には、昨日降りた駅、橘花学院前。そして校門へと到着。
全寮制な学校の為、前に通っていた学校とは違って、登校して来る生徒の姿は見えない。多分、それも理由の一つなのだと思うが――。
見ない顔で学院の制服を着ているからか、校門に立っている男の守衛二人の目が自然と伊吹に向けられていた。
「……まぁ、仕方ないのかな」
昨日の今日だ。懐疑的な視線を感じる。昨晩、敷地内への侵入を再度許し、しかも今回はただのファンでは済まなかった。
アストラル使いによる複数犯の犯行。
未遂で終わりはしたが、この学院の生徒が危険に遭ったということに変わりは無い。普段より一層と見知らぬ人物へ警戒心を向けてしまうのは仕方がないこと。仕事としても“上”から圧が掛かっているかも知れないし。
分かりますよ、似たような上下関係がある点としてはね。
「あの、すみません――」
元々、守衛には声を掛けるつもりだったから別に問題はない。夜中と違って、もう俺はここの生徒。堂々と、正面から。遠慮なく。
「本日から編入することになりました在原です。これが手続きの書類と学生証なんですが、中に入れますでしょうか? そこまで詳しく連絡は受けて来なかったので……」
学院から届いた大きめの茶封筒をバックから取り出し、その二つを中から抜き出した。書類は守衛に手渡し、学生証は貼られている写真と伊吹の顔を見比べて。
「ちょっと待っていて下さい。確認して来ますので」
男は守衛所に入っていき、備え付けられた電話の受話器を手に取ると、何処かに内線を掛けた。時間にして一分未満。短めな問答をした後、こちらへ戻って来る。
「お待たせしました。確認が取れましたので、問題ありません。迎えの先生がここまで来るそうなので、もう少しお待ち下さい」
「あ、はい。分かりました」
守衛は書類を伊吹に戻すと、仕事へ戻っていった。伊吹は門に背を預けて待つことに。
…。
……。
………。
数分後。コツコツと足音が聞こえてくる。呆けるように雲を眺めていた目線を音がする方向、校舎のある方へ向ける。すると、一人の女性が歩いて来たのが見えた。
「……んん?」
あの人……どこかで見たことがあるな。ああ、任務の時カメラに映った人だ。三司さんと歩いていた人。学院の関係者とは思っていたが、ここの先生だったのか。
伊吹は預けていた背を壁から離し、女性の方に体を向ける。お互いの距離が近くなると、先生から声を掛けてきた。
「あなたが在原伊吹君ですね。初めまして、あなたの担任となります柿本です」
「よろしくお願いします、柿本先生」
落ち着いた声の女性。見た感じ、第一印象をしては若い先生という感じだった。伊吹は返事をしながら軽く会釈をすると、柿本先生は一度瞼を閉じて返す。
「まずは理事長室に向かうことになっていますので、私に付いて来て下さい」
柿本先生は体を反転させ、来た道を戻っていく。言われた通りに伊吹はその後ろを付いて歩いて行った。
広い中庭に各施設。七海から貰っていた見取り図のデータや、任務で見た夜の景色しか知らない伊吹にとって、明るい時間帯での景色は新鮮だった。
暫くして。昇降口に着くと、靴を履き替える。校舎内を進んで行き、階段を上がり、廊下を歩いていくと、柿本先生は一つの部屋の前で足を止めた。
廊下に並ぶ他の部屋とは違う雰囲気を漂わせる扉の前。ここが理事長室らしい。校舎の内部配置までは把握していなかった分、注意深く見てしまうのは職業病なのか。
そんな周囲を見回している伊吹とは別に、柿本先生は扉を数回軽く叩く。
「柿本です。本日から編入する学生を連れて来ました」
「ああ、入ってくれ」
中にいる人物から返事があると、柿本先生は扉を開ける。高級な革製のソファが対に置かれ、背もたれが高い椅子に艶のあるデスク。先生に続いて扉を潜ると、いかにも偉い人が仕事をしていそうな内装をした部屋が広がっていた。
そんな部屋の中、入って来た二人の姿を見た一人の男が椅子から立ち上がると、こちらへ近づいて来る。厳格そうな目つきの鋭い男、この人が学院の理事長か。
「初めまして、在原伊吹君。私が理事長を務めている伊勢篤紀だ。君の事情については弟さんと妹さん同様に聞いている。色々と大変だったな」
「いえ、そんなに大変だった訳では……。俺はあんまり気にしなかったですし。ですけど、妹のことを大切に考える兄としては、ここの学院に編入した方が安全なのかな、と」
理事長の言う事情――。俺たち兄妹が学院に編入することになった理由は、暮らしていた所でアストラル使いだということが露見してしまった、ということになっている。まぁ、嘘なのだけれど。提出した経歴なども所々偽っている。
最先端の研究施設も併設されているだけあって、身元の調査はかなり厳重な所なのだが、すんなりと編入することが出来た。特班の力は凄いものだ。俺の場合は、特班での経歴も偽りだらけなのだが……それは今は関係ないか。
「君は兄妹思いなんだな。この学院は君たちのような若者を受け入れ、自分の力を理解し、有益に生かしていくこと。前向きに生きる方法を見つけてもらう為に設立したのだからな」
確かにアストラル使いにとってここの環境はとても有難いものだ。前向きにという点では少々疑問もあるが、既にアストラル能力を有益にといえば生かせていると思う。
「さて、君には早速で悪いが、編入の際に必要となる手続きがもう一つある」
「それはAEMSへの登録……ですよね? 封筒に入っていた資料にそう書いてありましたし。そればかりはこっちに来てからでないと出来ないことですから」
「ああ、そうだ。この鷲逗研究都市で暮らすアストラル使いは全員登録してもらうことになっている。本来ならこの後にでもAEMSへ登録をしてもらいたい所だが――」
そこまで言い掛けると、理事長は腕時計で時間を確認していた。その様子から伊吹も壁に掛けられていた時計に目を向ける。
「もうすぐ始業時間だな。それは昼にしよう。担当の者が君の教室まで迎えに行くようにしておく。登録についてはその者の指示に従ってくれ」
「分かりました」
「では、在原君。よい学院生活を送ってくれ」
「はい、これからよろしくお願いします」
最後には僅かながらに口元を緩めていたのが見えた。外見では怖そうな人だが、内面はそこまでではないのだろう。
あれだな、こういう人ほど綺麗な奥さんとかいるタイプの人だな。
「柿本先生、彼を教室まで頼みましたよ」
「はい。では理事長、失礼します」
「失礼しました」
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