シスコンな兄は過保護なのです。   作:奈々歌

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こにゃにゃちわ~(千咲ちゃん風)

初めまして、奈々歌です!
初投稿なので、とても緊張しております!(白目)

なんか、某神狩りゲーとか、不死断ちとか、火継ぎとかしていたら時がとても過ぎていました_(._.)_

それでは、どうぞ。


Chapter.1-4

 午後の授業も淡々と進んでいく。

 合間の小休憩では編入生ということもあり、机の周りにクラスメイトが男女問わず集まると、質問攻めにあった。定番と言えば定番なのかな?

 

 そんなこんなありつつも時間は過ぎていき、本日最後のチャイムが鳴り、授業が終わる。そして迎えた放課後。一際、生徒たちの声が賑やかになっていた。

 

「さてさてっと……」

 

 部活のある生徒や、寮に帰る生徒が一人、また一人と教室を後にしていく。今日話しかけてくれたクラスメイトも「また明日」と声を掛けてくれる。

 

 そんな最中、帰り支度を一通り済ませた伊吹は、携帯の電源を入れていた。ポチポチと画面を操作すると、受信履歴を起こす。まだ七海からの連絡はない。

 あっちも帰り支度をしている頃かな? もう少し待ってみようか。

 

「(なら、今のうちに話しておくかぁ……)」

 

 休憩時間にできなかったこと。思い立ったらまず行動。携帯を仕舞い、暁の席に向かうことに。本人に目をやると、どうやら暁も帰り支度をしている様子。

 

「おーい、暁。ちょっといいか」

 

「ん? ああ、伊吹兄さん。どうかしたか?」

 

 伊吹の声に反応して、暁は一旦手を止めた。声を掛けた後だったが、伊吹は教室を一度見渡し“ある確認”をしてから話し始める。

 

「いやー、お昼のデートで何があったのかってさ。随分とイッケメーンになって帰って来てたみたいだったからよ。また怒られるようなことでもしてきたのかい?」

 

「ああ……伊吹兄さんも知ってるだろ? 三司さんの本性……」

 

 昼間のことを思い出しているのか、暁の口元が引き攣っていた。よほど酷い目にあってきた模様。まぁ暁のことだし、変なこと言ったんだろなぁ。

 

 暁の言う、三司さんの本性―――あの晩、あの場所でのこと。彼女の“秘密”が俺たちの眼前に露呈してしまった時、現れた素のことを言っているのだろう。

 

 彼女に関しては、この学院に来るまでに見ていた資料、都市や学院を紹介している映像でしか知らなかった。

 そのせいか、あの変貌ぶりはとても衝撃的だったけれど……。

 

「ああ、あれだろ? いきなり『ぶっ殺してやるー』とか叫んでたやつ。お前のミスで三司さんの服が破けて、その隙間から布生地のパッ―――」

 

 そこまで、そこまでだった。伊吹は不意に言葉を切っていた。背後に、とても、とっても、危険な気配を感じ取っていたから。

 

 培ってきた危機察知能力が、ビンビンに反応している。危険が危ないと。背筋に滲み出た汗が一滴、雫となってゆっくりと伝う感覚が鮮明になる。

 俺の後ろに広がる光景が既に見えている暁なんて、露骨に目線逸らしているし……。

 

 凄く、もの凄く気が進まないけれども、このままでいることも出来ないので、恐る恐るゆっくりと振り返ってみることに。大体の予想は出来てるけどね。

 

「や、やぁ……三司……さん?」

 

 案の定か、予想通り。

 ニコッと優等生キャラを演じる為、笑顔を貼り付けた三司さんが立っていた。あはは、その笑顔がとっても怖いですよ?

 

「……お二人は一体、何のお話をしていたんですか? ふふふ」

 

「い、いや、別に変な話はしてないよ? 昼休みにうちの弟と三司さんがいちゃついていたみたいだから、その時の話を聞いてた……だけだよ?」

 

「いちゃついてなんていませんよ/いないから」

 

 とか言いつつも息の合うお二人。お似合いだね。うん、お似合いだよ。若者なんだから青春しなさいね。親父もそう言ってたからね、潜入前にね。

 まぁ、七海に彼氏できたら泣くけどね? 二重の意味で。

 

「んで、本当は何があったんよ?」

 

「特別何かあった訳ではないですよ。“あの件”のことで、今後のことを少しお話したくらいですね。いきなり『君を護る』とか言われても疑問しかありませんから」

 

 暁がついた咄嗟の嘘。あの場をやり過ごす為に零した嘘とはいえ、結局は流れで本当の指令に変わってしまうことになるとはね。

 

「暁はどこまで話したんだ?」

 

「何も教えて貰っていませんよ。何を質問しても、権限がないから教えられないの一点張りでしたから。随分と秘匿事項が多いみたいですね?」

 

「まぁ、暁には権限が殆どないからなぁ……。次は俺も参加するよ。それなりに権限は持ってるから、ある程度は教えるさ。……個人的に三司さんから聞きたいこともあるし」

 

「それは……“変なこと”では、ないですよね?」

 

「それは、ないです」

 

 微笑んでいた表情が一瞬だけ素に戻っていた。周囲から見えない絶妙な角度で。

 

 変なことって、一体何のことを聞くと思われたのだろうかな? まぁ、胸だろうなぁ。とりあえず、その能面みたいな顔やめてくれませんかね? それはそれで、めちゃ怖いんです。

 

「でもさ、話をしただけという割には、ボロボロの弟が帰って来たんだが……」

 

「ああ、そのことですか。護衛をするにあたって、私のアストラル能力を把握しておきたいと提案されたので、数秒間だけ地上の人ではなくなってもらったからですね」

 

 何をされたのだろう……。気にはなるが、俺も彼女の能力を把握している訳ではない。入江さんに教えてもらったニュースを確認しておけば違ったか。

 この都市に到着した夜には、既に任務で暇なんてなかったしなぁ。

 

「都合のいい仕返しだろ? あの時、俺らに見られたさ」

 

「やだー、そんなことする訳ないじゃないですかー。うふふ」

 

 完全な棒読み台詞。もうそれ、隠す気ないだろと言わんばかりの。

 

 にしても、油断していたとはいえ、暁が簡単に倒されるとは……。後で鍛え直してあげないといけないな。潜入前の任務でも苦戦してたみたいだし、いい機会だね、うん。

 

「あー、それで思い出したわ。あのさ、三司さんが前に言ってた、なんだっけ……乳房・タイラー? あれって何のことだったんだ? 少し調べてはみたんだけど、検索に引っかからなかったんだよね」

 

「えー、ワタシ、そんなこと言ったことないですよー、あはは。伊吹君の聞き間違いだったのでは、ありませんか?」

 

 またもや棒読み……。だが、今度は声に怒気を滲ませて。

 

 気のせいだろうか? 彼女の後ろにもう一人の三司さんが見えるような……。そしてもの凄い剣幕で睨まれているような……。

 気のせいだ、気のせいだな。気のせいですよね?

 

「(おい。こんな所で“それ”を口にすんじゃねぇよ、ぶっ殺すぞっ!)」

 

「(こ、こいつ、脳内に直接っ……!?)」

 

 傍からすれば、笑顔の三司さんが編入生に話しかけている絵でしかないだろう。それに対して、伊吹も普通に返している。まぁ、知らない方が幸せという言葉もあるし……。

 

「話の途中ですまないが、少し時間を頂けないだろうか?」

 

 その二人の空気を破るように、一人の少女が声を掛けてきた。恐ろしいやり取りが密かに行われているとはつゆ知らず。

 

 さらりと流れる黒髪、凜とした声。このクラスで最初に話した女生徒、二条院さん。全然大丈夫ですよ。寧ろ助かりました。

 

「どうかしましたか、二条院さん?」

 

 二条院さんの声に応え、振り返った三司さん。その顔には既に笑顔が貼り付けてあった。彼女の切り替えの速さは最早熟練の技。目を見張るものがある。

 

「ああ。用事があるのは三司さんではなくて、伊吹君の方なんだ」

 

「俺に?」

 

 二条院さんの視線が、三司さんから伊吹の方に移る。

 コツコツと足音を鳴らしながら、伊吹の前まで近づくと、折畳まれた小さなメモ紙に電子カードのような物を挟んだ状態で手渡してきた。

 

 伊吹はそれを受け取って、カードを抜き取り、メモ紙の方を開いて見る。そこには数字が丁寧な字で書き並べられていた。

 

「これって……」

 

「ああ。先生から頼まれていたのだが、渡すのが遅れてしまってすまない。そこには、君がこれから生活する寮の場所と、部屋の番号が書いてある。大きな荷物も含めて部屋の中へ既に入れてあるそうだ」

 

「へぇ、てっきり寮の入り口にでも置いてあるもんだと思ってたよ」

 

「流石にそれはないさ。それと、そのカードキーは部屋の鍵となっている。オートロックだから部屋の中に置き忘れると、閉め出されてしまうから気をつけてくれ」

 

「あいよ、分かった。あんがとね、二条院さん」

 

 一通り説明を受けた後、ブレザーに仕舞う。用事を済ませた二条院さんは、手をこちらに振りながら教室を出て行った。

 

 さてと、二条院さんが間に入ってくれたことで、さらりと話題を変える。自分で振っておいてなんだが、他のクラスメイトの前なら三司さんが素を出せないことを利用して。

 

「なぁ暁、これから時間空いてるか?」

 

「いや、悪い。柿本先生に呼ばれてるんだ」

 

「そっか、じゃあまた後で連絡するわ。お前にも聞きたいことあるし」

 

「わかった」

 

 そこまで話すと、暁の席から離れて自席に戻ることに。グサグサと突き刺さる三司さんの鋭い視線を背中に感じながら。後は任せたぞ、暁。

 

 距離を取って、張り詰めた空気が途切れた瞬間、一度大きめな息を吐く。机の上に置いていた鞄を掴むと、丁度良く携帯が数度震えた。

 

 タイミング的に七海からだろうと確認すると、新着メッセージが一件。昇降口の前で待っていてくれるとのこと。「分かった」と短文で返信し、教室を後にしていた。

 

 

 

 †

 

 

 

 廊下は走らない―――というのは、学校として当たり前のこと。怒られない程度の急ぎ足で昇降口へと向かって行き、到着するや否や靴を履き替えて外に出る。

 

 学年問わず、生徒たちで賑わう昇降口前の広場。七海がその喧騒を避けるかのように、きょろきょろと視線を動かしながら、端の方で、ベンチに座っている姿が目に入った。

 

 愛しの妹を先に見つけた伊吹が駆け寄って行く。その途中、七海も兄に気が付いたようで、立ち上がりトコトコと小走りで近寄って来た。

 相変わらずの小動物感。とても愛らしい。

 

「悪い悪い、待たせたか?」

 

「ううん、大丈夫。ワタシもさっき来たところだったから。えへへ」

 

「そうかい。んじゃ、行くか、時間もあんまりないしな」

 

 七海と並んで学生寮へ歩く。敷地の見取り図は記憶しているので、寮までの案内は特に必要ない。……数年ぶりかな、こうして七海と一緒に下校するのは。

 

「久しぶりだよなー、こうして一緒に帰るのも」

 

「うん、そうだね。中学校以来……じゃないかな? 伊吹兄さん、別の高校に行っちゃったし、一人暮らしも始めたから会う時間、大分減っちゃったし……」

 

「そうだったなぁ……久しぶりに手でも繋ぐか?」

 

「久しぶりにって、そんなこと小さい頃しかしてないでしょ?」

 

「ちぇー、バレたかー」

 

 隣から、ジト目で見上げてくる七海。それにクスッと笑い返すと、七海は表情を緩めていた。こうした二人の時間が懐かしくて、心地よくて。少し、切なく感じて―――。

 

 任務とはいえ、編入して良かったなと思える瞬間なのは確かだ。まぁ、そもそもの話、同じ家で今までと変わらずに暮らしていればよかったんだがな。

 

 …。

 ……。

 ………。

 

 暫くして、学生寮が見えてきた。

 

 4つの建物が等間隔で並び建ち、それぞれの間に広がる中庭には、芽の整えられた芝生が敷かれている。流石、この学院の生徒が全員生活している寮なだけはあり、建物としては、かなりの大きさがあった。

 

「夜中しか見てなかったけど、立派なところだな」

 

「新しい建物だからね。それで? お兄ちゃんの部屋はどこなの?」

 

 七海に聞かれ、ブレザーのポケットから折畳んだ紙を取り出す。挟まれたカードキーを避けると、数字を改めて確認する。

 

「えーっと、第三寮だってさ」

 

「ホントに!? じゃあ、ワタシや暁君と同じだよ」

 

「お、マジか。それは助かるな、色々と」

 

 生徒としても、特班としても。最悪、通信が使えない状況になったとしても、同じ寮という距離であれば、直接会うことができる。それに、妹と一緒……うへへ。

 

「それなら寮の中の案内とか寮生活のルールとか、後で教えてあげるね」

 

「ああ、あんがと。やっぱ七海がいてくれるのは心強いなー」

 

「ふぇぁ!? な、何言ってるの!」

 

「別にホントのこと言ってるだけさ。ほら、行こうぜ」

 

 早速と第三寮の中へ入り、階段を上がっていく。メモとドアに書かれた数字を見比べながら部屋を探す。215……、216……、217……。そして218号室、ここだ。

 

「……この部屋か」

 

「えっ、ここなの? 伊吹兄さんの部屋……」

 

「ん? ああ、そうだけど、どうかしたか?」

 

「う、ううん。な、なんでもないよ! 気にしないで、えへへ」

 

 焦りと、何かを誤魔化すように、両手を振って見せる。でも、心なしか、どこか嬉しそうにしているのが不思議なところだったけど。

 

「まぁいいや。じゃあ先にある程度は進めておくから、七海も準備しておいで」

 

「うん。じゃあ着替えてくるからね」

 

 そう言うと、鼻歌交じりの上機嫌で階段を上がって行く七海。聞いた話では、4階からが女子のフロアになっているとのことだ。

 

 結局、理由は分からずじまいだったが、その背中を見届けた後、渡されていたカードキーで部屋の鍵を開け、中に入った。

 

 

 

 †

 

 

 

「お、お兄ちゃん……ワタシ、もう我慢できないよぉ……」

 

 七海の頬を汗がゆったりと流れていく。吐息も段々と荒くなっている。自分の名前を呼ぶ妹の甘い声に少しドキッとしてしまうが、ここで腕の力を抜く訳にはいかない。

 

「あと少しだ、我慢してくれ……ほら、俺も一緒にいくから」

 

「も、もう……限界っ、だよっ……うぅ……」

 

 七海の足が小刻みに震え始めていた。上手く力が入らなくなってきた証拠だ。それに気が付いた伊吹は自分の足を近くに寄せて、七海の体勢を支えるようにして形を保つ。

 

「もう少しだ、もう少し……頑張れ、七海」

 

「うぅぅ……」

 

 ギシッっと小さく床が軋む音を鳴らし、二人だけの空間、俺の部屋に声が広がる。あと少し、あと少しと声を掛けながら、ゆっくりと体を動かしていく二人。そして―――。

 

「よし、いくぞっ! せーの、よいしょー!」

 

 七海と息を合わせ、ドンッと胸ほどの高さがある棚を床に下ろした。

 

「大丈夫か、七海」

 

「ホントに疲れたよぉ……」

 

 これで大きな荷物の移動は完了。ベッド等の重い家具の類いは引っ越し屋が入れてくれていたが、自分の好んだ位置に移動させるという作業は必要だった。

 

 昼休みに七海へ頼んでいたことは、編入に伴った引っ越しの荷物整理のこと。この分なら残りは段ボールを開封して、中身を整理すれば、引っ越しの大部分は終わりかな。

 

 本来なら棚みたいな重たい家具は、暁に手伝ってもらいたかったんだが……。こういう時にもあいつの能力はとても役に立つし。

 先生に呼ばれているなら仕方ないけどさ。

 

 七海には小さい荷物。それこそ段ボールとかの荷物整理をと思っていたのだが、これくらいの重さなら私でも運べると言い出したので、一緒に運んでみることに。

 

 まぁ、案の定目の前でへたり込んでいる訳なんだけれども……。

 

「お疲れさま、ホント助かったよ」

 

 薄手のTシャツにショートパンツ。軽装に着替えて来た七海は、太ももがえちえち……暑そうに胸元をパタパタさせている。

 

 まだ夏も半ば、この程度の作業でもそれなりに汗はかくもの。微かに湿ったシャツのせいで、七海の下着の色が微かに透けてしまっている気もするが、兄といえども直視はいけない。勿体ないけど。非常に。とても。黒か……。

 

「さて、休憩するか。飲み物なら学院の自販機で買ってあるから」

 

 邪魔にならないように隅へ置いておいたペットボトルを手に取り、七海に手渡す。喉が渇いていたのか、一度に半分まで飲み込んでいた。

 

「ぷはぁ~、生き返ったよ~」

 

「無理しなくてもよかったんだぞ? 暁だって先生に呼ばれただけみたいだし、そんなに帰りが遅くなる訳でもないんだから……」

 

「別に無理はしてないよ。これくらいならワタシでも大丈夫なんだから」

 

「そっか、少し見ない間に立派になって……お兄ちゃんは嬉しいぞ」

 

 全然大丈夫には見えないけど、可愛らしく口元を緩める妹の笑顔が愛らしく、自然と頭に手を伸ばしていた自分がいる。

 

 またお昼みたいに拒まれると思ったが、意外にも今回はすんなりと受け入れられていた。

 

「嫌がらないんだな? 学院じゃ拒否られたのに」

 

「べっ、別に嫌じゃないからいいのっ! ……今は二人だけだから……」

 

「そんなもんなのか」

 

「そんなもんなの、いいでしょ。全く、ワタシが普段どれだけ我慢しているかなんてお兄ちゃんには分からないんだから……」

 

「ん? なんか言った?」

 

「……なんでもないもん」

 

 七海のそういった基準がよく分からんなと思いつつ苦笑を見せ、その間も撫で続けること数分。汗も程々に引いたので、作業を再会することに。

 

「さてっと、そろそろ続きを始めるか」

 

「う、うん、そうだね」

 

 …。

 ……。

 ………。

 

「よし。これで最後っと……。あんまり遅くならなくて良かったな」

 

「まぁ、お兄ちゃん一人だと今日中に終わりそうにないもんね、こういうのって」

 

「そう言われると痛いな、あはは……。後でお礼するから、何が良いか考えておいて」

 

「お礼……お兄ちゃんからのお礼かぁ……」

 

 何を思いついたのかは知らないが、僅かに頬を染めたかと思いきや、顔を隠すように俯ける七海。何か言い出しずらいことでもあるのだろうか?

 

「ね、ねぇ、お、お兄ちゃん。そのお礼ってさ、今でもいいかな?」

 

「ああ、いいけど?」

 

 七海はもじもじと、胸元で両手の指を合わせていた。この仕草には覚えがある。七海が見せる珍しい仕草。兄に甘えたい時に見せるものだ。

 

「ぎゅーって、してほしいって言ったらダメ……かな?」

 

「いや、全然いいけど……その程度でいいのか?」

 

「う、うん……」

 

 恥ずかしそうに、耳まで赤くした七海。可愛いなぁ、可愛いなぁ、もう可愛いなぁー。というかそれって俺へのご褒美じゃないですかね、我が妹よ。

 

「それこそ小さい頃以来じゃないか? 『雷が怖いー』って泣いてた時とか―――」

 

「そういうことは思い出さなくていいからっ!」

 

「俺はてっきりご飯奢ったり、買い物の荷物持ちとかかなって思っていたんだけど……まぁいいや。ほら、おいで。七海?」

 

 両腕を広げ、妹の名前を呼ぶ。

 

「……う、うん、お兄ちゃん……」

 

 躊躇するように、戸惑うように。だが、確実にゆっくりと手を伸ばして、足を進めて。距離が近づくにつれ、七海の鼓動が聞こえてくるような気がした。

 

 七海の体があと数センチで、数歩で、伊吹の胸板に届く。広げている両腕の中に妹の体が収まるまであと少し。こっちも何だか緊張してきた。

 

 七海の伸ばした手が、指が先に伊吹の体に触れた。伊吹がそれに応じるように、自分の腕で華奢な体を包もうとした瞬間―――ドアがノックされた。

 

「おーい、伊吹兄さん。先生の用足し終わったから来たぞ」

 

 ドアの鍵は掛けておらず、暁は普通に入って来た。他人の部屋ならば、そんなことはしない。家族、兄弟だからこそか。

 

「……ッ!? じゃ、じゃあワタシは自分の部屋に戻るからッ!」

 

 顔から湯気でも出そうな程赤くしたまま、逃げるように七海は自分の部屋に走って帰って行った。帰っていっちゃった……。惜しかった、惜しかった。

 

「七海のやつ、どうしたんだ? あんなに慌てて……」

 

「暁。本気のグーで殴っていいか?」

 

「何で!?」

 





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次のゆずソフトの新作はなんだろなぁ~。
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