それに伴って、最近更新してなかった9nineの方も頑張らねば……。
ではでは、それではどうぞ。
『こちらレヴィ9。任務完了しました』
あれから一時間ほどが経っていた。
ここは何処かの屋上。人気のない……というよりも、そもそも人が立ち入れる造りではない。普通は人がいるとは思えない場所。
上から注ぐ月明かり。下から見上げる街の灯り。それぞれが二つの人影を照らし出す。黒い制服のような恰好をしたレヴィ6とレヴィ9だ。
「今回はレヴィ0に助けられたね、レヴィ6」
本部への連絡を終え、隣に立つレヴィ6に声を掛ける。だけど、返答はなかった。小首を傾げてもう一度、次は問い掛けるように。
「ねぇ、聞いてるの? レヴィ6」
「……」
変わらず答えはない。顔を覗き込むと、何かを考えているように目を閉じていた。
「おーい、レヴィ……。暁君?」
「……突然名前で呼ばないでくれよ。任務後だとはいえ、びっくりするだろ?」
「いや、それは暁君が呼んでも反応してくれないからでしょ? どうしたの、何か考え事?」
「考え事っていうか……」
コードネームではなく、真名で呼ばれて瞼を開けたレヴィ6――暁は首元のシャツをパタパタと動かし、体に空気を送り、籠もった熱を逃がしていた。
けど、この蒸し暑い夏の夜。生暖かい風が入ったところで涼しくはならない……まぁ、多少はましにはなるかもだけど。
「この制服、半袖のも作ってくれないかってさ。通気性すげぇ悪いし、今回はかなり動いたからくそ暑いんだよ。風呂に入ってないのに逆上せちまいそうだ」
「“予算がない”っていつも言ってるからねぇ……。はぁ、暁君がそんなこと言うから我慢してたのにこっちまで暑くなってきたよー……」
もじもじと体を捩らせるレヴィ9。
不快そうな表情を浮かべ、溜息をつく。
二人が身に纏う制服。支給された長袖の黒い服に白い手袋。いかにも秘密組織って感じのこの服は、世間一般には出回ることのない特殊な布地で作られていると聞いた。
詳しいことは知らないが、グラム単位で金の数倍の値段になるとのこと。“組織”の末端でしかない俺らにはそれくらいの情報しか伝わってこない。
「はふぁわぁ……。早く冷房の効いた部屋に帰りたいよ」
そんなことを呟きながらも、任務情報の修正をタブレットで手際良く行うレヴィ9。報告書を作成する上で重要となる部分を主に。
「それにしても、相変わらずあの強さは異常だよなぁ……」
思い出すようにレヴィ6が口を開くと、タブレットに視線を移していたレヴィ9の瞳が再びレヴィ6へ向く。
そして一度開いていた詳細画面を閉じていた。
「まぁ、ワタシも近くの監視カメラを使って見てたけど――」
タブレットを操作すると、侵入したカメラで録画した映像が表示される。
縮小画面を指で広げ、拡大。
見やすくなった映像に映るのは、素人から見ても明らかに一方的としか言えない戦闘の様子だ。
囲まれるレヴィ0。不可思議な軌道で曲がる銃弾。次々と倒れていく敵。
一分も必要としなかった争いは、レヴィ0の圧倒で終了。
「今回の任務は後処理が凄い楽だったって、さっき連絡した時に室長も言ってたよ」
任務の後処理、それは情報操作のことだ。
あの後、暁が退避した数分後には、赤色灯を鳴らしてパトカーが次々と現場に到着。
慎重に包囲し、倉庫へ突入した警官たちが目にしたのは、既に無力化された犯人たちと取引されるはずだった違法物の山々。
床に散乱する銃の数々は破壊され、犯人も足や腕を負傷。そのおかげか、特に抵抗もなく簡単に逮捕されたとのこと。
“組織”から秘密裏に入手したと思われる情報によると、警察の出した結論は、現場の状況からして交渉の決裂が原因の撃ち合いによる共倒れとなっているそうだ。
大きな裏工作をすることもなく、この依頼は完了となった。
「レヴィ0――兄さんの“アストラル能力”の使い方は普通できないと思うんだよなぁ」
レヴィ9のタブレットを暁が覗き込んでくる。
いきなり距離が近くなり、「暑いよ」とレヴィ9はタブレットを暁に手渡していた。
自分一人で見れるようになると、暁は画面を更に拡大する。
観察するように、見入るように。
「ねぇ、ところで……伊吹兄さんは?」
録画映像があり、暁がこの場にいるということは、同じく任務に当たった人物。レヴィ0の姿があっても不思議ではない。
そのはずなんだけど――。
その頬は少しばかり赤い。
でも、この深夜の時間。暗い中、暁は気が付いていなかった。
「ん? ああ、『七海に怒られるのが怖い』ってさ。もう帰ったよ」
「え、えぇ……」
七海と呼ばれたレヴィ9。
暁はその様子に疑問を持つ。何を期待していたのだろうか?
「報告書もあることだし、もう帰ろう。日が昇れば学校もある」
「……うん、分かったよ」
明らかに落胆している七海。
既に帰宅の為、背を向けていた暁には見えていない。
「はぁ、せっかく心の準備、してたんだけどなぁ……」
兄の後ろを歩きながら、七海はそう小さく呟くのだった。
†
―――リーン、リーン、リーン……。
聞こえてくる電子音。
最初は小さくぼやけてて。
次第に意識がはっきりとしてくると、それが携帯から流れていることを思い出す。
音と同時に起こる小刻みな振動は、寝そべり、頭を埋める枕まで伝わってくるものだ。
「うぅん……。はいはい、起きますよぃ……」
電子音の元である携帯を手探りで見つけ出し、目覚ましのアラームを止めると、気怠げに起床する。
昨晩の“仕事”の件もあり、あまり寝られなかったな。ついつい、大きな欠伸が出てしまう。
体を伸ばすと、強張っていた肩や背中が解れていくのは程よく気持ちが良いものだ。
夜中に起きた時よりもボサボサになった寝癖頭を掻きながら、部屋のカーテンを開けると、朝日の眩しさで目を細める。
一つ、深呼吸をすると、洗面所に寝癖を直しに行くことに。
適当に寝癖を直すと、部屋に戻り、壁に掛けていた“違う方”の制服を着る。朝食は稀にしかとらないので、後は登校するだけだ。
「さてと――。まだ時間はあるな」
部屋に置く時計の確認すると、小一時間の余裕。
机に向かい、キーボードに接続したタブレットを起動すると、最近のニュース等の情報を仕入れながら“報告書”に手を付ける。
カタカタと部屋にほぼ一定の調子で音が響く。
一人暮らしだと静かなものだ。
半分は進められただろうか? 区切りのいい所で手を止めると、再び時計を見る。ああ、もうそんな時間か。そろそろバスが来るな。
保存し、タブレットを閉じると、学校へ向かう為に部屋を後にした。
………。
……。
…。
バスに揺られて数十分。学校に一番近い停留所で降りると、ちらほらと見える生徒に混ざり、通学路を歩いて行く。
途中コンビニに寄り、弁当代わりの昼食を買うことに。
一人暮らしを始めて数年が経つと、自分でも直さなくてはと思う程にだらしなく生活してしまうもの。まぁ、俺基準での見解だがな。
こんな姿を妹に見られたら怒られそうだ。
最初の内は自炊をし、弁当だって自分で作っていたさ。料理は出来ない訳ではないからな。
でも、妹が弁当を作ってくれた弁当に比べると……比べることが妹に申し訳ない。
実家のような生活は出来ない。
自炊も面倒になってしまった。
だって、コンビニ便利なんだもん。楽を覚えると、そちらに頼ってしまうんだ。
一人暮らしになった理由?
……別に大したことではない。兄として心配した結果。あれは確か、妹の忘れ物を学校へ届けに行った時のことだったかな――。
「おはよーさん」
学校に到着して教室に入ると、軽い挨拶をする。
数人から返ってくる声に笑みを浮かべながら席につくと、時間通りにかったるい授業を受けていく。
休み時間となれば、友人と駄弁って過ごす。
昼はコンビニのパンやおにぎりを食べていると、妹の手作り弁当が恋しくなるな。
こうして、基本的に日中は学校に通っているが、放課後となり、部活もない為、寄り道しながらの帰り道。
ズボンに仕舞っていた携帯が振動すると、その日の夜は“仕事”に出る。
一日、一週間、一ヶ月……そして一年と。
二つの生活を繰り返しながら日々は過ぎていく。慣れてしまえば、それが普通になっていくもの。
過去とは無縁の生活。俺にはそれだけで十二分に満足だった。
――さて、帰って報告書を完成させたら、昨日の依頼について文句を言いに行こうかな。
評価頂けて嬉しいです。これからもよろしくお願いします。