シスコンな兄は過保護なのです。   作:奈々歌

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9nineに茉子ちゃんとかレナの声優が出てることが嬉しいです。個人的には。
今回は今の所一番長くなりましたが、説明回とカタカタと勢いで書いたので、変な部分があるかも知れません。その場合は教えて貰えると嬉しいです。
評価も更に一つ増えて感謝です。

それではどうぞ。


Chapter.0ー4

「ああいった任務を妹には危険だから俺に渡せって何度も言ってるよな、親父」

 

 その日の夜。レヴィ0こと、伊吹は仕上げた報告書を数枚まとめて提出しに来ていた。一週間ぶりくらいになるのかな? “ここ”に顔を出すのは。

 

 “ここ”とは『情報局特別班』のこと。“組織”の一部、通称――特班。

 

 逮捕権もなければ、捜査権もない。だが、必要となれば超法規的な治安維持活動も執る。アストラル能力などを用いた警察の手には余る厄介な犯罪や事件を対処する為だけに、国によって設立された非公開の組織だ。

 

 潜入や尾行といった諜報活動を始め、先に現場で犯人を無力化したりと、表の手助けを主に行う裏の機関。活動内容が内容だけに、一部の国のお偉いさん方にしか、その存在は知られていない。

 

 そして『レヴィ』のコードネームを持つ俺や暁に七海は、現場で活動するエージェント。普段は学生として過ごし、任務となれば諜報員として裏で動いているという訳だ。

 

 伊吹が“親父”と呼んだ目の前のボサボサ頭はこの“組織”の責任者。室長と呼べば分かりやすいかな?俺たちの上司であり、“養父”でもある人物――在原隆之介。

 

 社会から弾かれる直前だった暁。

 救い出された七海。

 引き上げられた俺。

 三人を引き取ってくれた恩人だ。

 

 二人は諜報員として働いているが、別にその為に引き取られた訳ではない。

 暁と七海が特班で働いているのは、自分たちの意志で決めたこと。俺と違ってな。

 

 暁はともかく、七海が働きたいと言った時は先輩として、兄として止めたさ。あの子には危険の伴うこの世界に関わらず、平和な暮らしをして貰いたかったから。

 

 だが、七海の決めた意志は固く揺るがなかった。それに渋々俺の方が折れ、危険な任務では前に出ないことを条件に親父へ話を通したことで、三人共諜報員となった。

 

 そんな過去もあることで、今回の任務について報告書の提出ついでに、文句を言いに来ていたのだが……。

 

「ああー……悪い悪い、レヴィ0。今回は……いや、“今回も”なんだけどな――」

 

 バツの悪そうな顔をしている室長。

 妹のことになると、口が悪くなるのは伊吹の悪い癖。七海が妹として家族になってから、伊吹は過保護な兄と化したのだ。

 まぁ、可愛い子だからそうなってしまうのも仕方がないことなのかも知れないが。

 

 長いこと一緒に暮らしているからか、言葉に遠慮がないのは、円満な関係を築けているからだろう。うん、良いことだ。

 

「上司が言い訳かい、刻むよ?」

 

「いや違うんだ、話を聞いてくれ。そしてその物騒な物は仕舞ってくれ!」

 

 室長は椅子に座り、両手の平を見せながら、宥めるように苦笑い。

 

 いつの間にか伊吹の手に握られているのは専用武器の一つ。鋭利な刃が鈍い輝きを放つ。満面の笑みを浮かべてはいるが、目が笑っていない。

 それはもう氷のような冷たい視線で。

 

「元々、あの任務はお前に任せるはずだったんだ。だがな、レヴィ6とレヴィ9が代わりに引き受けるって聞かなくてなぁ……」

 

 困り顔を見せて頬を掻いた。レヴィ6とレヴィ9――暁と七海が?

 理由が分からなかった。どうしてあんな不明瞭な点の多い任務を受けたのか? 危険なのに――。

 

「……なんで?」

 

「なんでってそりゃ、お前……」

 

 室長は机の上に積み上げられた二つの書類の束に視線を移す。

 山のように積まれた束だが、それには差が見受けられた。実に倍ほどの。

 

 この人は全然整理しないから、こんなに溜まっているんだろう。

 実家での暮らしでも、七海が掃除しないと散らかしたままだったからなぁ……。などと思いつつも、意味が分からないといった様子で首を傾げる伊吹。

 

 それを見た室長は大きく息をついていた。

 

「あのなぁ……見て分からないのか? しょうがないなぁ、多い方がお前の。で、もう一つが暁と七海の報告書だ。内容を確認すれば見分けはつくよな?」

 

「ああ、それは分かるが――。……それがどうかしたのか?」

 

 皆まで言わなければならないのかと、ビシッと音でも出そうな勢いで伊吹を指差し、呆れた様子で室長は答える。

 

「どう見たってこなしてる量が可笑しいだろ? だから、なるべくお前の負担を減らしたいって二人は出来そうな任務を率先して、代わりに引き受けてるんだよ」

 

「あ、ああ、そういうことね……。通りでここ暫くは携帯が鳴る回数減ったなって感じた訳か。これで謎は解けたぜ、やったね!」

 

「なーにが『やったね!』だ。それでも二、三人分は働いてるんだからな、お前は」

 

「お給料がいい値になっとりますよ、おかげさまでね。一人暮らしは何かと出費が多いからさ。楽を覚えるとお金が掛かるもんなんですわ、これが」

 

 自炊しないと、出費が嵩むんだよね。コンビニで昼食買ったりとかさ。

 光熱費もこの仕事で稼いだお金で払っているし、装備の整備代金だって……。

 学生のお財布事情には厳しいものなんだよ。

 

「まぁ、それも明日までなんだがなぁ……」

 

「どうしてだ?」

 

「あの二人には別の任務を伝えたんだ。ああっと、危険はものではないぞ? 物騒なものは出すなよ? これは内部の人間でも限られた奴にしか知らされていないものだ」

 

 口に人差し指を当てながら話をする室長。

 

 物騒なものと言われて、無意識に腰のケースに手を添えていたことに伊吹は気が付く。

「ああ」と咄嗟に手を離していた。

 

「これは癖なんだ、悪い。――それで限られた者しか話せないって……俺はいいのか?」

 

「癖ってなんだよ、癖って。まぁいいが……。いいんだよ、お前には話しておかなければならないんだからな。任務の内容は“潜入”だ」

 

 潜入……。場所に寄ってその難度は変わるが、基本的に高い任務となることは必至。

 それにこの任務って――。

 

「それだと長期間になるだろ? いいのか? 俺や二人は学生だから、その類いの案件は他の諜報員に渡されていたはずだけど?」

 

 学生である以上、休日でもないと日中は任務を行えない。その為、学生ではない大人の諜報員が代わりにこなすのが、特班の流れだ。

 

「ああ。確かにお前たちにはこの間までの夏休みのような長期休みでもない限り、無理な仕事だ。だがな、今回は潜入する場所が場所なんだ。その問題は解決済み。既に二人には月曜日から取り掛かってもらうことになっている」

 

 話が見えない。場所が場所? 一体どういう意味なのか。それに月曜日から潜入させるって言うが、学校はどうするんだよ。

 

 七海は勉学も生活態度も優秀だけど、暁は……あれなんだからさ。その辺りの説明が不十分だぞ、親父。

 

「そこで、だ。今、お前に任せてる短期間の任務あるだろ? あれは後どれくらい掛かりそうだ?」

 

「多分……休み中には終わるかな? もう少しすれば尻尾を出すと思うから」

 

 簡単な張り込みの任務を現在実行している。相手の動向さえ掴めれば、後は乗り込んで制圧して、警察に現場を引き渡す。

 それでお終い。余裕の仕事。

 

「なら、その任務終了後に新たな任務に就いてもらう」

 

「それって、もしかして……」

 

「ああ。この任務には伊吹、お前にも参加してもらう。二人をサポートしてやってくれ。先輩として、兄として、な?」

 

 

 

 †

 

 

 

「在原伊吹君が転校することになりました」

 

 土日が明けた日の朝。

 いつも通りに登校した教室のホームルーム時間。

 担任の先生から最初に告げられたのはそんな連絡。

 時期が時期なだけに珍しかったのか、クラスの皆は驚きを隠せない者が多かった。

 

 その後、何故か前に立ち、挨拶をすることに――。

 

「ああ、まぁ、その……あれだ。突然のことなんだが、今日まではここの生徒で、皆とはクラスメイト。今までと変わらない生活を送りたい。変に気を遣わなくて大丈夫だから、な?」

 

 あまりこういうことには慣れていない。

 

 何かしらの言葉を掛けたり、残したり。別れの時にそんな経験をしたことが無かったから。

 初めてで、新鮮な気持ちだが、悲しいものなんだな。

 

 高校に上がってから知り合った顔ぶれ。一、二年と、そんなに長い付き合いでもなかったのに。そのはずなのに……。

 

 ………。

 ……。

 …。

 

 俺の言葉通りか、その日は何も変わらない普通の学園生活だった。

 ただ、良く接していた男子グループの皆からは寂しそうな視線を特に感じたな。

 

 今日は時間の流れが早かった気がする。

 この学校で過ごす最後の時間だったからか?

 まぁ、そんなことは今更。授業の終わりを知らせる鐘が聞こえてきた。

 

「じゃあな、皆。こんな俺とも良くしてくれてあんがとよ」

 

 放課後。仲の良かった生徒たち、男女問わず見送ってくれた。

「連絡くれよ」。「近くまで来たら顔見せろ」。様々な声を掛けて貰えた。とても嬉しかったよ。

 

 校門を潜り、学校を後にする。

 何処か寄りながら途中まで帰ろうと誘いもされたのだが、親が車で迎えに来て、そのまま新しい街に行くのだと仕方なく断りを入れた。

 

 本当に優しい連中だった。

 惜しい繋がりだった。

 懐かしいものだった。

 

 まぁ、失われる訳ではないが、いつかまた会えることがあるのだろうか?

 自分の“仕事”上、そんな心配をしてしまうのは悪い癖なのかな。

 

「悪いな、せっかく馴染めた学校だったのに。友達と別れるのは辛かっただろ?」

 

 車に背を預け待つ男――室長の隆之介が、名残惜しむよう学校を見つめている伊吹に声を掛けていた。

 伊吹はそのままに答える。

 

「別に仕事なら仕方ないことさ、それに――」

 

「それに?」

 

 目線を学校から離し、瞳を閉じる。

 少しの間を空けて、その目が開かれたと思えば、その先の向かう場所には夏の空。

 

「――こういう“別れ”なら嫌いじゃないかな……」

 

「……そうかい。――よし、車に乗れ。まずはお前の家に寄って、荷物を載せるぞ」

 

 二人の乗った車は走り出す。

 

 この日の空は今の心と同じ色をしているような気がしていた。

 




評価感想、貰えると嬉しいです。

発売までは更新速度早めで、体験版で分かっている部分は進めておきたいと思っておりますので、読んで頂けると幸いです。

暁と違い、補習を受けることがないので、夏休みではなく、明けた後の土日という設定に変えて進みます。

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