千恋*万花もコミカライズしましたし、RIDDLEJOKERもして欲しいところ。漫画版の茉子ちゃんは動き絵が多いから可愛さアップですよね(・∀・)
ああ、長期休みが欲しい……(._.)
それでは、どうぞ!
今晩の宿はビジネスホテルで安く済ませることに決めた。ただの素泊まり。エレベーターで階を上がっていき、受付で渡された鍵を使って部屋の中に入る。
ベッドにデスク、浴槽とトイレが同じ場所。任務で利用することが多いからか、もう見慣れた内装。デスクの横に手荷物をドサッと置き、ベッドに腰を下ろすと一息ついた。
携帯と仕事用の携帯をポッケから出し、脇のサイドテーブルに。
窓から見える景色は夕焼けの空。ライトレールから眺めていた時にも思ったのだが、この鷲逗研究都市は意外にも開発が進んでいる。街並みはビルなどの近代的な造りの建物が多い。それ以外にも綺麗な建物ばかり、例えを上げれば橘花学院とかか。
建ち並ぶガラス張りのビルの外観に日が反射して、光が部屋まで差し込んでくる。今日という一日の終わりが近づいているような感覚。
今日はバタバタとして疲れたな。通っていた学校を辞めて、電車で移動の連続。仕事以外でここまで詰めた予定を組み、動いたのは久しぶりだった。
ふと、備え付けの電子時計に目をやると、そこそこの時間。ベッドから立ち、デスクに向かう。買ってきたコンビニ弁当を広げ、箸を手に取っていた。
何から食べようかと思った矢先、小刻みに音が鳴る。置いていた端末が会いたくて震えていた。椅子から立ち上がり、それを手に取る。また秘匿回線。まぁ一般回線、普通の携帯が鳴る方が珍しいんだけどな……。
「えっーと、このコードは暁からか」
画面を操作し、回線を開く。
『ほいほい、どうかした?』
相変わらずの受け方。暁や七海、親父は慣れたと言っている。
暁には例の物をしっかり渡したし、生命の魔道書も渡した。今日の必要な連絡はもう無いと思っていたんだが……。
『例の物の準備が出来た。まぁ、色々と問題はあったんだけどな……』
『おお、仕事が早いな。難度が高いとか言ってた割によ』
例の物、親父から頼まれた特注品。
特班の制服にも採用されている素材、メモリー繊維を加工した小さく薄くシール状の物。
――メモリー繊維。
その名の通り“記憶”するという特性を持った特殊繊維だ。アストラル技術の発展で生まれた代物の一つ。
特殊な加工を施すことにより、アストラル能力を吸収。更に加工を加えることで、その能力を定着させておくことが可能。
吸収させ、記憶した能力は本人でなくとも使用可能となり、特班の制服に使われている理由もそこが大きい。
性能の高さから、当然のように値も張る。グラム単位で金より高いとかなんとか。
そんな高級品が惜しげもなくふんだんに使用されているのだ、特班の制服はおいそれと量産することの出来ない物となった。その為、半袖が欲しいという暁の提案は未だに通っていない。
今回、特別に開発されたシート版は、元々開発部の方で案が出ていた物なのだとか。
試作品と現場での運用試験も兼ねて、この任務での投入が決まったのだろう。
相手の素肌に数時間も直接貼り付けなければ効果を発揮しないなどと、問題点は多々あるが、性能は十分に高い。ただ、リスクの高さとすれば、潜入には向かないけどな。
吸収した能力を保持していられる時間、効力はもって一日か二日とのこと。実際の所は正確には分からない。
なら、確実に効果が残っている状態である今夜か明晩か。
『任務開始予定はいつにしたんだ?』
『今夜にした。本当は伊吹兄さんが編入してから行動する予定だったんだけど、ちょっと問題が発生していてな……』
『……問題?』
『親父からこの街の紹介映像みたいなやつ見せられただろ? あれに映っていた女の子、覚えているか?』
電車で見た映像を思い出す。映っていた女の子は一人だけだった。
『確か、何かのテレビに取り上げられたことがあるっていう子のこと?』
暁が見た映像と同じものという確証はないが、親父からとなれば多分同一のはず。なら、大江さんが言っていたあの子のことだろう。
『ああ、その子で合ってる、胸の大きい子な。テレビに出ていたってのは、俺も七海に教えて貰うまで知らなかったけど』
『それで、あの子がどう関係しているんだ?』
『俺と七海が編入する前日にあの子のファンだって名乗る男が夜の学院に侵入してな、警備の強化が掛かるらしいんだ。今夜にも人手の方は増えていると思う』
それは可笑しい。ホテルに来る前、暁と接触する前にこの目で確認したんだ。そこいらの施設より何倍も厳重な警備だったはず。
当然、浮かぶ疑問となると――。
『あの中を一般人が? どっかの組織の工作員とかじゃなくてか?』
『まぁ、俺もその線を疑ってこっそり調べてみたんだが、本当に一般人だった』
機器関係が苦手な暁のことだ、自身の能力で盗聴まがいの方法を取ったのだろう。そういった情報収集に関しては上手くなったものだなと感心する。
実動班からすれば、現場での生きた情報集めが出来るメンバーがいるのはとても有り難いもの。
『そいつが言うには、全く面識もない、知らない人物から情報が送られてきたんだと。情報通りに指定された時間で指定されたルートを使って学院に侵入。すると、何故か学院の警報装置は機能しないし、その付近には警備員の姿もなかったと言っているらしいんだ』
『だが、偶然にも通りかかった学院の先生に見つかり、事態が発覚して確保された。その夜は他に怪しい人物は目撃されていないし、監視カメラにも問題はなし。研究施設や校舎にも侵入された形跡はないらしく、謎だけが残った状態。依然、装置が機能しなくなった原因は分かってないんだとさ』
『……うーん。なら、早めにやらないといけないな、色々と。そっちの方は俺の方でもう少し調べてみる。兎に角、今夜は自分の役割に専念してくれ』
暁から「ああ」と返ってくる。
一度侵入された、しかも原因が分からないともなれば、警備の目は無意識にも“外”に向く。悪いが、俺たちには好都合だった。
それに、その男の話が事実なのだとしたら、編入する前の方が都合がいい。生徒ではない内の方が動きやすい場合もある。
『もう敷地内と校舎内の監視は把握済みだよな?』
『ああ、それは大丈夫。七海も既に“仕込み”を終わらせたって言ってたし』
暁は置いておいて、流石は我が妹、七海ちゃん。あの台数に対しての“仕込み”をたった一日で済ませるとはな。複雑な心境にはなるけどね。
『じゃあ、この端末に敷地の見取り図と警報装置の設置箇所、作戦開始時刻に侵入経路も送っといてくれ』
『分かった、七海に伝えとく。ああ、それと――いや、やっぱりいいか……』
『なんだよ、勿体振るなよ。気になるだろ?』
伊吹がそう返すと、少し間を空けて暁が答える。
『潜入前、七海が伊吹兄さんに応援要請した任務があっただろ? その後、七海に会いに行くからな的なこと言ったんだって? なのに怒られるのが怖いからって帰った』
『ああ、そうだったな……っ!? ま、まさか――』
『次の日、食卓には餃子が並んだ、それだけは伝えておく』
『おう……マジですかい……』
そこまで聞いて、通信を切っていた。
この件は編入してからが怖いが、今は任務に頭を切り替えよう。こればかりは失敗は許されない。
一度でもミスをし、発見でもされてしまえば、潜入は露見し、事件調査の機会は失われる。再度の潜入も厳しくなることだろう。
それに、七海にも危険が及んでしまう可能性がとても高い。兄としてそれは避けたい。
端末がまた小刻みに数度震える。データが送信されてきたらしい。頼んでいた項目を一つ一つ分けて丁寧に。まずは見取り図を開いて、目を通す。
お預けとなった夕飯は一旦蓋をする。携帯食料で我慢しよう。最悪、今夜に食べられなかったら朝食にしてもいいだろうしな。
デスクの横、床に置いていた荷物を開け、詰めていた荷物を全部取り出す。中身のなくなった鞄の底板に伊吹は手を伸ばしていた。
四隅を最極小の金具で固定した二重底。金具を特殊工具を使用して外す。そこには、しっかりと折畳まれた特班の制服と道具の一式が入っていた。その下に本当の底板が存在する。こうして隠し持っておくのは念の為。秘密組織ですからね。
着ていた服をベッドに放り、制服を身に着ける。耳には小型通信機を引っ掛ける。最近は単独任務が多くなっていたせいか、機会があまりなかったな。
部屋の窓を開ける。
通話をしている間に日は落ちて、月明かりと蛍光色が街を彩っていた。ああ、今夜は夜風が涼しいな、この間の熱帯夜とは格別だ。
制服に備え付けられている機能、メモリー繊維に記憶されている迷彩能力を起動する。窓の縁を蹴り、そのまま夜の街、夜の橘花学園へと向かっていった。
評価、感想貰えるとモチベ上がります。
妹キャラって、安定した人気がありますよね(^^)