世間だと『艦娘たちは軍に属する屈強な女傑』、という印象が強いらしい。
確かにそういう一面があることは否定できない(俺の身に危険が起きたときとか凄い剣幕になるし)
とはいえ、彼女たちも人並みにおしゃれに気を遣う乙女である。
その中でもひと一倍、流行に敏感なのは間違いなく
「じゃーん♪ 見て見て提督ぅ♪ これいま流行りのコーデなんだよぉ。どうどう? 似合う~?」
司令室にやってくるなり、そういって俺に私服を見せつける鈴谷。
女性のファッションにはあまり詳しくないので正式名称はわからないが、肩出しのトップスにフワフワとしたミニスカートと、全体的に可憐な印象が強めの服装だ。
普段の快活で軽めな性格の鈴谷とはギャップがあって、もとから高い魅力をさらに引き立てている。
渋谷に遊びにいくJKたちに混ざってもまったく違和感がない艦娘なだけあって、素人目に見てもそのセンスが抜群だとわかる。
「ほらほら、提督ぅ。素直な感想言ってもいいんだよ~? ん~?」
鈴谷本人もその服装のチョイスにはだいぶ自信があるらしい。ヒラヒラとスカートを揺らしながら挑発的な笑みを向けては、なやましいポーズを取ったりしてその魅力を強調してくる。
ふむふむ。素直な感想をご所望か。
なら率直に伝えるとしよう。
「ふ~ん、エッチじゃん」
「うりゃ」
脳天にチョップをされた。
「ないわ~提督~。そのコメントないわ~」
「なんだよ。『素直に言え』って言ったじゃないか」
え? だって肩丸出しなんだぜ?
屈んだときとか、おっぱいの谷間とか丸見えなんだぜ?
白く眩しい太ももとか見放題なんだぜ?
だだでさえドスケベなボディをしている鈴谷がそんな露出の多い格好してるんだぜ?
エッチじゃん。
「……というか、ちょっと露出が多すぎやしないか?」
目の保養としてはたいへん素晴らしいが、そのぶん際どいあまり、まるで娘の身を案じる父親のようなことを言ってしまう。
「ええ~これぐらい普通っしょ。それに、この組み合わせいちおう『清楚系』ってコンセプトなんだから」
なるほど、これがいわゆる『清楚ビッチ』ってやつか。
とか言ったらまたチョップされそうなので口を噤んだ。
「けどな~。街中でそんな格好で出歩いたら、変な男にからまれそうで心配になるっつうか……」
「……ふ~ん、そういう心配してくれるんだ?」
「当たり前だろ」
「そうなんだあ~……えへへ♪」
先ほどとは打って変わって急にご機嫌になる鈴谷。
もみあげをクリクリと弄りながら、意味ありげな流し目を向ける。
「ふふん、だーいじょうぶだよ。どうせ提督以外の男の人には、こういうの見せないし……」
「まあ、確かに鎮守府には俺しか男いないからな。見せようもないよな」
「……」
「けど街に行くときは頼むからもうちょっと大人しめのにしてくれよ? 大事な部下になにかあったら気が気でないからな。提督として」
「……提督のバーカ」
「なんで心配しているのに怒る?」
褒め方といい、心配の仕方といい、JK然とした娘さんのご機嫌の取り方はたいへん難しい。
世のお父さんたちの苦労が忍ばれる。
「はぁ~。おしゃれ下級者の提督にはこの服の良さはわからないかな~」
そう呆れ気味に鈴谷は言う。
むむ、聞き捨てならんな。
「失敬な。俺だってファッションには気を遣うほうだぞ?」
「え~本当かな~?」
当たり前だ。将来、素敵な嫁さんと巡り会うためにも身嗜みには気をつけないといけないからな。
「なんなら、いまから私服に着替えてきてやってもいいぞ」
「え? 提督、その軍服以外に服持ってたの?」
「あるさ普通に。俺をなんだと思ってんだ」
アニメのキャラクターみたいに着た切りスズメじゃねえんだぞ。
「ふ~ん、なら見てみたいかな~。提督の外行きの格好とか見たことなかったし」
「そうだったか?」
そういえば鈴谷が着任する頃には戦況も深刻化していて、休暇を取って出かけるような暇もなかったからな。
「ねえねえ、見せてよ見せてよ♪ 提督のし・ふ・く~♪」
「まあまあ焦るな焦るな。ちょっと着替えてくるから待ってろ」
爛々と目を輝かせる鈴谷の期待に応えるべく私服を取りに向かう。
思えば外行きの服を着るなんて何年ぶりだろう? 一応服屋で気に入ったものは購入していたが、けっきょく多忙のせいですっかり着る機会がなかったからな……。
どれ、せっかくだし、ここは気合いを入れてみるか。
俺は早速、将来の嫁さんとのデートのためにと厳選した勝負服を着込む。ワックスで髪型をしっかり整えてから姿見の前でポーズを取る。
「……ふっ、完璧だぜ」
どこからどう見ても男前。これにときめかない女子はいなかろう。我ながら自分のセンスが恐ろしいぜ。
パーフェクトスタイルに着替えた俺は自信満々に鈴谷のもとへ戻った。
「待たしたな鈴谷! どうだこのファッションは!」
「お帰り~。どれどれ、鈴谷さんが見てあ、げ……」
俺を見るなり鈴谷の笑顔が硬直する。
ふっ、言葉を失うほどに惚れ惚れとしてしまったか。
「ほら、鈴谷。素直な感想を言ってくれてもいいんだぞ?」
答えなんてわかりきっているが、おしゃれ上級者の鈴谷から是非とも率直な意見を聞くとしようじゃないか。
「……さっ……」
「ん? 『さっ』、なんだって?」
わなわなと震えながら何事か呟く鈴谷。
もしかして『さっいこうにカッコイイじゃん提督!』とか? まいったな~そんなに褒めないでくれよ~。
「ださっ! うわ、ださッ! 提督の私服だっっっさ!!」
「……え?」
「ちょっ、待って! 提督それ冗談でしょ!? ふざけて着てるんだよね!? え? マジなの!? ネタとかじゃなくて!? まさかそれカッコイイって思って着てるの!? え!? 嘘でしょ!?」
信じられないものに遭遇したように鈴谷は狼狽している。
「え? す、鈴谷? この服、ダメだった?」
「ダメ以前の問題なんですけど!? なにその組み合わせ!?」
え? ドクロの絵と最高にクールな英文がプリントされたTシャツにテッカテカに光る黒の革ジャンのこと?
「最高の組み合わせだろ?」
「いやいや! 最悪だよ!? オヤジくさい革ジャンもありえないけど柄Tとかもっとありえないから! 『F○ck You』とか『K○ll You』とか意味わかって着てんのソレ!?」
「いや、なんとなく英文ってイカすって思って買ったただけでなにが書かれてるかはチェックしてなかったや。そんなヤバいの書かれてたのか……」
「バカなの!?」
「い、いや、でも高かったんだよコレ?」
「高いとか安いの問題じゃないから! つぅかなんで全体的に黒いの!? なんでズボンまで革製の黒なの!? ブーツまで黒じゃん! まっくろくろすけか!?」
「そ、そんなに俺の服ヤバい?」
「服どころじゃないよ! なにその髪型!? 寝癖!? なんでトゲみたいにツンツン生やしてんの!?」
「いや、ワックスってこう使うんじゃないの?」
「ぜんぜん違うし! ワックスって髪をそうやって逆立てるためのものじゃないから! うわっ、しかも指とか腕になに着けてんの!?」
「え? ドクロのリングと蛇のバンクルに剣のアクセサリーだけど……ワイルドだろ?」
「ダサいよ! いらないから、そんな中二病全開な装飾!」
「え!? じゃあこのサングラスもダメ!?」
「それが一番いらないから! ねえなに!? なにを目指してるの提督!? なにを思ってそんなダメの見本みたいな格好したの!?」
「ダメの、見本……?」
「ヤバっ! もう全体的にヤバっ! ちょっ、やめ! 来ないで! 近づかないで! 周りから知り合いって思われたくない!」
「……そこまで言う?」
悲鳴を上げて涙まで流すほどに?
そんなに俺の服ヤバいの?
え? かっこよくないのコレ?
「ショックだ……自分の上官がこんなにセンスのない人だったなんて……」
そう言いながら『OTL』の姿勢で落ち込む鈴谷。
奇遇だな、俺もいま同じことしたい気持ちだ。
「そうか……俺は、センスがなかったのか……」
俺がカッコイイと信じてきた美学とはいったいなんだったのか!
こんなんじゃ……こんなんじゃ素敵な嫁さんと巡り会うことができないじゃないか!
「諦めるのはまだ早いよ提督!」
「鈴谷?」
鈴谷はガシッと俺の手を包み込み意気込んだ顔を向ける。
「こうなったら鈴谷が提督にファッションのことを教えてあげる!」
「鈴谷!」
「私が提督のことを文明人にしてあげる!」
「鈴谷……」
「安心して! きっと治るから! 絶対に鈴谷が提督を救ってみせるから!」
「そこまでひどいかい? 俺のファッションセンスは?」
「察して!」
「ア、ハイ……」
「がんばろう提督! 鈴谷がついてるからね!?」
ははは、優しいな鈴谷は。嬉し涙で前が見えねえや……。
かくして、おしゃれ下級者の烙印を押された俺は、おしゃれ上級者の鈴谷先生のファッション授業を受けることとなった。
鈴谷先生の授業……なんかエッチな字面だね!(現実逃避)
――――――――――
「いい提督? 洋服にはいろんな種類があるけど、大別すると『キレイめ』と『カジュアル』の二種類しかないの」
「そうなのか?」
「うん。一覧にしたのがこれね」
鈴谷はタブレットに表示された画像を使って説明する。
・キレイめ
ジャケット
シャツ
スラックス
スキニーパンツ
革靴
キャンバスシューズ
主に大人っぽいイメージの服がキレイめ。一方……
・カジュアル
デニムシャツ
パーカー
ワイドパンツ
デニムパンツ
スニーカー
等々、若者が着るようなリラックスしたタイプの服がカジュアル。
ほうほう、こうしてしっかりとジャンル分けされた一覧表があると、なにを選べばいいかわかりやすくていいな。
「なるほどなるほど。となると俺は『キレイめ』の服で固めればいいわけだな?」
もうカジュアル系一色で着飾るほど若々しいとはいえないし、どうせなら大人っぽい服装でダンディな男の印象を作りたい。
「はいブッブブー。提督、さっそくNGでーす」
「え? なんで?」
「いい提督? ファッションってのはね、同じ系統で固めちゃうと逆におしゃれっぽくなくなっちゃうものなの」
「なに!?」
「上も下もキレイめの服装だと堅苦しかったりキザっぽい感じになって、他人の目からだとあまり印象はよくないの」
「そ、そうなのか?」
「逆にカジュアル系一色だと子どもっぽい感じになったり、チャラい感じになっちゃうの」
し、知らなかった。
服って似た系統で固めればおしゃれになると思ってた……。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「簡単だよ。『キレイめ』と『カジュアル』を5:5でバランス良く着込めばいいんだよ。つまりミックスさせちゃうの」
「ミックス?」
「ほら見て、このモデルさんたち、『キレイめ』と『カジュアル』を両方着てるでしょ?」
確かに。
系統の違う服を合わせたところでバランスが悪くなるんじゃないかと思っていたが、モデルの彼らは見事にそれらを着こなし、非常におしゃれな印象を与えていた。
「ちなみにさっきの提督みたいに黒色の服ばっかり選ぶのはオススメしないな。無難な感じはするけど黒って実は上級者向けの色でね。他の服と組み合わせたりして着こなすの、けっこう難しいんだよ」
なんと!? それは意外だった!
「あとね、装飾品とかそういうのはあまりつけないほうがいいの。むしろシンプルなほうがサッパリしてて印象がいいから」
「え? でもこのチェーンとか気に入ってんだけどな……」
「あのね、そのたったひとつの余計なものでせっかくの服装が台無しになっちゃうの。それぐらい装飾って存在感強烈なの」
「うぅ、そ、そうか……」
「装飾品で気にするならむしろ腕時計とかだね。あとは靴。むしろ、このふたつが一番重要」
「腕時計と靴が一番重要なのか?」
「特に男の人はね。いくら服装は立派でも腕時計が安物だったり、オモチャみたいなのだったり、靴がボロボロで汚かったりすると、一気に女の子の好感度は下がると思っていいよ? 『ああ、そこまで気にかけない適当な人なんだなぁ』って」
「マ、マジか」
男の格式はそういう細かいところで診断されてしまうのか。
肝に銘じよう。
「ついでに細かい点言うなら髪型もそう。清潔に整えてて、伸びっぱなしになっていないようにすること。これはさすがに提督もわかるよね?」
「ま、まあさすがにな……」
そこはもう一般常識だからな。
特に俺の場合は軍人なので散髪は常に心がけなくちゃいけない。伸びてきたらすぐに短めに切るようにしているが……ただひとつ不満を言うなら、世間の男性陣みたく『遊び』ができないのが残念ってことかな。
「最近はフワフワって感じに自然な流れにした髪型が流行りだけど……でも、鈴谷は提督のその短い髪型も好きだよ? 男らしい感じがして」
「お、そ、そうか?」
「うん♪ 提督はその髪型が一番似合ってる♪」
ここにきて初めて鈴谷にお褒めの言葉を貰えた。
おしゃれな美少女にこう直球に褒められるとなんだかめっちゃ嬉しいものだな。
「でも……ひとつ難点を言うなら眉毛をちゃんと整えたら、もっといいのにな、ってことかな」
「え!? 眉毛も整えるもんなの!? 女の人だけじゃなくて男も!?」
「うん、いまどきは男の人も眉毛には気を遣うよ? なにしろ異性に一番最初に見られるのは顔だからね」
い、言われてみればそうだな。
でも、まさか眉毛にまで気を遣わないといけないとは……。
「美容室とかに行けば髪だけじゃなくて眉毛もきれいにカットしてくれるけど、最近じゃ男性向けの眉毛専門サロンもあるんだよ? お願いすればちゃんと店員さんがやり方を指導してくれるし。ほら、眉毛なんてすぐに生えてくるから定期的に通ってたらすごいお金かかっちゃうでしょ?」
「まあ、そうだな……」
「それが面倒で疎かにしちゃう人が多いけど……でもそういう細かいところも整えてないと『おしゃれな人』とは思われないんだからね」
「なんというか、おしゃれって大変だな……」
「そらそうだよ! 自分を素敵に見せるには凄い努力が必要なんだから! みんな時間かけてお金かけて自分の魅力を磨いてるんだよ!?」
ものすごい気迫で鈴谷は言う。
「ファッション誌とか読んでると、みんな浮かれてるって言うけどさ……でもあれは『世の中の人がもっと魅力的になりますように』ってコンセプトで作られたものなんだよ? 流行のファッションだってその手の業界の人たちが必死に考えて『これだ!』って導き出したものなんだから。『流行りに頼ってて頭空っぽだ』なんて言う奴もいるけど、そうやって服飾関係たちの人たちが頑張って築き上げたものをバカにする奴が一番非常識なんだから! 一生モテないんだから!」
鈴谷の言葉から、いかに普段からおしゃれに気を遣って、それらに関わる業界の人々に敬意を表しているかがよく伝わってくる。
うん……確かにこの話を聞いたあとだと、さっきの俺の鈴谷の服装へのコメントも、ファッション業界を侮辱するような俺の格好も、実にひどかったことがわかる。
「なんか、悪かった。いろいろ無神経なこと言って……」
「やっとわかってくれた?」
「ああ、ファッションも礼儀作法のひとつなんだなって思わされたわ」
「うむうむ。わかればよろしい♪」
俺の言葉に鈴谷は満面の笑みを浮かべた。
「それじゃ講義が済んだところで、さっそく提督のイメチェン始めてみよっか! 鈴谷さんがしっかりコーディネートしてあげるね♪」
「おう、頼む。悪いな、なにからなにまで」
「いいっていいって。だってさ……」
もじもじと髪を弄りながら鈴谷は赤くなった顔を向ける。
「提督にはさ、いつまでも、かっこよくいてほしいし……」
「鈴谷……」
「提督……」
「そうだな! 上官がちゃんと身嗜みを整えてないとお前たちに恥をかかせてしまうからな! そういうわけだから、かっこよくコーディネートしてくれよ鈴谷先生!」
「……提督はおしゃれしてもモテないかもね……」
「なんで!?」
――――――――
そんなこんなで、改めて鈴谷に私服を物色してもらうこととなった。
「な~んだ提督、けっこう流行りの服持ってんじゃーん」
「おう、ずいぶん前に艦娘たちと街に出かけたときに服屋で『お願いしますからそっちよりもこっちを選んでください! というかもう買ってあげますから!』って押しつけられる感じに渡されたものだ」
「なんとなーく、その場の状況が手に取るようにわかるわ……」
思えばあの時点から俺のセンスは壊滅的と艦娘たちに思われていたわけか……。
「……で、提督? その一緒に出かけた艦娘って誰のこと?」
え? なんか鈴谷の目がめっちゃ怖い……。
今度一緒に出かけるという約束をしたことで機嫌を直した鈴谷は、『これがベストかな?』と言ってシンプルな組み合わせを選んでくれた。
ついでに眉毛も整えてもらい、ワックスの正しい使い方を教えてもらった。
すべての行程を終えて、姿見の前に立ってみる。
そこには、まるで別人の俺がいた。
「お、おう!? これが俺か!?」
さっき見たモデルの男たちと似たような格好を着込んだだけなのに、まるで印象が違う。
生まれ変わったような気分とはまさにこのことを言うのだろう。
いかに俺がパーフェクトファッションだと思い込んでいたあの格好が最悪のゴミだったかが、いまならよくわかる(涙目)
「ありがとう鈴谷! これなら外に出ても恥ずかしくないぜ!」
見事なコーディネートをしてくれた鈴谷に熱い礼を述べる俺だったが……
「……あ、うん」
鈴谷は心ここにあらずな感じで呆然としていた。
まるで高熱が出たかのようにボケっとした顔で頬を紅潮させている。
「どうした鈴谷? もしかして、想像してたよりも似合ってなかったか?」
「え? う、ううん! そ、そんなことない! めっちゃ似合ってるし! 想像してたよりも、似合って、か、かっこ……いから、あう……」
なんだ?
せっかく鈴谷のおかげで前よりもいい男になれたのに、肝心な功労者が目を逸らしてしまっている。
もっとコメントとかほしいのだが……
「まあ、いいか。じゃあ他の艦娘たちにも見せに行くかなっと」
「え?」
「せっかくだからな。もっとたくさんコメント貰って次のおしゃれに活かしてみるよ。ありがとな、鈴谷」
改めて礼を言って司令室を出ようとすると……
「ダ、ダメーーー!!」
「ぬう!?」
いきなり背後から鈴谷に抱きしめられた!
必然的に背中にむにゅううううんと密着する鈴谷の特大JK風おっぱい!
でっか! 柔らか! あのサラトガさんにも勝るとも劣らぬ爆乳サイズ! 重巡のくせになんてものを持ってやがる!
……じゃなくて!
「な、なにすんだ鈴谷! 離せよ!」
「ダメ! 絶対に行かせない! いまの提督を他の艦娘に見せたら絶対にヤバいから!」
「なにがヤバいんだよ!?」
「提督がパパになっちゃう!」
「なぜに!?」
わけのわからないことを言う鈴谷とモミクチャともつれ合う。
背中でも文字通りモミクチャとボヨンムニョンともつれ合う!
このままでは俺の理性が!
「なんなんだよ鈴谷! せっかくコーディネートしてくれたんだから他の艦娘に見てもらおうぜ!?」
「絶対にダメ! 絶対に見せない! 鈴谷だけ! いまの提督は、鈴谷しか見ちゃダメなの!」
「だから、なん、でっ」
「あ~もう! 察してよこの鈍感~!」
「うわっ!」
激しくもつれ合うことで足下のバランスを崩し、そのまま床に倒れる。
「イテテ……あのな鈴谷、お前いい加減に……っ!?」
気づけば俺は鈴谷に押し倒されるような態勢になっていた。
緊張した面持ちで、しかし覚悟を決めたような真っ赤な顔で、鈴谷はこちらに熱い視線を注ぐ。
「……ダメだもん。他の艦娘には見せないもん。鈴谷が……鈴谷だけが独り占めしちゃうんだから」
荒い吐息をこぼしながら、鈴谷が間近に迫ってくる。
露出の少ない服から見える白い胸の谷間が、身動きするたびに蠱惑的に波打つ。
短いスカートは倒れた拍子で捲れてしまったようで、ミントグリーンのショーツがうっすらと見えている。
そんなことも気にかけず、鈴谷は目の前のことにしか眼中にしかないかのように身を寄せてくる。
「ねえ、提督……」
甘くからみつく蜜のような声色で鈴谷は囁く。
「あのさ……このまま女の子のことも教えてあげよっか?」
扇情的にカラダを震わせながら、鈴谷は妖しい笑みを浮かべる。
「いいよ? 鈴谷のこと、本当の恋人みたいに思って、好きなことしても……」
淫らな雌としての毒と、初心で可憐な少女の甘みをない交ぜにしたかのような艶を放つ鈴谷。
心許ない衣服は、いよいよ乱れ、見えてはいけないものまでが果実の皮を剥くようにまろび出ようとしていた。
「提督。鈴谷と一緒に、もっともっと……お勉強しよ?」
視界いっぱいに、鈴谷のあどけなくも美しい顔で満たされ……
ようとした間近で、グイッと鈴谷の肩を押して一緒に起き上がる。
「いやいや、いくらなんでも、そこまでは面倒見て貰うわけにはいかないよ鈴谷さん」
「……は?」
「お前が意外と気遣いのできる優しいやつなのは充分承知だが、でも嫁入り前の娘がそんなこと言っちゃいかんよ」
やはり鈴谷も過保護になってしまっているようだな。
おしゃれの仕方を教えてもらったことは素直に感謝するが……でもだからって恋人の練習までしてもらうわけにはいかない。
鈴谷の優しさにつけ込んでそんなことをしたら、男が廃るってもんだ。
「気を遣わせてすまなかったな鈴谷。確かにお前の目から見れば、さっきまでおしゃれ下級者だった俺にちゃんと恋人ができるか不安なのも頷ける……だが心配は無用だ! 今日教わったことをきっかけに俺は立派なおしゃれ上級者となってモテモテになってみせ……」
「提督の唐変木うぅぅぅぅ!!」
「なぜにいいいい!?」
涙目になった鈴谷の本日最大威力のチョップの音が司令室に響き渡った。
――――――――
後日……
「はい次! 女の子がデート中に『お腹すいたね』って言いました! 提督はどうする!?」
「えーと、行きつけのラーメン屋に行く!」
「はい失格! デート中の女の子は本当にお腹がすいてても男の前ではガツガツ食べてるところを見せたくないものなの! そこは気を遣っておしゃれなカフェに行って控えめにサンドイッチとか食べるの! つうかラーメン屋とかマジありえない! 提督マジでセンスなし!」
「わかんねえよ! だったら最初からカフェに行きたいって言えばいいじゃん!」
「いい男は女の子が口にしなくても真意を汲み取ってあげるものなの!」
「そ、そんな無茶な……」
「ぐずぐず言わない! 女心がわからない提督は鈴谷がみっちり教育してあげるんだから!」
あれからずっとなぜか機嫌が直らない鈴谷は、こうして俺に『女心をマスターするためのレクチャー』をしてくる。
全問正解できるようになるまで絶対に許さないつもりらしい。まるで教育ママである。
とほほ。これもひとつの過保護の形なのでしょうか……。
「ほらボケっとしない! もう~ぜ~ったいぜ~ったい鈴谷の気持ちに気づくまで許してあげないんだから~!」
ファッションといい、女の子のことといい、モテるって本当にたいへんな努力が必要らしい。
天国のお父さん、お母さん。俺、無事に素敵な嫁さん見つけられるのかな?
久方ぶりに駆逐艦以外の艦娘の登場でした。
前回はアンケートにご協力していただき誠にありがとうございました。
統計によると鳳翔さんや長門や暁ちゃんが多かったので何とか登場させたいですね。榛名と瑞鶴も根強いですが。
ただ高雄と愛宕だとどうしても『自主規制』な内容になってしまって正直困っております。
なんて危険な姉妹なんだ()
今回もお読み頂きありがとうございます!