俺はとうとう夢を叶えた、小さい頃から夢見てたハンターになったんだ!
昔、俺のことをリオレウスから助けてくれたあの人に憧れて、当時9歳だった俺は必死に努力した。
–––正直、めちゃくちゃカッコ良かったから!
あの人と肩を並べられたら、どんなに素晴らしいことだろうと俺は必死になってハンターになるため、運動だけじゃなくて苦手だった勉強も必死になって頑張った!
そして、俺は15歳で新人のハンターとして迎えられることになった。
使う武器はあの人と同じ片手剣。
武器を出しながらでも素早く動けるし盾で防御をすることもできる。
ヒットアンドアウェイが基本スタイルのこの武器は正直俺にぴったりだった。 実際にとても使い易いし、体に馴染んでいるのがよくわかる!
モンスターを次々と斬る、時には敵わなくて逃げ出すこともあるけど、俺のハンターライフはとても充実している! 今がめっちゃ楽しい!
俺がハンターデビューをして一年、苦労の末にイャンクックの討伐に成功し、俺はあの人にまた一歩近づいた気がした。
受付嬢の姉ちゃんとも上手いことやれてる! 今度上位に上がれたら告白するつもりでいる! 先輩達からも絡まれるけど、それはそれで楽しい!
そんなある日のことだった。
あの人と出会った森丘での依頼を受けた時、飛竜の卵の運搬をしているときに大空から奴は現れた。
リオレウス。
かつての俺が手も足も出ず、あの人に助けられたからこそで逃げることのできた宿敵。
恐らく、俺の持つ飛竜の卵を追いかけてやってきたのだろう。
まさか、こんなところで出くわすなんて思ってもみなかった。 思えば、俺はこいつを倒してあの人に追いつくためにハンターになったようなもの。
大空を旋回し、悠々とした様子でこちらに目をつけて着地点を見定めているようにも見える。 依頼はあくまでも飛竜の卵の運搬だが、ハンターとして、俺個人としても狩っておきたいモンスターである。
一年半ハンターをやってきて様々なモンスターの討伐のノウハウは先輩達から教わってきたし、イャンクックだって一人で倒すことができた。
飛竜の卵はまた後で取りに行けばいい、むしろこうやって狙われてる状況で運搬するというのもおかしな話である。 イャンクックよりも一回り大きなその体がゆっくりと地面に近づき、羽音がこちらにまで響いてくる。
–––イャンクックと同じ火を吐くモンスター、ならば行動パターンや属性も似てくるもの!
–––勝機はある!
ニヒルな笑みを浮かべながら、飛竜の卵を投げ捨て、愛用の片手剣であるスネークバイト改の刃を抜く。
こいつを倒して、こいつの死体を持って帰ったら、俺はもう英雄なんじゃないのか? ヒーローになれるんじゃないのか?
予定も早めて、受付嬢の姉ちゃんにも告白しよう! 絶対に首を縦に振ってくれるはずだ!
刃を抜いたと同時に空を飛ぶリオレウスの着地点目掛けて全力でダッシュをする。
先手必勝、ワクワクとドキドキが俺を興奮させスネークバイト改を一振りリオレウスの左脚目掛けて斬りつける。
弾かれない!
そのことに俺は歓喜し、一振り、二振りとリオレウスが声を上げるまで斬り続けた。
–––グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ....
(耳、が...ッ!!?)
噂には聞いていたが、ここまでの咆哮とは思いもせず俺は思わず耳を塞いでしまう。
ピリピリと大気が震えるほどの咆哮は周囲のアプトノスが走って逃げ去ろうとしてるところで転んでしまうほどの威力を誇っていた。
でも、こっからが俺の反撃だ! そこから態勢を立て直し、閃光玉を投げてから反撃の姿勢を取ろうとしたところで正面から大きな炎の玉が俺に向けて飛んできた。
「え?」
–––ボゥッッッ!! と俺に直撃した火の玉はバトルシリーズで揃えた防具の防御の薄い部分から轟々と燃え上がる炎が全身をゆっくりと侵食してくる。
–––イャンクックの炎の比じゃない!
イャンクックの炎を受けても耐えれたから大丈夫、なんて数秒前の自分を殴ってやりたくなった。
閃光玉を投げる余裕などもちろんなく、全身がメラメラと燃え、敵の姿もまともに確認できず、俺は無様に転げまわる。
転げ回った先にはリオレウスが俺が斬った左脚を振りかぶった状態でこちらに向かってきていた。 否、違う!
リオレウスは俺に攻撃しようとしてるんじゃない、リオレウスは自分のルートにある障害物をただ蹴り飛ばそうとしてるだけなんだッッッ!!
–––俺は、相手にもされてない? リオレウスにとって、俺は石ころも同然.....?
そう認識した瞬間、俺の体は勢いよく後方に吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた後のことはよく覚えてない、ただリオレウスの俊敏な動きは俺に回復薬を飲む暇も与えてくれない、尾による薙ぎ払いで右腕は折れ、全身火傷の上からさらに炎を浴びせられる。
極め付けには全身を両足で抑えられ、リオレウスの牙が兜を割り、左腕は勢いよく噛みちぎられた。
成す術もなく、リオレウスに俺は思うように全身を踏みつけられ声を発することも許されず肉体と共に精神までもがボロボロになっていく。
今まで積み上げてきたものが、今まで自信を持ってきたものがボロボロと音を立てて崩れていく音が耳に響き渡る。
–––声にならない叫び声が響く。
(何が、あの人を超える、だ!! 何が、期待のルーキーだ!!)
俺は命のやり取りを何も理解していなかった!! 情けない、不甲斐ない、本当に心の底から情けなくて涙が出てくる!!
涙と一緒に全身から血が流れる、鎧を着ていたせいで鎧の破片が肉に食い込み余計な痛みが全身を走るようにして襲う。 痛い!
ハンターはたしかにモンスターを狩る職業だ、しかし、それは同時に俺達ハンターもモンスターに狩られる立場にあるということを俺は理解したつもりでいただけだった! 痛いッ!!
痛い、熱い、重い、痛い、熱い、重い、苦しい、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い–––
–––死に、たくない!
そう、思ったときにはもう俺の意識はなかった。
最後に願った死にたくないという思いはリオレウスが俺の頭をぐちゃり、という音と共に喰いちぎったことで儚く消え二度と叶うことはなくなった。
なんで、俺が自分の頭を喰いちぎられたことがわかるかって?
第六感、って奴なのかも知れない。 もしくは予知夢に近いものを死ぬ間際に見たんだ、俺の頭がリオレウスに喰いちぎられる瞬間のビジョンを。
これが自然界の掟、弱肉強食の世界。
俺がそれを初めて身をもって知ったのは皮肉にも圧倒的な強者の腹の中でのことだった。
–––憧れの先にあるもの。
–––それは理不尽なほどの絶対的な力という名の現実だった。