apoの後のモードレッドとsn後のアルトリアが会ったら、どんな会話をするのだろう、という想像から書いた短編です。
時系列的には5章と6章の間くらいを想定しています。
それでもよろしければ是非是非。
浮遊するような落下するような、矛盾した感覚を抱きながらゆっくりと目を開ける。
シュインとコフィンの扉がスライドすると、ぐだ男の目には見慣れた景色が映る。
赤く燃えた巨大な地球儀。
藍と黒で縁取られた幾何学模様の壁。
ここはカルデアのレイシフト場だ。
何となく視線を管制室の方に向けると、ガラス越しにロマ二・アーキマンが笑顔で手を振ってくるのが見えた。
『ご苦労様ぐだ男くん、マシュ。それとサーヴァントの皆さん。きょうの演習はこれで終了だ、後はそれぞれ休んでくれ。』
狭いコフィンから這いだし、マイク越しにロマンの朗らかな声を聞くと、ホッと一息安堵の息が漏れる。
「先輩!演習お疲れ様でした。」
同じく、コフィンから出てきたマシュが鎧姿もそのままに、笑顔でパタパタとぐだ男の元まで走りよってきた。
「あぁお疲れ様、マシュ。今日の演習も絶好調だったね。」
「はい!先輩のお陰でマシュ・キリエライト、最近の演習ではミスも無くなりました。」
ぐだ男の言葉にイキイキと言葉を返してくる健気な後輩に、思わず頭をガシガシしてしまいたくなるのをぐっと堪え、ぐだ男もやわらかな笑みを返す。
知らずのうちにふたりでそんな幸せ空間を構築してる所に、差し込んでくる声があった。
「お疲れ様ですマスター、マシュ。えぇ、最近の貴方の指示は精度が上がってきている。マシュと共に、マスターも大きな成長を遂げているようだ。」
やってきたのはブリテンの誉れも高き騎士の王、アルトリアだ。
今日の演習は、アルトリアを始めとした剣の英霊達との演習だったのだ。
「アルトリアもお疲れ様。そっか、やっぱりアルトリアに褒めてもらえる自身がつくな。英霊達に俺なんかが指示を出すなんて、最初は思ってたんだけど…」
ぐだ男がそう言うと、アルトリアはやや呆れた顔で、自身の腰に手を置いて言葉を遮る。
「まだそんな事を言うのですか。貴方は最初から自分に力量が足りないと理解しながら、自分にできる全力を尽くしてきた。その事を卑下する英霊など一人も居ないと言ったでしょうに」
ぐだ男はあははと苦笑いしながら、しまった、どうやらアルトリアはお説教モードに入ってしまったらしいぞ、と自分の無遠慮な言葉を後悔する。このままここで話こむのもあまり良くないだろうと、話を打ち切ることにした。
「そうだ、マシュもアルトリアもこの後マイルームでお茶にしない?実は…」
とぐだ男が言いかけたその時、再び別な声が会話を遮ってきた。
「父上っ!」
声の主は言うまでも無いだろう。今日の演習に参加していたモードレッドだった。
モードレッドは、言葉を掛けたもののどう続けたらいいか分からないらしく、睨みつけるような、それでいて叱られている子供の様な表情をしていた。
「えっと、その…あの…」
言い淀むモードレッドに、アルトリアは先ほどとは打って変わって無表情で言葉を返す。
「モードレッド卿か。槍の種火演習ご苦労だった。剣の英霊の中で全体宝具を持つのは、カルデア内では私と卿のみだ。その宝具はマスターにとって大きな助けとなろう」
「いや…そうじゃなくて…!」
「他に何か?」
明らかに何か言いたそうにしているモードレッドに、アルトリアはあくまで事務的に言葉を返す。
「…っ!いえ、王からのお言葉、ありがたく拝領致します!」
「そうか、では戻って休むがいい。明日からもマスターの力となれるようにな」
アルトリアの言葉に、モードレッドはギリッとぐだ男の所まで聴こえる程の歯ぎしりをして、堪えるようにして1人でレイシフト場を出て行った。
困惑して何も言えないぐだ男とマシュの隣で、アルトリアはあくまで無表情でモードレッドの後ろ姿を見つめている。
「アルトリア?」
恐る恐ると言った感じで声を掛けるぐだ男に、アルトリアはふっと緊張を解く。
「…いえ、マスター。申し訳無いのですが今は少し気分が優れない。お茶はまた今度誘って欲しい」
そしてそう言うと、アルトリアも返事を待たず1人でレイシフト場から出て行った。
「先輩…」
後に残されたのは、何とも気まずい空気の二人だけである。
*
数日後、
ぐだ男がマイルームで紅茶を準備しつつ人を待っていると、やがて扉をノックする音が聞こえた。
ぐだ男がどうぞー、と声をかけると電子扉が音もなく開き、アルトリアが入って来た。
…鎧姿でマントを羽織る完全武装である。
「マスター、部屋を尋ねるようにと言われて来ました。一体どの様な要件でしょうか」
「あ、ああいや、そんなキチンとした事じゃ無いんだ。ただアルトリアとお茶をしようとしただけだよ」
「は、お茶を?」
アルトリアが呆気に取られたようにぐだ男を見て、次いでその視線がテーブルへと向けられる。
そこにはティーポットと、空のティーカップが2対。そして中央には色取り取りな洋菓子が置かれている。
「うん、だからそんなに鎧を着込まないで、もっと気楽にして」
慌てるように言うぐだ男に、アルトリアもとりあえず魔力で編まれた鎧を消すことにする。
「さあさ、座って座って。」
「…しかしマスター。もし私と二人で話をしようと言うなら、私にお茶菓子は必要ありません。ここの英霊たちは既に、充分な魔力を施設から貰っています。食事による魔力供給は必要無いのです」
お茶の席に着きながらも苦言を呈するアルトリアに、ぐだ男は苦笑いをしながらも言葉を返す。
「うん、まあアルトリアならそう言うと思ったけどね。でもそう固い事言わないで楽しもうよ、普段のお礼も兼ねてるんだから。それに今日はエミヤご謹製の洋菓子もあるよ」
エミヤと言う言葉を聞いて、アルトリアは少し目の色を変える。
「ほ、ほう。彼の作ったお菓子であれば、さぞ味は素晴らしいでしょう。しかし彼は洋菓子まで網羅していたのですか」
「うん、ナーサリー達にねだられたらしくてね、最近手をつけ始めたんだって。私の本領では無いのだがね、なんて顰めっ面をしながら楽しそうに作ってるよ」
アルトリアはあくまで冷静な風を装っているが、それでもチラチラとお菓子の方に視線が行ってるのを、ぐだ男は見逃さなかった。
ぐだ男は自然な仕草で、ティーポットの紅茶をアルトリアのカップに注ぐ。次いで受け皿に適当に洋菓子を並べると、アルトリアの前に置いた。
それを受けたアルトリアは少しだけ悩むような顔をしていたが、やがて諦めたようにふうっと息を吐く。
「仕方ありませんね。彼に菓子を用意して貰ってマスターにお茶を注がせたのであれば、無碍にはできません。ありがたく頂きましょう」
ぐだ男はニッコリと微笑む。
アルトリアがエミヤの料理を口にする時、彼女が口元を柔らかく綻ばせる事を、彼は知っているのだ。
その後二人は、紅茶と洋菓子に舌鼓を打ちつつ
、たわいの無い話をした。
エミヤの作った洋菓子を褒め称え、ロマンの気苦労に着いて話し合い、他のサーヴァントの馬鹿な話題に微笑んだ。
そうしてティーポットの中の紅茶が無くなった頃合いに、ぐだ男は本題に入る事にした。
「…モードレッドの、ことなんだけどさ」
「やはりその話題でしたか」
カップに口をつけていたアルトリアは、冷静にカップを机の上に置くと苦笑いを浮かべる。
「この前は、マスターやマシュに気まずい思いをさせてしまいました。申し訳ないです」
「やっぱり恨んでるの?」
ぐだ男の質問はあまりも愚かしいものだったろう。
なにせ、自分が大切に守ってきた国を滅ぼした最大の要因だ。本来ならばその場で斬りかかったとしてもおかしくないはずだ。
しかしアルトリアは、穏やかな声で「いいえ」と言った。
「確かにモードレッドの行いは許される物では無いのでしょう。ですがあれは同時に、国民達の真意でもあった。
例え彼女が叛逆をしなかったとしても、結末は同じだったのです。
国が滅びた最大の要因は、民たちの悲鳴を聞けなかった私にあった」
「…そっか」
アルトリアの言葉に、ぐだ男は頷くことしか出来ない。結局のところ国を一つ背負ったことのないぐだ男には、それを批評する事など出来ないからだ。
アルトリアを王としてではなく、一人の女性として見る事が出来ればまた別なのだろうが、それはまた別の者の役割である。
とにかく今は、アルトリアはモードレッドを恨んでいない、ということが分かれば充分なのだ。
「…じゃあ、モードレッドと仲良くする事は出来ない…かな?モードレッドが我が王憎しだけで声を掛けてるわけじゃ無いのは、アルトリアも気づいているだろう」
「そうですね、それは…」
珍しく、アルトリアも言い淀む。
やはり少なからずアルトリアは憎々しく思っているのだろうかと、懸念したぐだ男だったが、アルトリアは慌てて否定する。
「いえ、そう言うことでは無いのです。私にはモードレッド卿に対して恨みはない、それは確かです。
しかし、そのですね…モードレッド卿は実は私のホムンクルス、言わば私の遺伝子を引き継いだ子どもの様な者では無いですか。」
うん、とぐだ男は相槌をうつ。
「つまり、私の娘の様なものに当たるわけです…ですから…」
ですから、とぐだ男は先を促す。
ぐだ男にしてみればこの様に恥ずかしそうに頬をそめるアルトリアを見るのは、初めてのことだった。
「…どう接すれば良いか、わからないでは無いですか」
消え入る様な小さな声で、ボソリと呟くアルトリア。
その顔を見た瞬間、ぐだ男の胸に何かがサクリと音を立てて刺さった。
「……」
「マスター、どうされたのですか?何も言わず無言で右手を掲げて」
「令呪を持って命じる。アルトリアとモードレッドは、仲直りをするまでこの部屋を出ないこと!」
「ま、マスター!?」
*
数分後、バタバタとぐだ男の自室に走ってくる影があった。
「おい、マスター!なんか令呪に引っ張られてここまで来たんだが!?」
扉を開けて、慌てた様子でモードレッドが入ってくる。
先ほどの令呪によってここまで引っ張られて来たのだ。
モードレッドはキョロキョロと辺りを見回し、ぐだ男がいない事とアルトリアがいる事に気づくと、少しバツの悪そうな顔をする。
「ち、父上…あいつは?」
「マスターは出て行った。これは私とモードレッド卿が仲良くできるようにと、マスターからのはからいだ」
「チッ…あの野郎、余計な事をしやがって…」
モードレッドは忌々しそうに舌打ちして部屋を出て行こうとするが、アルトリアはそれを呼び止める。
「待て、モードレッド卿。貴様にも令呪が働いているだろう」
「あぁ?この程度の拘束、俺と父上の対魔力でどうとでもなるだろうがよ」
モードレッドの言葉に、アルトリアはゆるゆると首を振る。
「それでも、だ。マスターの気持ちを無碍にするものではない、ここに座れ…いえ、違いますね。
こうではない、こうではないのです。ここに座りなさい、モードレッド」
アルトリアは意識をして柔らかな口調に変える。
その口調に面食らったモードレッドは、少し悩んだ末にチッと舌打ちを一つして、アルトリアの対面の席にどかりと腰掛けた。
顔はそっぽを向いていたし、それは座るというよりは文字通り腰掛けるといったおざなりさではあったが、ともかくモードレッドはアルトリアと対面する事となったのだ。
「……」
「……」
どちらも言葉を交わす事なく、気まずい空気が場を支配する。
「…なんか話さないのかよ?」
たまらず、声を掛けるモードレッドであったが、なにを話していいのかわからないのはアルトリアも同じ事であった。
「卿こそ、何か話す事があったのではないか?
何度か私に声を掛けてきただろう」
「なにも話すことなんかねえよ。ただ俺は、あんたを見た時に、声を掛けられずにいられなかっただけだ」
「用もないのに声をかけてきたのか卿は?」
不思議そうな顔で首を傾げるアルトリアに、モードレッドはチッと舌打ちをして、渋面を深くする。
「……悪いかよ、何も考えてなくて。自分でもよくわかんないんだ。そういう父上こそ、俺には何か文句の一つでも言いたいんじゃないのか?」
「いや、今更卿を憎む事はない。あれは国民の総意だった」
「…あ?」
アルトリアの悟ったような言葉に、モードレッドは驚かされたようにアルトリアの方を見る。
アルトリアは、そうした彼女の様子に気づく事は無く、自身を省みるように、言葉を続ける。
「そうあれは、あの最期は、私が王として戦うことを決めた時から決まっていたのだ。民は、人は決して強くない。
正しさと合理性だけを求め続ければ、人はいずれ付いていけなくなる。
そんな当たり前の事さえ、人の心がわからぬ王には理解できなかったのだ、だから…」
「…っんだ、それふざけんな!!!」
尚も自嘲的に言葉を重ねるアルトリアに、モードレッドは反射的に叫んでいた。
先までのてらいも忘れて、テーブルに自身の拳を叩きつけ、ただ抑えられない衝動のままに、叛逆の騎士は王を鋭く睨んでいた。
モードレッドは、今のアルトリアの言葉が腹立たしくてしょうがなかったのだ。
「モードレッド…?」
自分がなぜ怒鳴りつけられたか理解出来ないアルトリアは、呆然とした様子でモードレッドを見つめる。
「あんたが王となったから、滅びは決まっていたと!?国民は正しさに付いていけないから父上の過失だと!?
ふざけんな!違う、それは違う!あんただけは、王だけはそれを言っちゃならねえだろうが!」
「……」
モードレッドは自身が何を言っているのかよくわかっていない。
ただ衝動のままに言葉が出てきていたし、この話がどこに着地しようとしているのかも判然としていない。だが、この衝動こそが、自分がアルトリアに声を掛け続けずにはいられなかった、気持ちの源泉であると確信していた。
「あんたが、貴方が王として正しくいてくれたからこそ、俺たちは戦えた!
誰よりも合理的にブリテンを導いてくれたからこそ、あの国はあそこまであれた!
それを貴方が…よりによって貴方が否定するのか!?それだけはしちゃならねえだろうが!」
気づけば、モードレッドは叫びながらボロボロと涙を零していた。
だがそれでも、この言葉を止めずにはいられなかった。
「じゃねえと、貴方に付いて行った馬鹿どもが報われない。だから、頼む、貴方にだけはそんな事を言わないで欲しい。
あの国を…貴方の守りたかった物を、最期に破滅に追い込んだのは…」
そう、ここが気持ちの源泉。
モードレッドはここに至って自身の心を理解した。
自分はなぜすげなくされても、性懲りも無く父上に声を掛け続けたのかといえば、それは-
「…俺だ。俺が、貴方が大切にしていた路傍の石を、踏みにじっちまった」
なんという事はない、それは父の大切なものを台無しにした子供の失意。
既にどうしようもない事への、せめてもの謝罪であった。
「モードレッド卿…」
えづく様にして絞り出したモードレッドの言葉に、アルトリアはなんと返したらいいかわからないと言う風に、名前だけを呼ぶ。
「貴方は、王である前に理想があった。人で無くとも、全ての人を尊んだ。
なのにそれを、俺は貴方に認められたい、こちらを見てほしい一心で、全部蔑ろにしちまった…」
その事を貴方に伝えたくて、追い回していたのです。
モードレッドのうなだれた姿が、それを何よりもものがたっていた。
そしてその姿をみて、アルトリアは怒るのでもなく驚くのでもなく、ただ小さく微笑んだ。
「貴女にも、良き出会いがあったのですね」
モードレッドは今まで一度も聞いたことの無いような、アルトリアの優しい声音に、はっと顔を上げる。
「生前のモードレッド卿は、ただ闇雲に王への憧憬があるばかりで、そこに正しさを見出せなかった。だから私は、王として相応しくないと判断した。
でも、今の貴女は違う。王としての理想について悩み、悔やんでいる。それは生前では考えられなかった姿だ。
おそらく英霊となった身で、それを教えてくれる良きパートナーと出会えたのですね」
アルトリアは自身の手を胸に当て、まるで自分の記憶を蘇らせる様に、モードレッドに語る。
「モードレッド卿…いえ、モードレッド。今更だが、私と親子になって貰えますか?」
「んな…」
アルトリアの突然の申し出に、モードレッドは言葉が漏れる。
だって今更そんな事を言われたって、どうしろというのだ。
「それは、それは無理だ父上。俺はあんたの子と言っても、所詮は魔術で出来たクローンみたいなものだ。
どこまでいっても所詮ままごと遊びみたいなもので、ただの偽物で…
それに二人とも死んで、英霊になった身でいまさら…」
モードレッドの真っ当な反論に、しかしアルトリアは首をゆるゆると振って否定する。
「いいのですよ。いまさらでも、どこまで言っても偽物であったとしても」
「偽物でも…?」
モードレッドは自分の父の言葉を反芻する。常に正しさを旨としてきたアルトリアからは、到底考えられない言葉であったからだ。
「例え偽物で、いまさら積み重ねた所で意味のない関係だったとしても、そうありたいと願う事自体に意味があるのです。
ここでまた、別の関係を築こうとする事自体に意味がある。
大切なのは、何が正しいか何を成せるかではなく、何を成そうとするかなのですから。
私も夢の果ての泡沫で、ひとりの少年にそう教わったのです」
そう言って優しい笑みを浮かべたまま、アルトリアは自身の手をモードレッドに差し出した。
モードレッドは初めての一歩を踏み出す子鹿の様に、怯えながら、迷いながら、それでも差し出されたアルトリアの手を取ったのだった。
*
(ゔわああぁぁ〜〜、よがっだ、よがっだよ〜〜!)
(せ、先輩、そんな大きな声を出したらお二人に聴こえてしまいます!もっと声を潜めて!)
ぐだ男の自室でぎこちなく手を合わせるモードレッドとアルトリアを、開いた扉の隙間から見つめる二人が居た。
ぐだ男とマシュの二人だ。
モードレッドが入ってきた時に中途半端に開けていた扉の隙間から、ずっと二人の様子をハラハラしながら覗き見していたのだ。
一応の解決をみたアルトリアとモードレッドに、二人はホッと一息吐いて、ひそひそ声で言葉を交わす。
(でも、これで二人も少し関係を回復できるのでしょうか)
(たぶんね。やっぱりここからよくなるか悪くなるかは二人次第じゃないかな)
(たしかに、アルトリアさんに柔らかい態度をとるモードレッドさんというのも、想像しづらいですしね)
(そうだね、僕らは結局影ながら応援する事くらいしか出来ないや。
いやーそれにしても、ひと段落ついたらお腹空いちゃったよ。今日の夕飯はなんだろうね?)
(今日の夕飯はシチューだ。それと、デバガメとは感心しないな、マシュ、マスター)
(やったー、俺エミヤのシチュー大好きー…ってエミヤ!?」
「せ、先輩!声、声が聴こえてしまいます!」
二人でヒソヒソと交わしていた会話に、気づけばエミヤが後ろからしれっと参加していた。
思わず大声を出してしまった二人は、慌てて口を手で塞いで、部屋の中に目を向けるが、部屋の中の二人はまるで気づいた様子がない。
「あれ?今のどう考えても聞こえたよな?」
「二人を驚かせる前に、簡易的に結界を張っておいた。姿は誤魔化せないが、音を全て遮断する。
ここにミサイルが落ちたとて、周囲に音は聞こえないぞ」
「さ、流石です、エミヤ先輩」
二人はエミヤの気配りに思わず感心したが、当のエミヤは気にした風も無くニヒルな意地の悪い笑みを浮かべる。
「なに、難しいものではない、あとでマシュにも教えよう。
…ところで、いくら自分のサーヴァントとはいえ盗み見とはいただけないな、マスター?」
「「うっ」」
マシュとぐだ男はエミヤの指摘に、狼狽する。
「エミヤ、あのひょっとして中の二人に…?」
「いやいや、私もそこまで意地悪ではないさ。だがそうさな、君たちが反省せず、ここから急いで立ち去らないと言うなら…」
「い、言うなら…?」
マシュとぐだ男は二人でゴクリと唾を呑み込む。そして、エミヤはますます笑みを強くする。
「明日から3日間食事は激辛麻婆豆腐のみだ」
「「ご、ごめんなさーい!!」」
二人は、一も二もなくその場から遁走した。
*
やれやれ、と言う風に首をすくめて、エミヤは駆けていく二人を見つめる。
まったく、元気な二人だ。未だに世界は焼却されたままで、その両肩に、多くの人の命が載っているというのに、まるで気負った様子がない。
ぐだ男が元々前向きな性格で、マシュに先輩らしく振る舞おうと意地を張っている部分もあるのだろうが、やはりロマニ・アーキマンを始めとした、スタッフ達によるケアも大きいのだろう。
そこまで考えた所で、エミヤは今考えてもしょうがない事かと、我にかえる。
ふるふると首を振って、そろそろ厨房に戻るかと、気持ちを切り替えた。
そして、そこから去る前に、最後に一度だけ部屋の中を盗み見る。
そこには、ぎこちないながらも会話を試みる、アルトリアとモードレッドの姿がある。
エミヤはその二人に思うことなどない。それは、今の彼にはもう許されないことなのだから。
ただ、暖かな陽の光を見るように、眩しそうに目を細めて、
「 」
と声に出さないつぶやきだけを漏らしたのだった。