”聖王は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の技師を除かなければならぬと決意した。ヴィヴィオには機械工学がわからぬ。ヴィヴィオは、競技選手である。拳を振るい、友と楽しく暮して来た。けれども外道に関しては、人一倍に敏感であった。――中略――ヴィヴィオは激怒した。「イカれた奴だ。(私が)生きてはいけぬ」ヴィヴィオは善良ではあったが、調子の良い少女であった。友を省みることもせずに、一目散に管制室を飛び出して行った ”
アースラの管制室。
エレクが腕部に装着したデバイスでキーボードを弾く小気味良い音が響く。
エレクはモニターを一瞥もせずに作業を続けながらアインハルトに顔を向けて雑談を始める。
「ヴィヴィオの奴がどこにいるか分かる?」
「いえ、私にもわかりません」
「ふぅ~ん。マジで逃げ切るつもりなのかねぇ。あの聖王サマは」
「フラグ回収が早過ぎましたからねぇ。流石に現代、こちらでは未来ですか。未来に帰るまでは安全だと思っていたのでしょうが……」
くるくるとメモリーカードを手の中で器用に回しながら笑う。
「とりあえずルシフェリオンブレイカーとスターライトブレイカーの複合砲撃でも試してみるかなぁ~」
「えぇっ‼それはやり過ぎじゃ……」
「大丈夫。大丈夫。非殺傷だから」
「いや、魔力ダメージは入るんですよ?」
「ブラストカラミティとかも良いかもなぁ~」
ヴィヴィオが襲撃の前夜に買っていたジュースのペットボトルを片手で器用に開けながら傾ける。
「あっ、私にもください」
「エイミィさん、俺らの荷物ってどこにありますか?良ければアインハルトに教えてもらえますか?」
「えっと……」
「お、おいそんな適当で大丈夫なのか?」
流石にそんな態度に不安を感じたのか、クロノが躊躇いがちに口を挟む。
「大丈夫。大丈夫。これぐらい片手でもできるし」
「えぇ。人格はともかく技術だけならエレク先輩は次元世界の技士の中で五本指に入ると思います」
「っと。はい。終わりましたよー」
「……確かに凄いな。三十分掛かってないぞ」
「まあ管理者権限使って操作プログラムを撤去させるだけですからね」
「管理局に欲しいくらいだ」
「やめた方が良いと思いますよ?この人の優秀性は性格と反比例していますから。単純に組織に収まるような人じゃないんです。社会不適合者とも言いますけど」
「うっ、やはりそういう性格かぁ。薄々団体行動とか上下関係は無理だと思ってはいたが…………」
「まぁそうですね。誰かに頭下げて働くなんてごめんです。ユニゾンデバイスだけで組織された部署なら無給でも働きますけどね。いや寧ろお金を払って土下座します」
「残念だがそんな部署はない」
「本当に残念です。でも依託という形なら管理局に力を貸すことも吝かではありませんよ?」
「色々頼みたい気もするがストレスも溜まりそうなのでやめておくよ」
「う~ん、例えそれがシステムU-Dの干渉制御術式の開発でもですか?」
「何っ!?」
「自ら偽装プログラムを上書きすることで闇の書の管制人格にすら存在を知られなかった、永遠結晶エグザミアを中核とする、特定魔導力を無限に生み出し続ける無限連環機構システム。それが砕け得ぬ闇こと、システムU-Dですよね?」
「何故君がそんな事をっ!!」
「愚問ですね。俺らはそのシステムU-Dの制御プログラムである理のマテリアルを撃破しているんですよ?」
「まさかっ……」
「えぇ。彼女を解析しました」
「そんなことが出来るのか?」
「アースラの艦内システムを掌握した技術だけでは不安ですか?」
「ぐっ……」
「まぁまぁ、あれは事故ですからね。これからは共に戦う仲間同士協力していきましょう。俺の給料は無くて良いですし」
「そ、そうか。それは正直ありがたい。協力感謝する」
「ええ、次元世界の平和の為に頑張りましょう」
そう言いながら懐からメモ用紙を取り出し、さらさらと何事か書き込むとクロノに手渡す。
「エレク技師……これは何だ?」
「必要な器材及び、制作部品の見積書ですね」
「えーっと。合計額の桁が七つもあるんだがこれは間違えかな?」
「いえ、間違いはありません。必要経費です。時空管理局のエリート、本局部隊ならそれぐらいの予算申請余裕ですよね?次元世界の危機なんですからそれぐらい出しますよね?」
「………………」
「まあアースラに俺より優れた技師がいるのなら俺の協力は断っても良いですよ?依頼しなくても良いですよ?」
「…できるだけ早く用意しよう…………」
「共に頑張りましょうねっ?」
クロノが管制室が予算案と仕様書を交互に見比べて頭を抱えるのを尻目に、エレクとアインハルトは管制室を離れる。
「凄いですね。あんな時から気づいていたんですか?」
「ん?あぁ、馬鹿か?」
「えっ?何で誉めたのに馬鹿なんて言われるんですか!?」
「いやぁ、俺がマテリアルを襲撃した理由覚えてる?」
「えっと……闇の書改め夜天の書から流失したデータの探索及び解析ですよね?」
「うん。それがシステムU-D、砕け得ぬ闇だ。それで俺がなのはさんのマテリアルであるシュテル・ザ・デストラクターを襲撃したのはその前だぞ?」
「えっ?あ、じゃ、じゃあ何で砕け得ぬ闇の事を知ってるんですかっ!?」
そうアインハルトが驚きながらも疑問を投げると、エレクは取り返した待機モードのデバイスとメモリーカードをポケットから取り出してにやりと笑う。
「うわぁ~」
「うん。アースラ乗組員が経過途中の事件も詳細に記載する働き者で助かったよ」
「それバレたら本気で不味いですよね?」
「アインハルト、これは事故だ。ウイルス除去の過程でたまたま偶然発見したんだ。それをすこーし拝借しただけだ」
「完全に悪党の台詞じゃないですか」
「まっ、俺以外の奴がシステムU-Dの管理プログラムを作れるとは思えんのも事実だ。せめて仕事は誠実にこなすさ」
「また自分ルールで完結してますし……」
「おいおい、自分の身を守れるのは自分だけだぜ。しかもこの時期の管理局は色々と問題があるだろ?ジェイルスカリエッティとか最高評議会とか」
「それはそうですけど………」
「おっ、ちょうど良いや。アインハルトお前も見てけよ」
そう言うとエレクは訓練場の扉を開ける。
「あれ?」
訓練施設の扉を開けるエレクを、アインハルトのアスティオンを通して確認したヴィヴィオは疑問の声をあげる。
ヴィヴィオだって、何もせずにただエレクから逃げたわけではない。
こっそりアインハルトとの通信を繋げて、エレクと相対するようなことになったらなのは達を巻き込んで逃げようと画策していたのである。
そして、リアルタイムでエレクの様子見をしていたからこそこの行動はヴィヴィオを混乱させた。
あの器の小さいことで有名な外道オブ外道のことである。
仕事が終わった後はそれこそソニックムーブを使ってでもあんな台詞で煽った自分を〆にくると思っていただけに、ヴィヴィオはこの不気味な行動に恐怖と疑惑を感じずにはいられなかった。
《みつけた》
ギシリと空気が軋みをあげる。
通信機越しに呟いた一言に呼吸が止まるくらい驚く。
嫌な予感にゆっくり振り替えると見慣れたサーチャーを視認して、背中を冷や汗が伝う。
「これは……?ワイドエリアサーチ…?」
《座標特定、距離算出》
エレクのデバイスが発する言葉が急激にヴィヴィオの脳に幾つかの悪夢を予感させる。
《聖王サマはこんな小細工で俺から逃げおおせるとか本気で思ってたのカナー?避けられるとか思ってたのカナー?》
完璧にヴィヴィオを、正確にはエレクを監視していたアスティオンを見て言う。
「エリアサーチ?ま、まさか…ずっと私を探してた?だ、だけどここは戦艦アースラ……なのはママ達がいるここを襲撃できる人間なんて………」
咄嗟に椅子から立ち上がり、付近に座っているなのは達を確認する。
ヴィヴィオが今いるのはアースラの食堂である。
それこそ未来の英雄達がいるここを容易には襲撃はできまいと自身に言い聞かせるが、
《管理者権限―connect、同期を完了》
《転送》
「転移?まさかそんな馬鹿げたことが………」
《Transporter》
エレクから強奪した、セグウェイにも変形する移動用デバイスが勝手に起動してヴィヴィオの足元に魔方陣を展開する。
「い、いやぁあああぁあぁあぁぁ」
そんな哀れみを誘う悲鳴がアースラの食堂に響いて、ヴィヴィオは処刑場に転送した。
「ようヴィヴィオ。宣言通りつ、ぶ、し、に、き、た、ぜ☆」
訓練施設の唯一の扉を封鎖するように佇む黒い機動鎧。
見るからに痛そうな電気を纏った戦斧を突きつけてヴィヴィオに語る。
「あは、あはははは。いやだぁエレク先輩。後輩の女の子にそんなこと言ってたら誤解されちゃいますよ?」
「言いたいことはそれだけかな?」
「いや、ちょっ、大切なことですよっ!!アースラの人に勘違いされちゃいますって!!」
「それが遺言でいいんだよな?」
「あ、アインハルトさんを解析するのを許可するので許してください」
「ヴィヴィオさんっ!?」
アインハルトが抗議の声をあげるがヴィヴィオには気にする余裕などない。
「うん?記憶継承技術は既に獲得済みだ」
「えっ!?」
「ま、マジですか?」
「痛みのショックで死ぬか、死にたくなるくらい痛め付けるか選ばせてやろう」
「くそっ、まさかエレク先輩が魔法に釣られないなんて!!しょうがないやってやる!ただやられるだけなんて真っ平ごめんだ!!」
そしてヴィヴィオとエレクのバトルの火蓋が切って落とされる。
「ソニック!」
ソニックシューターで牽制しつつ、エレクに突貫する。
狙うはエレクの背後‼
唯一の勝利条件‼
廊下に出れば魔法をぶっ放せないことを見込んだ聡明な策‼
「させるかっ!!九十一式『破軍斬滅』」
戦斧から雷撃を放出して力任せにぶん回す。
「セイクリッドディフェンダー」
ヴィヴィオは人並外れた判断力で即座に回避を諦めて奥の手を切る。
エレクの戦斧がぶつかる瞬間に、接触箇所に防御魔力を集中させ、同時に攻撃魔力で相手の攻撃を弾くヴィヴィオの最強防御。
相手の攻撃の軌道を読み取る優れた眼と、タイミングを読んで瞬時にプロテクションを展開する魔導技術が必要とされる奥の手。
読み違えれば、自分の装甲を自ら削ぎ落として大ダメージを受ける諸刃の刃。
しかし、この局面においてヴィヴィオはそれをほぼ完璧に成し遂げた。
エレクの機動鎧の基礎性能に身体強化を重ね掛けして振るわれた戦斧は雷を放出しながら、ヴィヴィオの展開したセイクリッドディフェンダーにぶつかり表面を滑るように受け流される。
エレクの支援ユニットが存在しない今、斧を受け流してできた隙をヴィヴィオは全力でついていく。
斧を振り抜いて姿勢を崩すエレクを横目に、ジェットステップで横を走り抜けて――
「その程度の手が見抜けないと思ったか?」
――目の前で刀を構える鎧武者を視認する。
「愚かな」
それを見たヴィヴィオは過去最高の速度でセイクリッドディフェンダーを展開するが、最高のタイミングまで待ち伏せをして放った高速の斬撃が防御の上からヴィヴィオを殴打して吹き飛ばす。
「ミカヤの模倣水月を防ぐか………なんちゃってとは言え聖王ということか」
予想外の事態にヴィヴィオは周囲を見渡して、地獄を見た。
前にも、後ろにも、右にも、左にも、地上にも、空中にもエレクがいる。
六人のエレクがそれぞれ武器を構え、包囲していた。
「
「そんな…最悪だ………」
ヴィヴィオが弱々しく呟く。
「悪夢です……」
アインハルトも呆然と同意する。
「泣け!喚け!そして死ぬがいい!」
エレクが叫ぶ。
「「「「「死ぬがいい!!!」」」」」
その叫びにエレクの合唱が続く。
「うわ、きもちわるい」
その発言に呼応するように、各々のエレクがラーニングした魔導の数々を繰り出しながら一斉に迫る。
部屋一杯にエレクの声が響いているのを聞きながらヴィヴィオはそっと意識を手放した。
常に煽って喧嘩を売るのがコロナ
いつもぽろっと溢して制裁されるのがリオ
強かだけどうっかりするのがヴィヴィオ
天然で神回避するのがアインハルト
分身はそれだけ思考リソースつまりマルチタスクを使うのでセクスブレイカーとかはできないよ~遠距離なら支援ユニットを使った方が強いよ~近距離地上戦なら外道強いよ~