死ぬ気で楽して勝ってやる   作:聪明猴子

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最悪の敵

「死ねぇえぇえええぇええええ」

 

エレクが悲鳴のように殺意を叫びながら腕を振るう。

 

殲撃(ガイスト)っ!!」

 

純度100%の殺意を載せた一撃は、自動発動したプロテクションを紙のように引き千切り肩の装甲を抉る。

 

「もう、一発!!」

 

掛け声に呼応して現れた五人の分身が、更にもう一撃を叩き込もうと腕を伸ばすが、マテリアルは装甲を削られたながらも反転して分身を焼き尽くす。

 

「身の程を知らぬ黒歴史め!消え失せろ!」

 

プロテクションで炎の渦から身を守りながらも、自らのマテリアルを睨み付けるエレク。

 

《…………ふふふ、会いたかったぞ、俺!》

 

「俺は会いたくなかったぞ、俺!」

 

《……何故だ?この二年で何があった?》

 

「…………………大人になったらわかるさ。俺の要求はただひとつ。さっさと消えろ。お前も天才なら自分が俺の劣化コピーだってことくらい理解できてんだろ?生体データの欠片、記憶の残滓。消えることが確定している、生物でさえない存在だ。お前の夢は成し遂げられない。故にこの場から消えろ。せめて寿命尽きるまで大人しく過ごせ。襲撃とか、アインハルトみてぇな辻斬りとかすんな」

 

《それはできぬ相談だ。確かに俺は貴様、エレク・クレイヴィルのマテリアルだ!魔力で構成された、極めて不安定な生物とも呼べぬデータだ。しかしそれがどうしたというのだ?偽物だろうが劣化コピーだろうが俺はエレク・クレイヴィル!エレク・クレイヴィルが自分とは言え指図など受けるか?否!断じて否!俺は諦めない!世界を支配するのはこの俺だっ!!》

 

「あぁあぁぁああああ、その口を閉じろぉっ!!」

 

《俺自身が二人、世界を賭けて戦う!これ以上のゲームがあるか?》

 

「世界征服とかするかぁああぁあぁぁあ!!」

 

二年前のエレク・クレイヴィルを再現されたマテリアル。

 

彼の記憶は中等部二年生の時で止まっている。

 

そしてその時のエレクは、世間で言われるところの中二病そのものであった。

 

中二病とは思春期を迎えた頃に罹患することが多い恐ろしきべき病で、形成される自意識と夢見がちな幼児性が混ざり合いおかしな言動をとってしまうというものだ。

 

幾らエレクとは言え、精神は少し外道くらいの少年。

 

打倒管理局とか、世界征服とか考えちゃう年頃だった。

 

《覇道を諦めるとは、二年で堕落したかっ!エレク・クレイヴィル!管理局は正さねばならないっ!管理局が斃された時こそ、世界は再構築されるのだ!あるべき姿に!》

 

「今すぐ楽にしてやるから喋るな」

 

そうしてエレク・クレイヴィル十五年の人生で初めて、敵意100%の戦いが始まった。

 

片や二年も経てば恥ずかしくて身悶えするくらいの夢を叶える為に。

 

片や二年前の恥ずかしい過去をこれ以上人目に触れさせない為に。

 

くだらない理由で戦いの火蓋は切られた。

 

 

 

 

 

《ミサイル発射ぁ》

 

肩部の発射筒が開き、圧縮した魔力を込めたミサイルがばら蒔かれる。

 

ミサイルは発射されると収納していたスラスターを展開し、機動を修正しながらエレクを狙うが――

 

「旋衝破」

 

――エレクは初めに飛来したミサイルを掴み取り、自分に迫るミサイル群に投げ返す。

 

誘爆したミサイル群が生み出した爆炎が、大気を揺らす。

 

「世w界w征w服wとかwww世w界wはw再w構w築wされるwww」

 

「しねぇ!」

 

わざとらしく指を指してエレクを嘲笑っていたヴィヴィオを抱えあげて、煙の中にぶん投げる。

 

《ディバインバスター》

 

「やっべぇ!セイクリッドディフェンダー!」

 

煙で発射まで軌道を隠していたディバインバスターをヴィヴィオガードで防いでいる内にエレクは転移を駆使して回り込む。

 

「覇王――断空拳っ!」

 

《蒼竜炎撃っ!!》

 

覇王の一撃と蒼い炎が激突し、火花を散らす。

 

二年前にルーフェンの辞書を見ながら着けたかっこいい技名がエレクの精神を殴り付ける。

 

脳内を、ノートに書き連ねた幾つもの黒歴史が巡る。

 

《ブラストマグナム!》

 

背面に搭載した砲台が拡散モードのレーザーでエレクを薙ぎ払う。

 

ブラスト(爆風)マグナム(弾薬)も関係ねぇっ!!」

 

高火力のレーザーがプロテクションの上から鎧を炙るが、『ブラストもマグナムも関係ねぇ』というヴィヴィオのツッコミの方がエレクには痛い。

 

六重奏(セクステット)

 

エレクの胸中を焦りが支配する。

 

直ちに、一刻も早く奴を退治しなければいけないと思うのだが無駄に強い。

 

中二病でもエレク・クレイヴィル。

 

この決戦機動兵器はエレクが中二病を拗らせ過ぎて欠陥品にこそなったが、機体性能はトップクラス。

 

SSランクの魔導師に匹敵する魔力を生成する魔力炉に、物理的にも魔法的にも堅牢な機体。

 

痛々しい技名を付けられてはいても、十分な火力を持つ武装。

 

火力からは考えられないほど発射間隔が短い火炎放射機に広範囲殲滅を可能とするミサイル。

 

いかなる敵も粉砕する凄まじい瞬間火力を誇るブラスターも搭載している。

 

『負ける時は死ぬ時だ!』という当時ハマっていたアニメの台詞に感化されて搭載した自爆機能以外は優秀な兵器だ。

 

だから攻め切れない。

 

六人の分身と味方の支援があっても倒し切れない。

 

シャマルとザフィーラの拘束は三十秒も経たずに引きちぎられるし、トーマの魔力分断能力も強力だが物理的に堅牢な装甲板を貫けない。

 

アミタ、キリエのギアーズ姉妹も火力が足りないし、ヴィヴィオはそもそもメイン盾で役割が違う。

 

唯一装甲板を破壊できるエレクが砲撃をぶっぱなそうとしてもブラスタービットがない状態では警戒しているマテリアルに出掛かりを潰される。

 

戦いは、明らかに消耗戦の体を成してしまっていた。

 

そして消耗戦で長引けば長引くほど――

 

――フェニックスフレイム》

 

鳥の形の炎が追尾機能を持って迫る。

 

――ヴォルカニックミサイル》

 

火山とか関係ないけど大質量のミサイルを多重展開して爆撃を行う。

 

――アルティメット・ドラゴニック・バースト》

 

やたら長い名前を付けられた極太レーザーがヴィヴィオ他、数名の腹筋を崩壊させる。

 

「あぁあああぁあぁぁああああぁああ」

 

――エレクの心は削れる。

 

この事件の不幸は、エレクが天才であったことだろう。

 

多感な中等部二年の時期に、管理局崩壊を成し得る可能性があった。

 

一般人であれば妄想やおふざけですんだところを、形に成し得るだけの力があった。

 

デバイス技術が、工学知識が、戦略情報が、莫大な財産があった。

 

あってしまった。

 

だからこその中二兵器!

 

己の黒歴史が飛んで、戦っている。

 

今の自分でも簡単に破壊できない性能で。

 

「消え去れぇ!失せろぉ!消えてくれぇ!」

 

エレクの心はかつてない程弱っていた。

 

自業自得である。

 

「エレク先輩www私でもアwルwテwィwメwッwトwドwラwゴwニwッwクwバwーwスwトw 何度も喰らったら死ぬんですけどwww」

 

「死ね。いや殺す。手始めに殺す。聞いた奴殺す。全員殺す」

 

「いやいやエレク君っ!?そんなことしてる場合じゃないよ!マテリアルが――

 

《銀の死骸、この現世を地獄の火で清めよ。この炎は怒りの一撃。崩壊は救済となり呪縛を悉く燃やし尽くすだろう――

 

「あぁあああぁああああぁぁぁあああぁあぁあぁ」

 

四時間かけて考えたオリジナル詠唱にギリギリで保っていたエレクの心が死んだ。

 

「いやっ、もう無理www死ぬwww笑い死ぬwww」

 

ついでに聖王の腹筋も死んだ。

 

――インフェルノ・オブ・ゲヘナ》

 

何度も言うが、中二病の時に作成された兵器とは言えエレク製。

 

無駄な技名が付いていようが、兵器としてはガチ仕様である。

 

痛々しい詠唱に意味は無くとも、詠唱にかかる時間は必要なのだ。

 

つまりマテリアルエレクであってもチャージを必要とする奥の手。

 

「これを使わせる前に仕留めたかった……………」

 

空に展開されるは、無数の魔法陣。

 

「転移魔法?」

 

転移陣から出現するは百を越える銀の弾頭。

 

「あぁー死ぬ気で守れよー追尾ミサイル三百本の一斉発射とかガチで死ぬかんなー」

 

「あぁっ、エレク先輩が一周回って冷静になってる!?」

 

《吹き飛べ俺っ!》

 

ミサイル群が加速する。

 

「総員、全力防御!ヴィヴィオ、ザフィーラさん、シャマルさんも頼む!」

 

「ちょっ、エレク先輩がそんなこと言うとかガチでヤバイやつじゃないですかー」

 

「エクセリオンシールド耐熱仕様!全力展開!」

 

「多重障壁展開! セイクリッドディフェンダー前方展開!」

 

「風の護盾っ!」

 

「ぬうっ」

 

新暦66年、世界は闇の炎に包まれた!

 

魔力は枯れ、装甲は裂け、全ての魔導師が死滅したかのように見えた。

 

だが、天才は死滅していなかった!

 

《やったか!?》

 

「アクセラレイター」

 

煙幕を突っ切って、急加速したキリエが斬りかかる。

 

《その程度で………》

 

「お姉ちゃんっ」

 

E.O.D.(エンド・オブ・ディスティニー)

 

斬撃を受けて動揺するマテリアルを囲うように、全方位から大量の魔力弾が放たれる。

 

「プロテクション」

 

「はぁああっ、ディバイドゼロ」

 

トーマの砲撃が装甲に張られたAMFをプロテクションごと引き裂く。

 

《くそっ、ヴォルカニック――

 

「ふんっ!」

 

ミサイルを放つより先に守護獣の拳が装甲を揺らす。

 

「鋼の軛!」

 

「戒めの鎖」

 

AMFの解けた装甲を白銀の杭と、クラールヴィントのワイヤーが縛り付ける。

 

「よしっ、彼方より来たれやどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍、ミストルティン!」

 

エレクの魔法陣を中心に展開された7本の光の槍がマテリアルの装甲を貫く。

 

《なぁっ!?これはっ!?》

 

貫かれた装甲が美しい光沢を失い、ありふれた灰色の石へと変化する。

 

《なんだとっ!?この俺がしくじったというのか!?》

 

「AMFさえなくなればミストルティンが一撃必殺になんだよ。さあ速やかに自爆しろっ」

 

急速に機能を失う機体に、戦闘AIが自爆の判断を下す。

 

《ぐっ、俺が死んでも第二、第三の俺が………》

 

「世界征服とかしねぇよっ!?」

 

《うわらば》

 

エレク最悪の敵は速やかに爆発した。




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