ガーラがとてつもない速度でアントに殴りかかった。
それをアントはスレスレで避けながらガーラを切った。
だがダメージが入った様子はなく、ガーラは攻撃を続ける。
「雷装‼︎ そしてチェンジ‼︎」
《了解‼︎》
対するアントは雷装で対抗し、小回りの出来る短刀に切り替える。
すでにガーラは目では追えない速度だ。
だがアントは全て避けきり、攻撃を当て続けている。
「くっ‼︎ ちょこまかと‼︎」
パンチを撃てばカウンターで殴り返され、蹴りを放てば躱して軸足を切られる。体当たりしたら勢いを利用されて投げ飛ばされる。
こちらの攻撃は当たらないのに相手の攻撃は当たる。それは、たとえほとんどダメージを受けていなくても、ガーラを焦らせるには十分だった。
接近戦では埒があかないとわかったガーラはアントから距離をとった。
「ならこれならどうだ?」
アントの周囲に大量の魔力弾が現れた。
「やべっ‼︎ チェンジ‼︎」
武器を槍に変え射程を伸ばす。
魔力弾が一斉にアントヘ突撃してくる。
「どりゃぁぁあああ‼︎」
魔力弾を叩き落としたり、躱したりしながら捌く。
「少々厄介だな。だがこれで終わりだ」
ガーラはアントが魔力弾に気を取られている隙に膨大な魔力を練っていた。一撃で終わらせる気のようだ。
「ラスター・キャノン‼︎」
巨大な光線がアントに向かってくる。
だが、ガーラは知らない。正面に飛ぶ力が強ければ強いほど、側面からの力には弱い。それはビームも例外ではなかった。
「ぬぅおぉりゃぁぁあああ‼︎」
アントは槍をビームの側面に叩きつけ進行方向を変えた。
「なんだと⁉︎」
まさか砲撃が逸らされるとは思いもしなかったガーラはアントから目を逸らしてしまった。
ガーラは3発の魔力弾に撃ち抜かれた。
「ぐはっ⁉︎」
「気を抜くなよ、素人め」
砲撃を逸らしたアントは武器を銃に変え額、胸部、脛の計三発を打ち込んだ。
アントの放ったレールガンはガーラに少なくないダメージを与えた。
「グゥ‼︎ おのれ‼︎」
「はっはっは、さっきまでの余裕はなくなったか。いい顔になったな」
アースラ:
「クロノの様子は?」
「はい、命に別状はありません」
「よかった……」
少しだけ安心するがまだ気は抜けない。
「それにしても……あの子供は一体……?」
「艦長、おそらくあの子供が傭兵アント・バーキンだと思われます」
「あの子が?」
改めてモニターを見る。
「すごい……あの怪物を相手に押してる……」
思わずエイミィは呟いた。しかしリンディの顔色はすぐれなかった。
「……何割くらい救出できたかしら?」
「国民の2割ほどです」
大きな国であり、国民の人数も多いため救出はかなり遅かった。
「そう……不味いわね」
「え? なんでですか?このまま勝ってしまうのでは?」
エイミィは何が不味いのかわからなかった。
「確かに彼は強いわ。でも魔力量の差が大きすぎる。今は善戦できていても、このまま戦い続ければ彼はいずれ力尽きてしまう」
測定の結果、あの怪物の魔力量はSSSクラス、それに対してアント・バーキンの魔力量はEクラス程度。本来なら相手できるだけで奇跡なのだ。ましてや勝利するなどありえない。
その証拠に銃での攻撃以外で、傷を負った形跡がない。
「そんな……」
「とにかく救出を急いで!!」
あの子がやられる前に早くしなくては……
「……思い出した。貴様、あの時遺跡で殴り飛ばした奴だな?」
「なんだ、今更思い出したか」
「ああ、あまりにあっけなかったからすっかり忘れていた。そうか……生き残っていたのか……」
「ただぶっ飛ばされただけでほぼ無傷だったけどな」
「ならば好都合だ。あの時のドクターの命令を今、遂行するとしよう」
ガーラは大量の魔力弾を自分の周囲に練り上げた。
「近距離、中距離、遠距離全てに対応できる万能型の魔道士。それに加えてその回避能力だ。たしかに強いな。先程まで押されていたことは認めよう。だが魔力量は圧倒的にこちらが上、ならば貴様が魔力を使い切るまで攻撃を止めなければいい。違うか?」
(……あのまま焦って勝負を急いでくれればよかったんだが……そう上手くいかねえか)
内心を悟られないよう見栄をはることにする。
「違うな、むしろあんたが攻撃すればするほど隙ができてやりやすくなる」
「ふん。その強がり、どこまで続くか見させてもらうとしよう」
魔力弾を纏ってガーラが突っ込んでくる。
(この野郎……やらしい戦い方して来やがる……)
ガーラの攻撃を躱し一撃加えようとすると魔力弾が迫ってくる。それを躱したらすぐに次の攻撃が来る。
宣言通りの息をつく間もない戦法にアントは回避しかできない。
猛攻に晒されて少しずつアントに攻撃がかすり始めた。
「ほう、かすり始めてきたな。そろそろ限界が近いんじゃないか?」
「っ‼︎」
もはや返答する余裕もない。
そして
とうとうガーラの拳がアントの腹に叩き込まれた。
「カハッ……‼︎」
魔力操作に意識を割いているためパンチの威力は下がっているとはいえ、それでも十分な威力だ。
集中が切れたアントに更に魔力弾が背中に当たり、蹴りが顔面に突き刺さりぶっ飛ばされた。
アントの体はいくつかの瓦礫をぶち抜きながらとんでいく。
「うっ……‼︎ ぐぅ……」
一際大きな瓦礫に衝突してようやく止まったが、もはやアントに立ち上がる気力は残っていない。
「オオォォォォオオオ‼︎」
それでもまだ足りないと言わんばかりに地面に倒れたアントに魔力弾を全て食らわせる。
アースラ:
「あ、ああ……」
「ひどい……」
「……」
そこにはリンディ、エイミィに支えられ、意識を取り戻したクロノがいた。
「本来なら……僕が……あの場にいなくてはならないのに……すまない……」
ボロボロにやられ、もはや何も出来ないクロノは己の無力を悔やんだ。
「やはり……行かなくては……」
「ダメ‼︎ すでにボロボロなあなたが行ったところで何ができるの?」
「ですが艦長‼︎ このままでは……彼はっ……‼︎」
「アルカンシェルを使えば……」
「ダメよ、まだ人が大勢残ってる。アルカンシェルは承認できない」
その時、ようやく攻撃を止めたガーラがアントに近づいて行くのがモニターに映った。
「な⁉︎」
「まだ追撃する気なの⁉︎」
「……なんて奴だ……っ‼︎」
ガーラはアントの息の根を完全に止める気だった。
「ふむ、流石に死んだか?」
死亡したと半分確信していたガーラだったが、アントの微かな呼吸音が耳に入った。
「まだ息があるのか、しぶとい奴だ。だが……」
ガーラは拳を振り上げる。
「随分手こずらされたがこれで終わりだ」
確実に頭部を潰せるだけの力が込められた拳を振り下ろした。
ガーラの拳がアントに叩きつけられそうになったその時、
カッと目を開いたアントがガーラの拳を首を捻って躱し、額に銃を突きつけた。
《収束完了、いつでも撃てます》
「な⁉︎」
ガーラが戦法を変えた時からアントはすでに準備を始めていた。
ルリのサポートを受けて、撒き散らされている魔力を少しずつバレないように集める。そして攻撃を止め、隙ができたら仕留める作戦だった。この作戦はアントが生き延びなければ成功しない。
アントは賭けに勝った。最高の形で不意打ちは成功した。
「デトロイト……バスター……」
ドッゴオオオォォォン‼︎
限界まで収束され、放たれたレールガンは膨大な魔力を持つガーラの防御をも撃ち抜いた。
「ガアアァァッ‼︎」
銀色の光がガーラを飲み込んでいく。
「ア……アント……バーギン……」
砲撃が消えるとそこにはガーラの姿はなかった。
そしてアントはすでに限界を超えていた。銃を構えていた手が力無く地に落ちる。
《ボス‼︎》
半年後:
「まだ目を覚ましませんか?」
「はい、いつ目覚めてもおかしくないのですが……」
リンディとエイミィはアントの様子を見に来ていた。
アントはあの後アースラに保護され、すぐに病院へ運ばれた。
すでにあの日から半年は経っている。
国は滅亡を逃れ、復興に取り掛かっていた。また、ガーラとアントの戦いを目にした数人の話を元に広場の真ん中にアントの像が建てられることになっている。
この国を救った救世主として国民からの精一杯の感謝の証である。
「その救世主だけが未だに目を覚まさないのよね……」
リンディはどうしても彼に目覚めて欲しかった。
「クロノ君もほぼ毎日お見舞いに行ってますよ」
「そう、変わったわねクロノも……」
アントが運ばれてからクロノは毎日通い続けていた。そして謝罪と感謝をすぐに伝えたかった。
「さあ、行きましょう。ここにいても何も変わらない、まだまだお仕事は残ってるんだからね」
「あ〜、そうでしたね。了解です」
リンディとエイミィが病室を去るとアントが目を開いた。
(ここは……? 記憶が曖昧だな……)
ムクリと起き上がると側にルリがいた。
《お目覚めになられてよかったです。ボス》
そうだ、思い出した。俺は確か奴に勝って気を失ってたのか。
「ああ、まったく酷い目にあった。これまでの経験がなかったら絶対に勝てなかったな」
戦争でどこから飛んでくるかわからない魔力弾を何度も死に戻りながら躱しきった経験が生きた。
「ある意味チートだよなぁ、この能力……」
本来なら何十年もかけてようやく手にする技術を、何度もリトライすることで若いうちに手にすることができてしまう。無敵ではないが確かにチートだ。
《これからどうします?》
「そうだな。とりあえず面倒事になる前に逃げるか。この前脱獄したばっかりだし。とりあえず……ジジイの所へ訪ねに行くか、どうなったかな?」
アントは病室を出て行った。
「痛⁉︎ こりゃしばらく傭兵は休業だな」
後にお見舞いに来たクロノは誰もいない病室に唖然としたのだった
とある研究所:
「やれやれ、まさかガーラが負けるとはね。予想外だったよ。おかげで評議会の年寄り達にどやされてしまった。まあ結局今回の主犯は全員死亡って扱いだから、真相は闇の中だがね」
「申し訳ありません。ドクター」
カプセルで治療を受けながらガーラが答える。
「私が散歩と称して念のため撒いておいた転送装置がなかったらあのまま君はチリとなっていたよ」
「はい、ありがとうございます」
「それで、アントだったかね?彼は以前私の取引相手を始末した張本人のようだ。デバイスを手放している時に殺されたとわかったから放置していたんだがね。どうやら何かと縁があるらしい。それになんでガーラに勝てたのか、解剖して調べてみたいね」
「ドクター、お願いがあります」
「おや? ガーラが自分の意見を言うのは珍しいね。どうしたんだい?」
「私は……奴ともう一度戦いたい。そして勝ちたい」
スカリエッティは心底驚いていた。
(あのガーラがこんなこと言うとは……これもレリックの影響かな? だが……おもしろい)
「ふむ、いいだろう。ならば私がとっておきの舞台を用意してあげよう。その舞台で存分に戦い勝利を収めるといい」
アント・バーキン、しばらくはそっとしておいてやるとしよう。
最高の舞台で会おうじゃないか。
「フハッ、フハハハハハハッ‼︎」