アントが去ると、その場は静寂に包まれた。
「か、母さん……」
「フェイト……」
向かい合うプレシアとフェイトの間にアルフが立ちはだかった。
「近寄っちゃダメだ‼︎ フェイト‼︎ アントがどういうつもりで連れてきたのか知らないけど、こいつはフェイトを捨てたんだ‼︎ 気を許しちゃダメだよ‼︎」
「ッ……‼︎」
しばらく沈黙が続く。
「……そうね。その通りよ」
プレシアは下唇を噛み己の過ちを悔いていた。
「……私は何も見えてなかった……今更気づいても手遅れなのはわかってるわ……でもこれだけは言わせて欲しい……」
深く頭を下げるプレシア。
「……ごめんなさい」
「「⁉︎」」
プレシアの謝罪に驚くフェイトとアルフ。
「……許してもらおうなんて思ってない……ただあなたを傷つけてしまったことを後悔してると……知って欲しかった……」
ボフッ
頭を下げるプレシアに駆け寄り抱きつくフェイト。
「……母さん」
「ッ……⁉︎ 私を……まだ母親だって呼んでくれるの……?」
「……当たり前だよ……私は母さんの娘だもん……」
「う……うう……」
プレシアは震える手でフェイトを抱いた。
二人は涙を流す。
その姿はまるで失われていた時を取り戻すかのようであった。
「う……く……」
だが突然プレシアが苦しみだす。
「え……?」
プレシアは前のめりに倒れていく。
「母さん‼︎」
そんなプレシアを必死に支えるフェイト。
「いけない‼︎ 早く医務室へ‼︎」
「母さん‼︎ 母さん‼︎」
プレシアはその後すぐに医務室へ運び込まれた。
だが容態は良くなく、医者からは衰弱がひどくて手のつけようがないと言われてしまった。
「……フェイトちゃん、元気出して? きっと良くなるの」
「うん……」
なのはは落ち込むフェイトを励まそうとするも、フェイトは気のない返事をするだけだった。
その時、唐突に転送ポートが作動した。
「あー、やっと着いた……」
転送されてきたのはアントだった。
「アント君⁉︎ なんで転送ポートから?」
「……やり残しがあったから体に鞭打って働いてたんだ。リンディさんいるか?」
「私に何か用?」
「医者を呼んで欲しいんです。もしかしたら上手くいくかもしれない」
「え……アント……何を……」
「少し試してみる。上手く行くかは運次第だ」
医務室に入ったアントはプレシアが眠るベットへ近づく。
近づいてくるアントに気づいたプレシアは弱々しく目を開いた。
「……あら……悪いわね……せっかく助けてもらったのに……ちゃんと……助からなくて……」
「何、まだ生きてんならどうにかなる」
アントは懐から瓶を取り出した。
「飲め」
「……これを?」
プレシアは凄い嫌そうな顔をした。
だが、その反応は当然だろう。瓶の中には黄緑色の液体が入っており、蓋をされているにもかかわらず変な匂いが漏れ出ている。
瓶の匂いを嗅いでしまったなのは達は眉をひそめた。
「騙されたと思って飲んでみろって。ほら」
「……」
瓶を受け取ったプレシアは意を決したように喉に流し込む。
すると効果はすぐに表れた。
「え? 嘘……」
プレシアは驚いたように自分の手を見つめる。
「か……母さん……若返ってる?」
「な、なんだい⁉︎ こりゃあ⁉︎」
「な、何が起こったの?」
「力が湧いてくる……」
「よし‼︎ 上手く行った‼︎ おい‼︎ 早く手術の準備を‼︎」
そのままプレシアは手術室へ運ばれて行った。
なのは達は状況の変化についていくことができず、ただ呆然としている。
「どういうことだい? なんでプレシアはいきなり元気になったんだい?」
アルフは当然の疑問を口にするが誰も答えることが出来なかった。
唯一答えられるであろうアントはプレシアが運び込まれた後、待合室に行き爆睡してしまった。声をかけても揺さぶっても目を覚まさない。
しばらくすると手術室から医者が出てきた。
「あの……‼︎ 母さんは……」
フェイトの問いに医者は静かに頷いた。
「手術は成功しました。お母さんともすぐに会えますよ」
「よ……よかった……‼︎」
フェイトは床にへたり込んで泣いた。その隣ではアルフも泣いていた。
「おお、そりゃよかったな」
いつのまにか起きていたアントはフェイト達に声をかける。
「ア……アント‼︎」
「ぐはっ‼︎」
嬉しすぎたフェイトはアントに抱きついた。
「ありがとう……‼︎ 本当にありがとう……‼︎」
「ギブ……ギブ……」
フェイトの腕に首を締め付けられ息ができず顔が青白くなっていくアント。
「ッ……‼︎ フェイトちゃん‼︎ 離れるの‼︎」
なのはがフェイトを引き剥がした。
「ゲホッ……はぁはぁ。助かっ……」
なのはにお礼を言おうとしたアントだったが、なぜか睨みつけられて言葉が途切れる。
「俺なんか悪いことしたか?」
「なんでもないの‼︎」
ふんっ、とそっぽを向くなのは。
そんななのはの態度に疑問符を浮かべるアント。
そこへアルフが先程答えてもらえなかった質問をした。
「それで、プレシアに何をしたんだい?」
「体力を回復させた」
「回復? 体力を?」
「だって衰弱がひどくて手の施しようがないんだろ? なら元気にしてから病気の原因をどうにかすりゃいい。治せるかどうかは賭けだったけどな」
「あの変な液体にそんな効果が?」
「そうだ。あれは分かりやすく言えば栄養剤だ。飲めば傷ついた体を癒し、肌を若返らせる」
「それは本当⁉︎」
若返るという言葉にリンディが反応した。目が異様に輝いている。
「……出来れば飲まない方がいいと思います。……まじで」
アントは真剣な表情な表情で忠告する。
「そ……そうなの? わかったわ……」
リンディの返答にアントはホッと溜息をつく。
「人の顔したムカデは流石にヤバイよな……」
アントのつぶやきは幸い誰にも聞かれなかった。
「じゃあ、今度こそ休むわ」
「あ……」
フェイトは残念そうな声を出したが、疲れ切ったアントはフェイトの声を聞き取ることなくさっさと部屋を出て行った。
side:なのは
……アント君を見送るフェイトちゃんの様子がおかしいの。
「……フェイトちゃん、どうしたの?」
「え……⁉︎ いや、その、なんでもないよ?」
明らかに動揺しているの。もしかしてフェイトちゃん……。
ズキッ
「?」
え……? なんでだろう……胸に痛みが……。
なのははきっと疲れが出てるんだろうと思うことにする。
「フェイト、プレシアも助かったとわかったんだしフェイトも休もう?」
アルフの提案にフェイトは頷いた。
「うん、そうだね」
「貴方達の部屋には建前上見張りをつけるけどそこは我慢してちょうだい。なのはさんは別の部屋よ。案内するわ」
「……わかったの」
その後:
フェイトの罪は全てプレシアが背負うことになった。
そしてプレシアの罪も出来るだけ軽くなるようにクロちゃんが上手く取り計らうそうだ。
そしてなのは達が帰ってから数日後、フェイト達が管理局へ行く日が来た。少しの間お別れになるフェイトとなのはは二人きりで話をしている。
「なのはは、本当に良い子だね……。フェイトがあんなに笑っているよ」
アルフが泣いている。めっちゃ嬉しいんだろう。
「君はこれからどうするんだ?」
ボーッと空を眺めるアントにクロノが問いかけた。
「ん〜、ここには観光で来てたしな。しばらくこの世界でのんびりするさ」
「そうか……。今回、君には本当に助けられた。感謝してもしたりないくらいだ。何かあったらいつでも呼んでくれ、力になる」
「じゃあなんかあったら頼らせてもらうわ」
クロノと会話をしているとプレシアも話しかけてきた。
「私からもお礼を言わせてちょうだい。危うく私は大事な娘を失うところだった。それに今こうして立っていられるのも貴方のお陰よ」
別にそこまで感謝する必要はない。もらうべき報酬はたっぷりもらったしな。しばらく遊んで暮らせる額だ、はっはっは。
「貴女になら安心してフェイトを任せられるわ」
「おい待て」
任せる? フェイトを? 誰に?
「孫の顔が楽しみね」
「おーい、頭に後遺症でも残ってんのか?」
「フェイトを頼んだよ、アント‼︎ あんたなら私も文句ないさ‼︎」
さっきまで号泣してたアルフが話に入ってきた。
反論もめんどくさくなってきたので、俺は無視することにする。
そこへ話を終えたフェイト達がきた。
「ごめんね、待った?」
「フェイト、もういいのかい?」
「うん、大丈夫」
そしてフェイトが俺に声をかけてくる。
「……あ、あのアント。これからどうするの?」
「クロちゃんにも言ったけど、しばらくこの世界でのんびり過ごすことにした」
「そうなんだ……」
どこか残念そうなフェイト。
「まぁしばらくこの世界にいるし、そのうち会えるだろ」
「……うん‼︎」
そしてリンディの魔法陣が発動された。
微笑みながら手を振るフェイト。それに答えるように、微笑み手を振るなのは。
やがて四人の姿が消えた。
「さて、久しぶりに翠屋にでも行くか。ユーノの奢りで」
「え⁉︎ 僕⁉︎」
「だってまだお前から報酬もらってないし。しばらく奢りな」
アントはユーノを連れてさっさと行ってしまう。
「待って‼︎ 私も行くの‼︎」
なのははそんなアント達を追いかける。
さーて、やっと休暇を楽しめそうだ。